絞りの基礎知識
そもそも絞りとはどのような意味なのでしょうか。簡単にいうと、絞りの設定を変えることで、ピントが合って見える範囲を調整し、背景のボケの範囲も変えることができます。
つまり、絞りを理解することで、背景ボケの設定を思い通りにできるようになるというわけです。
カメラの絞りとは?
カメラの絞りとは、レンズから入る光の量を調整する部分のことを指し、レンズの中にある羽型の部分の大きさを変えて、内部に取り込む光の量を変化させる仕組みになっています。
何枚も重なった金属の板が、羽のように動いて中央にある穴の大きさを調整して取り込む光の量が変化します。
絞りの単位は、絞り値(F値)で表します。『F2』『F4』『F8』というような決まった値なので、覚えるのにそれほど苦労はしないでしょう。
絞り値を変えるとボケが変わる
実は、絞りとボケには密接な関係があります。絞り値を大きくすると、カメラの内部に取り込む光の量が少なくなります。カメラの内部に光が少ないということは、ボケも少なくなるということです。
逆に、絞り値を小さくすると取り込む光の量は多くなります。このときは、カメラの内部に光が多くなるのでボケやすくなります。
このように、絞りの調節によってピントの合って見える距離範囲が決まります。絞り値の変化によってどのようにボケるのかを理解するためには、同じ条件でいろいろな絞り値で撮影してみるのが1番です。仕上がりの違いがよく分かるでしょう。
また、レンズには『絞り開放値』と呼ばれるものが存在します。これは絞り値の最小値のことで、レンズの仕様書には必ず記載されているのでチェックしておきましょう。
絞り値を変える方法
絞り値の使い方をマスターする
このように、絞りの使い方をマスターすることでイメージ通りの背景ボケを実現できるようになるのですが、そのためには絞り値の数字が何を意味しているかを理解しておく必要があります。
代表的な絞り値を覚える
『1、2、4、8、16…』など、『1』からスタートして2倍ずつ増えていく値が代表的な絞り値です。まずはこの数字を覚えてしまいましょう。
そのあとは、この数字の間に入る数を覚えます。『1』と『2』の間に『1.4』を加え、この『1.4』も2倍ずつ増やしていきます。それらの数字を合わせると『1、1.4、2、2.8、4、5.6、8、11、16』となります。これらの数字を頭の片隅に入れておきましょう。
絞り値が1変わると光は2倍に
では、絞り値はなぜ2倍ずつ増えていくことがベースに決められているのでしょうか?これは、カメラに蓄える光の量が『2倍』もしくは『1/2』単位でコントロールされているからです。
絞りと密接な関係にある『シャッタースピード』と『ISO感度』も、同様に2倍ずつ増えていく数字がスタンダードな単位となっています。
シャッタースピードとの関係性
絞りと密接な関係にあるもののひとつに、シャッタースピードがあります。
これは文字通り、シャッターのスピードのことですが、シャッタースピードが速ければ取り込む光の量は少なくなり、スピードが遅ければ取り込む光の量が増えることになります。
絞り値が変わるとシャッタースピードが変わる
カメラの内部に取り込まれる光の量を意味する『露出』は、絞り値とシャッタースピードの組み合わせにより変わります。
絞り値を大きくすると、カメラの内部に取り込まれる光の量が減るので写真の仕上がりは暗くなってしまいますが、その分をシャッタースピードを遅くすることで補正すれば、適正な露出となります。
その逆に、絞り値を小さくしてシャッタースピードを速くするという方法もあります。
こう考えると、適正露出となる絞り値とシャッタースピードの組み合わせは何通りも存在しているということになります。絞りの使い方をマスターすることは、シャッタースピードの使い方をマスターすることと同義語といってもよいでしょう。
写真に現れる違い
では、絞り値とシャッタースピードの設定を変えることで、写真にどのような影響が出るのでしょうか。まずは、絞り値を大きくしてシャッタースピードを遅くするパターンです。
絞り値が大きいので、被写界深度と呼ばれる『ピントが合っていると思われる範囲』が広くなり、シャッタースピードが遅いことから動いている被写体は躍動しているように見えます。
逆に、絞り値を小さくしたときは、被写界深度が浅くなり背景がボケた仕上がりとなります。また、シャッタースピードが速いので、動いている被写体が止まっているように見えます。
