準委任契約の基本について知ろう
業務委託契約には『請負契約』『委任契約』『準委任契約』という3種類ありますが、それぞれ契約内容が違います。そのため、それぞれの契約の目的や業務範囲を把握し、業務委託契約書を結ぶ必要があるのです。
その中の準委任契約とはどのようのものなのかを詳しく見ていきましょう。
目的と業務範囲
準委任契約は、民法の656条に規定されている契約で『法律行為以外』の事務業務を委託するものです。
ここでいう『法律行為』とは、弁護士や司法書士・行政書士などの法律家に業務を委託することです。
例えば、準委任契約には医者が患者を観察したり、介護士が高齢者の介護をしたりといった、日常生活で必要なものも含まれます。逆に、契約書の作成や法的な届出などは準委任契約に含まれません。
そのサービスを提供するには専門的なスキルを要することも多いので、法律行為を行う委任契約とは、規定的な部分で非常に近いことから準委任契約と呼ばれています。
善管注意義務
準委任契約の特徴として『善管注意義務』が発生することが挙げられます。この義務については民法第644条で規定されており、受注者は『善良な管理者の監視のもと、事務処理を行わなければならない』と定められています。
後述する請負契約と準委任契約が違う点は、結果責任があるかどうかという部分です。準委任契約においては、結果よりも過程が重視されます。
成果物の結果に責任を負う請負契約と違い、準委任契約の結果が発注者にとって予期せぬものだったとしても、『善良な管理者の監視のもと』行われた事務処理であれば、責任を負わないことになっているのです。
指揮命令権なし
準委任契約と比較される契約方法には、派遣契約があります。派遣契約とは、発注者の仕事を受注している派遣会社と雇用関係を結んでいる社員が、発注者のもとへ派遣されるという契約です。
派遣契約の場合は、雇用関係は派遣会社にありますので、派遣会社の社員は発注者ではなく派遣会社の指揮命令権の下で業務を行うことになります。
ここでいう指揮命令権とは、どのような仕事をいつまでに仕上げるかという業務上に指示のことですが、あくまで派遣会社側が指示を出すということになります。
一方、準委任契約において指揮命令権は存在しません。つまり、準委任契約の受注者は、自由に仕事をして良いというのが法律的な側面です。しかし、文字通り自由にしてしまうと発注者から契約を打ち切られてしまう可能性もあります。
契約解約権あり
受注者による債務不履行があった場合は、発注者が契約を解除するのは準委任契約も請負契約も同じです。
しかし、発注者・受注者の双方に債務不履行がない場合は、民法651条1項において準委任契約においては発注者からだけではなく受注者からも契約を解除できることになっています。
とは言え、この規定は任意のものですので、債務不履行があった時のみ契約を解除できるなどの条項を契約書に盛り込むことが可能です。
また、契約期間満了前に債務不履行がない状態で契約を解除することを制限するために、発注者は受注者に契約期間において支払われる報酬の全額を支払うことで契約を解除できるといった項目を記載することもあります。
再委託不可
準委任契約は、受注者・発注者の信頼関係に基づくところが大きいことから、特段の合意がなければ第三者に再委託することは禁止されています。
そのため、最初から再委託をすることを検討している場合は、契約書にその旨を認める特約を盛り込む必要があるのです。
榎本希
準委任契約とは「法律事務以外」の事務を委託する契約です。
注文者と受注者は対等な関係であり、指揮命令はありません。
また、当事者の双方はいつでも契約を解除できるのも特徴です。ただし、相手方にとって不利な時期に解除した場合には損害賠償が発生する可能性があります。
また、準委任契約では注文者と受注者の信頼関係に基づく契約であるため再委託は基本的に出来ません。
準委任契約での責任は善管注意義務となります。
請負契約とは
請負契約とは、成果物を完成することで報酬が支払われるという契約です。成果物を完成させる『過程』ではなく『結果』が求められる契約内容なので、結果責任が問われる契約となっています。
目的と業務範囲
請負契約は、業務の完成を目的としている契約なので、期日を決めて成果物の納品を求められるケースが多くなります。業務の範囲は、その成果物を完成させるための全てとなります。
