スマートニュースがStructured Interviewでグローバルエンジニア採用を加速させている理由

日米で月間アクティブユーザー2,000万人以上のニュース配信事業を運営するスマートニュース株式会社では、グローバルでエンジニア採用を積極的に行っています。プロフェッショナルなエンジニア組織を作るために実践している、Structured Interview(構造化面接)の運用方法やエンジニアの評価制度の設計思想について、スマートニュースのEngineering Manager 天野仁史氏(@amachang)に話を伺いました。

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スマートニュースのエンジニア採用プロセス「Structured Interview」とは

GoogleのRe:work で提唱されたエンジニアの面接プロセス

overflow 大谷旅人(以下、大谷):天野さんは、ご自身で創業されたカクテル株式会社のメンバーと共に2018年にスマートニュースに入社して以来、EMとしてご活躍です。現在、どのようなミッションを担っていらっしゃいますか?

スマートニュース 天野仁史氏(以下、天野氏):現在、東京オフィスのサイトディレクター(エンジニア採用のリード)とモバイルチームのEngineering Manager(以下、EM)を兼務しています。エンジニア組織の整備や採用を任され、面接プロセスとその課題設計、リファラル採用のあり方などを考えています。

大谷:スマートニュースの採用プロセスは非常にユニークだと聞いています。早速ですが、一次選考から内定までの流れを伺えますか?

天野氏:当社では2019年から「Structured Interview(構造化面接)」という方法でエンジニア採用を行っています。これは近年、GoogleやFacebookなどシリコンバレーで取り入れられるようになった採用手法で、すべての採用候補者に対して、あらかじめ決められた形式で質問を行い、同じ評価基準で選考する構造化されたアプローチの仕方です。ポジションによって異なりますが、当社の場合は一次選考から内定まで平均して5~6ステップの採用プロセスを設けています

大谷:私も前職ではエンジニアの採用を担当していましたが、5~6ステップは多いですよね。

天野氏:多いと思います。採用プロセスでいうと、まず全候補者に自動テストツール「Codility」によるコードテストを行います。このテストの結果とレジュメを総合的に判断して、スクリーニングを行います。

その後ポジションごとに選考を細かく「トラック」に分けて管理し、必要なインタビューを組み合わせて実施しています。

トラックは、「Behavioral Interview」、「System Design Interview」、「Programming Interview」など、トラックを5~6個組み合わせて一つの採用プロセスを構成します。例えば、iOSエンジニアなら、それ以外に「iOS Specific Knowledge Interview」、バックエンドエンジニアなら「Backend Specific Knowledge Interiew」なども入ってきます。

一つひとつのトラックを異なるエンジニアが担当し、様々なメンバーの視点で候補者を評価したいと考えています。また、候補者が実力を発揮できるよう、できるだけ母国語でインタビューするようにしています。

リファラル採用なのか、採用エージェンシーからの応募なのかによっても異なりますが、プロセスを通した通過率は2%程度となります。

大谷:それはかなり厳しいですね。

天野氏:はい。この方法で行うと同じポジションであれば、選考をする際全ての候補者に同じ基準で評価を行うことができるんですね。ですので、よりエンジニアの実力を判断しやすいものになっていると思います。ときには、素晴らしいキャリアを歩んできたと感じる方でも落ちることもありますし、それほど多くのキャリアを経験していなくてもポテンシャルや実力を評価して選考を通過するケースもあります。

▲写真左 今回インタビューを実施した天野氏 

コードテストやホワイトボードコーディングを通じて複数回のコードテストを実施

大谷:中でも、ユニークな選考方法について具体的に教えてください。スクリーニングで「Codility」を使っているにもかかわらず、それとは別に「Programming Interview」を行っているのはなぜですか。

天野氏:「Codility」で見ているのは、最低限のアルゴリズムの実装能力や時間計算量/空間計算量などの考え方などです。もちろん用意されたテストケースで正確性も確認しますし、「Codility」を使っているとチートの可能性が高いケースを検出してくれるので便利です。

とはいえ、コードテストだけで落とすわけではなく、レジュメを見てどのようなキャリアで、どのような成果を出してきたかも同時に見て、総合的に判断しています。

一方、その後2回行う「Programming Interview」では、採用候補者と面接担当者がコミュニケーションを取りながら一緒にプログラムを書く形式で行います。コロナ禍では「CoderPad」というクラウドペアプログラミングツールを使ってオンラインで行っています。

ここで見ているのは、コードを書くことと、それにまつわるコミュニケーションのとり方です。不明な点がある場合に先に要件を明確化するためのディスカッションができるか、最適解がすぐに思いつかなくてもコミュニケーションの中でいかにそこへ近づいていけるか、考え方やそのプロセスを見ています

大谷氏:コミュニケーションを大事にしているということですね?