絞り優先モードで手ブレするときは
デジタルカメラの撮影モードには『絞り優先モード』というものがあります。これは、絞りを自分で調整することでシャッタースピードをカメラが自動で決めてくれるモードです。
このモードで、手ブレが起こってしまったときはどのように調節すればよいのでしょうか。
ISO感度を上げる
ISO感度とは、カメラがどれだけ光に敏感かを表している数値で、ISO感度を上げることでシャッタースピードを速くして、手ブレを防止します。
しかし手ブレが防止できる一方で、ISO感度を上げると写真にノイズが入ってしまい仕上がりが荒くなることがあります。
ISO感度を上げるということは、電気信号を増幅することと同義で、ノイズも増幅されるために起こる現象です。できるだけISO感度を上げすぎないで撮影することが基本となります。
ISO感度をオートにする
ISO感度をオートに設定することで、撮影場所の明るさに応じて最適な状態を自動で設定してくれます。
明るい場所ではISO感度を下げて画質を向上させ、暗い場所であればISO感度を上げて手ブレしにくい状態となります。
デジタルカメラはその場の状況に合わせて、細かい調整を自動的にしてくれるモードを備えていますので、最初のうちはこのオートモードを使って練習してみましょう。
慣れてきたらマニュアルモードで、自分のイメージ通りの撮影ができるように経験を積んでいきましょう。
絞りを開放する
最後に、絞りを開放するという方法を紹介しましょう。絞りを開放するということは、レンズからカメラの内部に取り込む光の量が最大値になっている状態です。絞りを開放することでシャッタースピードを速くできますので、手ブレが起きづらくなります。
絞り値を上げると画質がよくなる仕組み
上記のISO感度を上げる方法を採用した場合、光の量を多く取り込みすぎて、写真のノイズが入ってしまうことがあります。
ノイズが入るということは、写真の仕上がりがざらついて画質が落ちてしまうということです。そこで、ノイズを少なくすることで画質をよくするために絞り値を上げるというテクニックを使います。
このテクニックのメカニズムはどのようになっているのでしょうか。
レンズの中央部分を使える
カメラのレンズというものは、レンズの中央部分が最も性能が高く、端になればなるほど性能は落ちていきます。
これは構造上、避けられない問題です。絞りを絞るということは、レンズの中央部分のみを使用することになるので、レンズの持つ性能を最大限に生かせて解像度がよくなるという仕組みです。
基本的に、絞りを開放で使うことはあまりありません。あえて1段絞った状態で使用して、中央部分の性能がよいというレンズの特性を生かして撮影します。
口径食が起こりにくい
口径食とは、背景ボケの綺麗さを表す言葉です。直線的に入ってきた光は綺麗な円になりますが、レンズの端の方から入ってきた光はゆがんでしまいます。
絞りを開いて光をより多く取り込んでいる状態ほど、さまざまな角度の光が入ってきてしまうため口径食が起こり、ゆがんだ円ができてしまいます。逆に、絞り値を大きくすると入ってくる光が少なくなるため、口径食が起こりません。
絞りを開放しても口径食の出にくいレンズは、良質なレンズという評価をされることが多いです。
絞り値を上げすぎると悪くなることも
このように、絞り値を大きくすると画質がよくなるのですが、実は絞り値を大きくしすぎると画質が悪くなってしまうケースもあります。
多くの場合、絞り値を『F16』以上に設定して撮影すると、光が障害物の後ろに回り込んでしまう『回折現象』が起こり、写真の解像度が低下してしまうという現象が起こります。
この回折現象はフィルムカメラでは大きな問題にはなっていませんでした。フィルムで撮影した写真では、回折現象が起きても肉眼では分かりづらかったためです。
しかし、デジタルカメラの画像はパソコンでどこまでも拡大できるようになったため、問題化し始めたという背景があります。
まとめ
絞りについてはさまざまな要素が絡むことから、いきなりその使い方を完全にマスターすることは難しいといえます。そのため、とにかくいろいろな設定で撮影してみることをおすすめします。
その中で、どのようなケースでどのような絞りの設定が最適なのかを学んでいくのが、絞りの使い方をマスターする近道となります。まずは、絞りの仕組みや言葉の意味を把握して、実践に臨んでみましょう。