業務委託契約締結の流れ
民法上では『業務委託契約』という名称は存在しません。業務委託契約で働く場合、『請負契約』または『委任(準委任)契約』のどちらかを結んで働くことになるでしょう。
ここでは、契約締結までの流れをざっと紹介します。
契約書を作成する
実際の仕事に取りかかる前に契約書を取り交わします。
契約書を作成する際は、雛形などをベースにするとよいでしょう。受託側か、委託側の担当者が契約書を作成し、双方の希望や条件を確認しながら修正を加えていきます。
業務委託契約では契約書に記された内容がすべてで、契約後に意義を申し出ても、認められない可能性が高くなってしまいます。契約書を作成する際は安易に考えず、希望報酬や条件、納期、損害賠償や守秘義務の範囲まで細かく取り決めておきましょう。
また法律に違反していたり、法的に無効となる要件が含まれたりしていないかもチェックしましょう。
内容を確認
契約書の内容を確認したら、受託側の権限者の承認を得ます。この段階で権限者が不可といえば、再び双方で修正を加えます。
この時、付け加えたり削ったりして修正した部分は朱書きで前後が分かるようにしておくのが基本です。できれば経緯が分かるメモなどもつけておくと、後々、便利で分かりやすくなります。
修正の跡が残った契約書を残しておくことは、後にトラブルが起こった際に有益な証拠となるものです。契約に関するものは些細なことでもメモし、残しておく習慣をつけるとよいでしょう。
契約の締結
権限者の承認が下りたら、作成した契約書をもって契約の締結となります。契約書は委託側・受託側それぞれに1通ずつ、計2通作成します。
正式な契約書なので『契約年月日』『署名捺印』は必須です。押印する際は『金銭を受け取る側』から始めます。
業務委託なら受託側ということになるため、先に受託者が署名捺印して委託者側に送付します。次いでこれを受け取った委託者側が契約書に署名捺印して一通を受託者に送付し、受託者が受け取ります。これで契約にかかわる作業が完了です。
榎本希
契約を締結する前に必ず仕事内容についてお互いの認識のズレがないように確認をするようにしましょう。業務の内容や成果物の詳細については特に認識のズレが後々のトラブルになりやすい部分でもあるので、打ち合わせをしっかり行い具体的に決めた上で契約書に記載するようにしましょう。
契約書を作成したら、署名捺印する前に再度双方で内容について確認をすることでダブルチェックにもなります。
契約書に収入印紙の貼り付けは必要?
業務委託で『請負契約』として契約すると、多くの場合収入印紙が必要になります。『成果物の対価として報酬を得る』請負契約は、国が定める『2号文書』または『7号文書』に該当するので、印紙税の対象となるのです。
一方『委任契約』として契約した場合は、国が定める請負に該当しないため、収入印紙を貼る必要はありません。
ここからは『請負契約』として契約した際に発生する、『収入印紙』について紹介していきます。
収入印紙とは
収入印紙とは、税の徴収のために国が発行する証票です。企業や個人は契約書や領収書などに収入印紙を貼って、国に『印紙税』を納付します。
すべての文書に貼付義務があるわけではなく、対象となるのは20種類の『課税文書』に該当するものです。請負契約を結んだ場合の契約書は、前述のとおり『第2号文書』や『第7号文書』に該当するため、収入印紙を貼る義務が生じます。
税額の決め方
請負契約で働く場合は、契約の金額によって徴収される印紙税が変わります。税額の詳細について、以下の国税庁『第1号文書から第4号文書までの印紙税額の一覧表』を参考にしてください。(第2号文書)その表の一部を以下に引用します。
契約金額 | 印紙税額 |
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1000円 |
100万円を超え500万円以下 | 2000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 1万円 |
1000万円を超え5000万円以下 | 2万円 |
出典:第1号文書から第4号文書までの印紙税額の一覧表|国税庁
『契約書に契約金額の記載が無いもの』については、200円の収入印紙を貼ります。
第7号文書に該当する契約書は、一律4000円の収入印紙が必要です。契約書が第2号、第7号のどちらに該当するかは、『継続か否か』で判断するとわかりやすいでしょう。
期間の定めがない契約や、3カ月以上の期間にわたる契約は、継続契約と見なされる可能性があります。
継続取引であっても期間と金額が明記されており、合計金額が分かるものであれば2号文書となります。
収入印紙代はどちらが負担する?