例えば、ソフトウェアの開発を業務委託する場合は、請負契約と準委託契約を組み合わせながら委託することもあるのです。詳細の設計やプログラミングなど、結果が求められる過程の業務は請負契約を結ぶことが多くなります。
瑕疵担保責任
請負契約においては、『瑕疵担保責任』が発生します。これは、受注者が責任をもって完成させた成果物に瑕疵(欠陥・ミステイク)があった時に、受注者が発注者に対して責任を負うというもので、民法第634条で規定されています。
この瑕疵担保責任は、成果物の責任を問われる請負契約特有のものです。成果物に責任を持つということは、当然ですが、欠陥やミステイクは許されません。そのため、このような責任が付随することを法律で定めています。
指揮命令権なし
請負契約においても、準委任契約と同様に指揮命令権はありません。
欠陥・ミステイクのない成果物が完成することが目的ですので、発注者は受注者に細かい指揮・命令を行ったり、休日出勤を命じたりといった命令行為は禁止されています。
契約解約権あり
請負契約の場合は、成果物が完成する前に発注者が受注者に損害を賠償することで契約を解除することができることを民法第641条で規定しています。
また、成果物が完成した後に欠陥・ミステイクが発覚した場合も契約解除可能です。
再委託可能
請負契約は、成果物の納品が目的になるので、再委託が可能な契約です。しかし、発注者が受注者に対して再委託を禁止したい時は、その旨を契約書に盛り込む必要があります。
例えば、A社がB社に社内報の制作業務を委託したとしましょう。B社はライティングは得意なのですが、写真撮影をできるスタッフがいません。その際に、カメラマンを抱えているC社に写真撮影のみを委託しました。
このようなケースが再委託に該当します。請負契約ではよく行われていることですが、トラブルにならないように契約書をよく読んでおきましょう。
榎本希
請負契約とは注文者が受注者に仕事の完成を依頼し、完成した仕事に対して報酬を支払う契約です。
準委任契約と異なり仕事の完成が請負契約の目的となります。
注文者は契約を解除することができますが、受注者からの解除は原則としてはできません。
再委託については請負契約の場合は原則として可能です。
請負契約の責任は契約不適合責任となります。
委任契約とは
最後に、委任契約にも触れておきましょう。委任契約とは、発注者が受注者に法律行為をすることを委託する契約です。
委任契約は民法643条によって定められており、一定の行為をしてもらう目的で交わす契約のことを指します。委任を受けたものは「善良な管理者の注意義務」といった責任の中で業務を遂行させます。
この注意義務は委任を受ける人の年齢・性別・職業に応じて適当とされるレベルが要求されるのです。
目的について知ろう
委任契約とは、事務作業を業務委託して処理してもらうことが目的になりますので、成果物の結果を出すことは義務にはなりません。『結果』よりも『過程』が求められる契約ですので、委託した業務が終了した時点で報酬の支払いをすることになります。
また、発注者はその報酬に加えて受注者の業務上発生した経費も支払う必要があることは覚えておきましょう。
準委任契約との違い
委任契約には『委任契約』と『準委任契約』の二つがありますが、大きな違いは法律行為をするか否かです。
委任契約については民法第643条で定められている通り、法律行為を委託することを意味していますので、法律家に依頼する業務は委任契約として結ばれます。
一方、民法第656条に定められている準委任契約は、法律行為ではない事務で結果責任のない業務を委託するものです。
榎本希
委任契約とは当事者の一方(委任者)が法律行為をすることを受任者に委託し、受任者がこれを承諾する事を内容とする契約です。
契約の解除を当事者双方がいつでも可能です。
委任契約も準委任契約同様に善管注意義務を負います。
偽装請負に注意しよう
業務委託契約においては、問題になることが多いのが『偽装請負』と呼ばれるものです。
これは、実質的に労働者の派遣契約に該当する業務であるにも関わらず、業務委託を偽装している契約を指します。どのようなものか具体的に見てみましょう。
偽装請負とは
偽装請負は、本来は派遣契約を結ぶ必要があるのに請負契約を装うことです。しかし、発注者が受注者に直接的に指揮・命令することが許されていない請負契約にもかかわらず、実態は発注者が指揮・命令する立場にあるケースがあります。
