30代の節目、フリーランスから人生初の会社員生活へ
▲ 写真提供:池澤あやかさん
──新卒からフリーランスエンジニアとしてキャリアを歩まれてきた池澤さんですが、会社員へのキャリアチェンジを選んだきっかけを教えてください。
池澤さん(以下、池澤):今後のキャリアの方向性やワークライフバランスを見直したいと思ったことがきっかけです。これまでも「いつかは会社員を経験してみたい」とは思っていたのですが、なかなかチャンスがなくて。今回30代を迎える節目で、良い機会だろうと踏み切りました。
一般的なエンジニアのキャリアパスは、技術一本で専門性を高めていくのか、マネジメント層にいくのか、で分かれるケースが多いと思います。もちろんフリーランスとしてマネジメント経験を積むこともできなくはないですが、やはり外部の人間だと難しい側面もありますよね。私も将来的にマネジメント経験がしたいと思う時がくるかもしれないので、組織に入ることでより一層キャリアの幅や選択肢が広がるんじゃないかと思ったんです。
──「ワークライフバランスを見直したい」というのは?
池澤:これはエンジニアに限らない話ですが、フリーランスのメリットは働けば働いた分稼げること。その反面、働きすぎて身体を壊してしまったり、ライフステージの変化で働けない期間は無収入になってしまったり、デメリットもあります。そういった意味では体力があり、家庭を持つ人も比較的少ない20代だからこそ成立しやすい働き方だとも思います。
これから妊娠や出産などのライフイベントを迎える可能性も考えると、産育休制度などが整っている会社員の働き方に魅力を感じました。
──ライフステージに合わせて柔軟に働き方を変えているのですね。
池澤:そうですね。エンジニアは「手に職」の仕事だからこそ、自分の人生のステージに合わせて働き方を自在に変えられる職業だと感じます。
エンジニアはスキルが収入や仕事獲得に直結するという意味で、実力主義のシビアな世界とも言えます。ただその分、学歴などのバックグラウンドにかかわらずキャリアを形成できるのがこの仕事の魅力。
私はタレント仕事が安定収入だったという背景もありますが、学生時代にインターンやアルバイトを通して技術やスキルの土台を作れたので、「新卒フリーランス」というキャリア選択ができました。今は20代をフリーランスとして過ごしてきて良かったなと思っています。
女性エンジニアが直面するジェンダーバイアスと「ロールモデルが存在しない問題」
──昨今IT業界全体のジェンダーギャップが課題と言われています。これまで池澤さんが「女性エンジニアの少なさ」を実感した場面はありますか。
池澤:フリーランス時代を振り返ってみると、たしかに男性と仕事をする機会の方が多かったですね。今の職場も40名弱いるエンジニアの中で、女性は私一人。IT業界においてこうしたジェンダーバランスの職場は珍しくないんじゃないでしょうか。
──女性エンジニアが増えない要因をどう分析されていますか。
池澤:色々な側面があると思いますが、私は社会全体のジェンダーバイアスや個人の意識が関係していると思っていて。
“リケジョ”なんて言葉があるように、いまだに「理系=男性のもの」というステレオタイプな価値観が根強くある。そんな社会では、将来の選択肢として理系の職業を思い描く女性が少なくなってしまうのも無理はありません。プログラマーやエンジニアにあまり女性らしいイメージがなく、敬遠されてしまっているというのも要因の一つですね。私自身「“女性なのに”エンジニアなんてすごいね」と言われることも多かったです。
個人の意識の面で言うと、「技術力の高さ」が物を言うこの業界で、女性の方が自分の実力を過小評価する傾向にある、と聞いたことがあります。技術力やスキルに自信が持てず、キャリアを諦めてしまうこともあるとか。これはIT業界のジェンダーギャップを論じる上で、日本だけではなく、世界で共通して挙げられている課題のようです。
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──実際、女性がエンジニアのキャリアを歩む難しさを感じることは。
池澤:やはり「ライフイベントとキャリアの両立」への不安はありますね。
この業界では「エンジニアは土日もプログラムを書いて研鑽すべき」という風潮や、締め切り前には徹夜でプログラムを書くなど体力勝負になる場面も。そんな中で、「これから家庭を持ち、エンジニアの仕事と両立できるのかイメージできない」と不安を抱く人も多いのではないでしょうか。
そもそも女性エンジニアの母数が少ない中で、理想のライフキャリアを歩んでいる「ロールモデル」的な存在を見つけづらい。そのため、仕事やプライベートの悩みを気軽に相談できる人がいないとか、長期的なキャリアが思い描けないと悩む人は少なくありません。
