納期遅延による問題
納期遅延による問題としては、契約解除や返金、損害賠償請求が挙げられます。それぞれについて解説します。
契約解除や返金
引き受けた業務が遅延し、決められた納期に間に合わなかったときに、発注者が納期の延長を認めなかったら発注者は業務の『債務不履行』を理由に契約を解除できます。
この場合、受注者は発注者に対して報酬を請求できません。すでに前金で報酬を受け取っている場合には、返金しなければならない問題となります。
過去の裁判では、開発が遅延したシステムに客観的な利用価値がなく引継ぎも困難と判断され、発注者の受注者への全額返金請求が認められた例があります。
しかし、これはあくまでも一例であり、実際はケースバイケースの問題になることが多いでしょう。
損害賠償請求
契約解除や返金請求以外に、発注者は受注者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
例えば、業務に利用したハードウェアやソフトウェアの購入代金、第三者に支払った業務委託費、納期遅延がなければ失わなかったはずの逸失利益などが、主な請求の理由です。
しかし、これらは損害賠償請求の理由とされるものであり、実際には個別に考える必要があります。
損害賠償のポイント
損害賠償を考える際に注意すべきポイントを解説します。
実損の発生
納期に遅れたことによる精神的な苦痛や契約違反の事実は、それだけで損害賠償請求の理由にすることはできません。損害賠償の問題で焦点となるのは、実際に具体的な損害が発生しているか、ということです。
例えば、10台のパソコンを購入する契約を交わし、納期に間に合わなかった場合、パソコンを購入する特別な理由がなければ、契約を解除するだけで損害賠償の問題は発生しにくいといえます。
しかし、10台のパソコンが期間限定の展示会で必要だった場合は、展示会が不況に終わったなどの事実が実損とみなされれば、別途損害賠償の問題が生じることになります。
発注者の帰責事由
発注者からの損害賠償請求が発生した際に、発注者の度重なる仕様変更や仕様追加が原因で、納期に遅れたと受注者が主張するケースがあります。
契約後における発注者都合の追加注文で納期に遅れた場合は、受注者は責任を負わなくてもよいとされています。
しかし、過去の裁判では、発注者の指示により納期が遅れそうなことを、受注者は発注者に伝える義務があり、さらに、受注者は発注者と協議した上で納期に遅れないように努める義務がある、とされた事例があります。
フリーランスが知っておきたいポイント
納期遅延による損害賠償の可能性が出てきた場合、フリーランスが知っておくべきポイントを紹介します。
責任制限条項
『責任制限条項』とは、故意や重い過失がある場合は制限なく賠償責任を負い、軽い場合は賠償項目と金額を制限する、という規定です。
『責任制限条項』を契約に盛り込むことで、納期に遅れてしまった原因や状況を考慮した上で、『自身に責任があると認められた範囲のみ』損害賠償請求を受けるよう制限がなされます。
責任制限条項により、受注側と発注側の双方が損害賠償の責任範囲を大幅に制限できるため、現場で交わされる多くの契約書に記載される条項です。
その他に知っておきたい法律
フリーランスとして仕事をするにあたり、知っておくと役に立つ法律を紹介します。
下請法
下請法は、発注者の資本金が1000万円を超えている場合に適用される法律です。発注者が、プログラムや映像・音響作品、デザイン製作などの業務をフリーランスに委託した際に、フリーランスは下請法によって保護されます。
具体的には、発注時に発注業務の内容・金額・支払期限などを記載した書面を交付する義務や、成果物の受領後60日以内に代金を支払う義務が、発注者に課される法律です。
発注者の資本金や発注内容などに制限がある点に注意する必要があります。
独占禁止法
独占禁止法は、大企業だけでなく、フリーランスにおいても適用されます。
具体的には、発注者が、独占禁止法の中の『優越的地位の濫用』にあたる行為をフリーランスに対して行った際に、独占禁止法に抵触するとみなされる可能性があります。
例えば、支払い遅延や代金の減額、成果物の受領拒否、著しく低い対価などが、『優越的地位の濫用』にあたる行為と判断された場合は、契約は無効となります。
さらに、独占禁止法違反の可能性がある行為に関して、公正取引委員会に報告すれば、審査を経て違反が認められた場合に、違反行為を止めさせる『排除措置命令』が下されることもあります。
独占禁止法の『優越的地位の濫用』は解釈の幅が比較的広く、下請法で対応できない部分も独占禁止法により解決できる可能性があるといえます。
まとめ
納期遅延により、契約解除や返金請求、損害賠償請求に発展する可能性があります。損害賠償に関しては、基本的に実損の有無が問題となるでしょう。
また、立場の弱いフリーランスを保護する法律がいくつかあります。仕事をする上で適切にトラブルへの対処ができるよう、頭にいれておきましょう。