Androidだけでなく、Flutterなども探求したい。サイバーエージェント降矢大地が「初の副業」で気づいたこと

「ABEMA」をはじめ、サイバーエージェントで数々の新規プロダクトの開発を手掛けてきた降矢さん(@wasabeef_jp)。Android開発のエキスパートとして同社のエンジニア部門を牽引するだけでなく、日本でも数少ないGDE(Google Developers Expert)として活動する降矢さんは今回の「初めての副業」で何を感じたのでしょうか? そのきっかけや得られたもの、そして今後のエンジニアとしての生き方について話を伺いました。

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新規開発に特化したサイバーエージェントの9年間

まずは降矢さんの本業であるサイバーエージェント(以下、CA)での仕事内容についてお聞かせください。

2011年にCAに中途として入社し、最近ではABEMA、WinTicket(競輪などのチケット販売)など、新規プロダクトの立ち上げに携わってきました。2020年6月にプレオープンした映像配信サービス「CL(シーエル)」にも初期段階の頃に関わっていました。

“新規”に特化してきたのですね。

CAが「スマホサービスを100個立ち上げよう!」と宣言した時期に入社したので、本当に色々な立ち上げに関わらせていただきました。ただ最近は個々のプロダクトだけでなく、プロダクト開発で欠かせないテストを補助するツールを作ったり、ビルドを早くするような仕組みを検証したりなど、各プロダクトで共通して必要だろうという横断的なツールを開発しています。

Androidスキルは、あくまで一部の強み

降矢さんといえば、Androidのイメージが強く、一方でGDE(Google Developers Expert)としても活動されています。組織横断的な取り組みは意外な印象を受けました。

これまでの私の経歴を振り返ると、2015年くらいから現在にかけてAndroidアプリの開発が中心になっていましたが、CAに入社した当初はフロントエンドエンジニアをやっていました。

さらにCAに入社する前は、μITRON でPHS向けにOSを作っていたり、放送局向けのWindowsアプリを .NET で書いていたり、さらにサーバのキッティングやVMWare ESX 上で法人向けにインフラ構築をやっていたので、時代の変化や環境にあわせてスキルを磨いてきたつもりです。

いわゆるフルスタックエンジニアとしてスキルを磨いてきた、と?

私はフルスタックエンジニアという定義がよくわかっていなくて、2、3個くらいの分野を経験しただけでフルスタックというのは違うかなと思っているのでその表現は使わないですが、これからもAndroidだけではなく、様々な技術に興味を持っていきたいなとは思っています。

今すぐにフロントエンドエンジニアとしてWebアプリ書けと言われても、最前線でやってるフロントエンドエンジニアには敵わないですしね。

そうなんですね。降矢さんは今後はどのようなキャリアを考えているのでしょうか?

GDE(Google Developers Expert)の活動もあるので、Androidは今後も自分の強みとして探求していきたいとは思っています

たださっきの繰り返しになりますが、Androidアプリ開発のみ、つまり特定の領域だけをずっとやるのは自分の志向とは異なるので、他の分野の新技術などにも継続して興味を持って、そこで得たものをAndroidでも活かせるようにしていきたいと思っています。最近ではFlutterでアプリを作る経験をしてみて面白かったので、もっとFlutterに取り組みたいなと思っています

ちなみに去年はマネジメントも少しだけやってみたのですが、私の適性とは合わなかったんですよ。組織に対してはマネジメントができる人の存在は重要だとは思います。でも私の本音としては、他の人をマネジメントする時間があるのであれば、最新技術の習得など、自己研鑽に使っていきたいですね。会社特有の問題に向き合うよりは、どこにでも通用する技術を磨いていきたい気持ちが高くなりました。

『Offers』で初めての副業にチャレンジ

▲GDEとしてのイベント登壇 AAC勉強会① 

エキサイト様やNowDo様で副業を開始したと事前に伺っているのですが、はじめた背景について教えていただけますか?

CAでプロダクト開発が落ち着いた時期に、副業を始めるか考えていたんです。そのことを元同僚に話したら、『Offersというサービスがあるよ』と紹介されて試しに登録をしたのがきっかけです。

しかも、登録した直後くらいに、元CAで、現在はエキサイトで人事責任者をしている齋藤さんからメッセージをいただき、「齋藤さんのお誘いなら......!」ということでスタートしました。

あと、それとほぼ同時期くらいに本田圭佑さんがCEOを務めるNowDoでエンジニアを募集しているnoteを見て、一緒に仕事できたら刺激がありそうだなと思い、応募してみて、採用して頂いたのでNowDoでも始めました。

意外だったのですが、『Offers』登録以前は知人経由などでも副業のオファーはなかったんですか?

