エンジニア採用、市場のリアルと課題感
優秀層は圧倒的に副業人材が多い
- シンプルフォーム株式会社が「トライアル採用」に取り組んだ理由と背景について教えてください。
諏訪間氏:私達のようなアーリーフェーズのスタートアップで即戦力を採用したい場合、いきなりの正社員採用ってなかなか難しいんです。
ダイレクトリクルーティングやスカウトなど、さまざまな採用施策を重ねた中、もっとも私たちと親和性が高い採用方法は「活躍の可能性がある方を、副業から始めて正社員採用に向けてアトラクトしていく形」であることに行きつきました。
ちょうどその頃、他社さんでも「トライアル採用」という言葉が出始めていたので、私達も取り入れてみようと、始めたのがきっかけです。
現在は基本的に1カ月から3カ月ほど、トライアルとして副業から参画していただき、将来的に一緒に働きたいと思う方に対して、代表やCTOからアトラクトしています。
現状、弊社にはエンジニアの正社員が9名おりますが、そのうち8名が副業からのジョインです。
シンプルフォーム社が推進する「トライアル採用」の可能性について
- 採用に携わる立場から、ヒト・モノ・カネの面で考えたときに、「トライアル採用」は何が魅力なのかを教えてください。
諏訪間氏:トライアル採用では特に「ヒト」にメリットがあります。
私たちのようなスタートアップ企業では、現状の10人から30人あたりまでの採用は、長期的に組織を作る上で特に重要だと考えています。
採用もかなり厳しく見ていて、スキルは高くてもカルチャーに合わないと採用をお断りすることも増えているんです。
その点「トライアル採用」の場合は、1カ月から3カ月間、副業として一緒に仕事をしていく中で、カルチャーフィットなどの見極めができます。
採用のミスマッチを防ぐ「トライアル採用」
諏訪間氏:実際にトライアルでの副業によって採用ミスマッチを防げたケースがあります。
将来的な幹部クラスで採用したい方がいらっしゃったのですが、いきなり幹部での採用は難しいので、3カ月ほど業務委託でジョインしていただきました。
その中で、ドメイン知識やこれまでの経験におけるミスマッチが明らかになってきて、当初想定していたポジションをお任せするのは双方にとって不幸せなのでは、となり契約を終了したことがあります。もし、いきなり幹部候補として正社員雇用していたら、早期離職の可能性もあったと思います。
この経験からも、面接だけで採用候補者を見極めることは難しく、改めて副業として業務委託からジョインしていただくことが大切だと感じましたね。
企業側のメリットだけでなく、候補者側としても、「転職のために現在勤める会社を辞めるリスクを減らせること」や、「転職したあとのカルチャーや同僚、仕事内容のミスマッチを防げる」等、納得感を持って次のキャリアを選択できるというメリットがあると思います。
採用のミスマッチは、双方の貴重な時間や機会の損失に繋がる大きなリスクだと思います。そのため、私たちは採用側のリスクだけでなく、その方の人生にとっての損失を回避する側面も大事にしています。
選考フローで意識していることと課題感
- 面接だけでは見極めが難しいとお話がありましたが、その中でもシンプルフォーム社が面接で工夫している点はありますか?
