再委託の定義とは?
『再委託』とは、委託者から任された業務の一部を、第三者に委託することをいいます。アウトソーシングサービスを展開する会社や運送業などでは、よく採用されている手法です。
委託者から業務を任されている企業としては、再委託をすることでコストや業務の効率面でメリットが得られる場合が多い一方、委託者にとっては情報漏洩などのリスクが高まることになります。
そのため、契約書を交わす時点で再委託を禁止したり、承認を得なければ再委託をしてはいけないと契約書に記したりする会社も多々あります。
外注との違い
再委託と共に使われている言葉に『外注』があります。これは『外部注文』の略称で、委託者から任された業務の全部または一部を、第三者に行わせることです。そのため、単に『委託』というだけでも、依頼側からすると『外注』と言えます。
しかし『再委託』の場合は、一度委託を受けた企業が、さらに別の企業に作業の一部や全部を依頼することになります。
再委託の場合でも、外部に依頼するという点では『外注』だと言えますが、3社以上がかかわっている点で異なります。
派遣社員が業務を行う場合、再委託になる?
委託者から任された業務の一部を第三者に委託することが再委託であると説明しましたが、その業務を派遣社員に行わせた場合、これは再委託に当たるのでしょうか。
結論から述べると、委託者から委託された業務を派遣社員に行わせても、再委託にはなりません。
派遣社員が雇用関係を結んでいるのは人材派遣会社ですが、派遣社員の指揮・監督権に関しては、その社員が実際に働く会社にあります。
つまり、委託者から委託された業務を行うのが派遣社員であっても、人材派遣会社に業務履行の義務が託されたことにはならないため、再委託には当たらないのです。
再委託の具体例
ここで再委託の具体例を確認してみましょう。自分は有名な作曲家だと仮定します。ある日、とある芸能事務所から「アイドルユニット用のラブソングを作曲してほしい」という依頼を受けました。
その後、「最近仕事が溜まっているし、今回の依頼は一番弟子に任せよう」と思い立ち、自分の弟子に作曲を依頼して、弟子も承諾したとします。これが、再委託です。
この場合、委託者である芸能事務所は有名な作曲家に仕事を依頼したにもかかわらず、実際に受け取る曲は有名な作曲家の弟子が作曲したものになってしまいます。
このような事態は、場合によっては委託者にデメリットをもたらす可能性があるため、業務委託契約書の中で再委託を制限する旨を明記している会社がほとんどです。
出典:再委託できる?できない?業務委託契約のポイント|:ビーンズ行政書士事務所
榎本希
再委託で代表的なのは建築関係の下請けなどです。
請負契約では原則再委託が可能なため、再委託は請負契約の場面では使われる機会が多いです。
再委託は契約書で可否を記入している場合がほとんどですので再委託の可否は契約書で確認をします。
再委託の許可のメリットとリスク
自分が仕事を依頼する立場の場合、業務を任せる会社に再委託を許可するべきか迷うことでしょう。再委託を許可することで生じるメリットとデメリットの両方を確認して、納得のいく結論を出しましょう。
早く質の高いものが完成することがある
再委託を許可するメリットは、再委託先の技術や知識、人材などによって、依頼した業務が早く終わる場合があるということです。
たとえば、パンの製造を委託したところ、受託者が再委託の許可を求めてきたとします。ここで再委託を許可すると、受託者は自社工場に加えて、生産設備の整った第三者にパン製造の一部を依頼できることになります。
そのため、全体の製造スピードが上がり、委託者は納期に余裕をもって完成したパンを受け取ることができるのです。
また、仮に受託者の技術力だけでは不足がある場合でも、再委託を許可することで、さらに製造環境の整った再委託先で品質の高い商品を作ってもらうことが可能になります。
生産量が多く困難な仕事も受託されやすい
生産が困難なものを大量に作らなければならない場合、設備への不安や納期に対するリスクなどが原因で受託先が見つかりにくいことがあります。
しかし、再委託を許可することで、受託者はよりよい設備や技術を持っている再委託先と業務を分担できるようになります。そのため、受託者にとっては業務負担が軽減し、困難な仕事を受けやすい状況になるのです。
