ポートフォリオとは何か?
まずはポートフォリオとは何か、基本的なところを理解しておきましょう。
ポートフォリオの定義
ポートフォリオ(portfolio)とは、もともと書類を入れるケースや「紙ばさみ」などを意味する言葉で、さまざまな業界で使われています。例えば金融の世界では、投資家が保有している株や債権などの金融商品の組み合わせを示す言葉として使われており、教育業界では教師が自らの担当する学生の記録をまとめたものです。
そしてデザイナーやクリエイターの世界では、それまで制作した作品や成果物などをまとめたものをポートフォリオと呼んでいます。即ち、デザイナーの転職に必要なポートフォリオとは、採用担当者に対して、これまでの実績やデザイナーとしてのスキルをアピールするための重要な資料なのです。
履歴書・職務経歴書との違い
ポートフォリオと履歴書や職務経歴書を混同している人は少なくありません。上記のようにポートフォリオは自分の実績をアピールするための作品集です。一方、履歴書や職務経歴書は、これまで経験してきた仕事の内容や、関わってきたプロジェクトの内容などを採用担当者に把握してもらう書類です。
どちらも転職活動では重要な資料ですが、職種によってはポートフォリオの提出が不要なケースもあります。例えば営業担当者として転職する場合、職務経歴書にこれまでの実績を記載することはあっても、業務で作品を作る機会はないためポートフォリオを提出することはありません。
ポートフォリオの目的
ポートフォリオを作成する目的は、デザイナーやクリエイターなどが、採用担当者にこれまでの実績や能力、スキルをアピールすることです。
事実、デザイナーの選考ではポートフォリオの内容を基準に合否を決めている企業は多くあります。たとえ書類選考や面接でポートフォリオの提出が求められていなくても、転職希望者の方から積極的に提出することで、実績やスキルが企業担当者に評価されやすくなり、採用につながりやすくなります。ポートフォリオは、デザイナーが自分のスキルや強みをアピールするのに最適な資料なのです。
採用担当者が注目するポイント
企業の採用担当者が応募者のポートフォリオを確認する際、特に注目しているポイントは何でしょうか?担当者によって重視する点は変わってきますが、以下の点は必ずチェックされています。
これまでの仕事内容
採用担当者はポートフォリオの内容を確認し、応募者がこれまでどのような仕事をしてきたのか、自社が求める知識やスキルを持っているかを判断します。
どういった領域のデザインが得意なのか、自社が制作しているデザインのテイストにマッチするかもチェックされるでしょう。どの程度のアウトプットができるかを確認することで、即戦力として採用可能か判断します。
具体的な仕事のやり方
デザイナーとして、どういう仕事の仕方をしているかも判断されます。独り善がりな作り方ではなく、ユーザーに向けたデザインができているか、見る人を意識したデザインになっているかがチェックされます。
例えばWebデザイナーの場合は、流行に則った見栄えの良いデザインであるかどうかも重要ではありますが、それ以上に、Webサイトの訪問者の都合を考えた構成になっているかも重視されるわけです。基本的なデザインスキルに加えて、目的志向でしっかりとデザインができていれば、高い評価を得られるでしょう。
仕事のクオリティ
当然ながら、作品そのもののクオリティも判断されます。デザイナーはセンスが問われる職種でもあるので、顧客に提供できるクオリティの成果物を量産できるスキルと、デザインセンスを持っているかが確認されます。コンテンツ全体のバランスやフォントの選び方、文字の配列や余白の使い方なども、デザイナーの視点から厳しくチェックされるでしょう。
また、ポートフォリオの作り方には、特に制限やルールといったものがありません。そのため、どのような作品のまとめ方をしているか、見せ方に工夫がされているかなども審査の基準となる場合もあります。
ポートフォリオの作成方法
それでは、ポートフォリオの具体的な作成方法を確認していきましょう。企業側が特別に指定するケースもありますが、多くの場合、ポートフォリオの作り方に特にルールはありません。しかし、基本となる「型」のようなものはあります。ここではよくあるポートフォリオの構成にしたがって、作成手順を見ていきましょう。
基本構成
ポートフォリオの基本構成は、まず冒頭のページに基本的なプロフィールやこれまでのキャリア、デザイナーとして担当してきた仕事などを記載し、今後のキャリアプランやビジョンなど説明します。そして、次のページから採用担当者に見てもらう作品や成果物を紹介していきます。
