業務委託契約書の書き方とは。注意点と印紙税について

会社対会社、会社対個人など形態の違いこそありますが、業務を委託する際には業務委託契約書を結びます。この書類がなければ、トラブルが起こった時に対処ができません。では、業務委託契約書はどのように作成すれば良いのでしょうか。

業務委託契約の違いを知ろう

まずは、業務委託契約には3種類あることを把握しましょう。その3つとは『請負契約』『委任契約』『準委任契約』です。

請負契約は仕事の結果を目的とする契約で、委任契約・準委任契約は仕事の実施を目的とするという大きな違いがあります。つまり、請負契約は結果に責任が発生し、委任契約・準委任契約は過程に責任が発生するという性質があることを覚えておきましょう。

請負契約について

請負契約については、民法第632条にて定められています。要約すると、仕事の受注者が仕事を完成させることを約束し、発注者はその結果に対して報酬を支払うという契約です。

請負契約の最大のポイントは、受注者が結果責任を負うということです。当たり前のことですが、その仕事の完成に欠陥があることは許されず、欠陥があった場合は賠償問題に発展することもあります。

この請負契約上の結果責任を『瑕疵担保責任』と呼んでいます。

※編集部注 2020年4月より改正民法が施行され「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」になります。

委任契約について

委任契約については、民法第643条で定められています。要約すると、発注者は『法律行為』をすることを受注者に委託し、受注者が受託することで成立する契約です。

委任契約の最大のポイントは、委任された法律行為について責任が生じるということです。そのため、仕事の過程についての責任が問われることになります。

委任契約においては『善管注意義務』も生じます。これは、業務を委任された人の職業として能力や社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のことを指しています。客観的に要求されるべき注意を払わなければいけないと言うものです。

法律行為という意味では、弁護士や税理士、公認会計士などに業務を委託する場合が委任契約にあたります。

準委任契約とは

準委任契約は委任契約と似ていますが、一つだけ大きく違うことがあります。それは『法律行為』を行わないという点です。受注者が発注者の委託を受託して成立する契約であることは変わりませんが、法律行為がなければ準委任契約に分類されます。

例えば、システム開発の業務委託について考えてみましょう。請負契約の場合は、システム開発の完成責任も瑕疵担保責任も負いますが、準委任契約の場合は、どちらの責任も負いません。

準委任契約についても善管注意義務を負います。

このような違いを把握した上で、業務委託の方法を選択し、業務委託契約書を作成する必要があります。

榎本希

業務委託契約という契約は民法上では「請負契約」「委任契約(準委任契約)」となります。

  • 請負契約

成果物の完成を約す契約です。

  • 委任契約

法律事務の委任を受け事務を遂行することを約す契約です。

  • 準委任契約

委任契約以外の事務、つまり法律事務以外の事務の委任を受け遂行することを約す契約です。

業務委託契約書内の報酬を確認

請負契約においても、委任契約においても、業務委託契約書は作成することになります。この書類の中でも大切なのは、報酬について記載されている部分です。

この報酬の記載が曖昧ですと、後々大きなトラブルになる可能性もありますので、しっかりとチェックしておく必要があります。

成果の基準

業務委託契約書では、成果の基準を明記しておく必要があります。

商品を製造したり、システムを開発したりする業務の場合は、一定の成果を挙げることが求められるでしょう。このような業務の場合は、完成したものの所有権や知的財産権がどこに帰属するかも明確にしておかなければなりません。

例えば、広告制作の業務委託を受注したとしましょう。

この時に、制作した広告の所有権をいつ発注者に引き渡すのか、そしてこの広告を制作したことを受注者のホームページで紹介しても良いかなど、権利の帰属先を契約書に記載しておくことで後々のトラブルを回避できます。

報酬と支払い

報酬の支払い額や方法も、業務委託契約書に明記しておくべき事柄です。

まずは、どれほどの金額を報酬として支払われるのかを定めます。総額でいくらというものでも構いませんし、受注者の時給や日給などで算出する方法でも構いません。単位は問いませんが、金額は明確にしましょう。

そして、その報酬をいつどのような方法で支払うのかも記載します。業務委託における報酬は、結果責任や過程責任を負うものですので、後払いが原則です。業務完了後に、どのタイミングでどのように支払うのかを記載します。