諏訪間氏:エンジニア採用では、カジュアル面談後の2次面接で技術面接という形でCTOからお題を出させてもらっています。
書類選考からカジュアル面談、2次面接と、全てCTOが出ているのも特徴ですね。カルチャーにフィットしているのか、期待しているパフォーマンスを発揮していただけるのかは面接後に必ず挟んでいるトライアルで見ているので、その前の面接でスキル的なマッチの判断をしています。
ただし、今後組織が拡大していく中、全員にトライアルで副業をしてもらうのは、マネジメントコストがかかりすぎる点で難しいと思います。
カルチャーと技術、両方のマッチを図るためには、面接だけである程度見極めていくことやトライアルでの副業をワンデイやスリーデイなど、短い期間で設計する必要があると考えていますね。
overflow 鈴木:弊社の場合はトライアルではないですが、基本的には副業を一度挟ませて欲しいと依頼しています。はじめから「正社員で考えています」と言っていただけるケースもあるのですが、そのために面接の回数を増やすのと、副業で1カ月働くというのは、全く見えてくるものが違います。
基本的には副業を挟むことは外したくはないのですが、事業成長と採用スピードが折り合わないケースはどうしても出てくる。その場合は、シンプルフォームさんと同じですが技術面接を含め、面接を細かくやっていく必要があると思っています。
最近は副業との両輪で進めてはいますが、原則として副業を挟んでもらうというスタンスは続けていくつもりです。
諏訪間氏:候補者に合わせて、副業から始める方と、すぐに正社員採用する方と、採用ストーリーを分けている形でしょうか?
overflow 鈴木:分けていますね。基本的には副業からの転職一本なのですが、どうしても転職でなければならない、例えば他の会社さんからもオファーが出ているといった場合は、正社員としての転職に分岐せざるを得ませんね。
副業エンジニアのマネジメント方法
- 副業で参画しているエンジニアのマネジメントは正社員と異なる部分があるかと思いますが、overflow社ではどのようにマネジメントされていますか?
overflow 鈴木:副業エンジニアの方への業務の振り分け方にミソがあって、私達はチケット管理が蓋然性を持ってスケールできる限りは、上限なく副業人材を採用できると考えています
これはアジャイルのチケット管理が関係していて、弊社では習熟度に合わせてチケットを渡しています。
例えば、入って間もないドメイン知識が浅いときは、早くプルリクエストまで回してもらった方が習熟度が上がるので、軽いチケットを渡す。だんだん習熟度が上がってくると中くらいのチケット、最終的には最大のチケットというイメージです。
副業の方はアジャイルの会議に必ずしも参加できないので、会議で決まったチケットを1on1などで説明しながら渡していくんです。
なので、業務委託の人が増えることで、マネジメントコストが上がるという認識を弊社は持っていません。
マネジメントには、ヒューマンの部分と業務の部分があると思うのですが、業務の部分ではプロフェッショナルとして扱うという前提に立っているので、決まった仕事をいつまでに完了するといった契約で動いて、ブロッカー要因があればSlack上で連絡してもらうように進めています。
採用のチーミングについて
注力していること、課題感
- 採用のチーミングにおいて、シンプルフォーム社で工夫していることや困っていること、今後実践していこうことしていることはありますか?
諏訪間氏:採用のチーミングに関しては、私1人ではスカウトを打ち切れないので、パートの方とチームを作り、私がダイレクトリクルーティングの管理を行う形で進めています。この方法でスカウトの返信率も上がってきています。
私はITに関して全くのゼロ知識ではなかったのですが、開発経験や人事としての経験はなかったので、最初のドメイン知識を身に付けていくところから苦労しましたね。
そこで、CTOと話しながら採用のペルソナ設計をしたり、スカウトの文面に関して外部アドバイザーに助言をいただいたりしながら進めていきました。
今悩んでいることは、今後どのような採用チームを作っていくべきなのかです。例えば、外部からの知見をもっと入れていくのか、エンジニア領域に特化した人事を採用するのか、もしくはエンジニア採用にとても強い元エンジニアの方に採用責任者候補として参画いただくのか。
私達はエンジニア採用が事業の肝になってくるのですが、採用チームの全体設計を決めあぐねている状態です。
overflow 鈴木:採用計画にもよりますよね。今後1年でかなり採用していく予定ですか?
