データサイエンティストの副業市場の近況
データサイエンティストは副業市場で、どのような位置づけにあるのでしょうか。ニーズや案件の種類、単価相場について解説します。
データサイエンティストの市場ニーズ
近年台頭してきたビッグデータ解析や人工知能(AI)開発需要増を背景に、IT企業をはじめ広告や金融など多くの業界で需要が高まっています。
しかし、総務省が公開した『情報通信白書』を見ると、『データを取り扱う(処理・分析等)人材の不足』が課題として挙げられているのが現状です。
日本だけでなく米国・ドイツにおいても、データサイエンティストは需要に対して人材が不足しています。データサイエンティストの市場ニーズは、非常に高いといえるでしょう。
出典:令和2年版情報通信白書 P.229 図表3-2-2-6
掲載されている案件の種類
データサイエンティストの案件には、大きく分けて三つの種類があります。
一つ目は機械学習や深層学習に関わる案件です。機械学習による異常検出や予測モデルの開発、既存モデルの改善などが主な仕事として挙げられます。
案件によってはコンサルティングや、技術顧問としての立ち回りも求められるでしょう。
二つ目はデータ分析の案件です。スマホアプリやWeb広告などから集められた顧客情報の行動分析や、気象データから得られた購買分析といった仕事が例として挙げられます。場合によっては施策立案も求められる仕事です。
三つ目に、プログラミングスクールの講師があります。エンジニア向けにAIやデータサイエンスの授業をしたり、受講生のメンターとして生徒を支援したりといった内容です。
案件の単価相場
データサイエンティストの副業案件の単価は、案件の種類によって大きく異なります。小規模なデータ分析やツールの開発であれば、そこまで高くはありません。
しかし、データサイエンティスト自体の市場価値が高く、時給に換算すると約3000円からが相場です。発注元からスキルや経験が認められれば、時給1万円という高単価も期待できるでしょう。
データサイエンティストを本業にする場合は国内でも年収1000万円、海外では数千万円を超えるケースも珍しくありません。特に機械学習を用いたAI開発に携われる人材は希少で、単価相場も高額になってきます。
副業案件の獲得方法
データサイエンティストの副業は、どのような方法で獲得すればよいのでしょうか。主な獲得方法を四つ紹介します。
エージェントからの紹介
一つ目は副業エージェントから案件を紹介してもらう方法です。
エージェントに登録すれば案件の紹介だけでなく、依頼すれば代わりに企業と単価交渉をしたり事務手続きのサポートをしたりといったサービスを受けられることもあります。
営業活動や契約まわりの仕事を頼めれば、本来の仕事に打ち込みやすいでしょう。また、非公開案件の獲得に動いてくれるエージェントサービスなら、公開案件に応募するよりも高い待遇で働ける可能性が高まります。
クラウドソーシングで受注
二つ目はクラウドソーシングを利用して、副業案件を受注する方法です。
クラウドソーシングは『クラウドワークス』や『ランサーズ』をはじめ、仕事を発注したい企業や個人と受注したい人を仲介するプラットフォームです。
案件の種類が豊富で、フルリモートで在宅勤務が可能という案件も多いのがメリットです。一方、案件の単価が低めであることや、仕事は基本的に自ら探す手間があることには留意しましょう。
知人、友人からの紹介
三つ目は知人や友人から案件を紹介してもらい、副業の働き口を得る方法です。
顔見知りからの紹介では、ある程度の信頼関係のもとでクライアントと話し合えます。エージェントやクラウドソーシングでは見かけないような、好条件の案件を受注できるケースもあるでしょう。
近年は『リファラル採用』といって、自社社員の紹介で人材を採用する企業も増えています。今後、知人や友人の紹介による案件獲得は、強力な手段の一つとなり得ます。
賞金付きコンペに挑戦
四つ目はデータの最適モデルを競い合う『Kaggle』や『SIGNATE』などのコンペティションに参加し、入賞を狙う方法です。
開催されているコンペの中には、主催者から優秀なモデルに対して賞金が出されるものもあります。賞金付きコンペで上位入賞すれば、収入が得られるだけでなく、入賞を実績とすることで案件を探しやすくなるのがメリットです。
理想的なデータサイエンティストのスキルセット
データサイエンティストには機械学習や深層学習の知識と数学や統計、データ分析・解析のスキルが求められます。
AIやアルゴリズムの開発・実装を行う際に機械学習や深層学習の知識が必要になるからです。これは高度な取り組みになるため、高時給での働きにもつながります。
数学や統計、データ分析・解析のスキルは、データサイエンティストの仕事で取り扱う機会の多いビッグデータで利用します。
