個人事業主は賃貸家賃を経費にできる
個人事業主にとって経費とは、事業を展開していくうえで必要となる費用です。経費として計上するものは、直接的・間接的に事業とかかわりのあるものでなければなりません。
上記を踏まえて、個人事業主が支払っている家賃について考察してみましょう。
事務所として利用している場合に可能
賃貸物件を自宅兼事務所としている場合、家賃は『家事関連費』として計上できます。ただし経費として認められるのは事業にかかる部分のみで、生活にかかる部分の計上はできません。
家事関連費は原則としては必要経費に算入できませんが、例外的に要件を満たした場合には必要経費に算入できます。
自宅を事務所と兼ねている場合は、はっきりと『仕事用スペース』『生活スペース』と分けておきましょう。こうしておけば、後に税務調査が入ったり税務署から説明を求められたりした際に経費の根拠を提示しやすく、面倒なトラブルが起きにくくなります。
家事按分が必要
『家事按分』とは、家賃から『事業用』の部分を抽出して費用に計上することです。
事業用と生活用をどのように分けるかについては定められていないため、個人の裁量で計算します。按分は比率を決めて正確に行い、いざという時に明確に説明できるようにしておくことが必要です。
家事按分の目安については様々ありますが、家賃の場合は全体の床面積に占める仕事用スペースの割合に基づいて計算するとよいでしょう。
例えば、床面積50㎡、家賃10万円、仕事用スペース20㎡の場合は次のように按分します。
- 20㎡÷50㎡=40%(按分率)
- 10万円×40%=4万円
つまりこの場合、家賃のうち4万円を経費として計上可能です。自身のケースについても、当てはめて計算してみましょう。
榎本希
家事関連費は原則としては必要経費にはできませんが、以下の条件を満たした場合には特例として経費に算入することができます。
- その主たる部分が業務の遂行上ひつようであり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合。
- 青色申告者であれば取引の記録等に基づき業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができる場合。
割合がどれくらいならば妥当であるか不安な場合には税理士等の専門家に相談するとよいでしょう。
新たに賃貸物件を契約する場合の注意
『個人事業主は賃貸契約が難しい』と言われるのはご存じでしょうか。
会社に属さず自由な働き方を選択する人が増えている一方で、社会にはまだこのような働き方を『不安定』と見る人も多いのです。
個人事業主が新たに賃貸契約を結ぶには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。
賃貸マンションなど事務所兼用できるか確認
新たに賃貸マンションなどを探す際は、事務所と自宅の兼用が可能かどうかを確認しておかねばなりません。というのも、賃貸物件の使い方で大家にかかる負担がかわるためです。
まず、居住用賃貸には消費税がかからない一方で、事務所用では消費税が加算されます。これは大家にとって大きな問題と言えるでしょう。
さらに、近年は小さな事務所で違法ビジネスを営む輩も増えています。大家としては治安の悪化や犯罪事件等、余計なリスクを背負いたくないのです。
居住用として契約したにもかかわらず事務所として使用するのは、明らかに契約違反です。後々大きなトラブルとならないよう、事前に事務所と自宅を兼用する旨を伝え、許可を得ておきましょう。
参考:賃貸住宅を自宅兼事務所にする全知識|業態別にフローチャートで解説!
収入を証明できる書類を用意
個人事業主が賃貸物件を借りにくいのは、『収入が不安定』というイメージを持たれているためです。物件について交渉する際は、一定の収入があることがわかる書類を用意する必要があります。
具体的には、次のような書類があるとよいでしょう。
- 住民税課税証明書:市区町村役場
- 納税証明書:市区町村役場
- 確定申告書控え
- 所得税納税証明書:税務署
この中でも特に提出を求められることが多いのが『住民税課税証明書』『確定申告書の控え』です。両方が無理ならば、どちらか一方でも用意しておきましょう。
個人事業主の審査は厳し目
個人事業主の入居審査は、会社員のそれよりも厳しめに行われます。なかでも特に厳しいと思われるのが、次の条件の場合です。
- 開業して間が無い
- 大手管理会社所有の賃貸物件
開業したばかりだと、売上見込書類や事業計画表など、提出に必要なものを揃えられません。事業としての信用力もないため、多くの場合、審査の土台にすら上がれないでしょう。
また、大手管理会社の賃貸物件は審査項目が多く基準も厳しいため、個人事業主が通過するのは難しいと言われます。同じ物件でも中小企業や地元密着型の不動産会社なら審査が甘くなるケースもあるため、物件探しは大手以外の不動産会社を選択した方がよいかもしれません。
榎本希
新たに事務所を賃貸する場合には、賃貸借契約の際に必ず事業用として使用する旨を伝える事が大切です。
居住用として契約をしたにも関わらず事業用として使用していた場合には契約違反として契約解除原因の1つになってしまうこともあります。
個人事業主が審査に通過するコツ
個人事業主が入居審査に通過しづらいとはいえ、「借りられなければ困る」というケースがほとんどでしょう。個人事業主がスムーズに入居審査に通過するには、どうすればよいのでしょうか。
一定の所得があることを証明する
前述のとおり、個人事業主の審査が厳しくなるのは、収入が不安定というのが大きな理由の1つです。
一定の所得を証明する所得証明書や確定申告書の控えを揃えていくのはもちろんですが、金融機関の預貯金通帳や資産の証明になるもの等も準備しておくと、さらに心強いでしょう。
家賃が高額な物件は避ける
収入に対する家賃の割合があまりにも高いと、審査は通過できません。
通常、一定収入のある会社員は、収入の30%程度の家賃なら入居審査を通過しやすいと言われます。しかし、不安定なイメージのある個人事業主の場合はもう少し下げ、収入の20~25%程度の家賃がベターです。
家賃が高額になるほど審査も厳しくなるため、なるべく手頃な物件を選択することをおすすめします。
保証会社を利用する
個人事業主が入居審査を受ける場合、保証人として『保証会社』を付けることを求められるケースが増えています。
保証会社とは、賃貸借契約時に連帯保証人を代行し、借主に家賃滞納などがあった場合、家賃の立て替えをする会社です。大家にとっては『家賃未回収リスク』を減らせるため、保証会社を利用すると、入居審査は通りやすくなります。
ただし、保証会社を利用する際にも、保証会社の審査を受けねばなりません。審査方法は会社や団体によって異なりますが、過去に金融トラブル等があると、こちらの審査も通過できない可能性があります。
榎本希
個人事業主として開業したばかりの際は審査が通りにくいといわれています。
審査の際、前年度の所得証明を求められるような場合には、例えば売上が良かった年度の翌年に賃貸するなど、賃貸する時期を見極めるのもコツになります。
また、高額な物件は審査も厳しくなりますので、開業したばかりの段階では避けた方が良いでしょう。
まとめ
個人事業主が賃貸物件を借りる場合、一定収入が見込める会社員よりも入居審査が厳しめになります。収入が出来る書類はできるだけ揃えて、『家賃を払える』ことを証明しましょう。
また、物件を借りれれば、家賃は経費として計上できます。居住スペースと仕事スペースをきちんと分け、正しく按分してください。