準委任契約とはどんな契約?特徴や他の契約形態との違いを紹介

労働契約にはいくつかの方法があります。その中でも準委任契約とはどういった労働契約なのでしょうか?準委任契約の特徴や、他の契約形態との違いを知り、契約について正しい知識を身に付けることが、契約を結ぶ上でとても大切です。

準委任契約とは

個人が労働契約を結ぶ場合の契約には『派遣契約』や『請負契約』などいくつか種類があります。その中の一つである『準委任契約』について詳しく見ていきましょう。

民法上では法律事務以外の委任契約を準委任契約としています。

SES契約は準委任契約ですが、エンジニア特有の契約であるため準委任契約=SES契約ではありません。

SES契約とも言われる

準委任契約は『SES』(システムエンジニアリング契約)とも言われています。名前の通り、エンジニアがよく利用する契約方式です。

準委任契約は、業務委託の一種として扱われます。請負契約が成果物そのものに対して報酬が発生するのに対し、準委任契約は成果物を作成する上での拘束時間によって報酬が発生するというのが大きな特徴です。

また、委任契約という契約方法もありますが、こちらは相続などの法的処理を弁護士にすべて委任する場合などの法律行為に対する契約を指します。準委任契約と委任契約はまったく別物であるという点も覚えておきましょう。

人月単価による支払い

準委任契約の報酬は『人月単価』となることが多いです。人月単価とは、会社がエンジニアに対し1カ月単位で支払う報酬形態のことを指します。

日本でのエンジニアの人月単価は1人あたり100万円程度ですが、プロジェクトの規模、時期や納期などさまざまな要因によって単価は大きく上下します。

適切な単価で契約を結ぶことが、仕事をする上で重要になります。

指揮命令権は受注者に

準委任契約では、業務を行うにあたって、その命令指揮権が受注者であるエンジニア側か、または派遣元にあります。

派遣元を通す場合には派遣契約になります。

会社に出向する形で契約を結んでいるケースでも、会社側が派遣元を通さずに直接作業手順を命じる、残業を申しつける、報告を義務づけるといった業務上の命令を下すことはできません。

働き方の主体は、あくまで受注者側にあるのが準委任契約の大きな特徴です。

榎本希

民法では準委任契約は民法第656条に規定されています。

「法律事務以外」の事務を委託する契約はこの準委任契約に該当します。

SES契約は準委任契約の代表的なものの1つですがSEなどのエンジニアの契約で締結されるものをさします。

請負契約とは

次は請負契約について見ていきましょう。準委任契約との違いを比較しながら解説します。

業務委託としてまとめられることもある

エンジニアの契約方法には派遣・準委任・請負の三つがあります。このうち業務委託は、請負契約と準委任契約の二つをまとめた総称です。

準委任契約と請負契約をまとめた契約を混合契約と呼ぶことがあります。

民法第632条によって、請負契約は『当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる』としています。

この点から、請負契約は成果物を外注する契約を指すことがわかるでしょう。契約先の会社にエンジニアを常駐させるケースも多々あるなど派遣と似ていますが、派遣契約とはまったく異なる契約方式です。

検収後に報酬が発生

請負契約と準委任契約は、同じ業務委託ですが、その内容はまったく別物です。

民法第632条で取り上げたように、請負契約は成果物に対して報酬が発生するのに対し、準委任契約では人月単価によって報酬が発生するという点が大きく異なります。

請負契約は依頼された成果物を提出し、企業側がそれを検収することではじめて報酬が得られるため、報酬を受け取るタイミングが作業発生から半年以上も遅れることもあり得るのです。

請負契約は安定的に収入を得るのが、他の契約方法と比べると難しいのです。

請負契約の特徴

請負契約は準委任契約と同様、請負契約の命令系統権も請け負った側にあり、企業が業務に関して命令することはできません。業務報告や作業手順に対する命令、また拘束時間を決定することもできません。

準委任契約と大きく違うのは、請負契約には成果物に対して責任が発生するという点です。請負契約の場合、成果物にミスや間違いがあった場合には、修正する義務が生じて、重大なものになると企業側から損害賠償請求をされることもあるのです。

