今さら聞けない、シズル感って何?
あらゆる表現媒体を取り扱う現場でよく聞かれる『シズル感』ですが、どういう意味で使われているかご存知でしょうか。
なんとなく聞き流していた人も、使っていた人も、シズル感についてあらためて認識を深めておきましょう。
写真や動画、漫画のイラスト等のシズル感
『シズル感』という言葉の大元は、英語の『sizzle』です。
sizzleとは、調理中の揚げ物などがジュワっという音のことで、シズル感とは写真や動画・漫画における料理や飲み物の、いかにも『美味しそう』な感じを出す効果のことをいいます。
写真や動画であれば出来立てを強調する湯気を出したり、生鮮料理ではツヤをプラスしたりして工夫を凝らします。チーズであればとろける様子が食欲をそそりますね。
漫画やイラストであっても、料理をメインに据えるのであればシズル感は欠かせません。ストーリーに合わせてレシピを紹介していく漫画では、出来上がった料理が美味しそうに描けているかどうかが重要になってくるでしょう。
写真であれ、イラストであれ、効果音や焦げ目まで絶妙な表現をすることで「食べたい」と思わせることができるのです。
ホイラーの公式、シズルを売るとは
セールスの世界では知らない人はいない営業コンサルタント、エルマー・ホイラーによる『ホイラーの公式』は、数々の企業で採用され、売り上げを伸ばすという結果を残してきました。
5つあるホイラーの公式の第1条こそが「ステーキを売るな、シズルを売れ」というものです。「シズルを売れ」とはどういうことなのでしょうか。
たとえば、お皿にただ乗せられたステーキそのものを見て「買いたい」という気持ちになるかどうか想像してみてください。おそらく今一つ、決めてに欠けると思われることでしょう。
焼くときの音・香ばしさを感じる焦げ目・ナイフを入れたときにあふれ出る肉汁など、5感の全てに訴えるような臨場感のある刺激を伝えることこそが、購入意欲をそそる極意なのです。
シズル感に正解はない?
しかし、現在のクリエイティブ業界においては『シズル感』はあらゆるシーンで使われています。中には食品だけではなく、人物や自然をテーマに取り扱うときにもシズル感が要求されることもあるのです。
その作品を見せるターゲットの5感に訴えるような『何か』が欲しいときに使用されるため、「シズル感といわれたらコレでしょ」という正解はないといえます。
シズル感の出し方
5感に訴える効果がシズル感であることがわかったところで、具体的にどうやってシズル感を出していくのか見ていきましょう。
訴求したいポイントに寄って撮影する
たとえば、メイン料理を紹介する写真を撮ろうとしたとき、メイン料理の他に、サラダやパンなどのセットメニューが並んでいたとします。
テーブルの上に並ぶ全ての皿を、漠然とフレーム内に収めようとすると、その写真はただの状況説明するだけの画像になってしまうでしょう。
撮影者の意図を明確に伝えるためには、メイン料理に寄って撮影する必要があります。大きくメイン料理を取り上げ、他の皿を背景の一部として扱うことで、メイン料理の存在感が増すのです。
湯気を出す
『湯気』はシズル感を出すための重要な要素です。湯気が立ち上る料理からは、出来立てホカホカのニュアンスが伝わります。
出されたばかりの料理と冷めた料理では、食欲をそそる方がどちらなのかは言うまでもありません。
湯気の出し方は、実際の湯気を利用する場合には、カメラ位置や湯気の量に気を使う必要があります。ときにはドライアイスや加湿器を代用することもあるでしょう。
水分を吹きかける
食材や料理に新鮮さを感じさせる大きな要因は『水分』です。きらめく艶感があると、食べたときの瑞々しさを想像しやすくなるでしょう。
同じく冷たい飲み物が入った容器にも、水分の表現は欠かせません。キンキンに冷えたボトルを外に出して置いておくと、ボトル表面に水分が付きます。これが冷たさを感じるシズル感になるのです。
撮影準備をするうちに乾いてしまった食材には、直接水に浸したり、霧吹きを使ったりして水分を補給します。料理にはハケなどでオイルを塗ることで艶感を復活させられるでしょう。
動画でシズル感を最大限に出す
写真では湯気や水分をプラスしてシズル感を出しますが、動画ではどういう方法があるのでしょうか。写真になくて、動画にある強みとは『音』と『動き』です。
調理中の音を入れる
加熱調理をするものであれば、火にかけたときに立ち上る湯気と共にジュワっと焼ける音が最高のシズル感の演出になります。
肉の焼ける音がするだけで、人は同じような料理を食べたときの感覚を頭の中で再現するものです。
温かい飲み物をポットから注ぐ音、冷たい氷がグラスの中でカロンと立てる音も、同じように聴覚を刺激するでしょう。
飲食シーンを入れる