つまり、再委託が許可されることは、受託者にとってリスクの低下や、受託できる仕事の幅が広がることを意味します。難しい仕事を依頼する場合は、再委託の許可を念頭に置いて交渉するとよいでしょう。
トラブルに発展するリスクもある
再委託は受託者側の負担を減らし、業務の効率化を図る上では有効ですが、その一方でデメリットもあります。
まず、受託者から再委託先へと業務がわたることで、もともと依頼者が保持していた技術や顧客情報などが漏洩するリスクが高まります。
また、再委託先が増える分だけ、委託者から業務の進行状況が見えにくくなるため、業務管理体制が崩れやすくなったり、取引がコントロールしにくくなったりするのも、デメリットの一つです。
これらのトラブルを未然に防ぐためには、受託先に秘密管理を徹底する規定をあらかじめ設けておいたり、全面的に再委託を認めるのではなく、ある程度制限を設けて許可したりするなどの対策が必要です。
榎本希
委託者の再委託のメリットとデメリットを箇条書きでまとめると下記のようになります。
メリット
- 大規模な業務内容であっても受託者が対応しやすくなる。
- 特殊な業務であっても受託者が対応しやすくなる。
- 場合によっては受託者単位で業務を委託するよりも報酬が安くなる。
デメリット
- 情報が漏洩するリスクがある。
- 再委託先から先の取引がコントロール出来なくなる。
契約形態による違い
再委託は、契約形態によってその内実が異なります。再委託に関する契約書を交わす際には、それがどんな種類の再委託に当たるのかをよく確認しておきましょう。
請負契約の再委託
仕事の完成を目的とし、成果物を提出することで報酬が発生する契約を『請負契約』といいます。この場合、請負人には、成果物に欠陥があった場合に修正を加えたり賠償責任を負ったりする『瑕疵(かし)担保責任』が生じます。
2020年4月より改正民法が施行され「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」になります。
同時に、依頼された仕事を完成させるという『完成責任』も生じるため、請負契約を交わすと、請負人は仕事や成果物に対して重い責任を負うことになるのが特徴です。
請負契約による再委託の例として分かりやすいのは、製造業です。『パンを100個作って納品する仕事』を請負契約を交わして再委託されたとしましょう。
この場合、契約を交わした段階や業務遂行の目途が立った時点ではなく、実際にパンを100個製造して納品した時点で仕事が完成し、報酬が発生します。
準委任契約の再委託
仕事の遂行を目的とし、一定の事務処理を行うことを受託する契約を『準委任契約』といいます。
成果物を納品した時点で報酬が発生する請負契約とは違い、準委任契約は、納品物が完成しなくても事務処理が適切に行われれば報酬を請求できるのが特徴です。
また準委任契約の場合、契約書に再委託の可否に関する記載がないからといって、受託者が委託者に無断で再委託をすることはできません。再委託を希望する際には、委託者にあらかじめ承認を得る必要があります。
榎本希
請負契約の場合には原則としては再委託が可能となっています。
請負契約の性質が成果物の納品や仕事の完成を目的とする契約だからです。
それに対し準委任契約の場合は信頼関係に基づき委任事務の遂行を目的とする契約であるため、原則としては再委託は出来ません。
しかし、どちらの契約でも契約書に記載があれば禁止とすることも可能とすることも出来ます。
自分が発注元となる場合、契約書に注意
産業廃棄物処理など、特定の事業を除いて、法律では再委託に関する規定が設けられていません。そのため、自分が発注元となって受託者に仕事を任せる場合は、注意深く契約書を作成することが大切です。
再委託の禁止や条件などを明記しておく
自分が委託者となって業務委託契約を結ぶ場合は、再委託の可否や、再委託を許可する場合の条件などを明記しておくことが重要です。
再委託の可否を示さずにいると、請負契約の場合、受託者の判断で再委託が行われる場合があります。そのため、あらかじめ可否を明記するか、委託者の承認を得た場合のみ再委託を許可するとした方がよいでしょう。
