副業や労働に関する法律
会社員の副業に関する法律
労働基準法では、副業を禁止するきまりを設けていません。ただし、業務内容によっては、その業務を規制する法律の中で副業が禁止されている場合があります。例えば、薬局を管理する薬剤師は、一部の例外を除き管理する薬局以外の場所で薬に関する業務を行うことができないことが、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で定められています。
また、就業規則が会社の憲法・法律といわれる場合がありますが、国や行政機関で作っているわけではありません。就業規則は、社会のルールや様々な法律に従い、会社それぞれの考え方で作られています。会社によって副業の可否や条件が異なるのは、そのためです。
公務員の副業に関する法律
国家公務員法第104条、同法第103条によって、営利を目的とする企業にかかわることは禁止されており、営利を目的としない企業であっても報酬を手にする場合、国家公務員は内閣総理大臣及び所轄庁(所属する行政機関)の長の許可がなければ、アルバイトを含めて副業を行うことはできません。ただし、不動産の賃貸や株式投資などの資産運用などを、所轄庁の長を経由して人事院の承認を得た場合は、例外として副業を認めることが人事院規則に明記されています。
また、地方公務員法でも、任命権者(所属する行政機関の長や委員会)の許可がなければ副業ができないと決められています。副業の許可の基準は、地方公共団体や人事委員会の規則で定められていますが、具体的な内容は地方公共団体等に一任されています。一部の自治体では、独自の許可基準を設けて副業を解禁する動きが出始めています。
公務員に関する就業規則
会社員の就業規則に代わるものとして、国家公務員には人事院規則が、地方公務員の場合には機関ごとに決められた勤務条件に関する条例・規則が、それぞれ用意されています。所属する機関の職員代表の意見を求められない点が、労使対等の立場で作成される民間企業の就業規則と異なる点です。
副業を禁止する3つの場合
民間企業で副業が禁止される3つのケースについて、見てみましょう。
本業に影響する場合
公務員と同様に会社員も、業務中は決められた職務に専念する義務があると就業規則で定められています。従業員のすべての行動を上司がチェックしているわけではありませんが、業務時間中に会社のパソコンで副業に関する作業をしたり、私用電話で頻繁に離席したりしていることが発覚した場合は、職務に専念していないと判断される可能性が高くなります。
また、健康状態の悪化に伴う本業への影響も、懸念材料の一つとなります。夜間や休日の副業に伴い休息時間が減ることで、本業に集中できなかったり業務中に居眠りをしてしまったりして、副業をしているから本業に集中できないと判断されるケースがあるようです。副業が原因で本業の生産性が下がらないように、前もって副業を禁止していると考えることができます。
本業と競合する場合
会社の独自性を保つためには、ノウハウや顧客情報といった知的財産を守る必要があります。一方では、社外の動向を取り入れて、自社の業務改善や収益拡大を行いたいとも考えています。
ところが、本業と副業先が同じ業務の場合には、業務の進め方も似たようなものになる可能性があるため、業務ノウハウの流出が懸念材料となります。仕事仲間とのコミュニケーションの中で、思わず本業先の機密情報を話してしまうリスクもあります。そのため、従業員の知識を最大限本業に活用してもらう目的と、他社にノウハウが流出することを防止する目的で、副業を禁止していると言えます。
本業の信用を失墜させうる場合
マルチ商法に関わったり、反社会的勢力と接点があるような業種で副業を行ったりした場合、噂や伝聞であったとしても会社の信用問題に発展する恐れがあります。また、副業先で取引先の人と遭遇した場合に、本業で十分な待遇を受けられていないと思われた末、本業のイメージダウンに結びつくこともあるようです。
ビジネスでは対人関係が必ず発生することから、社外での行動による信用失墜を未然に防ぐために、副業を禁止していると考えられます。なお、副業先での働きぶりによっては、本業先での社員教育を疑われ、結果的に本業の信用失墜につながるケースがある点にも留意が必要です。
副業解禁に踏み切れない理由・想定されるリスク
副業を解禁する流れになったとはいえ、業務への影響リスクを考えて副業を禁止したままにする会社も少なくありません。副業解禁に踏み切れない理由について、解説します。
労務管理が大変
労働基準法では、本業と副業の勤務時間を通算する考え方をとっているため、本業が週40時間勤務の場合には、副業先での勤務時間はすべて時間外労働として取り扱われます。また、労働基準法の改正により、2019年4月(中小企業は2020年4月)からは年間残業時間が720時間以内に制限されます。そのため、本業先で時間外労働を指示する際に、副業先での勤務時間を把握する必要性が出てきます。