例としては「成果物が完成した月の翌月末に受注者が指定する口座に発注者が報酬を振り込む」というものです。

榎本希

報酬については事前にしっかり確認をした上で契約をするようにしましょう。ライター等であれば1記事何文字でいくらかなど具体的に基準を確認するイメージです。その業務にかかる時間と報酬のバランスを考え自分で納得できる契約内容であるか契約前にしっかり考えることも大切です。

また、報酬が払われないというトラブルがないように報酬発生のタイミングや支払日、支払方法についてもしっかり確認をするようにしましょう。

業務委託契約書の業務内容を確認

業務委託契約書を作成する際には、最初から最後まで全てをチェックしなければいけません。業務内容においてトラブルに発展しやすいポイントをまとめておきましょう。

詳細に明記する

業務委託契約書を作成する際には、何事も詳細に明記しておくことが必要です。業務内容はもちろんその範囲にいたるまで、具体的に記載します。

この業務内容と範囲を曖昧にしてしまうと、後々に発注者から『委託した通りの仕事をしてくれなかった』『求めていた結果と違う』などといったクレームが出かねません。

逆に、受注者としても、事前に話に出ていた業務内容と違うと思うことや、ここまでの範囲を業務内容にするとは知らなかった、などといった状況は避けたいところです。

そのため、具体的に記載するのはもちろんですが、記載しきれない時は『関連業務並びに付随業務の一切を含むものとする』『その他、甲乙間で別途合意した業務』という条項を付け加えて効力を担保することもできます。

進捗確認

委託業務において、プロジェクトがどれくらい進捗しているかの確認を行うことは重要です。そのため、定期的に進捗確認のためのミーティングを行うことを記載することも検討しましょう。

定期的なミーティングを行うことで、進捗確認ができるだけでなく、発注者が受注者がどのような作業を進めているかを把握できますし、要望を伝えて軌道修正することもできます。

ミーティングだけではなく、定期的なレポートを提出してもらうことを義務付けるというケースもあります。

このようなミーティングやレポートについても、業務委託契約書に記載がなく、突然発注者の思い付きで始めてしまうと、受注者は『こんなことをするなんて聞いていない』と思ってしまいます。

発注者と受注者の意思の疎通がうまくいかない環境にならないためにも、契約書には具体的な業務内容・範囲を記載することが求められます。

客観的に記述する

そして、業務委託契約書には業務内容を客観的に記載することも必要です。

委託業務の対応時間や、不具合が発生した時の業務範囲など、両社に誤解が起こらないような言葉で記載することで、後々のトラブルを防ぐという役割があります。もちろん、報酬についても同様で、どの業務にいくらの報酬を払うのかを明記します。

特に定額型の業務委託契約の場合、発注者は受注者がどこまでの範囲の業務を行っているかの把握が難しくなるケースもありますので、定期的に作業内容を確認する機会も必要になるでしょう。

業務外の作業も

業務外の作業についても明記しておかなければ、トラブルに発展してしまいますので、業務委託契約書には業務外のルールも明記しておきます。

契約書に記載されていない業務については、発注者側も受注者側も大きな穴になるリスクがありますので、契約書の作成は慎重に行いましょう。

榎本希

業務委託契約のトラブルでも多いのが成果物や業務内容に関する委託者と受託者の認識のズレから起こるトラブルです。契約をする前にしっかり打ち合わせを行った上でお互いの認識を合わせ、合意した内容の契約書を作成するようにしましょう。

契約書を委託者が作成する場合には契約書の内容をしっかり確認した上で署名をすることが大切です。業務の内容・範囲・進捗確認の頻度など具体的かつ明確に記載しいておくことで後々のトラブル防止になります。

業務委託契約書の再委託について見てみよう

業務委託においては、受注者がさらに違う人や会社に発注するという『再委託』が行われることがあります。この再委託については、業務委託契約書にはどのように記載すべきなのでしょうか。

再委託の取り決め

再委託を認めることのメリットは、委託業務のクオリティとスピードが上がることが挙げられます。ただしこれは、発注者の意図が受注者にしっかりと伝わっている時に限ります。

発注者の意図が受注者に伝わっていない場合に再委託が行われた場合、発注者の意図が再委託先に伝わらなくなり、逆にクオリティが低下してしまいます。

このように再委託のデメリットがありますので、委託業務の一部をより専門的な会社に再委託することは認め、業務全体を再委託することは避けるように、業務委託契約書には明記する必要があります。