印紙税法には、印紙税の負担者について、以下のように記載されています。
一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。
『連帯』という文言から分かるとおり、法律では納税義務者を明記していません。そのため収入印紙代は折半するケースが多く、2部ある契約書のうち、1部を負担するケースがほとんどです。
収入印紙代を折半する際は、金額をきちんと確認し、受託者・委託者の双方が理解・納得しておく必要があります。
契約書を2通作成した場合にはそれぞれに印紙を貼る必要があります。
榎本希
契約書を2通作成した場合には両方の契約書に印紙を貼る必要があります。
印紙の金額は契約書に記載された内容・契約期間・金額によって変わります。
なお準委任契約では印紙は不要ですが、準委任契約と請負契約の混合契約の場合には印紙が必要になります。
収入印紙の貼り方
収入印紙は、コンビニや郵便局で購入できます。郵便局の場合、1円から10万円まで全種類の収入印紙を揃えているため、細かいニーズにも応じてくれて便利です。
必要な額面の収入印紙を入手して、いよいよ契約書に貼る段階です。ここでは正しい貼り方を説明します。
契約書1枚目の左上に貼る
法律では収入印紙の貼り方や位置についての記載はありません。ただし、社会的には1枚目の契約書の左上に貼るのがよいとされています。
印紙を貼付ける際は、印紙が破れたり汚れたりしていないかをきちんとチェックしましょう。収入印紙が欠けている場合は無効とみなされるケースもあります。
また、貼った後に、簡単に剥がれないかどうかを確認しましょう。のり付けが弱くて剥がれてしまうと、罰則の対象になり得るので注意してください。
収入印紙に消印を押す
課税文書に印紙を貼った場合、『文書と印紙の彩紋とにかけ、判明に印紙を消さなければならない』と定められています。(印紙税法第8条2項)
この時の消印は印鑑ではなく署名でも問題ありません。収入印紙と契約書双方にかかるよう、はっきりと押印あるいは署名しましょう。
消印の目的は、収入印紙の再利用を防ぐためです。『消えないこと』『誰が押したかわかること』が重要なので、当然、鉛筆などの消える文具での署名は認められません。印鑑を使う場合は、実印を使う必要はなく、名前が分かるものであれば、シャチハタやゴム印も認められます。
第2号文書は記載金額が1万円未満は非課税
契約内容が第2号文書に該当する場合、契約金額が1万円未満であれば非課税なので、収入印紙を貼る必要はありません。
ただし1万円未満でも『月額6000円』などの場合は、課税対象となります。課税対象額は12カ月で計算するため、『6000円×12』で7万2000円が課税対象となるためです。この場合、200円の収入印紙を貼る必要があります。
榎本希
基本的には契約書の1枚目左上に印紙を貼り、契約者双方が消印を行います。
印紙に消印をする目的は印紙の再利用を防ぐことにあるので、消印は実印である必要はなくシャチハタ等の印鑑でもボールペンなど消せない筆記用具での署名でもかまいません。
収入印紙に関するミスはペナルティの対象
請負契約書は受託者と委託者間のみでやりとりする文書のため、トラブルが無ければ保管したまま廃棄可能日まで放置されることもめずらしくありません。
しかし収入印紙の金額が誤っていたり、貼っていなかったりすると、後でペナルティを科されるおそれがあります。収入印紙を貼らなかった場合、どんなペナルティがあるのでしょうか。
3倍の追徴課税のリスクがある
収入印紙を貼らなかった場合、発覚すると『過怠税』が課せられます。
課せられる額は納付すべき税額の倍額です。調査を受ける前に自主的に未納を申告した場合は1.1倍に軽減されます。貼り忘れが故意ではなかったとしても同様のペナルティがあります。収入印紙の貼り忘れには十分注意しましょう。
また、消印が無い収入印紙もペナルティの対象です。この場合、印紙の額面に相当する金額の過怠税が徴収されます。