また、成果物完成までのワークスケジュールやタスク管理を自分で行わなければならないのも、請負契約の大きな特徴と言えるでしょう。

そのようなリスクや作業労力もあって、請負契約は準委任や派遣契約と比べると、報酬は比較的高めに設定されます。

榎本希

民法では請負契約については民法第633条に規定されています。

契約当事者の一方が仕事を完成させ、相手方が仕事の結果に対して報酬を支払うことについて合意する契約を請負契約といいます。

準委任契約との大きな違いは契約不適合責任の有無です。

準委任契約には善管注意義務が発生しますが、請負契約では契約不適合責任が発生するのが特徴です。

派遣契約とは

いわゆる『人材派遣』や『労働派遣』とも呼ばれる派遣契約の特徴について解説します。ここまで紹介した業務委託とは大きく異なりますので、その違いに注目しましょう。

派遣契約の仕組み

派遣契約の場合、まずは派遣事業を行っている会社があり、会社所属のエンジニアを派遣先に送り込むといった構図になります。

この場合の業務に関する指揮命令権限は、派遣先の企業にあるというのが派遣契約の大きな特徴です。労働先の企業は労働者に対し業務命令を下すことができますが、その代わり『労働派遣法』に則った扱いをしなければなりません。

また、派遣元は派遣業を行う際には厚生労働省から厳しい審査を受け、許可を得る必要があります。

派遣の種類

派遣は大きく分けると『一般派遣』『紹介予定派遣』の2種類に分かれます。それぞれの特徴は以下の通りです。

  • 一般派遣…派遣の仕事を希望する人材を派遣会社に登録しておき、条件が合う派遣先との契約が結ばれた際に派遣社員として派遣する方法
  • 紹介予定派遣…派遣社員が派遣先との契約を結ぶことが前提で、一定期間人材派遣を行う

基本的に派遣業といえば一般派遣を指すことが多いですが、その他の種類についても覚えておきましょう。

派遣契約の特徴

派遣契約の労働者は労働派遣法によって守られています。そのため、業務委託にはない特徴がいくつかあるのです。

先ほど解説したように、命令系統が派遣先の会社にあるというのが大きな特徴でしょう。派遣先から業務指示があった場合にはそれに従わなければなりません。

その代わり、『マージン率』の公開義務や、多重派遣の禁止、成果物に対して責任が発生しないといったことのように、派遣契約の労働者は労働派遣法によって保護されています。

労働基準法自体も改正されており、2015年以降は同一現場で働ける期間が3年と決められました。それ以上は現場を変更するか、正社員として雇う必要があります。

榎本希

労働者派遣事業とは、派遣元事業主が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させる事を業とすることをいいます。

つまり、派遣労働者は派遣事業所に雇用されている労働者ということになります。

そのため、派遣契約の場合には労働法の適用があります。

準委任契約のメリット

準委任契約は請負契約や派遣契約と比べてどんなメリットがあるのかを解説します。次の項目をご参照ください。

技術や経験が得られる

準委任契約は契約先の会社で仕事を行う常駐型が多いです。そのため、派遣先の所有しているマクロやソースコードを見ることができる、派遣先のエンジニアと情報共有ができるでしょう。

現場はプロジェクトごとに変わるのがほとんどのため、さまざまな職場から技術や経験を得られるのが大きなメリットと言えます。それぞれの現場でどのようなツールを使用しているか、スケジュールの組み方や考え方など業種に対し理解度を深めることが可能です。

ただし、雇用先からすれば技術力のないエンジニアばかり送られるのは困りものと言えます。クレームにつながり、最悪の場合契約を切られることになりかねません。あくまで目的は労働することであり、技術の吸収や経験の蓄積は二次的な成果です。

時間管理がしやすい

準委任契約は働いた時間に対して報酬が発生するので、時間管理がしやすいというメリットがあります。

トラブルなどによって作業が遅れる場合でも、製品に対する責任はないため基本的に残業は必要ありません。仮に残業するとなった場合には残業代が発生します。

契約先の企業としても、人件費の発生を抑えるために無駄な残業はさせません。このように準委任契約の場合、ワークスケジュールに沿った業務を行いやすいという特徴があります。

リスクが少ない

先述した通り、請負契約の場合は納品した成果物に対する責任が発生します。問題点があった場合には修正し、納品先の企業が損害を被った場合には賠償請求をされるケースもあるのです。

