屋号とは
屋号とは、個人事業主の仕事上の名前です。個人で仕事をする場合は、領収書や請求書、確定申告などの書類に、本名の代わりに、あるいは本名に添えて記載します。登録は開業届の提出のみで完了するため、法人が使用する『商号』よりも容易です。
とはいえ、事業の展開上必ずしも必要なものではないため、屋号をどうすべきか悩んでいる個人事業主も多いのではないでしょうか。ここでは、屋号を付けるメリットや、付け方の基礎知識を紹介します。
屋号を付けるメリット
屋号を付けるメリットの一つは、顧客からの信頼を得やすいという点です。
個人名で活動しているとどうしてもプライベート感が強くなってしまい、対応に不安を感じる顧客は少なくありません。この場合、事業内容がわかるような屋号にしておくと顧客の安心度が高まり、仕事を得る上で有利に働くケースが多々あります。
また、屋号を付けておくと、屋号入りの銀行口座を作ることも可能です。私的な口座と仕事用の口座を分けておけば会計管理がしやすいうえ、万が一税務監査が入ってもスムーズに対応できます。
加えて、屋号入りの口座は、個人名のみの口座よりも公的な信頼度や安定度が高いのもメリットです。
金銭のやりとりで顧客が不安を感じにくくなるのは、信用第一の個人事業主には重要なポイントと言えるでしょう。
屋号は自由に作成可能
どのような屋号を付けるかは、基本的に個人事業主の自由です。1人で複数の屋号を持つことが可能なうえ、他の人と同じ屋号を使っても問題はありません。
前述のとおり、屋号は仕事上の名前です。スムーズに業務を展開したいのなら、事業のイメージが湧きやすい名前にするなどの工夫は必要でしょう。
ただし、どんなに良い屋号でも、法人を意味する『○○会社』『Co.Ltd.』などという表記や、『○○銀行』『○○証券』など、法人と誤解させるような名称は使えません。
「○○銀行」などは法律でその営業を許可されている場合のみ使用できる名前です。
屋号で使える文字と記号
屋号には、一般的なひらがな・漢字・カタカナのほか、アルファベットや数字、符号なども使えます。日本語名に限らず、英語名でも使えるので、事業内容やニーズにあった名前を探しましょう。
ただし、符号を屋号の先頭と末尾に使うのは認められていません。ローマ字表記の屋号の場合は、ピリオドのみ末尾に使えますが、そのほかの場合は、あくまでも『中間区切り』としてのみ使用しましょう。
榎本希
個人事業主の屋号は会社でいうところの「会社名」にあたります。
基本的には法人と誤認されるような「○○会社」や「○○法人」その他「○○銀行」など法律で営業権を取得していなければ使用できない名前以外であれば自由に作成することができます。
迷った時に役立つ。屋号の付け方例
屋号が個人事業の看板になると考えれば、よりよい屋号を付けたいと考えるのは当然です。事業を展開していくうえで有利に働く屋号とは、どのようなものなのでしょうか。
事業内容を盛り込む
屋号は、見たり聞いたりしただけで事業内容をイメージできるものが好ましいでしょう。どんなにゴロがよく見栄えのよい名前でも、何をしているのか伝わらなければ顧客の獲得は困難です。
例えば、デザイン事業を営む個人事業主の場合、屋号はストレートに『○○デザイン』『△△デザイン事務所』などがよく見られます。事業がWeb制作なら、『□□制作』『◇◇システム』なども一般的と言えるでしょう。
顧客の目を引くには、事業内容を屋号で端的に伝えるのがベターです。
自分の氏名を利用する
自身の氏名が入った屋号は、信頼度が高い印象です。カタカナや聞き慣れない英語の屋号は一見スタイリッシュですが、顧客によっては軽薄な印象を受ける可能性もあります。
氏名を屋号に入れることで仕事上での安定感が増し、好ましく感じてくれる顧客は多いでしょう。
例えば、個人名が『山田花子』だった場合、デザイン業務なら『山田花子デザイン事務所』、Web制作業務なら『山田花子制作』といった屋号が考えられます。
『個人名+事業内容』の屋号を付けることで、その道のプロらしい落ち着いた雰囲気の屋号になるのです。
地名を入れる
屋号に地名を入れれば、活動拠点がわかりやすくなります。周辺地域に顧客がいれば、目に留めてくれる人も多いでしょう。
例えば、東京でデザイン業務をするなら『東京○○デザイン事務所』、大阪でWeb制作業務をするなら『大阪△△制作』などといった屋号が考えられます。
屋号に地名が入ることで、より公的な印象になり、顧客の興味を集めやすくなるのです。
榎本希
同一の屋号で複数の事業を行うような場合には、自分にとって思い入れのある言葉や、地名、事業のコンセプトなどを名前に入れてみても良いかと思います。
また、業種が1つで決まっているような場合にはその業種(例えばハンドメイドのショップなどであれば「ハンドメイド○○」など何の事業か屋号を見ただけで分かるような名前にすると良いでしょう。
