ITパスポート試験とは
ITパスポートとは、経済産業省管轄の元、国内でIT技術者を育成する目的でスタートしたIT関連国家試験『情報処理技術者試験』のうちの一つです。
情報処理技術者試験の中で、ITパスポートはもっとも基礎的なレベルに位置付けられています。試験ではIT技術を活用する人材として求められる、基本的な情報処理知識やITに関する能力が問われています。
IT系国家資格の入門編
経済産業省の管轄である『情報処理推進機構』が実施するIT系国家資格は複数用意されています。難易度は様々で、高度なIT人材を創出するためのレベルの高い試験もあります。
その中でもITパスポートは入門的なIT系の試験として位置付けられ、情報処理技術者試験の中ではもっとも取得しやすい国家試験といえます。ITエンジニアやプログラマーに限らず、業界を超えて幅広い年齢の人を対象にしており、全国の複数の会場で定期的に実施されています。
他の試験と比べれば比較的易しい
近年、AIや無人自動車などのテクノロジが急激に発達する環境に応じて、IT業界や情報処理の分野で求められる知識や能力は年々高度になっています。しかし高度なIT知識をいきなり習得することは簡単なことではありません。
ITパスポート試験は、情報処理技術者試験の中で多くの人が最初に受験する試験です。難しすぎることで敬遠されないよう、初学者でも取り組みやすいような問題構成となっているので、ほかの試験と比較すると易しいレベルの試験だといえるのです。
ITパスポート試験で求められる知識
仕事の現場では、多くの人が協力し合いながら1つの業務を進めていきます。プロジェクトを円滑に進めていくために、最低限必要とされる知識があるのです。
ITパスポート試験では、IT人材として一般社会で必要とされる情報処理に関する基本的な知識が問われます。IT業務をスムーズに進めていくために、業務に関わる全ての人が身につけるべき最低限の知識が問われる試験です。
試験は『ストラテジ系』『マネジメント系』『テクノロジ系』の3つのジャンルに分かれて実施されています。以下、それぞれを具体的に解説していきます。
ストラテジ系
全部で100問出題される問題のうち、ストラテジ系問題は32問出題されます。ストラテジ系は具体的には『企業法務』『経営戦略』『システム戦略』の3つの分野で構成されています。
企業法務では企業活動の基本的な考え方が問われ、経営戦略ではオフィスツール関する理解や電子商取引に関する知識が問われます。IoTやビッグデータ、AI関連の基礎知識、さらに情報戦略の意義や目的も問われるため、幅広く学習する必要があるのです。
マネジメント系
マネジメント系は全部で18問出題されます。
『開発技術』『プロジェクトマネジメント』『サービスマネジメント』の3つの分野に分かれており、ソフトウェア開発やシステム開発の要件定義、ITサービスマネジメントの意義、システム監査の意義や流れなど、マネジメントに関する幅広い問題が出題されます。
内部統制やガバナンスに関する知識も問われることから、実務の現場で管理者として活躍する人材を育てる趣旨が含まれているといえるでしょう。
テクノロジ系
テクノロジ系の問題は全部で42題出題されます。『基礎理論』『コンピュータシステム』『技術要素』の3つのジャンルから出題されます。ソフトウェアやハードウェアの種類・特徴についても問われる内容です。
基礎理論では、アルゴリズムやプログラミングの知識が問われ、コンピュータシステムではコンピュータの基本的な役割や知識が問われます。
技術要素では特にデータベースやネットワーク、セキュリティーの範囲で幅広い知識が要求されます。ネットワーク社会の安全性を保つために、今後さらに必要となる知識です。
ITパスポートの合格率
ITパスポート試験は、IT業界で働く人だけでなく様々な業界や立場の人が受ける試験ですが、もちろん受験する全員が合格するとは限りません。
ITパスポート試験の合格率はどの程度なのでしょうか。ここでは試験の制度と合わせて紹介します。
合格者数と最低合格点
ITパスポート試験の合格率は、毎年40〜50%程度に収まっています。試験は1000点満点で実施され、600点を獲得すると合格です。試験自体が相対評価試験ではなく絶対評価の試験なので、あらかじめ合格ラインが決まっています。
受験者の人数は約3〜4万人です。特に受験資格は設けられておらず、幅広い世代の受験生が、全国各地の様々な試験会場でこの試験に臨んでいるのです。
ITパスポート試験に受かるための勉強時間
試験勉強に費やす時間は人によって差がありますが、ITパスポートに合格するために必要な勉強時間は一般的に100時間だといわれています。