膨大な量のデータを扱うには、
- 微積分
- 統計学
- ラプラス変換
- 確率統計
- フーリエ解析
- 最適化数学
- 線形代数
- ベイズ統計
といった知識を身に着けておくと良いでしょう。
副業案件の実例
副業エンジニアやフリーランス向けのマッチングサービスOffersには、データサイエンティストの副業案件が掲載されています。実際にある三つの案件を例に、どのような仕事があるのかを確認してみましょう。
AI開発の副業案件①
業務内容 | 自社サービスの不正検知アルゴリズムの精度改善、新機能・新サービスの創出に向けて、必要なデータ分析や機械学習アルゴリズムの提案・検証が主な業務となります。 |
時給・稼働時間 | 年収500万から750万・最低週1日で6時間勤務から |
勤務地 | リモート勤務可、ただし、会議で週1回の出社が必要です。また緊急時に出社できる方(オフィス所在地:大手町)に限ります。 |
必須条件 | ・金融分野での分析経験
・Python/Rなどでデータ分析の業務経験あるいは機械学習分野の実務開発経験1年以上 ・基本的な統計解析や機械学習アルゴリズムを実装できるプログラミングスキル ・基本的な統計学・機械学習アルゴリズムの理論的な理解 |
歓迎条件 | ・システム開発の経験(特に機械学習を利用した経験)
・Kaggle等のデータ分析コンペティションでの上位入賞経験 |
業務内容からは、掲載元の情報セキュリティサービスの改善や提案、検証を依頼したい案件だと分かります。
必須条件を見ると、ハイスキルなデータサイエンティストを必要としているものの、基礎的なことは分かっている人も選択肢に入ると考えられるでしょう。
歓迎要件は必ずしも必要ではないものの、満たしていれば有利な項目です。開発経験やコンペの入賞歴があれば、実際にアウトプットした経験が分かるため、即戦力として期待されます。
AIを扱う上ではPythonやR言語などのプログラミング言語、統計解析は必須のスキルです。ハイクラスの人材をベースに募集されるため、報酬や待遇もよくなります。
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AI開発の副業案件②
業務内容 | 広告運用の過去実績情報を元に、広告効果の予測モデルを作成し、その予測モデル上で最適な予算および入札額を決定するアルゴリズムを開発する業務に携わっていただきます。
・T5, LightGBM等を利用した広告効果推定アルゴリズムの開発およびシステム化に向けた要件定義 ・連続腕バンディット、モデル予測制御、数理最適化などを利用した日予算・入札額の最適化アルゴリズムの開発およびシステム化に向けた要件定義 ・共同研究の推進 |
時給・稼働時間 | 時給4000円から6000円・週2時間から |
勤務地 | リモート |
必須条件 | ・NumPy、pandasの利用経験
・Python:1年以上の経験 ・データサイエンスティスト/リサーチャーとしての実務経験 3年以上 ・Gurobi, CPLEX, PuLPなどの最適化モデリング言語の実務使用経験 ・コンピュータサイエンス、機械学習、オペレーションリサーチ、統計学、数学等の分野における学士号、修士号、または同等の経験 |
歓迎条件 | ・コンピュータサイエンス、機械学習、オペレーションリサーチ、統計学、数学等の分野における博士号
・PyTorchやTensorFlowなど機械学習ライブラリの使用経験 ・GPUコンピューティングの知識やGPUを使用したモデル開発の経験 ・因果推論の知識 |
この案件は、広告効果に関するアルゴリズム開発を任せたい業務です。必須条件や歓迎条件は、ミドルからシニアレベルの人を意識した文面になっています。
アルゴリズムの開発には、母数や標本となるデータをどのように選択するかも重要になるため、データサイエンティストの実務経験や統計学の知識も重要です。
この案件のようにシステム開発のみなら、他にも完全リモートで働ける案件が少なくありません。
【フルリモート/DS】自社開発AI オペレーションズリサーチの力で広告運用最適化
データベースの構築の案件
業務内容 | ・データの戦略、活用方法、データによる競争優位性の設計
・データベースの要件定義、テーブル設計、データ基盤などの技術選定 ・マーケットの問題の調査、データの深堀 ・料金設計プロジェクト等新規案件の実証設計、機械学習プロジェクト等の設計・実行 ・データ可視化、ダッシュボード設計 ・モニタリング基盤の構築、メトリクスの設計 |
時給・稼働時間 | 相談して決める・週10時間以上 |
勤務地 | オフィス |
必須条件 | ・機械学習、強化学習、DeepLearning: 3年以上の経験