紙で提出する場合は、A4あるいはA3の紙にプリントアウトしたものを使用する場合が多いですが、近年はデジタルデータとしてまとめて提出する場合も少なくありません。特に、Webデザイナーやグラフィックデザイナー、イラストレーターなどは、ポートフォリオをデジタルデータでまとめて提出する人が多いです。
盛り込むべき項目
ポートフォリオに盛り込むべき項目をまとめると、次のようになります。
- 全体の目次
- 自己紹介
- これまでの経歴や職務内容
- 作品の紹介
作品紹介の方法に決まりはありませんが、次の項目は入れるようにしましょう。
- メインビジュアルやキービジュアル
- 作品名や案件名
- 担当した場所や役割
- 作品や成果物のコンセプト
- こだわった点やアピールしたいポイント
まずは作品全体のテイストと構成が一目で分かるように、メインビジュアルを入れる必要があります。Webデザインの場合は、制作したWebページのキャプチャ画像などが該当します。現在も稼働しているWebサイトならば、採用担当者が直接アクセスして確認できるようにURLも記載しておくと良いでしょう。
さらに制作の一部に関わっていた場合は、どの部分を担当したか記載します。さらに作品のコンセプトや工夫した点、特にアピールしておきたいポイントなども記載しておきましょう。デザインの目的や方向性なども説明する必要があります。
具体的な作成ステップ
次に、ポートフォリオの具体的な作成手順をみていきましょう。
紹介する作品・案件の洗い出し
まずは、これまで制作してきた作品や成果物を、担当範囲やクライアントなど一定の基準で分類し、そこから自分の強みやスキルが伝わるものをピックアップしていきます。応募する企業によって重視している経験やスキル、作品のテイストなどが変わってくるので、それに応じてポートフォリオに掲載する作品を慎重に選択しましょう。
構成の決定
掲載する作品を洗い出したら、ポートフォリオ全体の構成を考えます。まずは紙で提出するのか、デジタルデータで提出するのかを決定しましょう。近年はWeb上に公開したり、PDF化するなどして採用担当者にメール添付で送ったりする場合も多いです。
上記のように、ポートフォリオはまず自己紹介やプロフィールの記載し、次に実績紹介のページを作成して採用担当者に見てもらいたい作品を掲載します。表紙と自己紹介、作品紹介のページを合わせて10~15ページ程度が目安です。作品紹介ページは画像の設置場所やテキストの構成などをイメージボードに記載しておきましょう。
自己紹介の作成
構成が決まったら、自己紹介のページを作成していきます。名前とプロフィール、学歴や職務経歴を簡単に記載します。デザイナーの場合は使用できるツールと使用経験年数、スキルなどもしっかりと記載しておきましょう。加えて、これまで経験してきた職務をできるだけ詳細に説明します。
そして最後に、自己PRとして強みや仕事で大切にしている価値観など、採用担当者にアピールできる内容を記載しましょう。入社後にどのような仕事をしたいか、将来のキャリアプランなども入れておきます。履歴書や職務経歴書と内容が同じでも問題はありませんが、言葉の言い回しや紹介する実績を少し変えておいた方が良いでしょう。
作品紹介ページの作成
構成の段階で作成したイメージボードを元に、実際の作品紹介ページを作っていきます。上記のように、作品紹介ページに記載するのはメインビジュアルと作品名(案件名)、作品のコンセプトや説明文です。
メインビジュアルや作品のコンセプトなど、目立たせたい部分を強調し、見やすい場所にテキストを配置しましょう。全体のバランスを考えることが大事です。このあたりもデザイナーとしてのセンスの見せどころですから、フォントや余白にもこだわりましょう。
ポートフォリオ作成時の注意点
実際にポートフォリオを作成する際には、特に以下の点に注意を向ける必要があります。
読み手に向けた構成・デザインか?
ポートフォリオは企業の採用担当者に見てもらうための作品集です。可能な限り見やすく、作品の制作意図やアピールポイントなどが分かりやすい構成にする必要があります。
どれほど作品が優れていても、詳細が分かりにくかったり、目的や意図、具体的な成果などが分かりづらかったりするポートフォリオは、正しく評価してもらえない可能性があるので注意しましょう。案件情報が網羅されており、メインビジュアルから作品説明、コンセプトなどが読みやすくレイアウトされている必要があります。
掲載可能な作品か確認したか?
