IT人材不足の現状
平成28年に経済産業省が発表した『IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果』では、このままではIT業界の人材不足はさらに加速し、2030年には約79万人のIT業界で人材が不足するという試算が出ています。
IT業界の人材不足について、以下具体的に説明していきます。
慢性的な人手不足が続く
現在のIT業界では慢性的な人手不足が続いています。
平成28年1月29日に厚生労働省が発表した労働分析レポートには、平成21年のIT業界の求職者数が、その後5年間で半分になったと記載されています。エンジニアやプログラマーを目指す人の数は年々減少しているのです。
IT業界の2020年問題
『2020年問題』とは、東京オリンピックが開催される2020年に、日本の各業界で発生すると予想される、さまざまな問題のことです。
IT業界の2020年問題としては、以下の4つが懸念されています。
- 働き方改革関連法案への対応
- サイバー攻撃への対応
- Windows7のサポート終了
- IT人材不足問題
1つ目は、働き方改革関連法案への対応です。ITの人材が不足する中、いかに労働力を確保するかという企業努力が問われます。
2つ目は、東京オリンピックをきっかけに起こりうるサイバー攻撃問題です。開催まであとわずかであることから、迅速な対応に迫られています。
3つ目は、Windows7の無償サポートが終了することでWindows10への移行サポートの需要が増大し、対応しきれない可能性が出てくるという点です。
4つ目の問題として、2019年をピークにITの人材供給が減少することで、人材不足が加速する懸念があります。
2020年を契機に企業は、これら4つの問題に直面し、同時に対応する必要に迫られると想定されるのです。
人材のIT離れが深刻。原因は?
既に述べたとおり、ここ数年間で、若者のIT業界への求職者数が大幅に減少しています。若者のIT離れの原因はどこにあるのでしょうか。ここで具体的に考察していきましょう。
IT業界へのブラックなイメージ
IT業界でのエンジニアやプログラマーの仕事はハードです。深夜までパソコンの前に座りコーディング作業を行い、ひたすらタイピングしているイメージを持っている人も多いでしょう。
プロジェクトの納期前には深夜まで仕事に追われ、自宅に帰ることもままならないといったイメージを持っている人も多く、求職者の数が減っていると思われます。
エンジニアの3K
若者のIT業界離れを引き起こしている原因の一つに『エンジニアの3K』が挙げられます。エンジニアの3Kは『きつい』『帰れない』『給料が低い』です。
3Kに当てはまってしまうと、仕事量が多く、肉体的にも精神的にも疲弊してしまいます。仕事が終わらなければ残業になり、場合によっては会社に泊まり込んで仕事をすることあるでしょう。
給与の額は会社によってさまざまですが、立ち上げたばかりのベンチャー企業であれば、仕事量に見合った給料をもらうことができず、ストレスを感じることもあります。
そのようなエンジニアの3Kへの懸念から、若者のIT離れが進んでいると考えられます。
多重請負の構造的な問題も深刻
IT業界でのシステム開発の現場は、下請け企業がさらに下請け企業を抱えている『多重請負構造』です。
実際にプログラミングや動作テストを行うのは下請け企業である場合が多く、厳しいスケジュールの中で多くの負担がかかっている下請け企業も多くあります。
さらに多重請負構造の特性上、支払われる報酬が下にいくにつれ徐々に低くなります。企業によっては、低い給与で激務をこなさなければいけません。こういった仕事に魅力を感じない若者が多いと考えられるのです。
IT業界の今後の状況は?
人材不足が懸念されているIT業界ですが、今後はどうのように変わってくるのでしょうか。新しいテクノロジーが次々に誕生して世の中に浸透していく一方、若者を中心としたITの人材不足はIT業界全体の大きな課題だと言えます。
これからのIT業界の状況について考察していきます。
技術者の二極化が進む
テクノロジーの発展とともに今後は技術者の二極化が進みます。以前から技術標準の変更がある度に、その変更に対応できない技術者がいるという問題が発生していました。
しかし現在のIT業界はこれまでの基本的な設計が変更するというレベルではなく、IT技術の概念そのものが変わろうとしている大きな変革の時期にあります。これまで以上に変化についていけない技術者が生まれ、さらなる二極化が進むでしょう。
2030年には先端IT人材の不足が深刻と予想
さらに今後AIやIoT、ビッグデータといった第4次産業革命に対応できる先端IT技術者の不足が懸念されています。
2019年4月に経済産業省が発表した『IT人材需要に関する調査』によると、2030年には先端ITに関わる人材が約55万人不足するとの試算がなされているのです。
従来型IT人材は余る?
経済産業省が発表した『IT人材需要に関する調査』では、2030年にAIやIoTなどに携わる先端IT人材が55万人不足すると同時に、受託開発や保守運用を担う従来型のIT人材は10万人余ります。
技術革新が目まぐるしく進化する中で、従来通りの仕事をしているだけでは生き残れなくなっているという現実があるのです。
IT業界で働く人が心がけたいこと
IT業界は慢性的な人手不足ですが、どんな人材でも必要というわけではありません。技術の進歩と同時に自らのスキルを磨き続けることが大切です。
IT業界で生き残っていくためには、どのようなことが必要になってくるのでしょうか。具体的に心がけるべき内容について紹介します。
情報収集、トレンド把握を心がける
IT業界を取り巻く状況は日々変化しています。技術革新は世界的なレベルで進んでおり、常に最新の情報を収集し、トレンドを把握することが大切です。
最新の情報に触れることで、業界では今何が必要とされているのかが分かります。さらには今後努力すべき分野に気付くことにもなるのです。
スキルアップを欠かさない
新しい技術が誕生している中で、スキルアップは欠かせません。AIの発達により、今ある仕事の多くは近い将来AIに取って代わります。
しかし従来の仕事が減少する反面、AIやロボット、ビッグデータの解析といった先端技術の分野におけるIT技術者の需要は高まることが期待できます。スキルアップして最先端技術を身につけていけば、高い確率で生き残り続けることができるでしょう。
クリエイティブな発想を鍛える
大まかにですが、エンジニアには、依頼された仕事をこなすスタイルと、自らサービスを作り出すスタイルの2つが存在します。
言われたことをこなすエンジニアは今後生き残りが厳しくなることが予想される一方で、自ら考え新しいものを生み出して行くエンジニアは、多くの企業から求められる存在になるでしょう。
新しいものを生み出すためにはクリエイティブな発想が欠かせません。何事も自分の頭で考えて行動するクセをつけ、クリエイティブな発想を鍛えることが大切になってきます。
まとめ
IT業界の人材不足の状況は、今後も続くものと予想されます。急速に技術革新が進む状況下において、自らスキルアップしなければ今後生き残って行くことは難しくなるでしょう。
しかし新たなテクノロジーを支えるための人材は常に不足しており、スキルを身につけさえすれば十分生き残ることは可能だと言えます。常に危機感を持ちながら努力を続けることが、必要とされるIT人材になる秘訣なのです。