データベーススペシャリストの基礎知識
まずは、データベーススペシャリストの概要について解説します。
データベーススペシャリストとは
データベーススペシャリストとは、企業などが持つ膨大なデータベースを設計、管理し、さらにそれを引き出すための効率的なシステムを構築する能力を持っている人のことです。
データベースというと、裏で稼働するシステムですので、地味な印象もありますが、増え続ける情報を安全に管理するということは、個人情報管理などの観点からも重要です。情報漏洩が問題になりやすい昨今では、IT業界にとって、なくてはならない存在と言えるでしょう。
データベーススペシャリスト試験は国家試験
データベーススペシャリスト試験は、情報処理推進機構(IPA)が運営している『情報処理技術者試験』の一つです。IPAは独立行政法人ですが、この試験はれっきとした国家試験でもあります。
この情報処理技術者試験は、『ITを利用する者』と『情報処理技術者』に向けられた試験の2種類がありますが、データベーススペシャリスト試験の場合は『情報処理技術者』向けに作られた試験です。
そんなデータベーススペシャリスト試験は、情報処理技術者試験の中でも難易度が高く、高度な知識が要求されることで知られており、レベル4(最高レベル)に位置付けられています。
合格することで得られる優遇
この試験に合格しているということは、データベースに関して専門的な知識を持っていると、国に認定されたということでもあるので、企業からの評価も高まり、就職にも有利に働くでしょう。
しかしそれだけではなく、様々な国家資格試験の一部が免除される仕組みがあるのです。どのような試験で免除があるのか紹介します。
- 弁理士試験の論文式筆記試験選択科目
- 技術士試験の一次試験・情報工学部門
- ITコーディネータ(ITC)試験
これらの免除だけではなく、『警視庁サイバー犯罪捜査官警部補4級職』の任用資格ともなっています。
また厚生労働省ものづくりマイスター事業『ITマイスター』の応募資格になっているので、日本のものづくりに貢献したい人にもおすすめです。
さらに青年海外協力隊などのボランティア事業でも、有資格者をコンピューター技術員として募集しているので、ボランティアに興味がある人にとっても、大きな武器となるでしょう。
データベーススペシャリスト試験の概要
ここからは、データベーススペシャリスト試験の内容を詳しく見ていきましょう。
対象者像や業務と役割
IPAのサイトでは、データベーススペシャリストを以下のように定義しています。
高度IT人材として確立した専門分野をもち、データベースに関係する固有技術を活用し、最適な情報システム基盤の企画・要件定義・開発・運用・保守において中心的な役割を果たすとともに、固有技術の専門家として、情報システムの企画・要件定義・開発・運用・保守への技術支援を行う者
このようにデータベーススペシャリストは、データベースの開発過程を一手に引き受ける中心人物としての役割を持ちます。
しかし役割はこれだけにとどまらず、他の社員を率い、指導育成するという指導者としての役割もあるのです。データベーススペシャリストは、将来の日本のIT業界を裏から支える『縁の下の力持ち』のような存在としても、日本社会に貢献しています。
期待される技術水準
データベーススペシャリストに期待される技術水準は非常に高く、要求される技術はたくさんありますが、まず押さえておきたいポイントの一つに『データベース技術の動向や将来性を見据え、広い視野を持ちながらその企業に最適な技術を選択できること』が挙げられます。
つまりデータベーススペシャリスト試験に合格したとしても、その地位であぐらをかくことなく、常に最新の知識を吸収し、将来を見据えたシステム構築を企業に提案できる能力が必要ということです。
次に要求されている能力は、データベース管理の本質を理解し、データモデリングの技術を生かして、ユーザーにとって最適なデータモデルを作成する力です。
つまりデータベースの上辺だけを理解しているのではなく、データベースを本当の意味で極めた存在として活躍できるレベルに達していることが要求されます。
試験時間や出題形式
データベーススペシャリスト試験は毎年4月に開催されています。また試験時間、出題形式は以下のとおりです。
- 午前I:9:30~10:20(50分)・四肢択一(出題数30問・解答30問)
- 午前II:10:50~11:30(40分)・四肢択一(出題数25問・解答25問)
- 午後I:12:30~14:00(90分)・記述式(出題数3問・解答2問)
- 午後II:14:30~16:30(120分)・記述式(出題数2問・解答1問)
9:30から16:30までという、かなりの長丁場であり、午後にいたっては1問解くのに2時間の試験時間を設けていることからも、難易度が高いことがうかがえます。
ちなみに午前Iの問題は、高度試験すべての共通問題が出題され、それ以降の試験から、データベーススペシャリスト固有の試験問題です。
データベーススペシャリスト試験の合格率
次は、気になるデータベーススペシャリスト試験の合格率を見ていきましょう。また合格点や試験免除対象なども確認します。