ただ、自分とあまりにかけ離れた「すごい人」に出会っても、参考にするのが難しいと感じていて。あくまで「“一歩先” を歩く先輩」が見つけられるといいですね。
完璧を追い求めなくていい。「女性エンジニアのロールモデルが存在しない問題」への向き合い方
▲ 写真提供:池澤あやかさん
──池澤さんは女性エンジニアの「ロールモデルが存在しない問題」にどのように向き合っているのでしょうか。
池澤:まず大前提として、自分の理想と完全に一致するロールモデルを見つけるのは難しいと思っています。同じ職種でなくても、目指すキャリアの方向性が近い人を探すとか、部分的にでも参考にできる人が見つけられると良いんじゃないでしょうか。
その上で、ロールモデルがいないことで生じる悩みに対しては、いくつか対処法があると思っています。例えば「キャリアや技術面などの悩みを相談できる人がいない」という問題であれば、2つほどアプローチ方法があるかなと。
一つ目は、心理的安全性の高いコミュニティや仲間を見つけること。最近は女性エンジニアコミュニティも浸透してきています。私は、学生時代にインターンで知り合ったエンジニア仲間に色々と相談していますね。もう10年来の付き合いで、とても大切な存在です。
もう一つは会社員ならではですが、社内のメンター制度を利用するのもオススメ。今の会社では、部門を横断してエンジニアやデータサイエンティストの先輩にキャリア相談ができる仕組みがあって。まだ入社したばかりですが、女性として “一歩先” のキャリアを築いている方たちに気軽にお話聞ける環境はありがたいですね。
──フリーランスの方や、今の職場でそういった制度がない場合もあると思います。
池澤:そうですよね。そういった場合は、複業・副業をするのも有効だと思います。会社によって文化も違うし、色々な価値観を持つ人がいます。今の職場でロールモデル的な存在が見つけられないのであれば、副業先に目を向けてみるのも良いかもしれません。
それに、副業によってライフイベントに伴う収入面の不安も軽減できますよね。育休時は給料が制限されることに加え、現場から離れることで技術面などで不安を感じる人も多いもの。育休中は副業として稼働できる時間に限りはありますが、金銭面や技術面の不安を解消する一つの手段になり得るのではないでしょうか。
──今もお話に上がった「技術面のキャッチアップ」を不安要素として挙げる女性エンジニアの方は少なくないようです。池澤さんはどのように考えていますか。
池澤:これからあらゆる業界でエンジニアなど開発系人材の需要は高まってくる(※)から、多少ブランクがあったとしても仕事がなくなることはないと思っています。
だから、「あれもこれもキャッチアップしなきゃ」と技術を完璧に追い求めようとしないことも大切かな。せっかく好きで就いたエンジニアという仕事がしんどくなってしまうから、私は興味の赴くままに「好き」と思うことを追求し続けたいですね。
エンジニアだから叶う、ライフステージに合わせた柔軟な働き方
──あらためて、池澤さんが考えるエンジニアの仕事のやりがいはどんなところでしょうか。
池澤:私は昔から、ものづくりやDIYが好きなんです。一つのものを作り上げた時の達成感がたまらなく好きなんです。プログラミングもものづくりの一つだと思っているので、仕事でもあり、趣味でもあります。
あと、エンジニアの知識は家庭運営にも役立つんですよ。家事を中心に日々のタスクを自動化する仕組みや、LINE上で喧嘩した時に仲裁するbotを作ったこともあります(笑)。「仕事だから」と肩肘を張りすぎず、楽しむ気持ちは忘れたくないですね。
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──エンジニアのスキルは、日常生活にも活きてくるんですね。
池澤:そうなんです。先ほどお伝えしたように、エンジニアは社会からの需要も大きく、「手に職」の仕事。産休・育休を経ても収入が落ちにくく、時間や場所を選ばない働き方ができるので、女性特有のライフイベントにも対応しやすいと思っています。
それに、女性エンジニアが増えることで組織の多様性が高まるなど、業界全体にもメリットがありますよね。そういった意味で、もっと女性エンジニアが増えてくれたら嬉しいなと思います。
──最後に、池澤さんの今後のキャリアビジョンを教えてください。
池澤:30代を迎えた今「これからどんな生活を送りたいか」という長期的な視点でキャリアを選択したいと思っています。
今は会社員という働き方にチャレンジ中です。居心地が良ければそのまま長く在籍するかもしれませんし、ライフステージが変わって会社員が合わなくなってきたら、またフリーランスに戻るかもしれません。その時々の人生のフェーズに合わせて、働き方は柔軟に変えていきたい。それが叶うのがエンジニアの仕事ではないでしょうか。