CyberAgentの技術人事が語る 人事と作り上げるインクルーシブなエンジニア組織開発

組織の成長に伴い、エンジニア組織の採用と組織における課題は変化するもの。今回は、サイバーエージェントの佐藤歩さん(@ahomu)とOffersのCTO大谷(@koko1000ban)がエンジニア組織での課題と対策について解説します。

後半では、サイバーエージェントの佐藤さんから大規模組織での課題との向き合い方と解決法についてご紹介します。(前半記事(企業フェーズに合わせた採用戦略について)はこちら

▼対象読者

  • エンジニア採用に関わる、人事・エンジニア・経営者
  • 大規模なエンジニアの組織に関わる、人事・エンジニア

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\ 成長フェーズ別の課題と解決策がわかる /

技術人事の事例とインクルーシブな組織開発

株式会社サイバーエージェント メディア統括本部 技術人事 佐藤 歩氏(以下、佐藤氏) サイバーエージェントの佐藤歩と申します。

私からは、主に大規模組織における課題との向き合い方について、お話ししていきたいと思います。

今日お話しする「技術人事」は、2018年頃から社内で取り組み始めました。

エンジニアとコミュニケーションできていますか?

佐藤氏:今日は人事担当者の方が多くご参加されていますが、皆さん、開発組織の運営や戦略について、エンジニアとコミュニケーションができていますでしょうか?

佐藤氏:専門職の開発組織を作るためには、専門職が自身で描く青写真が必要ですし、実際に組織作りをするためには、プロフェッショナルな人事の力が必要不可欠です。

「再成長期(100人以上のフェーズ)」の肥大化した開発組織では、たった1人のリーダーシップに依存してまとめあげるのは、非常に難易度が高いのです。

エンジニアとのコミュニケーションを取ることが難しいく、状況としては混沌としがちです。それでも何とか仕事を回すために、オペレーションに日々忙殺されてしまう結果、中長期に戦略を見据えて行動をするハードルが高くなる状況が、皆さんの身の回りにもあるかもしれません。

佐藤氏:本日は、私が社内で「技術人事」と呼ばれる役をなぜ、どのように始めたのか、そして、組織開発に「エンジニアを巻き込む時のポイント」についてお話ししたいと思います。

ありそうでなかった?協力体制

佐藤氏:それなりの規模に育った組織のケーススタディとして聞いていただければ幸いです。

佐藤氏:私の所属は、サイバーエージェントのメディア事業全般を統括するメディア統括本部です。

メディア統括本部には様々な事業があります。ABEMAやアメブロなどの大規模サービスの他、マッチングサービス、公営競技(競輪・オートレース)、映像配信サービス(CL)などに関わっています。

各事業がそれぞれに裁量を持っており、事業責任者の下に付いている分業制の開発チームも、それぞれに裁量を持って動いています。

持続性・実行性の不足

佐藤氏:人事の方はすでにご存知かもしれませんが、組織の段階ごとの危機とそれを乗り越えて次の段階に成長していくモデルとして、「グレイナー成長・危機モデル」というものがあります。

再成長期のフェーズは、このモデルの3段階目に当たっていると思いますが、組織が大きくなり、順当に権限の委譲や自立を促すことで、成果を出すモデルに転換していきます。

転換が進む一方で、部分最適があちこちで起こってきて、全体としての非効率、弊害が起き始めるフェーズでもあります。

佐藤氏:分散した事業、開発チームを前提として、当時、何とかして最低限の全体最適や統治を試みようと、技術幹部が集まりました。

技術幹部が集まり、複数人でCTOの役割を果たす体制を取りました。全員問題意識はあり、意見は出てくるのですが、総じて属人的であったり、持続性、実行力が弱いことが課題になっていました。

技術人事室を設立

佐藤氏:現状をつらく感じていた私が、社員参加型の経営会議で提案したのが、「技術人事室の設立」です。

「属人性」という課題に対しては、仕組み作りに改めてフォーカスし、1~2人抜けたとしても運営上問題がない体制を目指しました。

「実行力」が弱いという課題に対しては、人事と連携することで、実行力を補強しました。具体的には、エンジニアリーダーと人事が混合で組織を運営しています。

もともと私はウェブのフロントエンドエンジニアとして、社内のウェブの技術コミュニティを運営していました。その経験を活かしたものが、「技術人事室」です。

佐藤氏:エンジニアは自分たちでビジョンを持ち、方針の検討、仕組み作り、組織作りに専念、一方で人事は組織のプロとして、組織面での監修や、エンジニアの要求が妥当なものかの判断など、実行の足回りをサポートする体制を取りました。