また、再委託を許可する場合は、再委託先を指定したり、受託者に対して再委託先への秘密保持管理の徹底を義務づけたりするなど、条件を細かく示すのもポイントです。
規定の書き方例
再委託の可否に関する規定の書き方で最も多いとされるのが、再委託をする場合は委託者に事前に承認を得なければならないというパターンです。この場合の規定の書き方について、以下に例を挙げます。
『第○条(再委託)』
- 乙が委託業務の全部又は一部につき第三者に再委託する場合、甲から書面による承認を事前に得ることとする。
- 乙が前項に定める承認を得て再委託をなす場合、再委託先に対して本契約に定める義務と同等以上の義務を負わせるとともに、再委託先の行為について一切の責任を負うものとする。
- 契約時点で乙がすでに再委託を具体的に検討している再委託先については、甲がそれを適当と認める場合、契約において甲は乙に再委託が可能である旨を明示する。
- 甲は、第1項に定める承認をいつでも撤回することができる。
榎本希
再委託によるメリットとデメリットをよく考慮した上で、再委託の可否を決めるようにしましょう。
また、再委託を可能とする場合には再委託の範囲などについて契約書で明記しておくようにしましょう。
自分が下請けで、再委託をする場合
自分が下請けの立場で第三者に再委託をする場合は、再委託先に対する監督義務の確認や、委託者・再委託先との連絡・報告などに気を配ることが大切です。
契約時も業務中も細かいところまで気を抜かずに、トラブルの発生を未然に防ぎましょう。
再委託先の監督義務について要確認
受託者が再委託をする場合、再委託先に対する監督義務が発生する旨が契約書で定められていることがほとんどです。
再委託先への監督義務とは、受託者が再委託をした会社に対して管理・監督を行うのはもちろん、再委託先が再々委託をした場合、再々委託先についても受託者が間接的に監督義務を負わなければならないということです。
特に個人情報を扱う業務の場合、受託者は再委託先に対して徹底した秘密管理を義務づけ、その業務を監督する必要があります。
著作権の扱いに気を付ける
再委託をする場合に特にトラブルになりやすいのが、著作権に関する事項です。委託者からプログラム開発の業務を委託されたとして、プログラムの著作権は委託者に帰属するという内容で契約したと仮定します。
それにもかかわらず、受託者が再委託先と契約を交わす際に、開発したプログラムの著作権は開発者である再委託先に帰属する旨の明記された書面で契約してしまうと、著作権をめぐるトラブルが発生してしまいます。
この場合、受託者は委託者から再委託先への監督責任も問われる可能性が高くなります。著作権を軽視するといくつものトラブルに発展しやすいため、扱いに注意しましょう。
定期的な情報共有やチェックを欠かさずに
再委託先に業務を任せたからといって、仕事が終わるまで何もせず任せきりにしておくのはいけません。
時間が経てば経つほど、担当者の変更やモチベーションの低下などでトラブルが起こりやすくなります。そのような事態を避けるためにも、現場の視察や情報の管理体制への評価などはまめに行いましょう。
また、再委託先が増えるほど業務のコントロールは難しくなります。そのため、再委託先や委託者との情報共有や連絡・報告を定期的に行い、誰もが業務の進行状況を把握している環境を整えることが大切です。
榎本希
まずは自身の契約書で再委託が禁止されていないことを確認しましょう。
再委託について記載がない場合には委託者に確認をしてから再委託を行うようにしましょう。
また、再委託を行う場合には再委託先への監督、委託者への報告などをしっかり行うようにし、情報共有を欠かさないようにしましょう。
まとめ
再委託とは、委託者から任された業務の一部を第三者に委託することをいいます。委託者は、再委託を許可することで納期の短縮や商品の品質向上などのメリットが得られます。
その一方で、受託者に対して自由に再委託を許してしまうと、情報漏洩のリスク増加や業務管理体制が崩れやすくなるなどのデメリットが生じるのも事実です。
再委託に際しては契約書類で可否や条件などをしっかりと明記し、後々トラブルになることがないよう注意しましょう。