収入印紙が必要な文書とは
日本で正式に交わされる文書には、収入印紙が必要な課税文書と、収入印紙が不要の非課税文書・不課税文書に分かれます。まずは文書の基本となるそれぞれの違いを知りましょう。
課税文書の規定
課税文書とは、印紙税法によって印紙税が課される文書です。一言で課税文書と言っても、その種類は多岐にわたり、20種類に分類されています。
この中には株券や預金通帳など、日常的に使う文書も該当します。課税額は、分類や記載金額の違いで変わる仕組みです。くわしい内容は印紙税額一覧表に記載されています。
ここで注意したいのは、課税文書になるか否かは『文書の名称ではなく、あくまでも内容である』ということです。
例えば、文書の名称が『合意書』など、印紙税額の一覧表に記載されていない名称であったとしても、内容に課税項目が記載されている場合には課税文書となります。
不課税文書と非課税文書
印紙税が不要の文書には、非課税文書と不課税文書の2種類があります。それぞれの違いを解説しましょう。
まず、非課税文書は『課税文書の中で印紙税を課さないもの』を指します。例えば以下のような文書です。
- 国や地方自治体が作成したもの
- 特別の法律で非課税に該当するもの
例えば、第1号課税文書に該当している『不動産に関する契約書』は、1万円以下の契約の文書なら非課税となります。そのほか4号課税文書に該当する『証券』も、日本銀行など特定の法人が作成する証券ならば、非課税文書です。
一方の不課税文書とは、課税文書ではない文書のことです。それぞれの文書の違いは、契約を交わすうえで欠かせない知識ですので、しっかり覚えましょう。
榎本希
文書は課税文書と非課税文書と不課税文書に分けられ、収入印紙が必要な文書は課税文書となります。
課税文書に該当するかどうかは、その文書に記載されている内容に基づいて判断することになっています。
準委任契約に印紙は必要?
文書に関する基本知識を解説したところで、次は本題の準委任契約書が課税文書に当たるのかどうかを説明しましょう。
準委託契約に原則印紙は必要ない
結論から言うと、準委任契約を交わす際の文書は課税文書に該当しないので、原則として印紙は必要ありません。
しかし、課税文書でお伝えしたように、文書の内容に課税項目が入っている場合には、その対象になる可能性があるので注意しましょう。
準委任契約で印紙が必要になる場合
それではどのようなときに、準委任契約書であっても課税文書とみなされるのでしょうか?考えられるのは、以下のような場合です。
準委任契約と請負契約が業務の内容となっているいわゆる混合契約などは印紙が必要な契約になります。
1号文書 無形財産権の譲渡
まずは、第1号文書『無形財産権(無体財産権)の譲渡』が記載されている場合です。無形財産権には、以下のものがあてはまります。
- 特許権
- 実用新案権
- 商標権
- 意匠権
- 回路配置利用権
- 育成者権
- 商号
- 著作権
例えば、発注側が特許などの特殊な権利を持っていたとして、業務の際に特許技術などを使う契約をしたとします。
この場合には、『無形財産権の譲渡』の取り決めをすることになるため、準委任契約書であったとしても課税文書に当てはまります。
IT業界の契約において、1号文書の契約書が発行される状況として最も考えられるのは、ソフトウェアやイラスト、写真などの著作権が発生するものを使用する場合です。
もし、契約の際に発注側が所有している著作物を使って行う業務契約がある場合は注意しましょう。1号文書に当てはまる場合には、印紙税額は以下のようになっています。
- 1万円以上10万円:200円
- 10万円を超え50万円以下:400円
- 50万円を超え100万円以下:1000円
- 100万円を超え500万円以下:2000円
印紙税は契約金額によって変わります。1号文書の場合は、契約金が50億円を超えると印紙税は最高額の60万円となっています。
2号文書 請負に関する契約
準委任契約の場合には、成果物の完成を求められないため、請負契約ではありません。しかし文書をよく見ると、何らかの成果・結果が求められていることも多くあります。
この場合には2号文書の『請負に関する契約』に該当し、課税文書となります。IT業界の契約において2号文書が発行される典型的な例としては、ソフトウェアなどの開発を委託される場合です。
準委任契約であるにもかかわらず、何らかの開発業務が入っている場合には注意しましょう。ちなみに2号文書の印紙税額は以下のとおりです。
- 1万円以上100万円以下:200円
- 100万円を超え200万円以下:400円
- 200万円を超え300万円以下:1000円
- 300万円を超え500万円以下:2000円
2号文書の場合でも、やはり契約金50億円を超える契約で印紙税が最高額となり、60万円となっています。
7号文書 継続取引の基本となる契約書
7号文書に該当するのは、3カ月以上継続して取引される場合に交わされる契約書です。ここだけを見ると、準委任契約は7号文書に該当するように思われます。