「技術人事室」は設立から2年ほど経ちますが、「自分たちで持続的に成長できる開発組織をつくる」というイメージに基づいて活動を進めています。

活動の例としては、目標設定を高くする施策、評価の納得感を出す施策、社内グレードの昇格の仕組みをより透明性の高いものにする施策などに取り組んできました。

佐藤氏:人事のメリットとしては、これまでチームごとに個別対応していた案件が減り、人事施策の橋渡しをエンジニアリーダーがしてくれるということです。

エンジニアのメリットは、方針の検討・仕組み作りに専念でき、実行で人事の力を借りられるということです。

現状では、人事とエンジニアが開発組織において連携でき、人事活動の全体最適ができるようになりました。次の段階としては、戦略的に未来を見据えて、「技術人事」から「技術組織開発」にアップデートすることが目標です。人材ポートフォリオのコントロールなど、大がかりにオフェンシブな動きを取るために、自分たち自身をマネジメントできるようなフレームを固め直すことを念頭に置いています。

エンジニアを組織に巻き込むには

佐藤氏:エンジニアの協力が特に必要になるのは「採用」「後進の育成」「評価一般」「組織の活性化」です。

エンジニアの価値は専門性ですので、専門性を尊重することがまず出発点になります。

エンジニアは個の技術力を上げることが、自身の市場価値やキャリアアップに結び付くと強く信じている傾向にあります。そのため、専門性を発揮する以外の役回りは、エンジニア個人の、組織の一員としての義務感(善意)に大きく依存しています。

佐藤氏:評価制度の面から、各社とも文化・組織作りに協力することに、ポジティブな雰囲気を作っていると思いますが、サイバーエージェントでは、「採用には全力を尽くす」というトップメッセージがあり、それに呼応して文化形成や評価制度を整えています。

しかし、規模が大きくなると、さまざまな価値観のメンバーが在籍していることを、念頭に置かなければいけません。

佐藤氏:多様な価値観を抱える組織において、理想や課題はそれぞれの立場においてさまざまで、中央集権的なアプローチで組織開発をするのは難しいものです。

インクルーシブな組織開発とは

佐藤氏:そのため、「インクルーシブな組織開発」を目指しています。

1人ひとりが現状に洞察を得て課題発見をし、解決のために自発的な行動を起こし、それらの行動が互いの協力によって影響し合って組織の変化をもたらす、つまり自立的な組織開発が回っている状態を理想としたいと考えています。

佐藤氏:以下の3点を押さえれば、「インクルーシブな組織開発」は実現できると考えています。

佐藤氏:組織に対して気づきを得るためには、十分な量のインプットや透明性があることが重要です。

従業員個々人の職務・能力が尊重されることにより、「自己効力感」がきちんと保証されている組織でありたいと思います。

インクルーシブな組織開発で生じたアンチパターン

佐藤氏:よかれと思って行う組織開発で、気をつけるべきパターンがあります。

余計な労力をかけさせまいと配慮するために、依頼が単純なタスクとなるパターンです。

取り組みの全体像が分からないと方向性を見失ってしまうので、丁寧なコミュニケーションを取り、明確なミッションを共有しましょう。

佐藤氏:小規模な組織では情報共有ができますが、規模が大きくなると、心理的に情報が出せない状況が生まれます。その他の理由も含めて、情報を選別しすぎてしまった結果、十分な情報が流れないパターンが起こります。

情報の必要性は閲覧する人が決めるという前提に立って、選別をなるべくしないスタンスで、情報流通の設計をすべきだと思います。組織を一から設計できる立場であれば、初期段階から情報共有のスキームをきちんと設計できるとよいと思います。

佐藤氏:やっている業務の意義が高いほど、組織的な同調圧力を感じ、「ちょっと違うのではないか?」「オペレーションがキツイ…」などと、言いづらい状況になります。

潜在的な問題が表面化しないことが続いた結果、突如として表面化することがあります。広く全体を見ている立場の人が、意識してフィードバックを自ら集めて、改善努力をすることを忘れず、徹底するようにしましょう。

佐藤氏:最後に、もう一度、要点をまとめてみました。

皆さんのご参考になれば幸いです。ご清聴ありがとうございました。

ありがとうございました。大谷さんのお立場で、佐藤さんのお話はいかがでしたか?

大谷氏:こういった課題はサイバーエージェントに限らず、同じような規模であれば起こることですが、サイバーエージェントのように、エンジニアと人事が密な協力関係を持っている会社は稀だと思います。

(佐藤)歩さんは解決策として、技術人事室の立ち上げを提案し、インクルーシブな組織開発というミッションを掲げて改善していきましたが、他の会社でも転用できることが多くあると思います。非常に参考になりました。

アンチパターンの部分は、汎用性が高いと感じました。特に採用関連はアンチパターンにはまりやすいと思います。

例えば、転職のため退職する部長の後任探しをしている場合、どこまで情報共有するかの判断は難しいものです。情報をうまくオープンするには、慣れと高いスキルが必要で、リファラルの依頼も文脈を共有しないと、協力は望めないなど、アンチパターンはたくさんあると思います。

ラフなコミュニケーションをどのようにリモートに持ち込むか

ここで、参加者の方からの質問をご紹介します。

「新型コロナウイルス感染流行後、リモートで働きながら組織作りを行って大変だった点、心がけた点などありますか?」

大谷氏:もともとoverflowはリモート主体の会社ですが、コロナウイルスの感染拡大後、週1の出社をなくし、フルリモートにしました。

週1で出社している時は休憩室でコミュニケーションが取れていたのですが、それができなくなったのが大変だった点です。解決策として、週に2日、特に金曜日に、リモートでエンジニア全員が集まって、議題を上げずに1時間ラフなコミュニケーションを取るようにしました。心がけた点は、ラフなコミュニケーションをどう作るかでした。

リモートで雑談というのは、会議よりも難しくないですか?