再委託の例

再委託する場合の例を見てみましょう。

例えば、C社がイベント制作会社のD社にイベントの運営を委託したとします。この時、D社は得意としている台本の制作や演出は自社で行い、誘導や受付などはその分野に長けているE社に再委託することをC社に伝えました。

この場合で、C社が再委託を認めるのであれば、業務委託契約書には特定の一部の業務のみ再委託を認めることを記載しておくと良いでしょう。そして、再委託先の会社名(個人名)と連絡先をC社に通知することを条件とします。

また、C社の意図がE社に伝わっていないと思われる場合に再委託を撤回できる項目も盛り込んでおきます。

このように、再委託に関しては何か不都合が生じた時には、すぐに撤回できるようにしておくことが重要です。

榎本希

準委任契約の場合は契約書に再委託が可能であると記載されていない限りは原則として再委託は出来ません。なぜなら準委任契約では発注者と受注者の信頼関係に基づく契約だからです。

それに対し、請負契約では原則として再委託が可能です。しかし、契約書において再委託が禁止されている場合には再委託はできません。契約をする段階で再委託についても話し合って決めておくようにしましょう。

秘密保持は業務委託契約書内でも重要

続いて、業務委託経書における秘密保持について解説しましょう。

実は、会社同士で取り交わす契約書の中でも一番多いと言われているのが、秘密保持に関する契約書です。知的財産権や個人情報の保護などの観点から、現代のビジネスにおいては必須の契約書ともいえます。

秘密保持の目的

秘密保持契約書は、英語ではNon Disclosure Agreement(NDA)と言います。取得した秘密情報を他の誰にも公開しないことを約束することです。

具体的には以下のような時に、秘密保持契約書を交わします。

  • 会社が合併や買収を行う時
  • 複数の会社で共同研究開発を行う時
  • 様々な権利に関わる業務を委託する時
  • 特許を活用した業務を委託する時

この他にも、就職する時に『秘密保持のための誓約書』に署名することを義務付けている会社もあります。

この書類も秘密保持契約書の一つで、情報の価値という意味においては重要視される現代ビジネスにおいては今後も需要が高まると考えられているのです。

秘密保持の期限

秘密保持はどれほどの期間守る必要があるのでしょうか。これは、その秘密情報の価値や秘密性によって変わってきます。

この情報を秘密のものとして管理する機関を『秘密保持期間』と呼んでいますが、秘密保持契約書を交わす際にこの期間についてどれくらいが相当なのかをしっかり検討しておくことが大切です。

この期間を契約書に記載しなかったために、いつまで経っても秘密を守らなければいけないというケースもあります。

秘密保持の義務を持つ人

秘密保持契約書においては、誰がその義務を負うのかもポイントです。

まずは、誰が誰にどんな情報を開示するのかを確認し、誰が責任を負うのかを明確にします。秘密情報を開示するのが一方であれば、その一方のみが責任を負いますし、双方が秘密情報を開示するのであれば、双方が責任を負います。

本来であれば双方が責任を負う契約書を締結すべきなのですが、パワーバランスにより発注者は責任を負わず受注者だけを責任を負うケースもあるので注意が必要です。

別途書類作成することも

秘密保持契約書を作成する際に、後付けの秘密情報についても秘密保持期間を設定する場合には『○月○日以降に開示した以下の秘密情報についても本契約の規定を適用する』などと言う文言を記載しておきましょう。

この文言があれば、別途契約書を作成する必要がなくなります。しかし、この文言がない契約で追加の秘密情報が出てきた時は、新たな契約書を作成しなければなりません。

榎本希

秘密保持契約とは当事者の重要な秘密を第三者に漏らさないという契約です。秘密保持契約は企業の利益を守るための契約ともいえます。

秘密保持契約の期間は概ね契約終了後5年程度秘密保持義務が継続する条項をいれて対応する形にします。

業務委託契約書の解約について理解しよう

業務委託契約では、発注者が期待していたレベルの仕事を受注者がこなせない場合においては、契約を途中で解約できるように設定しておく必要があります。

では、この解約に関する事柄を業務委託契約書にはどのように記載すれば良いのでしょうか。

解約の基準を明確にする

業務委託契約について、解約の基準を明確にして業務委託契約書に盛り込んでおきます。契約書に記載している解約事由に該当する場合は、通告なしで契約解除できるといった内容を記載しておけば、トラブルの回避につながります。