なぜ、このようなことをするのでしょうか。それは、偽装請負にすることで、発注者が社会保険や福利厚生などの直接雇用の際に発生する雇用責任を逃れるためです。
発注者が受注者の社員に対して指揮・命令を行うことは、労働者派遣契約を結ぶことが必要になります。しかし、労働者派遣契約を結ぶべきケースにおいても、請負契約を結んでいる場合は労働者派遣法や職業安定法に違反している行為と言えるでしょう。
偽装請負のペナルティ
派遣契約の場合は、指揮・命令系統が明確なので、労働者の不利益が起こった場合には責任の所在がはっきりしています。
しかし、偽装請負の場合は、実質的な指揮・命令を行っている発注者と、契約上の雇用主である受注者が違うことになり、責任の所在が不明確になってしまうのです。
もちろん、偽装請負と判断された場合はペナルティが課せられます。発注者は、受注者が労働者派遣事業者としての許可を取得していないことを知っていながら労働者の派遣を受けていたと判断されますので、労働者派遣法に抵触します。
この場合、行政指導や勧告を受けることになりますし、会社名・代表者の氏名が公表されたり、罰金を支払ったりするといったペナルティの対象になることもありますので、絶対に偽装請負をしないようにしましょう。
偽装請負かの判断ポイント
指揮命令関係があるのに、労働者派遣契約ではなく請負契約を結んでいる場合は、偽装請負であると判断される可能性が高くなります。
例えば、A社がB社に経理システムの開発を業務委託したとしましょう。この場合、B社の社員がA社の社員から指揮・命令されることなく業務を行う場合は、請負契約と言えます。
しかし、B社の社員がA社に常駐し、A社の社員の指揮・命令のもと業務を行うのであれば、労働者派遣契約を結ぶ必要があります。しかもB社が労働者派遣事業者の認定を受けていなければなりません。
つまり、発注者の指揮・命令のもとで業務をしていて、受注者の独立性が認められない場合には、偽装請負と判断されてしまうというわけです。請負業務においては、受注者の独立性が重要視されるので契約を結ぶ際には注意が必要です。
榎本希
偽装請負かどうかを見極めるポイントを箇条書きでまとめると以下のようになります。
- 仕事の時間や場所の指定がされる。
- 業務の進行に対して指示を受ける。
- 常駐型のような場合に休日出勤や残業を指示される。
- 常駐型のような場合に社員と同様の服務規程の遵守が要求される。
- 契約した業務内容以外の業務を命じられる。
このように雇用で働く場合と同じような状況がある場合には偽装請負の疑いがあるので注意が必要です。
トラブルが起こるケース
業務委託契約を結ぶ際に、契約内容と実態が異なってしまうと発注者と受注者の間でトラブルに発展してしまうことがあります。
責任の所在が業務の範囲が曖昧になったまま放置しておくと、問題がややこしくなりますので、以下の例のような状況には注意をしましょう。
請負契約か準委任契約か
C社はD社に、大規模な通信システムの一部の開発を委託しました。しかし、D社の業務が納期よりも数か月も遅れてしまい、最終的には開発が不可能という結論に達しました。
もちろん、その間は通信システムは稼働していませんし、結果的にD社以外のE社に改めて委託し完成することになりました。このためC社はD社を債務不履行のために契約を解除し、開発費を一切支払いませんでした。
準委託契約だと主張したD社はC社に訴訟を起こし、業務を行った分の報酬を支払うよう求めました。
この裁判では契約が請負契約か準委任契約かが争われ、請負契約を主張したC社の言い分が認められ、D社は報酬を得ることができないことになりました。
追加報酬の可否
ソフトウェアの開発会社であるF社は、E社からソフトウェアの開発を委託されました。E社が作成した計画書を元に、F社は見積書を提示し契約に至りました。
しかし、E社の計画書通りには事が進まず、テストで何度も不具合が起き、F社は想定よりも多くの工数をかけてソフトウェアを開発することができました。そのため、工数が増えた分をE社に請求しましたがが、E社は支払いを拒否します。
このケースでは、追加の報酬請求が認められるかどうかが焦点となり、請負契約だとしてもE社の計画書に問題があったとしてF社も追加の報酬請求を認める判決となったのです。
榎本希
トラブルが起こらないようにするためには契約をする前に注文者と自身の仕事内容に対する認識のズレがないようにしっかり打ち合わせを行ってから契約をするようにしましょう。