毎日1時間ほどの勉強時間を確保し、3〜4カ月継続して勉強することで合格に必要な知識を学ぶことができるのです。しかしながら確保できる時間や効率は人によって差があるため、場合によっては人並み以上の勉強時間を確保する必要があるでしょう。
IT系の基礎知識がある場合
試験ではIT関連の基礎知識が問われます。すでに高校や専門学校で情報処理の基本的な知識を学んでいるのであれば、比較的有利に勉強を進めることが可能です。
しかし油断は禁物です。ITの入門知識を持っていることで慢心が生まれ、勉強がおろそかになる可能性も否定できません。自分の実力を冷静に把握して、確実に試験に合格するために十分な勉強時間を確保しましょう。
IT系知識に疎い場合
IT関連の知識が全くない場合は、すでに知識がある人に比べるとスタート時点で差がついています。ITパスポート試験では情報処理に関する専門的な知識だけでなく、企業法務やセキュリティー、プログラミングといった幅広いIT知識が問われるのです。
IT系知識が少ない場合は、それだけ勉強する領域が増えることになります。人一倍の勉強時間を確保して、まずは基本知識の習得に時間を費やすことを心がけましょう。
試験に受かるための効率的な勉強法
ITパスポート試験は試験範囲が広いことから、勉強量も多くなります。試験を受ける人の中には社会人として働いている人も多く、空いている時間を見つけて効率的に試験勉強に取り組むことが大切です。
ここでは、どんな方法で勉強を進めていけば合格できるのか、ITパスポート試験の効果的な勉強法を紹介します。
まずは全体の概要を知ることから始める
試験に合格するためには、試験の全体の概要を知り、出題傾向を把握する必要があります。全体の概要を知ることは、勉強を正しい方向で効率的に進めるために欠かすことができません。
ITパスポート試験は全て多肢選択問題が出題されます。試験時間は120分で100題の問題を解く必要があるので、問題を次々と解く解答スピードが求められます。
試験はストラテジ系が35問、マネジメント系が20問、テクノロジ系が45問出題され、全て1000点満点で採点がなされます。合格するにはそれぞれ300点以上得点する必要があり、総合評価でも1000点満点中600点以上が合格ラインです。
用語の暗記はマスト
情報処理技術者試験を学習するにあたり、試験に出される用語を学習することは避けては通れません。専門的な領域を学ぶ際、そこで使われる用語を知らなければ、効率的な勉強を進めることができないからです。
これは、新たに語学を学ぶ際に単語を学習することと同じです。その業界で必要とされる言葉を身につけることは、試験に合格するための最初の一歩といえるでしょう、
問題集を活用
基本的な知識を身につけたら、積極的に問題集を活用しましょう。問題集の解き方も大切です。基本的な知識が十分ではない段階では、問題集を参考書代わりに使うことをおすすめします。問題を読み、どんな形式で出題されているのかを探り、解答を読んで理解を深めます。
知識が深まってきたら実践的に問題を解きましょう。本番と同じ環境で時間を計りながら、緊張感を持って取り組むとより効率的です。
過去問も傾向をつかむのに便利
ITパスポート試験は、過去に出題された問題の類似問題が頻繁に出題される傾向があります。出題形式が四択の選択問題なので、出題される問題の選択肢がそのまま学習材料になるのです。
試験勉強において、過去問はネット上で無料で公開されていますので、必ず入手して目を通しましょう。
難しく感じるなら通信教育も便利
独学での勉強に不安があり、勉強を進めていくことに不安があるのであれば、通信教育を活用することも可能です。通信教育には、テキストで学習を進めるスタイルやインターネット講義を受講するスタイルがあります。
インターネット授業では、パソコンやスマホとネット環境さえあればいつでも勉強ができます。仕事や学校で忙しく時間があまり取れない人は、通信教育を利用することを視野に入れてみましょう。
試験対策に便利な参考書
ITパスポート試験の対策には、参考書の使用は欠かせません。参考書選びを間違えてしまうと合格が遠去かってしまうことになるので、軽視することはできません。ここでは、本番試験対策に役に立つ便利な参考書をいくつか紹介します。
栢木先生のITパスポート教室
ITパスポート試験では膨大な範囲から問題が出題されますが、この参考書では特に重要なジャンルを絞り込んで解説しているので、適宜テーマを選んで効果的に勉強することができます。
難解な箇所や重要なポイントを、イラストや図解を用いて分かりやすく解説していることから、学習初期の段階にある人でも気軽に取り組めるおすすめの参考書です。
- タイトル:イメージ&クレバー方式でよくわかる 栢木先生のITパスポート教室
- 価格:1706円(税込)
- Amazon:商品ページ