人が美味しそうなものをパクパク食べる様子に食欲をそそられたことはないでしょうか。箸で肉を割ると湯気とともに肉汁が溢れ、熱々だとわかるソレを口へ運ぶ動きに見入ってしまったことはありませんか。
冷たい飲み物を喉を鳴らして飲む様子を見て、自分の喉の渇きに気づくこともあるでしょう。
こうして人の5感を刺激できるということは、食べた人の動きや反応そのものがシズル感の演出になるということなのです。
身近なシズル感の事例
見渡してみると、雑誌や街中、WEBサイト、書籍など、あらゆるところにシズル感を感じる写真が使われていることに気づくでしょう。
シズル感のイメージが湧いてきたところで、具体的なシズル感満載の制作例を紹介します。
スターバックスのフラペチーノ
2016年に期間限定で発売された、スターバックスの『カンタロープメロン&クリームフラペチーノ』がシズル感のいいお手本になります。
まわりに弾けた水滴、カップに浮く水滴がフラペチーノの冷たさを強調しているのがわかるでしょう。
また、素材として使われているメロンも艶々として、みずみずしさを感じさせます。生クリームを乗せて一口すくった画があることで、誰もが容易にフラペチーノの味を想像できるのではないでしょうか。
ガストのハンバーグ
2017年にガストが出した『超力こぶハンバーグ』は、まさに食欲をそそるシズル感を出している広告例といえます。
注目すべきは、肉から立ち上る湯気、鉄板の上で煮えたぎる熱々のソース、ほどよくついた焦げ目です。ハンバーグをドンとアップで正面に据え、美味しそうに見せる要素をプラスして食欲を刺激しています。
シズル感をWebデザインに活かす
WEBデザインでもシズル感を効果的に使用することで、パっと人目を引くページを作ることができます。
シズル感で購買意欲をかき立てる
WEBサイトで買い物をしているとき、まず目にとまるのは『商品の写真』ではないでしょうか。文字を読むことなく、イメージとしてそのまま目に飛び込んでくるため、写真をざっと見て選ぶこともあります。
言い換えれば、あまりよい写真を使っていない場合、本当によい商品であってもスルーされてしまうのです。
写真は購入の決め手となり得る大きな要素です。音と動きの表現ができない写真では、あらゆる手段でシズル感を出す工夫をする必要があります。
「見るからに美味しそうだな」と購入した後のイメージを膨らませるようなシズル感を出すのが理想です。購入する方の立場に立ってみると、どんな写真が購買意欲をそそるのか見えてくるでしょう。
メインの写真はトップで大きく表示する
近年の傾向として、シズル感たっぷりのメイン写真をトップに据えるWEBデザイン方法を使用したサイトが増えています。何かを検索してあるHPに辿り着いたとき、トップページが魅力的だと人はそのHPに長居しやすくなるでしょう。
食材や料理を画面上でダイナミックに配置することで、その商品の1番表現したい魅力が伝わるのです。
シズル感あるシネマグラフを採用
『シネマグラフ』とは、一部が動くようにデザインされた静止画のことです。ほかが静止した画像の中でそこだけが動くため、より一層見る人の目を引き付ける効果があります。
たとえば、野菜についた水滴の一部が、重力に負けて流れ落ちる部分だけが動いたとします。いかにも採りたて洗い立ての雰囲気が出せると思いませんか。
自分のアイデア次第で表現の幅はいくらでも増やせます。シネマグラフを採り入れてシズル感の演出に利用してみましょう。
Photoshopで湯気を足す加工
次は、実際に『Photoshop』で湯気を足す加工の仕方を見ていきましょう。1度湯気を作って保存しておくと、プラスの加工を施すことでいろんな画像に流用できます。
新規レイヤーを作成
以下の手順通りに作業します。
- 湯気の加工を施したい画像を開く
- 新規レイヤーを作成する
- 背景色を白、描画色を黒に設定する
- フィルター→描画→雲模様1を選択する
新規レイヤーを作成したら、名前を『湯気レイヤー』と変更しておくとわかりやすいでしょう。
描画色の変更は、キーボードのDキーで簡単にデフォルトの『背景色を白、描画色を黒』に設定できます。
湯気レイヤーを選択したまま、雲模様1のフィルターをかけると、画面全体に雲模様が乗った状態が確認できるはずです。
雲模様を調整し、湯気に見立てる
雲模様が不要な部分は消しゴムツールで消しましょう。全体にかけるのであればそのままで作業を続けます。
湯気レイヤーを選択したまま、フィルター→変形→波形を選択しましょう。波形のパネルが出てくるので、好みの湯気になるようにそれぞれの値を変えてOKを押してください。
この設定だけでいまいちであれば、指先ツールを使って湯気に動きをつけたり、ぼかしたりしてみましょう。以上で湯気の出来上がりです。
Photoshopで水滴を作る
