エンジニア転職における「年収バグ」とは?その理由を解説
まず、「年収バグ」とは何かを押さえておきましょう。年収バグとは、ITエンジニアが定期的に転職することで、同じ会社に勤め続けるよりも年収が上がりやすいという現象を指します。 転職を繰り返すと一般的には「収入が不安定になるのでは」と思われがちですが、IT業界ではむしろ転職回数が多い人ほど年収が高い傾向がデータからも示されています。 厚生労働省が公表した「IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査事業」(2023年度)によれば、5年以内にIT・デジタル職種に転職した人のうち、半数以上が賃金の上昇を経験しており、その中でも約37%の人が2割以上の大幅な賃金アップを実現しています。

なぜ転職で年収が上がるのか
では、なぜエンジニアは転職によって収入アップしやすいのでしょうか。その背景には主に以下のような要因があります。IT人材の需給ギャップ
現在、多くの企業でデジタルトランスフォーメーションが進み、優秀なエンジニアの確保競争が激化しています。 厚生労働省の調査報告書によると、企業のDX推進などを背景として、IT人材の供給は2030年までに最大80万人程度不足すると推計されています。 慢性的なエンジニア不足により、企業は即戦力エンジニアを獲得するためなら高い給与オファーも厭わなくなっています。 特に高度なスキルを持つ人材ほど市場価値が高く、転職時に高年収レンジで迎えられる傾向が強いのです。社内昇給の限界
一方、同じ会社での昇給には限度があります。日本企業では年功序列や定期昇給が一般的で、飛び抜けた成果でもない限り短期間で大幅な昇給は難しいでしょう。 また社内では現在の給与水準がベースになるため、自分のスキルに見合った評価がされにくい側面もあります。 転職すれば自分の市場価値に応じて給与をリセットできるため、結果的に大きな年収アップにつながりやすいのです。プロジェクト単位の経験
エンジニア職はプロジェクトごとに求められる技術が異なることも多く、転職によって担当領域を広げやすい職種です。 新たな会社でより上流工程や責任あるポジションに就けば、それに伴って給与レンジも上がるケースが見られます。 調査報告書によると、ITスキルレベルが上がるにつれて、業務上要求されるタスク項目も多岐にわたることが示されています。

エンジニア転職市場における年収推移と最新動向
年収バグが注目される背景には、市場全体の動向も関係しています。 まず、エンジニア全体の平均年収を見てみると、直近数年間で大きな上昇は見られません。転職サービスdodaの調査(2024年末時点)によれば、ITエンジニア職の平均年収は約462万円で、5年前と比べても大きな変動はないと報告されています。 これは業界全体としては安定した高水準を維持しているものの、年収の急激な底上げが起きているわけではないことを示唆しています。 しかし、細かな動きを見ると、この数年で転職時の給与交渉環境は大きく変化しました。例えば、IT人材バブルとも言われた2015~2022年頃までは、複数の企業が優秀なエンジニアを奪い合う中で現在の年収の1.25倍以上ものオファーが提示される例もあったといいます。 この状況が「転職した方が年収が上がる」という風潮を強めた面があります。 ところが2023年以降、市場はやや落ち着きを見せています。 景気変動や採用熱の沈静化により、以前ほど極端な高額提示は減少しました。現在では転職による年収アップ幅はせいぜい+50万円程度(約1割増)が相場で、場合によっては現職と同程度というケースも多くなっています。 特に、すでに前職で相場以上の待遇を得ている人は、転職しても年収据え置き、むしろ微減となる例も出てきています。 一方で、依然として多くのエンジニアが転職で収入増を実現しているのも事実です。つまり、市場全体の高騰は落ち着いたとはいえ、スキルや経験次第では依然高い確率で転職による年収アップが望める状況と言えます。 以上の動向から、エンジニア転職市場の年収推移は「全体平均は安定的だが、個人レベルでは好条件提示のチャンスがある」という構図です。 景気や企業動向によって上下しうるため、常に最新情報を収集しながら、自分の市場価値を把握しておくことが大切です。参考:平均年収ランキング(平均年収/生涯賃金)【最新版】|doda
参考:参考:2024年10-12月期転職時の賃金変動状況転職で年収アップしたエンジニアたちの実態と成功事例
では、実際に転職を通じて年収アップを果たしたエンジニアにはどのようなケースがあるのでしょうか。データと具体的な事例の両面から、年収アップの実態を見てみます。データで見る転職による年収アップの実態
複数の調査結果は、エンジニアが転職によって収入増を得る傾向を裏付けています。IT転職サイトForkwellのデータ分析によると、25歳以上のエンジニアでは転職回数が多いほど平均年収も高くなるという結果が出ています。参考:あなたは上位何%?ITエンジニアの年収分布まとめ【データベース完全公開】|ForkwellPress