天野氏:はい。なので無言でコーディングされてしまうと、選考しにくいと感じることもあります。コードレビューはエンジニアにとって日常的に行うことですよね。自分の書いたコードについて、何を意図したコードなのか、なぜその書き方をしたのかを言語化してわかりやすく伝える能力も必要。ここでは短時間で書くことになるので、コードが実際に動くかどうかは重要な評価ポイントではありません。

大谷:これらのアルゴリズム実装能力はクライアントからバックエンドまで同様の基準で行っているんでしょうか?

天野氏:はい。全てのエンジニアの候補者が同様の基準でこのトラックを行います。エンジニアの基礎体力を測っているという位置付けになっています。

アーキテクチャを設計する能力を見る「System Design Interview」

大谷氏:御社で最も重視するテクニカルな選考はなんですか?

天野氏:多くのポジションでは「System Design Interview」というものがあり、その中ではシステムやアーキテクチャの設計能力を見ています。例えばバックエンドエンジニアの場合、例としてスマホアプリの具体的な機能を上げて、それらが達成したいゴールやバックエンドの機能要件を提示します。そして、候補者はそのシステムやアーキテクチャ、それを提供する API の設計などを行います。

大谷:それは、比較的広範囲な議論になりそうですが、どのような点を評価されますか?

天野氏:システムのスケーラビリティをどのように考えられるか、 QCD(品質、コストや、実装期間)に対してトレードオフの議論ができるか、機能要件、非機能要件をコミュニケーションの中ですり合わせることができるか、選定するテックスタックは何かなどを評価します。もちろん、その中で質の高いディスカッションができるかどうかなど、多岐に渡ります。

「Programming Interview」は、エンジニアの基礎体力を測るという位置付けですが、こちらはより実践的なもので、多くのポジションではこの面接の評価を重視します。特にグレードが高いエンジニアであればあるほど、この評価が重視されます。

過去に解決した問題やその意思決定やその背景を知るための「Behavioral Interview」

大谷:他にも特徴的な選考方法はありますか?

天野氏:「Behavioral Interview」は弊社の「Structured Interview」を特徴付ける選考方法かもしれませんね。これはレジュメに記載されている過去のプロジェクトやその中での役割を見て、どのようなシチュエーションで、どのような行動をしてきたかを具体的に聞いていくものです。

ある状況下での具体的な行動とその動機を掘り下げることで、それらに一貫性はあるか、スマートニュースのコアバリューやカルチャーとの方向性に違いはないか、良質な技術的判断やアクションができているか、などを見ています

リーダーシップや課題解決能力、不確実性の高い状況での対処能力について判断するため、その人の最も大きな成功体験となったプロジェクトについて質問することもあります。例えば、「あるプロジェクトでユーザー体験が大きく改善された」というエピソードがある場合、「なぜユーザー体験が改善されたと判断されましたか?」「その目標を達成するためにどのような行動をしましたか?」「ユーザー体験を改善することは、会社の目標とどのように関連していましたか?」など、具体的な行動内容と、その行動をとった動機や判断基準、背景について聞くようにしています。

そして、その経験から何を学び、これから先の未来、似たようなことが起きたらどう対処するかについても聞きますね。

大谷:ただプロジェクトの成果や強みを聞くだけでなく、その人が過去の状況や問題から何を学び、今どのような問題に対してどのような行動できる人なのかをしっかり聞くわけですね。

天野:そういうことです。

スマートニュースが「Structured Interview」でエンジニア採用を行う理由

シリコンバレーや国内のメガベンチャーの採用ノウハウが結集

大谷:それぞれのインタビュープロセスがきめ細かく設計されていて、評価基準も明確です。すぐにでも真似したいですね。ちなみに「Structured Interview」を行うようになったのはいつ頃からですか?