合格や免除の条件
データベーススペシャリスト試験の場合は、前述の午前・午後4つの試験すべてにおいて100点満点中60点取れば、合格となります。また以下の条件に該当する人は、午前Iの試験が免除です。
- 応用情報技術者試験に合格してから2年以内である
- 他の高度試験に合格してから2年以内である
- 午前I試験に合格してから2年以内である
データベーススペシャリスト試験の受験を考えている人の場合は、過去にほかの情報処理試験を受験し合格している人も多いでしょう。もし心当たりがあるなら確認してみてください。
合格率
次は気になる合格率を紹介します。平成30年春期に開催されたデータベーススペシャリスト試験には、1万1116名の人が受験し、合格率は13.9%でした。つまり1548名ほどの人が合格しているということです。
先ほど紹介したように、合格ラインは60点とさほど高くはありませんが、合格率を見ると、その60点を取ることは簡単ではないと言えるでしょう。
データベーススペシャリスト試験の難易度
先ほどから試験の内容や合格率を見ているだけでも、ある程度見当はつきますが、ここからデータベーススペシャリスト試験の難易度について詳しく見ていきましょう。
難易度は高い
データベーススペシャリスト試験は、大きく分けて以下の内容が出題されます。
- データベースの全体計画
- データベースの要件定義
- データベースの分析・設計
- データベースの実装・テスト
- データベースシステムの運用・管理
情報処理技術者試験の中には、幅広い知識が問われるものもありますが、データベーススペシャリスト試験の場合には、データベースに関する知識に絞って問われる内容となっています。
情報処理技術者試験では、幅広い知識を問う試験よりも、一つのことを深く問われる試験のほうが難易度が高くなる傾向があります。
読解力も必要
これは特に午後の試験に言えることですが、表記ルールがかなり複雑ですので、試験勉強をする際には、問題を解きながらこの表記ルールに慣れておきましょう。
そして実際の問題では、この表記ルールに従って、ある状況が設定されており、その状況に最適なデータベースの運用方法などを考える問題が出題されます。
この状況の設定に関してもかなり凝った内容になっているので、状況をきちんと把握する読解力が重要です。
相対的な試験の難易度比較
情報処理技術者試験の中には、他にもスキルレベル4の試験がありますが、他の試験と比べて、データベーススペシャリスト試験の難易度はどの程度でしょうか?平成30年春の試験で比較すると、以下のとおりです。
- ネットワークスペシャリスト試験:13.6%
- エンベデッドシステムスペシャリスト試験:17.8%
- システムアーキテクト試験:12.7%
このようにスキルレベル4の試験は全体的に約13~18%の範囲で推移しており、データベーススペシャリスト試験の合格率は13.9%だったので、合格率が比較的低い方であることが分かります。
勉強時間の目安
勉強時間は、それぞれ置かれている状況も違いますし、個人差もありますのではっきりとは言えませんが、独学の場合はだいたい半年から1年は勉強が必要です。
ちなみに通信講座などでもデータベーススペシャリスト講座が開かれています。通信講座では、およそ4~8カ月ほどの期間で習得する場合が多いです。独学で習得する自信がない場合には、通信講座を利用するのも一つの方法でしょう。
その他のデータベースエンジニア向け資格
データベースエンジニアに向けられた試験は、データベーススペシャリスト試験以外にもいろいろありますので、いくつか紹介します。
ORACLE MASTER試験
『ORACLE MASTER』は、データベースシステムで圧倒的なシェアを誇るオラクル社の試験です。そのため、データベース試験といわれて真っ先にこれを思い浮かべる人もいるでしょう。
この試験とデータベーススペシャリスト試験との違いは、ORACLE MASTERは世界共通基準の試験であるということでしょう。IPAの試験は価値が高いですが、基本的には国内の試験であり、国内で活躍する上で役に立つ試験です。
これに対してORACLE MASTERは、世界で通用する試験ですので、この試験に合格している人は、さまざまな国でエンジニアとして重宝されるでしょう。
なおORACLE MASTERにはレベルがあり、それぞれブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと呼ばれています。
OSS-DB技術者認定試験
最近のデータベースには、OSS(オープンソース)と呼ばれる、ソースコードが公開されているデータベースシステムがあります。そんな『OSS-DB』を扱う能力を問われる試験が、『OSS-DB技術者認定試験』です。
この試験は特定非営利活動法人エルピーアイジャパン(LPI-Japan)が運営している試験で、OSS-DBの仕組みや使い方を中立的な視点で問うものです。
ちなみに実際の試験では、OSS-DBの中でも特に人気が高い『PostgreSQL』を基準にして出題されています。またこの試験にもグレードがあり、シルバーとゴールドの2種類です。