例えば30歳時点で転職0回の平均年収が528万円に対し、転職を4回以上経験している場合は平均686万円と大きな差が見られました。 もちろん個人差はありますが、概ね経験を積んだエンジニアほど転職を重ねて年収を伸ばしていることが読み取れます。 また、公的機関の調査でも似た傾向が報告されています。独立行政法人IPAの「IT人材白書2020」によれば、先端IT人材(高度ITスキルを持つ人材)の68.7%が転職によって5%以上の昇給を経験しています。
転職で年収アップを狙う際の注意点とリスク
転職による年収アップには大きな魅力がありますが、その一方で注意すべき点やリスクも存在します。 安易に「転職すれば年収が上がる」と信じ込むのは危険です。ここでは、年収アップ転職の落とし穴になり得るポイントを整理します。必ずしも全員が年収アップできるわけではない
年収バグは誰にでも起こる現象ではありません。市場のニーズに合ったスキルや経験を持っていなければ、転職しても年収が上がらないどころか下がるケースもあります。 実際、「転職したら給料が減ってしまい、これまでの経験値も活かせていない」(SEからPGに転職)という声や、「年収は少し下がったが、その分プライベートのゆとりができた」(SEからSEに転職)といった声も報告されています。 転職=年収増は自明の理ではないことを肝に銘じましょう。市場環境の変化リスク
前述のように、2022年頃までは多くのエンジニアが転職によって大幅昇給を果たしましたが、現在では状況が変わりつつあります。 景気後退や採用トレンドの変化により、企業側が提示する条件が渋くなる可能性があります。特に直近でエンジニア採用マーケットのバブルが弾けたとの指摘もあり、以前ほど簡単には年収アップが望めない局面も出てきています。 自分が転職を考えるタイミングで市場がどうなっているかを見極めずに動くと、「思ったように年収が上がらない」という事態になりかねません。高年収の裏にある期待と負荷
大きな年収アップを伴う転職には、それ相応の期待やプレッシャーが伴う点にも注意が必要です。 例えば、相場より高い年収で採用された場合、企業は採用者に対し幅広い役割や高い成果を求める傾向があります。 求人によっては「エンジニアリングだけでなくマネジメントや営業も担ってほしい」など背伸びした条件がついてくることもあります。 高年収に釣られて入社したものの過重な責任にバーンアウトしてしまっては本末転倒です。提示年収の高さの背景にある期待値も含めて、引き受けられる範囲か慎重に判断しましょう。転職回数の多さによる信用リスク
IT業界では転職回数の多さに対して比較的寛容とはいえ、極端なジョブホッピングは企業によって敬遠される場合もあります。 短期間で職場を点々としていると、「またすぐ辞めてしまうのでは」と見られ、選考で不利になる可能性があります。 年収アップを狙うあまり短期間で繰り返し転職するのはリスクが高いため、在籍年数やプロジェクトでの実績も考慮して計画的にキャリアを積むことが重要です。年収以外の要素とのトレードオフ
転職先を選ぶ際、年収だけで判断するのは危険です。仕事内容や技術スタック、勤務地や働き方(リモート可否)、社風やワークライフバランスなど、総合的な満足度を左右する要因は他にもあります。 年収が上がっても、やりたくない仕事だったり激務で健康を崩したりしては意味がありません。 場合によっては、年収より柔軟な働き方や時間的ゆとりを優先する方が長期的な幸福度は高まるでしょう。 以上のように、転職で年収アップを狙うには入念な準備と冷静な見極めが不可欠です。「転職すれば年収が上がるだろう」という安易な思い込みは禁物で、自身の市場価値と転職市場の状況を踏まえて戦略的に動くことが求められます。年収アップを踏まえたエンジニアの今後のキャリア戦略
ここまで見てきたように、エンジニアが転職で年収アップを実現するにはスキルと戦略が鍵となります。 では、今後のキャリアを考える上で具体的に何を意識すべきでしょうか。年収バグ現象と付き合いながら、自身のキャリアを賢く設計するためのポイントを整理します。1.定期的なスキルの棚卸しとアップデート
年収バグを味方につけるには、まず自分自身がそれに見合う人材である必要があります。 ただ闇雲に転職するのではなく、今の自分のスキルセットを定期的に棚卸しし、足りない部分は補強する努力を続けましょう。 新しい技術習得や資格取得、成果物のポートフォリオ化など、市場価値を高める自己研鑽を怠らないことが、将来的な高年収オファーへの近道です。2.自分の市場価値を把握する
自分の経験やスキルが現在の転職市場でどの程度評価されるのか、常に意識しておきましょう。 求人情報サイトで類似経験の募集要項や想定年収を調べたり、転職エージェントに相談してフィードバックを得たりすると、自分の市場価値がおおよそ見えてきます。 必要に応じてOffersの年収診断サービス等を活用し、客観的な指標で自分の価値を確認するのも有効です。
時給・年収診断|Offers「オファーズ」 - エンジニア・デザイナーのための副業・転職の採用サービス
市場価値を把握しておけば、今転職すべきか否か、するとしたらどの程度の年収アップが見込めるかの判断材料になります。