それが全然なかったですよ。転職のお誘いは頂いたこともありますが。

自分自身も副業をやろうと思っていなくて、『Offers』を紹介されるまでは、全く行動に移していませんでした。今回はCAの中でも副業っていうキーワードが去年から結構出てきていたので、その流れに乗った感じですね!

NowDoは、まさにスタートアップで、判断が早くやりたいことがたくさんある状態

エキサイト様での副業は「メンバー育成」がメインだったそうですが、NowDo様ではどのような仕事を?

私の担当は主に、検証用のモバイルアプリを作ったり、ツールのようなアプリを作ったりすることです。

具体的なプロダクトで紹介できるものだと『NowVoice』というアスリートをはじめとした様々なトップランナーの声が聴ける配信サイトです。このアプリの開発自体には関わっていませんが、他のプロダクトではアプリやツールをFlutterを使って検証・開発したりしています。

NowDoでは私を一社員みたいに扱ってくれているので、アイディアとかがあれば聞いてもらえますし、毎週月曜日には全員でオンラインミーティングをして、プロダクトの企画などについて話し合っています。

本業と副業をどのように両立しているのでしょうか?

副業は平日の夕方や土日の時間を活用しています。CAは、やるべきことをやっていれば比較的自由に働ける会社なので、平日の業務の合間にFlutterのこととかを調べたりすることもあります。

NowDoというスタートアップと、CAで働き方の違いはありますか?

組織的な規模が異なるので、働き方は明らかに違いますね。

例えば冒頭で紹介した「CL(シーエル)」というプロダクトは、開発当初からAndroidエンジニアとiOSエンジニアがそれぞれ4〜5人ずつアサインされているんです。ですから、「iOSならこの人・Androidならこの人」みたいにスペシャリストが必ずいるわけで、一つの分野をとにかく深く知っていきたい場合には良い環境だと思います。ただ私が越境してiOSをやる必要性は全くないんです。

だけど、NowDoには専任のiOSエンジニアがいません。できる人が横断的にやるスタンスなので、Androidの人がサーバーをやれるんだったらやってもいいし、サーバーの人がFlutterをやることもあります。どんどん越境して挑戦できるのは楽しいですし、それがスタートアップで働く面白さだと思いました。

ちなみに9年前のCAでも、ひとつのプロダクトに対してデザイナーやプロデューサーも含めて5〜10人くらいの規模がほとんどでした。それと、今のNowDoの規模感は似てると思いますし、自分がやらなきゃ進まないという焦りを感じることができたり、プロダクト開発で他社と競争している感がありますね。

あとこれはスタートアップに参加する前から感じていたことではありますが、一つの技術を深く知ることは大事だと思う反面、プロダクトをいかに早くリリースするかというスタートアップのプロダクト開発においては、様々な技術やSaaSの組み合わせ方を広く知っていることも大事なので、NowDoでの経験を通じてそれを改めて感じました。

Flutter など、最新技術を実践できるメリットも

お話を聞いていると、「Flutter」が最近の降矢さんのひとつのキーワードのように感じました。Flutterを導入するのに最適なケースはどのようなものでしょうか?

開発リソースが少ない組織では、Flutterってかなり強力だと思ってるんです。

Flutterが登場する以前から、React NativeやXamarinなどの手法もあったと思いますが、一昨年くらいから去年にかけて、GoogleもFlutterに力を入れるようになってきました。アジアでは特に中国がすごくFlutterに力を入れているようですね。

中国が力を入れてる理由って何かあるんですか?

大手企業が導入したのがきっかけだと思います。例えば、テンセントとかアリババが導入し始めて、中国のエンジニアたちが引っ張られるようにして力を入れ始めたという感じです。

NowDoでは、iOSアプリのスペシャリストがいなかったり、同時にiOSとAndroidを開発できるほどのリソースもないので、「それだったらFlutterやってみよう!」という気持ちで導入しました。Flutterがどこまでできるかという検証も必要だとは思うんですけど、実際やってみたらよく動いていました。

iOSとAndroidアプリを同時に開発する場合、どうしてもそれぞれにエンジニアが必要になりますし、時間とコストもかかります。資金やリソースが潤沢ではないスタートアップであれば、Flutterを導入することで、極端に言えばエンジニア1人いれば十分なケースが多いのは、かなり心強いと思います。

それに、Flutterを使ったプロダクト開発経験がある人って、今の市場では多くはないと思うので、誰よりも先に副業先で経験できるのは魅力的ですよね。

当初の副業目的は、収入だった

これまで数社で副業をされてきて、降矢さんが感じるメリットを教えてください。

「問題解決力」が上がるのは副業のメリットだと感じました。

一番最初は、「お金を稼ぐため」と割り切ってやろうかなって正直思っていたんです。自分が知っている知識だけで、お金になるんだったらそれほど楽なことはないじゃないですか。

