副業と就業規則
会社員の副業が就業規則で禁止されている場合、法的な拘束力はあるのでしょうか。副業と就業規則の関係性から考えてみましょう。
副業禁止に法的拘束力はない
日本国憲法や付属するその他の法律において、会社員が副業をしてはならないという法律はありません。会社の就業規則に法的な拘束力はないのです。
むしろ企業へ属しているけれど、雇用契約によって決められた労務を提供する以外の時間は、自らの意思で自由に使えると保証されています。公務員も解禁される流れ
公務員の場合、企業に勤めている一個人とは異なる国民全体の奉仕者であることから、副業は国家公務員法・地方公務員法によって禁止されています。
しかし、背景にNPOや地域団体での人出不足がある今、2017年4月に神戸市が地域活動に従事するという一定の条件のもと副業を解禁したのを皮切りに、公務員も解禁される流れになりつつあるようです。
ただのアルバイトや金銭目的では許可が下りない可能性もありますが、地域の課題を解決したいなどの理由で副業をしたい場合は、一度上司へ相談してみましょう。
禁止される主な理由
法的に禁止されていないならば、就業規則に記しておく必要はないように思えるかもしれません。ですが、実際に『副業はNG』としている企業は多くあります。ではどのような場合に、副業禁止の就業規則が有効となるのでしょうか。
本業への支障
副業が本業に支障をきたしてはならないというのは、労働契約上当然のことです。そもそも雇用契約を結んだ際に約束されているのは、労働者が労働力を提供するかわり、企業が賃金を支払うというものです。
つまり労働者は、賃金を払うに値する良質な労働力を提供する義務を負っており、本業に支障をきたすほど心身ともに疲弊した状態での出勤は契約違反となり、副業を禁止されてしまいます。
情報漏洩
プライバシー保護が声高に叫ばれている現代、情報漏洩にも多くの対策が練られているものです。SNSへの動画アップに始まり、社内で得た情報を不特定多数の見るネットワーク上に書いてしまう行為など、多くの問題が付きまとう中で副業もその対象となることがあります。
社員は在職中に会社の不利益になる行為を行ってはならないと、法的に規制されています。例えば副業先が競合他社であったり、自分で事業を行うにあたり、自社で得た情報を使用することで利益を得ていたりすると、競業避止義務違反にあたるので注意が必要です。社会的信用
端的に言えば、マルチ商材を扱っての詐欺行為や、反社会勢力と接点を持つ副業など、警察の厄介になるような副業を行えば当然懲戒の対象となるということです。
社会的信用を損なってしまうと、副業を辞めればよいだけでは収まりません。それを理由に解雇されることもありえますし、会社が不利益を被れば場合損害賠償を求められることもあります。
就業規則ではどこに記載されているか
副業に関する禁止事項が就業規則ではどこに記載されているかを把握しておくことで、自分の会社がどのスタンスを取っているか分かります。ここでは、厚生労働省が公開している『モデル就業規則』を例に挙げ、副業についての規定を見てみたいと思います。
モデル就業規則とは
モデル就業規則(注1)とは、厚生労働省がホームページで誰でも見られるよう公開している就業規則のテンプレートのようなものです。わざわざモデルを作って公開しているのは、企業が必ず就業規則を作成しなければならないと労働基準法第89条で定めているためです。
さらに、就業規則がすべて企業の独断で作られてしまうと、労働者へ企業を強いる規則となってしまうかもしれません。そのため、抑止力として公開している面もあります。モデル就業規則での記載例
モデル就業規則の中には副業と明確な提示はありませんが、第3章の服務規律を見ると、それに準ずることは記載があります。
まず6項で、『許可なく他の会社等の業務に従事しないこと』との記載があり、具体的に副業についてしてはならないことと定めているのです。
加えて3項では『勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと』とあり、仕事中に他の業務、つまり副業を行ってはならないと定められていますし、8項では社会的信用を失墜させてはならないという旨のことが記載されています。一般起業では服務規律の部分に多い
このモデル就業規則と同様に、一般企業でも就業規則の服務規律の部分に副業について記載があることが多いようです。モデル就業規則同様、暗に副業を禁止していることもあれば、副業を禁止すると文章化されていることもあります。
もし記載がない場合は副業が許可されていることもありますが、そもそも社員が副業をするという状況が想定されていないのかもしれません。記載がないからといって副業が禁止されていないのだと安心せず、念のため人事部や総務部に確認してみましょう。副業発覚による懲戒について
就業規則で副業禁止を定めてある場合は、法律的には拘束力がなくとも、ルールを守らない社員への対処がなされることもあります。上記で触れたような明らかな労働規定違反を犯している際は、勧告を超え懲戒となるケースもあるのです。
記載なしの場合
副業禁止という規定が、事実上であれ明確であれ就業規則に記載されていない場合や、就業規則がそもそもないといった場合は、社員が副業をしたことによる懲戒処分はできません。ただ、副業に関連して重大な過失を犯したという場合なら話は変わってきます。
会社で行うべき仕事よりも副業を優先して社内の秩序を副業により故意に貶めたり、会社の重要な情報を副業先にリークしたりした場合、当該社員を懲戒処分対象にできます。つまり、社内の規定に副業禁止と記載がないからといって、度を越えた副業が認められるわけではないのです。あくまでも本業に差し障りのない副業を選ぶようにしましょう。
懲戒を受ける可能性のあるケース
就業規則で副業が禁止であると明確に定めがある場合、そのルールを破って副業を行った社員への懲戒処分が行われる可能性があります。ただ、すぐに解雇となるような、副業により罪を犯して警察に捕まった場合以外には、即解雇というケースはごく稀です。
会社側から副業をしていた社員へ懲戒を命じる場合、就業規則に根拠規定があることはもちろん、副業禁止規定に違反している明確な証拠があることや、懲戒処分の内容に妥当性があることも基準となります。これらの事実を元に、当該社員へ注意勧告を行ないます。採算の注意勧告に応じず副業を続けて仕事に支障をきたし続けた場合は、命令違反として懲戒を行い、さらに副業を辞めなければ今後懲戒解雇にする旨も伝えましょう。
まとめ
副業を行いたい人にとって、就業規則は必ず読んでおかなくてはならないものです。確かに就業規則に副業を禁止と記載されていても法律的には禁止されていませんから、絶対に副業ができないわけではありません。
ですが、企業側にとって大きな不利益を出してしまえば懲戒処分を受けてしまう可能性もあります。副業を行いたいならば、本業をおろそかにしてはいけません。確実に両立できるかどうかを見極め、上司と相談するなどして安全かつ適切に副業を行いましょう。