その際に責任の範囲や損害賠償の範囲や契約解除の理由などもしっかり取り決めておき契約書に記載をしておくことが大切です。
契約が曖昧な状態で業務をおこなってしまい想定外の事が発生した際にトラブルは発生しやすくなります。
トラブルを回避するためには事前の対策が重要になります。
準委任契約の契約書の印紙税
では、準委任契約を結ぶ時は、契約書に印紙は必要なのでしょうか。
基本必要なし
原則としては準委任契約の契約書には、収入印紙を貼らなくて良いとされています。つまり、準委任契約の契約書収入印紙代は必要ありません。
2号文書の場合
業務委託には『結果』よりも『経過』を重視する委任契約と、成果物の『結果』に責任を負う請負契約に分かれています。準委任契約は前者と同様の扱いとなり、契約書に印紙は不要です。
しかし、請負契約の場合は『2号文書』と呼ばれる契約書を作成します。この2号文書には収入印紙が必要になりますので、契約金額に応じて収入印紙を貼付しましょう。
印紙税法で定められた2号文書の印紙税額は、国税庁のホームページにまとめられていますので参考にしてください。
国税庁 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
7号文書の場合
2号文書以外にも収入印紙が必要な契約書があります。それが『7号文書』と呼ばれるものです。
これは、継続的な取引を基本とする契約を結ぶ時の契約書のことで、契約期間が記載されている恵沢所で、その契約期間が3か月以内で更新についての定めがないものと規定されています。
具体的には、以下が重要なポイントとなります。
- 営業者同士で契約すること
- 成果物の種類や数量、報酬の支払い方法や債務不履行が起きた場合の損害賠償の方法などが定められた契約であること
- 委託業務・請負業務を継続して行うことが基本にある契約であること
- 電気やガスの供給に関係のない契約であること
これらに該当する契約書の場合は、4,000円の収入印紙を貼付しなければなりません。
国税庁 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで
榎本希
準委任契約の契約書には基本的には印紙は不要となります。
しかし、契約の内容に成果物の納品や仕事の完成が含まれているような場合には印紙を貼る必要があります。
課税文書に該当するかどうかは契約内容によって決まります。
2号文書の場合には契約金額によって印紙税が異なりますが、7号文書の場合には一律4000円となります。
準委任契約を使用するシーン
ここまでは準委託契約がどのようなものであるのか詳しく見てきましたが、ここからは実際に準委託契約を使用するシーンはどのようなものがあるのかを見ていきます。実際に、どのようなシーンにおいて準委任契約が結ばれることが多いのでしょうか。準委任契約が締結される仕事例
準委任契約は、事務処理さえ適切に行われれば、その業務が完成してないくても報酬が発生します。
そのため、駐在型の作業で結果よりも過程が重視される事務作業において採用されるケースが多くなっています。受注者としては、成果物のの結果を問わずに報酬を請求できるというメリットがあります。
その観点から見てみると、準委任契約は成果物よりも業務を行う責任が重視されることから、請負契約よりも責任は軽くなります。しかし、その分報酬は請負契約よりも低くなる場合があるのです。
榎本希
準委任契約を使用するシーンとしてはシステムエンジニアのSES契約や、マンション管理やコンサルタント契約などが挙げられます。
法律行為以外の一定の事務を遂行する事が契約の目的であれば準委任契約を締結することになります。
まとめ
準委任契約は、請負契約や派遣契約とは全く異なる契約です。準委任契約がどのようなものかを把握しないで契約してしまうと、後々のトラブルにつながってしまうことがあるので注意が必要です。
まずはどのような業務を委託したいのか、そしてどのような環境で委託したいのかをよく検討してみましょう。そして、どの方法が最善の結果を生み出すのかをシミュレーションしてみましょう。
そして、一番マッチする契約方法で外部に業務を委託します。結果ではなく過程を重視し、法律に関係ない業務を、契約の解除にも縛りが少ない環境で委託するのであれば、準委託契約が良いのではないでしょうか。