・データに基づいて定量的にビジネスを分析し、実行に移した経験2年以上。 ・ダッシュボードの作成など、他チームへのビジュアライズなどを行った経験 ・仮説設定・検証スキル。ABテスト構築や、適切な指標設計など、論理的・定量的に仮説検証を進められること。 ・プログラミング言語(特にPython)、統計分析ツール(e.g. SAS)を使いこなせること。 ・データベース言語(SQL)を使いこなせること。RDBのみならず、NoSQLに関しての知識・経験があると尚可。 |
歓迎条件 | ・BigQuery、R、Pythonの利用経験
・モビリティ分野での経験。IT・プラットフォーム系企業での経験。 ・データサイエンティスト、機械学習などのソフトウェアエンジニア経験。 ・データマネジメント(ETL, ER設計など)に携わった経験 ・統計学、機械学習の知識。 ・データベースの知識 |
この案件はデータ活用の方法を考えたり、データベース構築したりするのが主な仕事です。必須・歓迎条件を見ると幅広い知識や経験を求めていると分かります。
マーケットの調査や戦略設計など企業の基幹方針とも密接に関わる仕事のため、コミュニケーションスキルも求められます。データの活用だけでなく、システムやデータベースを設計できるスキルも必要です。
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副業をする上で考えておきたいこと
副業を始める前に、以下の点について考えておきましょう。あらかじめ確認しておくことで、副業を始めた後で方針のブレや問題が起こるのを防げます。
いつから副業を始めるか?
副業を始めるタイミングに悩む人もいますが、基本的に都合が付くならいつからでもスタートはできます。
ただ、データサイエンティストとして働くには、副業であってもPythonやR言語などのプログラミング言語、統計学の基礎的な知識は必須です。
単純なデータ分析案件にしか携わったことがないなら、初めからデータサイエンティストとして副業案件を請けるのは難しいでしょう。
レベルに合わせた案件を請けながら、エンジニア向けのスクール・講座を活用してスキルの向上に努めるのがおすすめです。
また、機械学習やデータサイエンスの分野では、技術や知識のアップデートも常に求められます。すでに本業で経験を積んだデータサイエンティストでも、働きながら学べる環境は維持しておきましょう。
契約内容と責任範囲
仕事を受注する際は、契約内容と業務の責任範囲を理解してから契約を交わしましょう。副業では業務委託契約がよく結ばれるものの、実は発注側が契約の性質を理解しておらず、トラブルになることがあります。
特に多いトラブルが委託代金の支払いです。業務委託契約を発注元と結ぶとき、『どの時点で委託報酬が発生するのか』や『不利になる条件が書かれていないか』に注目して契約書を読みましょう。
委託側の責任範囲が明確な状態で業務に入れるよう、発注元と認識を合わせるための話し合いも大切です。
就業規則と副業に充てる時間
副業を始めるにあたり、就業規則と副業に宛てる時間をあらかじめ確認しておきましょう。就業規則は、厚生労働省の『副業・兼業の促進に関するガイドライン』を参考に確認するとスムーズに進みます。
あまり知られていませんが、副業の労働時間は本業の労働時間と通算で管理されるケースがあります。各社で定められている労働時間の上限や副業のルールなど、十分な確認が必要です。
また副業は基本的に、本業の労働時間外に行うものです。働きすぎで健康を害したり本業がおろそかになったりしないよう、自身のキャパシティや本業の残業なども考慮して副業案件を決めましょう。
納める税金について
副業によって1年間で得た『所得』が20万円を超えたら確定申告を行い、所得税を納めなければなりません。所得とは、売上から必要経費を差し引いた手取り収入のことです。
副業所得が20万円以上であっても確定申告しなかった場合、脱税行為と見なされ罰則を課せられる可能性があります。
また控除制度を使うことで、支払う税金の額を抑えることも可能です。特に企業所属のデータサイエンティストが初めて副業を始めるときは、税制についても改めて学び理解を深めておきましょう。
まとめ
ビッグデータの活用をビジネスチャンスにつなげたい企業が年々増加しており、それに伴い、データサイエンティストの需要も高まっている状況です。
副業市場においてもデータサイエンティストの需要は高く、副業収入による大幅な年収アップも期待できます。副業に取り組むことで、知見を広げたりスキルアップしたりという効果もあるでしょう。
データサイエンティストとして副業を始めたい人は、まず複数の探し方を知って多くの案件を実際に見てみるのがおすすめです。必須要件や歓迎要件を知ることで、自身のスキルと照らし合わせてマッチする案件を探せます。