デザイナーがポートフォリオを作成する場合、過去に関わったプロジェクトやクライアントから依頼されて制作した作品を掲載する場合が多いでしょう。自らが制作した作品ではあるものの、著作権は依頼したクライアントに帰属するケースがほとんどです。
無許可で掲載している場合、作品によっては守秘義務に違反する可能性が出てくるため、後からトラブルになってしまう恐れもあります。クライアントに対して、事前にポートフォリオに記載する旨を伝えて許可を取っておくのが無難です。
【職種別】ポートフォリオの作成ポイント
続いて、具体的な職種別にポートフォリオの作成ポイントを解説していきます。全体の構成や作成手順は基本的に変わりませんが、職種によって提出方法や見せ方などのコツなどが変わってきます。
Webデザイナー
Webデザイナーの場合、これまで説明してきた方法でポートフォリオを作成するケースもありますが、自身のWebサイト上に制作した作品を掲載しておき、それを採用担当者に見てもらう場合が多いです。デザインだけでなく、正しくWebページをコーディングできているかも採用基準になる場合が多いため、採用担当者が実際のWebサイトを確認できるようにしておきましょう。
紙に印刷されたWebページのキャプチャよりも、実際に稼働しているWebサイトを確認してもらった方が、作品の魅力を伝えやすいのは間違いありません。可能であれば、自分のポートフォリオサイトを作成しておくことをおすすめします。
グラフィックデザイナー
グラフィックデザイナーはWeb上のコンテンツを制作する場合もありますが、紙媒体のデザインを手掛けることも多いです。そのため、オンラインで確認できるポートフォリオに加えて、紙で直接確認できるポートフォリオを作成しておくと効果的です。
作成手順は既に説明した通りですが、見栄えやインパクトにもこだわった方が良いでしょう。作品演出のセンスも評価されることは珍しくありません。
CGデザイナー
CGデザイナーの場合、モデルや背景のクオリティが詳細に判断できるように、特に見やすさにこだわる必要があります。さまざまな部分のキャプチャ画像を取って、具体的な制作手順を説明しましょう。
より作品の魅力をアピールしたいならば、静止画だけでなく動画も用意すると効果的です。自分のポートフォリオサイトに3DCGの動画を掲載している人は少なくありません。チームで制作したモデルの場合は、担当場所が分かるようにしておく必要があります。
紙とWebのどちらにすべきか?
ポートフォリオは紙で提出する場合と、Web上に制作しておき、採用担当者にアクセスして見てもらう方法がありますが、どちらを選択すべきでしょうか? 結論を言えば、企業側から指定されていない限りは、どちらの方法を選んでも問題ありません。作品の魅力をより正確に伝えられる方を選びましょう。
紙である必要性はほとんどない
ただし、近年はWeb上でポートフォリオを公開している人が増えています。特にWebデザイナーやグラフィックデザイナーなどは、Webコンテンツの制作案件が多いため、自分のポートフォリオサイトを制作し、そこに作品を掲載する場合が多いです。
製本したものやファイル形式で提出するケースはあまり見られません。企業側もファイル形式での提出や、製本したポートフォリオの提出を依頼することは少なくなっています。
人によってはタブレット端末やノートパソコンを持参して、作品を見せながらプレゼンテーションすることもあります。いずれにせよ、企業側から指定されない限り紙である必要はないため、自分の作品をより魅力的に見せられる方法を選択すると良いでしょう。
面接でアピールする際のポイント
最後に、面接で作品をアピールする際のポイントを解説しておきます。
説明の時間配分を考えておく
面接の時間は決まっているので、事前に時間配分を決めておき、その間にしっかりと作品を説明できるようにしておく必要があります。面接中に時間を指定される場合が多く、短いときは3分程度で説明をしなければいけません。デザイナーとしてのプレゼンテーションスキルも見られているので、作品ごとに注目してもらいたい部分を絞り、分かりやすく伝える練習をしておきましょう。
企画意図とアピールポイントをしっかり伝える
何を背景として作品を制作したのか、企画意図とアピールポイントを的確に伝えることが大事です。一つひとつの作品もそうですが、どういったコンセプトでポートフォリオを作成したかも説明する必要があります。記載した自己PRと、作品の内容がしっかりとリンクするようにしておきましょう。自分の成果物をいかに魅力的に伝えられるかも、デザイナーに必要なスキルです。
まとめ
デザイナーの転職に必要なポートフォリオの概要と目的、具体的なポートフォリオの作成手順を解説しました。デザイナーにとって、ポートフォリオは自分のデザインセンスや実績、スキルなどを効果的にアピールする手段です。
他の職種に比べて、ポートフォリオが採用のポイントになるため、掲載した作品の魅力が伝わりやすい構成にする必要があります。それに加えて、面接でしっかりと作品を説明できるようにしておきましょう。作品のみならず、デザイナーはプレゼンテーションスキルも重視される仕事です。