諏訪間氏:そうですね。今後1年で開発を10人ほど、Bizサイドを5~8人ほど採用したいと思っています。組織自体を伸ばしていきたいという形ですね。
overflow 鈴木:まずは現状のエンジニア採用の実績の振り返りをするのが第一優先だと思います。
先ほど副業から参画するケースが多いとおっしゃっていたので、その副業の方達はどのチャネルから来るのか。
また、チャネルによって登録されている採用候補者の質が異なるので、例えば今計画されている採用の中で、ミドル以上の方の比率が高ければそれに合わせたチャネルの設計をする必要がありますね。
その上で、組まれる面談の数などから、採用チームのチーミングの理想型を作っていく。最近はお手伝いしてもらえる外部の会社も多いので、最初からフルメンバー揃えるよりは、色々な形を試しながら、成功方程式が見えたらフルの正社員で固めていくのがリスクや無駄をなくす面でも良いと思います。
事業成長と副業転職について
副業は優秀な人材との関係構築の機会
- 事業成長を考えたときに、副業人材活用や「トライアル採用」は大事な選択肢になるのでしょうか?
諏訪間氏:私達のようなフェーズのスタートアップには、副業人材の活用はマストです。鈴木さんも仰っていたように、優秀な方を採用する上で、転職マーケットに出てくる方と、副業からでしか転職をしない方は、明確に分かれてきていると感じています。
優秀な方は転職媒体に登録しなくても、仕事が決まることもあり、リファラルが肝だと言われています。そのため、他社で働いてみようかなといった温度感の方に積極的にお声がけしていき、会社を知ってもらう。そして競合がいない状態で採用を進めることが重要です。
さらに優秀な方を囲い込むには、副業人材活用によって、中長期で確保していくことが必要だと思いますね。
overflow 鈴木:現在、DXやソフトウェアサービスが産業としては伸びていますが、労働人口はどんどん減っています。IT業界は需要は広がりますが、供給は増えない状況が起こりえます。そうすると採用においては超売り手市場に入ってくる。
そんな時代に突入したときに、今のままのやり方で採用を進めていたら、お金や時間がよりかかってしまう。今、採用のパラダイムシフトのタイミングが来ています。
既存の採用の仕方や経営リソースのあり方を疑う。外部の環境に適応するために、人にまつわる今までの常識を変えていかなければなりません。
そこで、簡単には解雇できない日本において、法律上許可されている副業は、日本の未来に対してチャレンジできる残された領域です。そして、採用という考え方を切り替えていくのが「トライアル採用」です。
優秀層の採用にこそ副業を取り入れるべき理由
overflow 鈴木:優秀層の人は圧倒的に副業から採用できていますし、副業からじゃないと採用できないという感覚は強く持っています。
副業をする方は時間にもお金にもある程度余裕があり、技術やキャリアをさらに伸ばしたいという向上心を持たれていることが多いんです。一方で独り立ちしていない方は副業するよりは本業を頑張ろうとなってくるので、副業か否かで層の違いが生まれてきます。
そのため、私達の求人は全て副業からOKにしていており、副業からだと翌週から稼働し始めるといったこともざらに起きています。
そこからは私達の会社にどれだけ魅力を持ってもらえるかなので、ミッション・ビジョン・事業の内容、開発組織の働きやすさなどをお伝えしています。
採用を中長期的な投資と捉える
overflow 鈴木:副業では、普通の採用では出会えないような人に参画してもらえます。「この人が来てくれたら圧倒的に事業が伸びる」「超初期にこの人が設計してくれたら今後3、4年技術的負債を抱えず成長できる」など、採用活動を中長期な投資と捉えることが大切だと思います。
「トライアル採用」を行う会社が増えると、働き手も自分に合う会社が見つけやすい社会になると思うので、世の企業様に広がってくれたら嬉しいです。
諏訪間氏:私は、スタートアップこそ長期的な目線を持った組織づくりが重要だと考えています。その為にはコアメンバーの採用と定着が不可欠であり、これは数回の面接で見極められるはずがありません。
そういった意味でも、人が常に足りないからこそ、「トライアル採用」を積極的に行うべきと考えています。企業側も候補者側もメリットがある仕組みだと思うので、今後多くの企業が使ってほしいですね。