業務委託の際の名刺貸与について
業務委託で仕事をするときに、委託元の企業から発行された名刺を渡されることがあります。この名刺を用いることはできるのでしょうか?
委託元の名刺を用いるリスク
企業では社員全員が同じデザインの名刺を使っていることがあります。業務委託で仕事を請け負う事業主にも、チームの一員として同デザインの名刺が貸与されるケースがあるのです。
ただし、この名刺を使うことは『偽装請負』とみなされる可能性があります。企業の指揮命令系統に、事業主も組み込まれていると判断されるからです。
偽装請負をする意思がなかった場合でも、通報されれば是正指導を受けることがあります。そうしたリスクがありますので、委託元の名刺を持つことは避けるのが賢明でしょう。
もし委託元企業から同デザインの名刺貸与を提案されたとしても、偽装請負と誤解されるリスクがあることを説明し、トラブルを事前に回避することが大切です。
榎本希
委託先が自社の名刺を貸与する場合、委託先には「名板貸し責任」という責任を負います。
「自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う」
会社法9条より。
自身が委託先の名刺を使用した取引で何らかのトラブルが発生し、取引先に損害を発生させた場合には、委託先の会社もこの条文により責任を負うことになりますが、自身もまた連帯して責任を負うことになります。
業務委託について理解しよう
業務委託契約を結ぶときには、働き方の特徴を知ることが大切です。雇用契約との違いも知り、最適な契約が結べるようにしましょう。
業務委託契約とは
企業が対応できない業務を、個人事業主や他社に委託する契約が『業務委託契約』です。
業務委託契約のメリットは自由度の高さといえます。仕事をする時間や日数・進め方などについて、全て事業主が決定できるのです。
決められた成果さえあげられれば、1週間に3日だけ働いてあとは休日にする、1日5時間だけ働く、といったフレキシブルな働き方もできます。
自分にとって最も成果があげやすい働き方で仕事ができるのです。
ただし、労働者ではないので、労働基準法で守られることがありませんし、企業の用意する社会保険や雇用保険に加入することもできません。
請負契約と委任契約
業務委託は2種類に分けられます。成果物を納品することで報酬を得る『請負契約』と、定められた期間業務を行うことで報酬を得る『委任(準委任)契約』です。
請負契約は、仕事が完成することが前提で依頼されます。そのため、納期までに仕上がらない場合や、定められた品質が実現できない場合は、損害賠償を請求されるケースもあるのです。
成果物に対して責任を負うので、納品後であっても、欠陥やミスに対応する必要があります。
委任(準委任)契約に求められるのは、業務を遂行することです。請負のように成果物を求められるわけではないので、完成させたり、仕上がった成果物に責任が発生したりはしません。
雇用契約との違い
雇用契約が業務委託契約と違うのは、労働者として扱われる点です。労働者とみなされた場合、労働法による保護が受けられます。
最低賃金や残業代の支払い・有給休暇の取得といった、働く環境が保証されるのです。また、企業が用意する社会保険や雇用保険への加入もできます。
契約期間中に突然契約を解除されるということも原則としてありませんので、収入の安定性も保証されている働き方です。
出典:委任契約と請負契約の具体的な違い | コラム・レポート | 社会保険労務士法人アイプラス
榎本希
業務委託契約という名称の契約は民法上にはありません。
「請負契約」「委任契約(準委任契約)」という契約になります。
請負契約は仕事の完成を約し、仕事の完成に対して報酬が支払われる契約であるのに対し、委任契約(準委任契約)は一定の事務の遂行を約す契約です。委任契約は法律事務であるのに対し、準委任契約は法律事務以外の事務を指します。
雇用契約との大きな違いは雇用者と労働者という関係ではなく事業主と事業主との関係である点や、労働法の適用がないという点、指揮命令を受けないという点にあります。
偽装請負について理解しよう
委託元企業からの名刺貸与は、偽装請負と誤解されることが分かりました。では、偽装請負とはどのような状態なのでしょうか? また、誤解を与えずに名刺を持つ方法も解説します。
偽装請負とは
委託元企業の指揮管理系統に組み込まれていて、実際には労働者派遣になっているにも関わらず、業務委託として契約している状態を『偽装請負』といいます。
偽装請負は、派遣労働者を保護する派遣法や、職業安定法に違反しています。業務委託をしている事業主に委託元企業が直接指示を出すのであれば、労働者派遣契約を結ばなければいけないからです。
偽装請負は実態で判断される
偽装請負かどうかは、『実際の働き方で判断』されます。契約の名目が業務委託だったとしても、委託元企業に指揮命令されて仕事をする状態であれば、偽装請負とみなされるのです。
そのため、委託元企業の名刺を用いることは偽装請負と判断される可能性があります。同じデザインの名刺を使っていると、企業内部に所属している人と認識されるからです。
もし名刺を用いる場合は
業務委託だとしても、委託元との関係性が分からない名刺だと、不適切な場面もあります。委託元企業の取引先と打合せをする、といったケースがそうです。
場合によっては、取引先から、無関係の第三者のように受け取られてしまう可能性さえあります。不安感や不信感を持たれてしまうと、その後のやり取りがうまく進まない可能性も出てくるでしょう。
そこで、委託元企業との関係性が分かる名刺を作成します。『〇〇株式会社 パートナー』というふうに明記した名刺です。すると、取引先に分かりやすくなります。
ただし、こうした名刺は無断で作ってはいけません。委託元企業に事前に確認する必要があります。
出典:あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ? | 東京労働局
榎本希
偽装請負とは契約自体は業務委託契約などの労働法の適用がない形態の契約であるにもかかわらず、会社側の指揮命令があったりその会社の社員と同じように勤怠管理がされていたり、契約外の業務の命令を受けたりするなど、その会社の社員と変わらないような内容の業務を指します。
企業側は雇用契約ではないため、社会保険料の会社負担分が発生しない、労災の適用もないなどの人件費の削減になるのに対し、請負う側は業務の内容はほかの社員と同じにもかかわらず社会保険や労災などの適用がないなどの不利なものになる状態です。
自身の業務の内容が偽装請負になっていないか不安がある場合には専門家などに相談するようにしましょう。
まとめ
業務委託で名刺を持つ場合には、偽装請負と誤解されないよう注意が必要です。
委託元企業の名刺を貸与されることもありますが、それでは取引先やその他外部からみると、委託元の指揮管理下にあるように見えてしまいます。
偽装請負と誤解されるリスクを避けるには、名刺は自作したものを使います。ただし、委託元企業の取引先と打合せをするといったときには、関係性が分かるよう明記した名刺を使うのがよいでしょう。