一方、準委任契約の場合は成果物に対する責任がないため、これらのリスクは発生しません。たとえ納品先の企業が開発中止や製品の廃棄を決めたとしても、報酬はきちんと受け取ることが可能です。

契約先がそのことで作業期間の延長などを迫ってきた場合には新たに報酬が発生します。無報酬での作業依頼や期間延長には応じる必要はありません。

榎本希

準委任契約のメリットを箇条書きでまとめると以下の通りになります。

  • 指揮命令がない。
  • 自分の得意な分野やスキルを活かせる。
  • 自分で仕事を選ぶことが出来る。
  • 時間や場所にとらわれない。
  • 自分の裁量で好きな時に仕事が出来る。
  • 人間関係のストレスが少ない。
  • 請負契約と違い契約不適合責任はない。

準委任契約のデメリット

今度は、準委任契約のデメリットを紹介します。契約を結ぶ上で次に紹介することには注意が必要です。

帰属意識やマネジメントスキル

準委任契約では派遣先に常駐することが多くなります。派遣先に直接通勤するとなると、ますます自社に立ち寄る機会が少なくなるでしょう。

そのため、エンジニアとしては自分が本当はどこに所属しているのかといった帰属意識が薄れてしまいます。帰属意識が薄れると転職を繰り返したり、引き抜きにあった場合にそのまま別の会社に行ってしまったりといったケースも多くなるでしょう。

また、納期に間に合わなくても責任が問われないという点から、納期に間に合わせるためのスケジュール管理、作業方法、人の管理といったマネジメントスキルが育たないというデメリットがあります。

エンジニアとして将来的に仕事の幅を広げるならマネジメントスキルが必要になりますが、準委任契約では育むのが難しいと言わざるを得ません。

プロジェクト途中で終了する場合も

準委任契約は、プロジェクト内の自身の作業が終わればそのまま契約終了することもあり得ます。そのため、自身が最後までプロジェクトに関われないことも少なくありません。

プロジェクトに最後まで関われないことで仕事のモチベーションが上がらないこともあるでしょう。

また、作業工程の中途段階への理解しか得られないため、技術や経験の習得がどうしても中途半端になってしまいます。

榎本希

準委任契約でのデメリットを箇条書きでまとめると以下の通りとなります。

  • 常駐型の場合は通勤の必要がある。
  • 常駐型の場合、社員との境界が曖昧になるため責任の所在が曖昧になる。
  • 基本的に契約は当事者がいつでも解除できるため、契約解除されることもある。
  • 収入が安定しにくい。

偽装請負に注意しよう

業務委託契約をする上での落とし穴が『偽装請負』です。偽装請負は法律上明確な違反ですし、エンジニアやフリーランスにとって一切メリットがありません。

偽装請負がどういったものかを解説します。

偽装請負とは

偽装請負を一言で表すと『契約上は業務委託であるのにかかわらず、実質的な労働形態は派遣契約となっている』という働き方のことです。

代表的なケースが、業務委託契約であるのにかかわらず常駐先の会社から作業に関して命令をされる、通退勤時間・休日出勤など契約外の時間帯拘束について指示されるなどといったものが挙げられます。

このような働き方は派遣契約でなければ行えないため、明確な偽装請負です。

たしかに、上のようなケースでは業務上連携を取りやすくするために指示系統を統一するといったメリットは少なからずあるでしょう。

しかしながら作業者側にとって、危険作業の補償がありませんし、時間外手当がつくこともないというデメリットだらけです。

偽装請負に関する法律と罰則

偽装請負については、二つの法律が大きく関わっています。

まずは『労働者派遣法』です。労働者派遣法では、マージンや勤務時間といった労働条件の開示、労働派遣者と正社員を区別しないように定めるといった待遇などが決められています。

また、労働者派遣法によれば、派遣の定義は『他人の指揮命令を受けて、該当他人のために労働に従事させること』です。請負契約はこれに該当していないため、請負契約の労働者に対して業務命令を下すことは明確に禁止されています。

もう一つは『職業安定法』です。第44条によれば、労働者の派遣は無許可で行うことが禁じられています。他人に対して業務命令を下すことは『派遣者の雇用』に該当するため、そのような労働形態をとるのであれば厚生省の許可を得なければなりません。