かんたん合格 ITパスポート過去問題集
分かりやすく充実した解説がついた、ITパスポート試験の過去問題集です。分野別の頻出問題を集めた部分では、自分の弱点を集中して演習することができるので、とても効率の良い学習が可能です。
過去5年分の過去問と解説が掲載され、ダウンロードもできるので、本番さながらの試験対策も可能です。さらにスマホで学べる単語帳などの特典もついているので、試験対策に欠かせない一冊だといえます。
- タイトル:かんたん合格 ITパスポート過去問題集
- 価格:1274円(税込)
- Amazon:商品ページ
キタミ式イラストIT塾ITパスポート
こちらは、現在イラストレーターとして活躍しているきたみりゅうじ氏による、ポップなイラストを用いた分かりやすい解説が特徴です。
きたみりゅうじさんは元SEです。難しく複雑なITの知識を、専門家の視点で詳細に解説しています。イラストにより視覚から学ぶことができるので、勉強が苦手な人でも学習の入口として親しみやすいおすすめ参考書です。
- タイトル:キタミ式イラストIT塾ITパスポート
- 価格:2030円(税込)
- Amazon:商品ページ
ITパスポートのメリット
ITパスポート試験に合格することで、IT技術者として基本的な知識を身につけているという社会的な証明を受けることができます。企業のエントリーシートにも活用されており、合格者を優遇する企業も存在します。
多くの大企業や主要官庁がこの試験の取得を推奨し、試験の効果を認めているのです。ここでは具体的なITパスポート取得のメリットについて、ケースを分けて解説します。
組織のコンプライアンス強化
ITパスポートの出題には、企業法務のジャンルがあります。法律の基本的な知識を持つ従業員の存在は、その組織におけるコンプライアンスの強化につながります。ITパスポートの合格者を雇い入れることで、経営基盤が固まるというメリットがあるのです。
スキルアップのための投資になる
これからIT関連の技術はますます発展を続け、情報技術の知識に長けた人材の需要がより一層高まってきます。世代を問わずITの知識を必要とされる時代がまだまだこの先も続くでしょう。
これまで全く知識がなかった人や、ITとは縁遠い業界で働いていた人にとっても、自らのスキルアップやキャリアアップのための投資として広く活用することが可能になるのです。
ITパスポート試験を実際に受けるには
それではITパスポート試験を受験するにはどのようにすればよいのでしょうか。ここでは、試験の申し込み方法から受験費用の支払い方法、受験会場や受験の際の注意事項まで、試験の流れを追いながら解説して行きます。
申し込み方法
ITパスポートを受験するには、専用のホームページでの申し込みが必要です。
メールアドレスを登録すると利用者IDとパスワードが発行されます。この情報をもとに利用者メニューにログインすることで、試験の申し込みができるようになります。
希望する試験会場や試験日程を選択し、受験料の支払い方法を選択すれば登録が完了します。支払い方法はクレジットカード支払いやコンビニ支払い、バウチャーでの支払いが用意されています。それぞれ支払いの際の注意事項があるので確認しましょう。
支払いが確認されると、受験に必要な確認票が表示されます。これは受験の際に必ず必要となるので、プリントアウトして大切に保管しましょう。
受験の際に気を付けるべき注意点
ITパスポート受験当日は、プリントアウトした確認票が必要です。この際、本人であることを確認するために『本人確認書類』が必要になります。免許証やパスポートなど顔写真付きのものが必要になるので忘れずに持参しましょう。
また、本人確認書類の有効期限も確認しましょう。これは本試験当日の時点で有効であるものに限られます。コピーの提示は認められませんので、必ず原本を持参するようにしましょう。
試験に遅刻しても試験時間内であれば受験は可能です。しかしゆとりを持って試験を受けるためにも、試験当日は少なくとも30分前には試験会場に到着するように心がけましょう。
まとめ
ITパスポートは経済産業省が推進する国家試験です。今やITに関する知識はその業界だけでなく、社会にとって必要な人材になるものと認識されています。ITパスポートはITに関する基礎知識を身につける上で、有効かつ効果的な手段だといえるのです。
また、情報処理技術者試験は、ITパスポート試験を皮切りに、基本情報技術者試験、応用技術者試験とさらに上のレベルの試験が用意されています。専門的な知識を深め試験をパスしていくことで、自らのキャリアアップにつながる仕組みが用意されているのです。
会社のコンプライアンスや経営管理など幅広い知識を学べるこの試験は人材育成にも役立ちます。ITパスポート試験を積極的に活用していきましょう。