次はphotoshopでの水滴の作り方を紹介します。慣れてきたら水滴だけではなく、テキストや絵を水滴風に加工して遊びを取り入れてみてもおもしろいでしょう。
楕円形オブジェクトを作成
まず以下のように作業してください。
- 水滴を作りたい画像を開く
- 新規レイヤーを作成する
- 楕円形ツールで適当な形を作る
- 描画モードをオーバーレイにする
- 不透明度を0%にする
新規レイヤー名は『水滴レイヤー』としておきましょう。図形ツールのなかから楕円形ツールを選択し、適当な大きさの楕円を作ってください。Shiftを押しながら書くと正方形が書けます。
オーバーレイは、簡単にいうとコントラストを強くするモードです。元の画像の色が明るければさらに明るくなり、暗い部分はより暗くなります。また、塗りの必要はないので不透明度は0%にしておきましょう。
べベル、ドロップシャドウ等で調整
水滴レイヤーにレイヤースタイルを追加していきましょう。ここでは、立体感を出す効果のある『ベベルとエンボス』、影を作る『ドロップシャドウ』を足していきます。
下記は一例のため、いろんな水滴を作ってみるといいでしょう。設定値を変えると、水滴のニュアンスを変化させられます。
〈ベベルとエンボスの構造と陰影〉
- スタイル:ベベル(内側)
- テクニック:滑らかに
- 深さ:100%
- 方向:上へ
- 角度:90度
- 包括光源を使用:チェック
- 高度:30度
- ハイライトのモード:スクリーン
- 不透明度:100%
- シャドウのモード:スクリーン
- 不透明度:36%
〈ドロップシャドウの構造〉
- 描画モード:オーバーレイ
- 不透明度:18%
- 角度:90%
- 包括光源を使用:チェック
- 距離:3px
- スプレッド:0%
- サイズ:4px
液体の写真の合成でシズル感を表現
思ったようなシズル感を出すのに、1回撮影しただけではうまくいかない場合の方が圧倒的に多いでしょう。たいていは『レタッチ』と呼ばれる撮影後の修正が必要になります。
ドリンク系の広告や料理の写真など、水分をうまく表現したい被写体は合成することでシズル感を出すことが可能です。液体の動きを表現する場合の加工テクニックについて解説しましょう。
複数枚写真を用意する
液体が注がれ、水分が跳ねる様子を収めた写真を作りたいと考えたとします。この場合、始めから液体を注いで撮影しても、イメージ通りの写真を撮るには偶然の出来を期待するしかありません。
確実に思ったような絵を完成させるには、まず動きのない状態で被写体そのものの写真を撮影する必要があります。
この写真に『クラウン』画像をプラスしましょう。クラウンとは、液体を水面に注いだときにできる、王冠のような水跳ねの様子です。
さらに、上から注がれる液体の写真を用意し、クラウンの中心部に向かって注がれているかのように合成します。
このように、1枚だけではなく被写体の写真に加え、加工用の写真を複数枚合成させることで、イメージに近い静止画のベースを完成させるのです。
とろける液体や水しぶき等を合成
上の例でいえば、元の画像に注がれる液体と、着水したときの水跳ねの画像の合成が完成したら、一連の流れから派生する水の動きも合成していきます。
元画像を撮影したときの水しぶきを利用してもいいですし、上手い具合に水しぶきが表現できなかったのなら、改めて水の動きを撮影したものを加工して合成してもいいでしょう。
潤いやみずみずしさを表現したい場合には、こうして水しぶきや、ときにはとろける液体を合成することによってシズル感を出していくことが可能です。
色調を調整する
写真の合成が済んだら、最後に全体の色調を調整しましょう。料理や飲み物であれば、暗くぼんやりしているよりも明るく艶やかな写真の方が美味しそうに見えます。
また、食材ごとに色のバランスを整えることで新鮮さを強調する作業も必要です。被写体によって必要な効果は異なるため、どういう点を強調したいのかイメージしておきましょう。
『レベル補正』で表示されたヒストグラムの1番右端に、右スライダーを合わせると自然な明るさに調整できます。あとは真ん中のスライダーの位置を調整し、イメージに近い明るさに整えてください。
一部の食材の色を整える場合は『カラーバランス』機能を使用します。コントラストをくっきりさせることで鮮やかさが増すため、新鮮さを出したいときに使用することをおすすめします。
まとめ
はっきりとした定義はありませんが、あえて言うなれば、シズル感とは人間の感覚に訴える力のある演出のことです。具体的には料理に湯気を足したり、ドリンクに水滴を足したりして、被写体の魅力を強調する効果のことといえます。
シズル感を加え、演出に工夫を凝らしたデザインは、これまでのものよりもずっと人目を引きつけるでしょう。あらゆる加工方法を利用して、シズル感たっぷりのデザインに挑戦してみてください。