また、従業員501名以上の企業であれば、週20時間以上勤務する従業員を社会保険に加入させる義務があります。多くの会社員は、社会保険は本業先ですでに入っていますが、社会保険料の計算にあたり、本業と副業の収入を合算する必要があります。
その手続きのため、本業先・副業先双方の担当者との打ち合わせや年金事務所への手続きが発生します。労務管理の煩雑化を敬遠して、副業を禁止したままにしているケースもあると考えられます。
情報漏洩のリスク
副業先でも、何らかの形で職場内のコミュニケーションが行われます。その中の何気ない話が、実は本業の機密情報だったという可能性もあります。機密情報に関する話題となった時の対応方法は本人の良識に委ねられるとしても、機密情報の定義は会社として徹底しておく必要があります。
場合によっては、副業先に特化した対応が必要となるケースも考えられます。社内のコンプライアンス教育体制によって機密情報の漏洩リスクを軽減できるものの、何気ない会話からの情報漏洩リスクを考えて、副業解禁に二の足を踏む企業も少なくないようです。
本業への負担
会社には、従業員が健康・安全に働く環境を整える、安全配慮義務があります。一方、副業を行った結果、長時間労働で疲労が蓄積したりストレスが増幅したりした場合、本業先としては安全配慮義務を果たしていても過重労働と総合的に評価されるリスクも潜んでいます。
公務員が副業を禁止される理由
日本国憲法では、公務員は全体の奉仕者であると定められています。そのため、職務に公正・中立の立場で携わる必要があるとされています。一方、副業として民間企業に所属した場合、その企業との癒着を疑われてしまい、職務の中立性に影響する懸念があります。特定企業との利害関係を発生させず、職務の公正さを保つために、公務員の副業が禁止されていると言えます。
国家公務員法
国家公務員法では副業の禁止と共に、信用失墜行為の禁止・守秘義務・職務専念義務の3点が定められています。全体の奉仕者として国の業務に携わる立場であり、公正・中立な立場で分け隔てがない対応が求められるからです。特に、営利企業への関与が不適切であると人事院から通知を受けた場合には、一定期間内にその企業との関係を絶つか国家公務員を辞職するかを選択することになります。
地方公務員法
地方公務員法でも、国家公務員と同様に信用失墜行為の禁止・守秘義務・職務専念義務が定められています。職務を行う場所と住む場所との関係性が深くなりがちなことと、公務員の行動に住民の目が向けられやすいため、国家公務員以上に分け隔てのない対応が求められます。対応方法によっては、特定の団体や人物との癒着を疑われるリスクがあるからです。
モデル就業規則
2018年1月に、厚生労働省からモデル就業規則が公表されました。就業規則の作成にあたっては、企業の担当者だけでなく専門家もモデル就業規則を参考にするといわれています。副業解禁に向けて、モデル就業規則にどのような変化があったかを確認しましょう。
副業禁止規定が削除
今回公表されたモデル就業規則では、副業禁止の規定が削除され、勤務時間外においては他の会社等の業務(副業)に従事できると示されました。各会社の実態に応じて就業規則が定められているとはいえ、過去の裁判例を踏まえてモデル変更がなされたことは、会社のルール設定にも影響が出ると考えられます。
また、無制限に副業の自由を認めていない点にも留意が必要です。労働時間や副業内容を本業先が把握する目的での事前届出制や、会社の運営上正当な理由がある場合には副業を規制する判断もあり得ると助言されています。会社や労働者の実情を踏まえて、個別的・具体的に副業ルールを定めていくことが大切となります。
これからのトレンドになりうるかー解禁企業の例ー
サイボウズ株式会社は、社長が厚生労働省の検討会で副業解禁を呼びかけたことで注目されていますが、2012年から副業を解禁しています。副業の中で自社のクラウドサービスを活用した経験からサービス提案の幅が広がるなど、本業と副業の相乗効果により業績が拡大しているようです。
副業にあたっては、自社の名前や設備を使う場合に限り申請を求めていますが、必要に応じて注意事項等のフィードバックを行う等、健全に副業ができる工夫が凝らされています。また、サイボウズを副業先とする人向けの採用メニューもあり、会社の独自性を守りつつ、仕事内容や知識の交流を促進する流れが生まれています。
まとめ
副業解禁のニュースや政府の働き方改革など、副業がより身近になっているように感じている人も多いでしょう。しかし、先ほど挙げたように、副業が普及するにはまだ超えなければいけない壁がいくつもあります。
一方で、最近では、そのようなトラブルに対処するためのサービスも出てきています。今後は副業解禁へのハードルは下がっていき、副業がより身近になっていくでしょう。