大谷氏:そうですね、話す人が決まってしまうので全員に話を振るようにして、みんなで話す場作りを大事にしました。

佐藤氏:私はコロナ前からずっと名古屋でリモートワークをしています。だいぶ感覚が麻痺しているところがありますが(笑)、4月ぐらいから本社勤務の社員もリモート期間がありました。

大谷さんがおっしゃっていたことと重複しますが、GitHubを使って開発は普通にできるのですが、コラボレーションの場が無くなってしまうことに対して、コミュニケーションの重要性をどのように各チームに伝えるか、また、どういう手段があるのかというノウハウの共有には気を配りました。

コミュニケーションの絶対量がどうしても下がってしまうので、今までオフィスだからこそできていたことを、どうリモートに持ち込むかについて考えましたね。

エンジニアにはどこまで採用に関わってもらう?

ありがとうございます。次の質問は「社内のエンジニアにどこまで採用に関わってもらっていますか?」です。

大谷氏:エンジニアに積極的に採用に関わってもらうというよりは、開発が本分なので、できるかぎり関わるメンバーは少なくしたいと個人的には思っています。

ただ採用には大きな文脈がありますので、勉強会やアピールする場を多く作って、直接採用に関わらないエンジニアにも、何かしらの形でアトラクトできるポイントを作って協力してもらってきました。

技術人事室の人事と事業部人事の役割分担は?

ありがとうございます。次の質問は、「技術人事室の人事の方は、いわゆるHRBP(Human Resources Business Partner)のような役割と立ち位置で、採用や労務に特化した人事とは別の役割として存在しているのでしょうか?」

佐藤氏:そうですね、HRBPの役割です。採用に関しては一部事業部でもやっていますが、基本的に本体人事とは別の役割のものです。

基本的には、組織の中の固有の出来事はすべて事業部人事で、全社のほうでは労務、新卒採用などの全体的な取り組みという分担になっています。

意思決定の引き出し方

次の質問も佐藤さんへの質問です。

「採用、組織開発ともに、経営や事業の中期的なミッション・ビジョンも考慮しながら、戦略を立てる必要があると思います。

事業の青写真から逆算して、どのような人材を採用するのか、どんな組織にするのかを考えていると思うので、技術人事室が中心になって、そういった情報を得て戦略を立てているのですか?」という質問です。

佐藤氏:おっしゃるとおり、そのようにしなければならないというのが答えになってきます。

大きい、分散した組織の中で、戦略を決めるための意思決定のコストが、高くなっていると感じています。

意思決定を促すという意味で、事業部の管轄役員や、新しく立ち上がったCTO室とも連携して、技術・事業の両面からどういう戦略を立てるべきか、意思決定を引き出そうとしています。

直面する課題から着手することがオススメ

最後の質問は、「技術人事」という形で専任の部門を組織機能として置けない場合に、改革を行うとしたら、どのような形でやりますか?」です。佐藤さん、難しい質問ですが、いかがでしょうか?

佐藤氏:これは難しいですね…(笑)

汎用性が高くて、参加者の方々に当てはまりそうな、重要性、優先度が高いことは何かありますか?

佐藤氏:私が優先的に取り組んだのは、エンジニアの中で評価に対する不満が大きかったので、足元を固めるという意味で、評価と評価の前提となる目標設定の精度を上げることを強化することでした。

「技術人事」を立ち上げたのも、この状況がつらいなと(佐藤)歩さんが感じたのがきっかけになったからでしたし、今まさに直面している課題から着手して動かし始めるというのは、どこにおいても重要かなと思います。

佐藤氏:そうですね、目の前の具体的な課題をとりあえずつぶすのは、短絡的になってしまうこともありますが、案外課題解決の近道になることもありますね。

「エンジニアの何パーセントは人事業務をする」と決めることで、課題解決に動き出すきっかけになったという話は、ウェビナーでよく聞きました。「ジンジニア」というワードを聞くこともありますね。

あとは、エンジニアと開発組織と人事に詳しい人材に、副業で手伝ってもらうという選択肢もあります。ツールを入れてある部分を効率化して、本質的な課題にきちんと取り組む時間を確保するという方法もあると思います。

本日は、佐藤さん、大谷さん、ご参加者の皆さん、ありがとうございました。

執筆:小林弘美

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