しかし、準委任契約は基本的には該当しません。とはいえ、作成する契約書の内容によっては7号文書とみなされる可能性があります。
IT業界において7号文書が発行される場面と言えば、ソフトウェアなどの開発業務を委託されたときです。保守点検作業など、ソフトウェアそのものに対する継続した業務が入ると、『継続性のある請負契約』とみなされて、7号文書に該当する場合があります。7号文書の印紙税額は、一律4000円です。
出典:(準)委任契約書にはいくらの収入印紙を貼るの?印紙税はいくら?|山内行政書士事務所
榎本希
準委任契約の契約書は原則として印紙は不要です。
しかし、請負契約との混合契約などの場合には印紙が必要となります。
例えば業務の内容が「webサイトの制作」と「webサイトの保守管理」「集客コンサルティング」という3つの契約であった場合には「webサイトの制作」については成果物の完成を目的とする内容のため請負に該当します。また「webサイトの保守管理」についてもその業務の内容に修繕など作業の完了が含まれる場合には請負となります。そのため、この場合の契約書は課税文書となり収入印紙が必要になります。
収入印紙を貼らなかった場合の過怠税
次は、印紙を貼り忘れた場合はどうなるのかという点を解説します。
印紙代の3倍の額が徴収される
印紙を貼らずに作成した場合には、納付しなかった印紙税額とその金額の2倍の合計、つまり印紙代の3倍の『過怠税』が徴収されることになります。
印紙税の金額によっては、かなり多額の出費になってしまいます。文書を作成する際は、課税文書なのかどうか、もし課税文書ならばどの種類に分類されるかを知っておかなければなりません。
そして、それに見合った印紙税を納付しましょう。
自己申告すれば1.1倍に
『印紙税の支払い義務を怠れば印紙税の3倍の金額を徴収される』と解説しましたが、調査を受ける前に自己申告をすれば、徴収額は印紙税の1.1倍となります。
印紙税を納めたか否かは、国税庁の調査が入ればすぐにわかることです。もし、支払っていないことに気が付いたら、速やかに申告するのが得策と言えるでしょう。
消印を忘れても過怠税の対象になる
印紙を貼らなければ、もちろん過怠税の対象です。しかし、印紙が貼ってあっても消印を忘れているだけでも過怠税の対象となるので注意しましょう。
消印とは、その印紙が再利用されるのを防ぐためにされる印のことです。印紙と文書をまたぐように印鑑を押すか、署名する必要があります。
なお、消印は必ずしも作成者のものである必要はなく、代理人や使用人のものでも問題ありません。必ず押すことを忘れないようにしましょう。
榎本希
印紙税法についての条文がどのようになっているのかを見てみましょう。
印紙による納付の方法によって印紙税を納付することとなる文書作成者がその納付すべき印紙税を課税文書の作成の時までに納付しなかった場合には、その納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額(すなわち不納付税額の3倍)に相当する過怠税が徴収されます。(印紙税法第20条1項)
ただし、課税文書の作成者が所轄税務署長に対し、作成した課税文書について印紙税を納付していない旨(印紙税不納付事実申出書)を提出した場合で、その申し出が印紙税についての調査があったことによりその課税文書について前記の過怠税の決定があることを予知してなされたものでないときは、その過怠税は、その納付しなかった印紙税の額とその10%に相当する金額の合計額(すなわち不納付税額の1.1倍)に減額されます(印紙税法第20条2項)
印紙税法違反に注意しよう
最後に、過怠税も払わないなど、印紙税法違反とみなされるケースについて解説します。
課される懲役または罰則
もし過怠税の催促に応じなかったり、不正行為などによって印紙税を支払わなかったりした場合には、印紙税法違反となり、最悪3年以下の懲役、または100万円以下の罰金が課せられます。
たかが印紙と思って甘く見ていると、思わぬ罰を下されることもあります。文書作成の際は、くれぐれも課税文書かどうかをよく考えてから発行するようにしましょう。
もし心配なら、税理士などの専門家に聞いてみることをおすすめします。
榎本希
印紙税の貼り忘れなどは税務調査などで発覚することになります。
印紙税には過怠税の他に罰則規定があり、印紙税に対する違反の度合いにより懲役刑や罰金刑が定められています(印紙税法第21条~24条)
例えば故意に印紙税の納付を免れた場合などが1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
まとめ
契約の際に作成される文書が課税文書なのか、それとも非課税文書か、不課税文書なのかの見極めは難しい部分もあります。しかし、罰則を受けないためにも必要なことですので、発注側・受注側のそれぞれが意識し、ミスのないようにしましょう。