解約の例

具体的には、以下のような事由が発生した際には業務委託契約を解除できるようにしておきましょう。

  • 受注者が租税の滞納処分を受けた時
  • 受注者が不渡りを出した時
  • 受注者が営業停止もしくは営業許可の取り消しを受けた時
  • 受注者が他社に合併された時
  • 受注者の経営権が他社に譲渡された時
  • 受注者が破産や民事再生手続きの申し立てを受けた時
  • 受注者が労働争議や災害などの不可抗力により業務ができなくなった時
  • 受注者による信用毀損行為が発覚した時
  • その他受注者による契約違反・債務不履行が発覚した時

他の事由による契約解除を検討しているのであれば、その事由も契約書に記載しましょう。

榎本希

委任契約・準委任契約の場合には原則として当事者がいつでも契約を解除することができます。ただし、相手方にとって不利益な時期に解除する場合には損害賠償が発生することもあります。

請負契約については発注者はいつでも契約の解除が出来ます。いずれにせよトラブルを回避するためにも契約解除の基準や理由は明確にした上で契約書に記載しておくようにしましょう。

業務委託契約書の印紙の金額

業務委託契約書は公の書類になりますので、印紙を貼付することになります。印紙の金額は文書の種類によって変わりますので、注意が必要です。

2号文書の場合

業務委託には結果責任が伴う請負契約と、経過責任が伴う委任契約がありますが、前者の場合は『2号文書』という業務委託契約書を交わさなければなりません。

この2号文書には収入印紙の貼付が必要になります。印紙税額については、国税庁のホームページに掲載されている『印紙税額の一覧表』を参照してください。

ちなみに、契約金額が1万円以上100万円以下の契約書には1通200円の印紙を貼付しますが、契約金額の記載のない契約書についても1通200円の印紙が必要になります。

出典:国税庁 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで

7号文書の場合

継続的な取引を前提とした契約の場合は『7号文書』でも印紙を貼付します。7号文書とは、契約期間が3か月以内であるものの継続的な取引が基本となる契約です。以下に該当する契約の場合、4000円の印紙を貼付する必要があります。

  • 会社と会社、会社と個人など営業者同士の契約
  • 成果物の種類や数量、報酬の支払い方法、契約解除による損害賠償の方法や再販売価格を定めている契約
  • 取引を継続的に行う契約
  • 電気やガスの供給に関係しない契約

出典:国税庁 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで

印紙税がいらない場合

印紙税法では、『非課税文書』や『不課税文書』と呼ばれている文書については収入印紙がいりません。また契約金額が少額の契約書や委任契約書では収入印紙は不要です。

榎本希

印紙が必要か不要かは契約書のタイトルではなく業務の内容で決まります。業務の内容が請負契約であり2号文書に該当する業務または継続取引の基本となる契約書である7号文書に該当する場合には印紙が必要です。必要な印紙額は2号文書では契約の金額により変わりますが、7号文書では一律4000円となっています。

準委任契約の契約書の場合には印紙は不要ですが、準委任契約と請負契約の混合契約である場合には印紙が必要になります。また、請負契約であっても契約書が電子契約書である場合には印紙は不要になります。

まとめ

このように、業務委託契約書といっても様々なケースが想定されるため、雛形があるようでないものです。

しかし、委託する業務の内容やその成果物に対する報酬額、再委託を行えるかどうか、各種権利をどう扱うか、契約解除の事由をどう設定するかなど、一定のルールのもと作成する必要があります。

インターネット上には契約書の雛形が多数掲載されていますが、その雛形に頼るのではなく、業務委託の実態に即してカスタマイズされた契約書を作成しなければなりません。

発注者も受注者も、しっかりと業務に取り組めばトラブルにならないような契約書を作成しましょう。

榎本希 [監修]

医療機関・医大の研究室にて長年勤務をした後、行政書士試験を受験。医療系許認可をメインに扱う行政書士として、行政書士のぞみ事務所を開業。再生医療関係の許認可・診療所開設・医療広告ガイドラインに基づく医療広告のチェック等の他、任意後見・契約書作成・起業支援を扱う。

この記事をシェア

関連記事


副業・フリーランス

プログラミング

インタビュー

デザイン

お金

採用・組織

転職

イベントレポート