データベーススペシャリスト試験の過去問
データベーススペシャリスト試験を受けるなら、過去問を解いて試験問題に慣れておくことは非常に大切です。ここからは、データベーススペシャリスト試験の過去問題集を紹介します。
情報処理教科書 データベーススペシャリスト
この本は、過去に出題された試験問題を非常に詳しく解説していることで人気があります。主に午後問題に絞って解説されていますが、午後問題を解く上での戦略から解答テクニックの解説の後に、実際の試験を解くというような段階的な構成となっています。
また過去16期分の過去問が提供されているという、圧倒的な内容も魅力の一つです。なお試験問題の解答用紙はサイトでダウンロードできるので、何度でも問題に挑戦できます。
- タイトル:情報処理教科書 データベーススペシャリスト
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徹底解説データベーススペシャリスト本試験問題
『徹底解説データベーススペシャリスト本試験問題』は毎年登場しているシリーズで、過去3期に出題された試験問題が収録されています。
この問題集は、ある程度データベーススペシャリスト試験の内容を理解し、総仕上げの段階に入ってきたら使うのがおすすめです。同じシリーズに『データベーススペシャリスト「専門知識+午後問題」の重点対策』があるので、そちらと一緒に使うと一層理解が深まるでしょう。
なおこの問題集でも、解答用紙のダウンロードサービスがあるので、それを利用すると便利です。
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おすすめの参考書
次は参考書を紹介します。問題を解く前に、データベーススペシャリスト試験に出る内容を徹底的に理解しましょう。
マンガでわかるデータベース
この参考書は、データベースに関する知識がほとんど無く、基本から始めたい人におすすめです。初心者の場合は、専門用語だらけの参考書に、ついていけなくなってしまうことがあります。この参考書は漫画で解説しながら、少しずつ慣れていけるように設計されているので、つまずくこともないでしょう。
またこの参考書の場合は、漫画の解説だけではなく、練習問題も出題されるので、データベーススペシャリスト試験の受験を考えている人の入門編としてもおすすめです。
- タイトル:マンガでわかるデータベース
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ポケットスタディ 高度試験共通 午前I・II対応
ポケットスタディシリーズは、その名のとおり、どこへでも持ち運んで、その場ですぐ読めるようなコンパクトな参考書です。
内容は午前の共通問題対策となっており、単純明快で難しい表現をできるだけ省き、100点満点を取ることよりも、合格ラインである60点を取ることを狙った構成です。一問一答形式で問題が掲載されているので、ちょっとした合間に問題を解きながら覚えられます。
- タイトル:ポケットスタディ 高度試験共通 午前I・II対応
- 価格:1728円
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スッキリわかるSQL入門
データベースを扱うには、SQLを理解することが大切です。この参考書は、データベースの世界で欠かせない言語であるSQLをわかりやすく解説したものです。
挿絵も多く、内容の割には堅苦しさを感じさせない、親しみやすい構成になっているのが特徴です。またこの参考書には『dokoQL』(どこきゅーえる)というシステムが用意されていて、ブラウザ上でSQLを作成したり、実行したりしながら、実践感覚も養えます。
- タイトル:スッキリわかるSQL入門
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携帯に便利なポケットスタディ データベーススペシャリスト
前述のポケットスタディシリーズですが、こちらはデータベーススペシャリスト試験に特化した内容になっています。
このシリーズは、あくまでも『どこでも持ち運んで手軽に学ぶ』ためのシリーズです。そのためこれ一冊だけに頼るのではなく、予備的な参考書として使うのがおすすめです。
とは言ってもデータベーススペシャリスト試験に出る内容はすべて網羅され、試験の解き方や勉強スケジュールの立て方などの戦略的な解説が多く掲載されており、便利な一冊です。
- タイトル:ポケットスタディ データベーススペシャリスト
- 価格:1620円
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まとめ
データベーススペシャリスト試験は、非常に高度な試験であり、合格するにはかなりの努力が必要であることは間違いありません。しかしこの試験に合格すれば、活躍できる場所が一気に増え、キャリアアップにもつながるでしょう。
IT技術の急速な発展と共に、データベースの専門家の需要は増えています。データベースの専門家を目指すなら、挑戦する価値のある試験です。