これらの法律に罰すると業務改善命令や罰金、または企業名を公表するといった措置がとられます。

契約形態でなく実態で判断

労働形態を判断するポイントは、契約内容ではなく『労働実態』です。

契約書面上では業務委託となっていたとしても、派遣先から命令を受けていたり、派遣元を通さずに拘束時間を変更されたりする場合は、法律上は派遣契約として判断されます。

そのため、実態は派遣契約で書類上は業務委託なので、実質的には偽装請負と判断されるのです。契約内容と労働実態がズレている場合は、派遣元への報告や然るべき機関への通報を行いましょう。

榎本希

偽装請負かどうかを見極める目安を箇条書きでまとめると以下の通りになります。

  • 指揮命令がある。
  • 契約外の業務を命じられる。
  • 休日出勤や残業を命じられる。
  • 出勤時間や退勤時間などを指示される。

つまり雇用で働いているのと同じような状況と考えると分かりやすいでしょう。

契約書を交わす際の注意点

エンジニアをはじめフリーランスの労働者が企業と契約を交わす際にどのような点に注意すべきかを解説します。偽装請負とならないためにも、次の点については押さえておきましょう。

契約書の意義

契約書には『法的拘束力』が発生します。契約書は口約束や合意書とは異なり、違反した場合には罰則や損害賠償請求といった法律上の手続きを行うことが可能です。

また、契約書には業務上で支障があった場合のリスクに対する分散や回避、また成果物に対する権利などを取り決めるためのもので、事前にリスクを避けるために作成される意味合いが強くあります。

契約書がなかった場合は司法の判断を仰がなければならず、調停や裁判のために多くの費用と時間がかかってしまうケースがあります。そのため、契約書は企業との間にきちんと作成することをおすすめします。

責任を明確に

契約書は、責任の所在を明確にするためにも必要です。請負契約でよくあるトラブルとして、欠点や法律上の欠陥があった場合に誰がその責任を取るのか、またいつまでかなど、エンジニア側の保証期間の問題があります。

たとえば、発売から5年以上経過した成果物に対して欠陥が見つかったとして、それに対し補償すべきかという問題です。また、エンジニア側がどこまでを補償するのかを明確化しておく必要があります。

2020年4月より民法改正が施行され、契約不適合責任の時効は注文者が契約不適合を知ったときから1年以内に請負人に通知することとなりました。

このように、契約の際に責任をどこまで持つのかといったことを決定しておくと、後々のリスク回避にもつながるでしょう。

収入印紙の必要性や金額

『収入印紙』は、料金支払いの際に一定以上の金額がかかる場合などに貼るものです。収入印紙とは『文書課税』を支払う手段で、収入印紙を利用することで、揉めごとが起きた際には国が責任を持って対処することを補償してくれる効果があります。

収入印紙の金額については、不動産や手形、契約などの内容と関わる金額によって細分化されているため、金額については国税庁が発行している『印紙税額一覧表』を参考にしましょう。

印紙税額一覧表

榎本希

契約自体は口約束でも成立しますが、後々のトラブルを回避するためにも契約書は作成しましょう。

また、契約書を交わす際には契約の内容をしっかり確認し、自己に不利な内容になっていないかも確認するようにしましょう。

特に業務の内容や報酬の支払、責任の範囲などについてはしっかり確認することが大切です。

請負契約の場合には2号文書や7号文書に該当する事も多いため、印紙が必要な契約書には印紙を貼るのも忘れないようにしましょう。

まとめ

準委任契約は業務委託の一種です。指揮命令系統が派遣先にないこと、報酬は拘束時間によって発生する、成果物に対する責任がないといった特徴があります。

派遣先で仕事に関する技術や経験を蓄積できるといったメリットがある一方、マネジメントのノウハウが得られない、最後までプロジェクトに関われない可能性があるといったデメリットがあることも覚えておきましょう。

また、業務委託でありながらも派遣と同じように働かされる偽装請負が、社会的な問題になっています。偽装請負のようなトラブルに巻き込まれないためにも、事前に契約書をきちんと作成しておくことが大切です。

榎本希 [監修]

医療機関・医大の研究室にて長年勤務をした後、行政書士試験を受験。医療系許認可をメインに扱う行政書士として、行政書士のぞみ事務所を開業。再生医療関係の許認可・診療所開設・医療広告ガイドラインに基づく医療広告のチェック等の他、任意後見・契約書作成・起業支援を扱う。

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