避けるべき屋号の例
どんなに気に入った屋号でも、覚えにくかったり、公序良俗に反していたりするものは、避けなければなりません。屋号を付ける際に注意したいポイントとは何なのでしょうか。
長過ぎる、読みにくい
実用性という観点から見ると、長過ぎたり読みにくかったりする屋号はNGです。
人に覚えてもらえない、口に出してもらえない屋号は、看板の役割を果たせていません。屋号を付ける際は実際に口に出して何度か読み、スムーズに言えるか、すぐに覚えられるかをチェックするのが望ましいでしょう。
何度も聞き返されたり、読み方を間違えられたりするような屋号は、顧客にとっても個人事業主自身にとってもストレスになります。
有名企業と同一、類似
広く世間に認知されている有名企業と同じ、あるいは似た名前の屋号を付けると、法的に問題となる可能性があります。同様に、すでに商標登録されているブランドやサービスを屋号にするのもNGです。
検討中の屋号が商標登録されているかどうか不安な場合は、最寄りの法務局に問い合わせるか、『独立行政法人 工業所有権情報・研修館』が公開している『特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)』で検索してみることをおすすめします。
他と差別化しにくい
屋号は覚えやすくシンプルなものがベターですが、あまりに単純だと、同じような屋号に埋もれてしまうかもしれません。仕事を依頼した顧客が「どの事業主だったか?」と迷うようなありふれた屋号は、避けた方が無難でしょう。
同じ屋号で事業展開する人がいるかどうかは、インターネットで検索すれば簡単に調べられます。サーチエンジンで屋号を検索して、同じ屋号や、似たような屋号がどのくらいあるか、確認してみてください。
榎本希
読みにくい屋号や長すぎる屋号は例えば電話等で相手に伝えた際にしっかり伝わらなかったり、取引先に覚えられにくくなってしまいます。
どうしても長い屋号にしたい場合は言葉に出したときの言葉のリズムを意識して決めるとよいでしょう。
また、有名な企業や商標登録されている名称を使用するのは誤認されてしまうリスクがあるので避けるべきです。
屋号決定前に調べよう
どんな屋号にするかある程度決まったら、その屋号で本当に問題ないか、さらにチェックしてみましょう。屋号を本決定する前に調べておきたいポイントを紹介します。
独自ドメインを取得できるか
個人事業主としての信頼度を高めるうえで、独自ドメインの取得は有益です。屋号を含めたドメインが取得できるか、事前に調べておきましょう。
ドメインとは、Web上での住所のようなものです。独自ドメインのHPは、後述するSEOを有利に進められるほか、独自のメールアドレスを利用できるなどのメリットがあります。
取引先から教えられたメールアドレスがフリーメールだった場合、不信感を覚える人は少なくないでしょう。独自ドメインを持てば独自のメールアドレスを取得できるので、顧客に『きちんと事業展開している』というイメージを与えられます。
「すぐにはHPもメールアドレスも不要」という人でも、今後必要になるかもしれません。後で「独自ドメインが使えない」と嘆かないよう、事前に確認しておくことをおすすめします。
SEOに適しているか
屋号を付ける際は、SEOを意識することも重要です。SEOとは、インターネット検索でHPを検索結果の上位に表示させるための対策を指します。
スマホが普及している近年、多くの人がインターネットを使ってサービスや事業を検索しています。インターネット検索で上位に表示されるか否かは、事業の経営に大きく影響するのです。
それではどのような屋号がSEOによいのかというと、『オリジナリティが高い』ことが重要です。
同一の名前が多ければ他の名前が表示されやすくなるため、検索上位に表示させる難易度は高くなります。カタカナや記号等をうまく使い、他とかぶらない屋号を付けることが重要です。
榎本希
ドメインにも屋号が入っているとドメインからも自分の屋号が分かりやすくなります。
ただ、ドメインは既に使用されているものは使えませんので、自分の屋号が入ったドメインを取得できるかも調べてみましょう。
特にHPやブログを開設する場合にはドメインと屋号が同じであるとページを見た人も覚えやすくなります。
まとめ
屋号は、個人事業を展開するうえで非常に重要な看板です。絶対に必要なものではありませんが、事業としての信頼度を上げたいなら、付けておいて損はありません。
どんな屋号を付けるかは個人の自由ですが、覚えやすさやSEOなどにまで留意して検討することをおすすめします。
屋号の変更は後からでも可能ですが、仕事を始めた後に変更すると、取引先への周知などが面倒です。なるべくじっくり検討し、変更なく長く使える屋号を選びましょう。