だけど実際やってみて、Flutterの技術検証もそうですし、それ以外にも学ばなきゃいけないことがNowDoに関しては多々ありました。本業のCAでは経験・チャレンジできていないこともNowDoでは積極的にできたので、お金以上のリターンが自分の中にあったと思います。

あと、本業では経験できない「新しい開発スタイル」をのぞけるはメリットだと思います。

私はCAにきてもうすぐで10年になりますが、開発スタイルを大きく変えなくても上手くいくことが多くなってきたので、積極的に外部の開発現場やスタイルは見た方がいいとは思っています。それがリスクなしに経験できるのが副業なんですよね。転職だとリスクがありますけど、ほぼリスクなく他会社の開発現場を見れるのは、副業の魅力だと思います。

本業に還元できるところがありますよね!

そうなんです。私もCAでFlutterを使うかどうかという議論になったときに、NowDoでのFlutter経験を説得材料として使えたので、それはまたプラスになりましたね。外で得た知見を本業へフィードバックできるのは、エンジニアに限らず副業全般のメリットだと思います。

GDE(Google Developers Expert)でのアウトプット

▲GDEとしてのイベント登壇 AAC勉強会②

ちなみにGDE(Google Developers Expert)としては、今どのようなことをやられているのでしょうか。

最近 Android 11 Meetups という世界各国でオンラインイベントが開催されています。私もオンラインで登壇しましたが、Android の GDE(Google Developers Expert) としては Android OS の機能を使ったりAndroid開発をどのように開発していくかを、わかりやすく布教していくことが私の主な活動内容になっています。

ちなみにGDE(Google Developers Expert)の役割の多くは「登壇する」「ブログを書く」「OSSを作る」などのアウトプットです。もちろんプロダクトフィードバックしたり、不具合を見つけて修正する人などもいるんですけど、私がやっているのはこのアウトプットの軸です。そして最近の私はOSS開発中心になっています。

このあたりの活動も、今後も平行して続けていくのでしょうか。

そうですね。CAで開発している横断的なツールも、OSSでも使えるようなものにしたいと思っています。GDE(Google Developers Expert)、CA、NowDoで得たそれぞれの知見を自分の強みにもしていきたいですね。

副業は軸足を定めつつ、変化を続けるための機会

降矢さんの経験も振り返ってみて、副業をするのに向いているのは、どんなエンジニアだと思いますか?

本業で昇給が難しいという人はどんどん副業をやった方がいいと思います。

本業で月10万昇格するのはあまり現実味がありませんが、能力がある人が副業をすれば、月10万とかは簡単かなと思います。もちろん能力がある前提にはなります。

あと、技術軸がまだ定まっていない人は、何かしら軸を作った状態で副業にチャレンジした方がいいと思います。その軸を作るために副業をするというのはもちろんアリだとは思うのですが、現実はそこまで優しくはないと思うんです。

メガベンチャーのエンジニアがスタートアップで副業をするケースは、今後も増えていくと思います。そんな彼らに向けてアドバイスをお願いいたします。

副業の種類にもよるとは思います。技術顧問をする場合は一つの技術を深く知っていることが重要かもしれませんが、スタートアップでコードを書く場合は、何でもやれるエンジニア、つまり固定概念なくプロダクトに向き合えるエンジニアになることが重要かと思います。「これはアプリにしなくても、Webだけで十分では?」というケースも頻繁に出てくると思いますし。

それこそ昔のiモード時代の携帯アプリの作り方はDoJaとかMIDPとかが全盛の時の開発と、AndroidやiOSが主流の現在の開発では作り方が全然違いますよね。でもその時代の流れの中で、コンバートしていった人とかもいるじゃないですか。FlashエンジニアからUnityエンジニアになった人とかもいるので、時代の流れに柔軟に対応できるエンジニアが副業・本業に関わらず、今後のエンジニア像として重要なんじゃないかなと思います。

最後に、降矢さんが仕事で一番大事にしていることを教えてください。

楽しいことをやることですかね。私の場合、プログラミングを含め、何かを作ったりとか、調べたりとかするのはすごく好きなんです。

一般的には、エンジニアってある一定の年齢に行くと、マネージャーになるか、エキスパートとして行くかという道に分かれると言われています。その点で言うと、私はエキスパートというか、技術的アプローチから課題を解決する人になりたいと思ってます。

だから冒頭の繰り返しになりますが、やっぱりAndroidだけじゃなくて、他のことも幅広く知っているようなエンジニアにはなりたいですし、そのためにも副業は絶好の機会だと思っています。

ありがとうございました。
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