天野氏:2018年にLINE Fukuokaを立ち上げた和田充史さんがEMとして入社して、未整備だった採用プロセスをどんどん整えていってくれた頃から、始まっています。面接プロセスや組織体制を大胆に変えて、ハイアリングマネージャーというロールを作り、チームごとの評価基準の統一が行われました。

もう退職してしまいましたけど、彼の大きな功績の一つは、全てのエンジニアのポジションの採用要件で「日本語」を必須するのをやめたことでした。そこから、一気に社内のグローバル化が進み、世界中のタレントを採用できるようになりました。

それから2019年5月にはFacebook News Feedのインフラ責任者だった Youlin Li (ヨウリン・リー)がVPoEとして入社してきました。彼は入社してすぐに、「採用プロセスを変えましょう」といって、「Structured Interview」の原型となる緻密なドキュメントをつくってきたんですよ。当時私は「なにこれ?」って、ポカンとしちゃうくらい、衝撃的なものでした。

あのスピード感はすごかった。弊社のエンジニアには 「self-starter, move fast (自分で状況を判断して、素早く動く)」という価値感が重視されているのですが、まさにそれを目の当たりにした気がしましたね。

さらに2020年1月にはエンジニア側とリクルーティング側を繋ぐ機能横断的なチームを作り、一つの採用ゴールを共有するようになりました。このチームのリードを、エンジニアとして私が行っているということになります。

プロフェッショナルがスキルを発揮できる組織・カルチャーの作り方

スキル=市場価値。エンジニアの市場価値を高める評価制度

大谷:ハードな「Structured Interview」をくぐりぬけてきたプロフェッショナルが集まってきていると思うのですが、いざ採用してもそれだけのプロ集団を評価するのは難しいんじゃないですか?

天野氏:組織をプロフェッショナルの集まりにしたいなら、組織デザインと並んで評価制度が大切だと思います。スキルの高いプロフェッショナルほど、マネージャの主観や、組織の都合、目先の課題で評価が決まることを嫌います。

弊社では、現状エンジニアの評価をスキル(技術力)、アクション(成果のためにとった行動)、リザルト(成果)の3つで行っています。

大谷:それはどういうことでしょう?

天野氏:弊社では、報酬を給与とボーナスで分けて考えています。給与に反映されるのはスキルです。ボーナスにはリザルトが反映されています。

スキルと給与のミスマッチが、会社の文化にとってよくないことはご存知の通りだと思います。プロフェッショナルは自分の価値が正当に評価されないことを、好ましく思いません。だから給与は基本的にスキルで決める。

ただ、それだけだと達成した成果はどうなるの? という疑問が生まれるので、成果はボーナスに反映させています。同じスキルレベルでもアクション次第で成果は異なりますよね。成果はボーナスで返しつつ、スキルの高い人はちゃんとスキルに見合った給与をもらっている。そういう市場価値に応じたフラットな評価制度を取り入れています。

僕の目標としては、最終的にグローバルな市場の水準の報酬を目指したい。そのために、スキルの高いエンジニアが活躍できる組織を作り、企業価値を高めて報酬の水準を上げたい。その結果、採用候補者に「スマートニュースは市場価値の高いエンジニアを採用しているんだ」と捉えてもらえたらいいですね。

大谷:それはエンジニアが採用のリーダーシップの一端を担っているからこそですよね。エンジニアにとってはスキルを発揮しやすい環境だなと改めて思います。

試行錯誤を経て見えてきた、エンジニア採用の未来

エンジニア採用はグローバルとの勝負になる

大谷:これまで採用プロセスを決めるために、様々な試行錯誤をされてきたと思いますが、それを踏まえて、これからエンジニア採用はどうなっていくと思いますか?

天野氏:エンジニア採用に力を入れるなら、グローバル採用へ手を広げたほうがメリットが大きいと思っています。例えば、エンジニアの人口比で考えた場合、どう考えても中国やインドの方がマーケットが大きいですよね。すると、日本に一人しかいないようなエンジニアも中国やインドなら数十人いるかも知れない。レベルの高い組織を作るには、海外のマーケットにも目を向けた方がいいんじゃないかと思います。

そうすると、異なる文化や商習慣、バックグラウンドのエンジニアが集まる国際的な会社になるので、日本の感覚では伝わらないことが増えてきます。ですので、採用基準も評価基準も、ソフトウェアの仕様書も、明確に文書化、言語化して伝えることがより重要になっていくと思います。GoogleやFacebookでも、さまざまな基準やルールを一つひとつ細かくドキュメンテーションに残していると聞きますが、グローバルから人が集まっているからというのもあると思います。

大谷:とにかくエンジニアが採用しにくいいまの時代、”フィーリング”で採用していては、プロにも見向きもされないし、グローバル採用もできないということですね。

天野氏:はい。企業としては、競争力を高めるためにドキュメントカルチャーを整えたり、言語の壁をどのように超えるのかといった問題を解決する必要があると思います。

日本のエンジニアも、こういうグローバルでの競争の中で、自分の本当に進みたいキャリアや身につけるべきスキルを広く考え直してみると良いのではないかと思います。

日本発のグローバルな会社を一緒に作って行きたいエンジニアの方、ぜひスマートニュースで一緒に働きませんか?

編集・執筆石川香苗子


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