印紙税の調査は、所得税などの税務調査と合せて行われます。すべての人が税務調査を受けるわけではありませんが、万が一に備えておくことは非常に重要です。収入印紙が適切に貼られているか確認しておくことをおすすめします。
不明点は税務署へ相談
収入印紙について不安なことや、不明な点がある場合は、最寄りの税務署に相談することをおすすめします。
例えば『過去に交わした契約書で収入印紙の額面を間違えていた』など、気づいたことがあれば早めに申し出るのがベターです。税務調査後に印紙税の問題が発覚すると、税務署に与える印象も悪くなります。
信用を落とすことがないよう、適切に行動する必要があるのです。
榎本希
契約書を交わしたもののうっかり印紙を貼っていなかった・印紙の金額が間違えていたなどという場合には過怠税として納付すべき税額の3倍の追徴課税がなされます。
貼る印紙の税額が分からないような場合には税務署や専門家に相談して適切な印紙を貼るようにしましょう。
電子契約書は収入印紙が不要
ペーパーレス化が進む昨今、『電子契約書』を使用する企業が増えてきました。電子契約書は紙面で契約を交わさないため、収入印紙を貼る必要がありません。コストや時間を削減できるので、紙面よりも効率的です。
電子契約書とはどのようなものなのでしょうか。
電子契約書とは
電子契約書とは、書面による文書を電子文書におきかえたものです。契約の締結や管理をインターネット上で行うため、製本・郵送・返送・締結などといった面倒なやりとりがありません。
契約を交わす際は作成した契約書に電子署名とタイムスタンプを生成して埋め込み、PDF化して送付します。受け取った側はこれを確認し、問題なければ電子署名とタイムスタンプをPDFに埋め込んで返送し、契約完了となります。
PDFのやり取りはメールで行います。このところ、セキュリティ強化のため、契約締結のプロセスすべてをクラウド上で管理するサービスも登場しました。
印紙税がかからない理由
印紙税法では、課税文書は『紙の文書』が対象です。そのためオンライン上で契約を取り交わす電子契約書は、課税対象となりません。そのため収入印紙を貼る必要がないのです。
たとえ電子契約書を紙でプリントアウトしたとしても、それは本物の「コピー」に過ぎません。紙面に印を押したりしなければ、課税文書とはみなされないでしょう。
コスト削減に繋がり拡大中
電子契約を利用すると、収入印紙代が不要なうえ、契約書の管理コストもかかりません。契約そのものがスピーディーになれば、業務上のメリットも増えるため、近年は電子契約書を採用する企業が増えています。
ペーパーレス化や効率化が叫ばれる現在、電子契約を取り交わす企業はますます増えていくでしょう。
ただし、電子契約をする上で電子署名やタイムスタンプが必要になるため、そのためのシステムが必要になります。
印紙税がかかる契約を何度も行う機会があるなどの場合ではない限り、印紙と電子署名のシステムにかかる費用を比較して検討するようにしましょう。
榎本希
電子契約書は印紙を節約できるという点や保管場所がかさばらないなどのメリットがあります。
しかし、電子契約書に使用する電子署名やタイムスタンプのシステム導入にコストが少なからずかかる事、契約の相手方が電子署名に対応していない場合などは紙での契約書による契約になります。
契約書の作成頻度や印紙のコストと電子署名システム導入のコストを踏まえた上で導入を決めると良いでしょう。
まとめ
業務委託契約書を交わす際は、契約金額に応じた収入印紙を用意する必要があります。多くの場合、印紙代は受託側・委託側で折半しますが、事前に相手方と話し合っておいた方がよいでしょう。
収入印紙を貼り忘れると、厳しいペナルティがあります。「たかが印紙」と安易に考えると、後でトラブルとなる可能性もあるため、適切な処理が必要です。
電子契約書での契約も増えてきました。オンライン上の契約は印紙税の対象外なので、印紙代を節約したい場合は電子契約が役に立ちます。
契約は双方の合意があって成されるものです。電子契約に慣れない相手には拒否される可能性もありますので、事前にきちんと説明しておくのがよいでしょう。