データサイエンティストとは
まず、データサイエンティストとはどういった仕事なのか、基本的なところを押さえておきましょう。
データを分析、活用するスペシャリスト
データサイエンティストは、企業が蓄積している業務データを分析し、データに基づいた合理的な意思決定を支援するスペシャリストです。企業の意思決定に必要なデータの収集から始まり、使いやすいフォーマットへの変換、高度なプログラミング知識を活用した分析など、データに関するあらゆる業務を専門家として担います。
近年は、いわゆるビッグデータを用いた合理的な経営手法が注目されており、経験や勘といった曖昧なものではなく、データに基づいた統計的視点が求められています。データサイエンティストは、データを用いてさまざまなビジネス課題を解決するプロフェッショナルとして、業界・業種にかかわらず、多くの企業から求められている存在です。
高年収の傾向で、人気を集める職業
経営戦略のベースとなるデータを提示できるデータサイエンティストは、他の業種に比べて報酬は高めとされます。業務範囲も広く、単に既存のデータを分析するだけではなく、データを分析する環境の構築から行うのが特徴です。人によって得意な業務分野は違ってくるものの、経営の要となるデータを扱い、事業に大きな利益をもたらすポテンシャルを秘めています。そのため企業からの人材需要が高く、特に最近は目指す人が増えている人気の職業です。
求められるレベルは高度
データサイエンティストは高収入で安定した職業ですが、その分、高度な知識やスキルを求められます。必要とされるスキルは大きく分けて「ビジネス」「データサイエンス」「データエンジニアリング」の3分野があります。
基本となるデータ分析に関するスキルに加えて、解決すべき問題を定義するビジネス力や、データをビジネスの場で活用するためのシステムを作り上げる「エンジニアリング」のスキルも必要です。これらのスキルは三位一体で、いずれが欠けてもデータをビジネスの場で活かしきることはできません。詳しくは、データサイエンティスト協会のチェックリストにまとめられているので、参考にしてください。
出典:データサイエンティストのためのスキルチェックリスト/タスクリスト概説|一般社団法人 データサイエンティスト協会 スキル定義委員会、独立行政法人 情報処理推進機構
データサイエンティストに転職するには
それでは、データサイエンティストとして転職する方法を解説していきます。
IT業界経験者が有利な傾向
データサイエンティストは、データを分析するための論理思考や統計学の知識・スキルに加えて、さまざまなITツールを使いこなせなければいけません。それに加えて、Pythonをはじめとしたプログラミングの知識も必要であるため、IT業界の経験者が有利であることは間違いありません。
逆に、IT業界未経験の人にとってはハードルが高いのが実情で、新卒でも学生時代にプログラミングのスキルを身に付け、インターンなどでデータサイエンティストとしての実務経験を持つ人が、採用されやすくなっています。
アナリストの経験者も知識を活かせる
これまでアナリストとして活躍していた人も、データサイエンティストとして転職できる可能性があります。数理統計を扱うマーケティング企業や金融機関のアナリストなどは、それまでの経験を活かすことができるでしょう。日常的にビジネス上の課題を解決してきた経験があるため、さまざまな統計データをいかに課題の解決に活用するか、その勘所を理解しているはずです。長年培ってきた知識・スキルに加えて、さらにデータサイエンティストに必要なエンジニアリング力を身に付ければ、即戦力として迎えられることもあるでしょう。
未経験者の場合
既に説明したように、未経験からデータサイエンティストとして転職するのはハードルが高いです。ただし、理系の大学院や情報科学系の学部出身者で、データサイエンティストに必要な分析スキルや、プログラミングをはじめとしたエンジニアリングのスキルを持っている場合、そのポテンシャルを評価されて採用に至るケースもあります。企業によって求めらている知識やスキルは変わってくるので、転職を望む企業がどういった分野に強いデータサイエンティストを求めているのかを分析し、不足している知識やスキルを補う努力をすることが重要です。
転職先の探し方
次に、データサイエンティストの募集状況と、転職先の探し方を解説していきます。
データサイエンティストの募集状況
データサイエンティストはさまざまな分野で活躍できる職業ですが、データアナリストのように、主にデータ分析を行うだけの職種は、求人が減少傾向にあるとも言われています。データサイエンティストとして、幅広い分野で活躍できる知識やスキルを身に付けておくことで、転職先が広がります。
特に、AI(人工知能)を活かして高度なデータ分析を行ったり、柔軟なデータ分析環境を構築したりできるデータサイエンティストの需要は大きく、一部上場企業や有名テクノロジー企業などからの募集が少なくありません。
スキルアップに関する制度にも注目
企業によっては、データサイエンティストのためのスキルアップ制度を導入しているところもあります。具体的には、AIやデータサイエンス系の資格や、Pythonなどのプログラミング資格の取得支援、統計学やデータベース、機械学習に関する研修を受けられる制度など、多種多様なスキルアップ制度が多くの企業によって採用されています。給与や福利厚生だけでなく、こういったスキルアップ制度にも注目して転職先を探すと良いでしょう。MBA留学やTOEIC受験制度などを導入している企業もあります。
転職に必要なスキル
上述のように、データサイエンティストに求められるスキルは大きく分けて、ビジネスとデータサイエンス、データエンジニアリングの3分野です。ここでは、これらの分野で特に必要なスキルを具体的に挙げていきます。
企業により求められるスキルは異なる
まず注意しなければならないのは、企業によってデータサイエンティストに求める具体的なスキルは変わってくるという点です。ビジネス戦略に明るいコンサルタントを必要としている企業や、高度なシステム開発のスキルを持つエンジニアを求めている企業、詳細な統計分析ができる人材を採用したい企業など、ビジネス環境によって人材の需要は変わってきます。
当然、データサイエンティストとしては、ビジネスに明るく、統計分析やデータサイエンスに強い人材でなければならないでしょう。しかし転職する上で、どの分野の強みをアピールするかは企業によって変える必要があります。できるだけ早く企業分析を行い、自分の強みを活かせる企業はどこか、足りない知識やスキルがある場合、それをどうやって補うかを考えることが大事です。
数学や統計の知識がベースになる
転職を希望する企業によって、重視する知識やスキルは変わってくるものの、数学や統計の知識はデータサイエンティストとして必須です。高度なデータ分析を行い、企業に有益な提言やアドバイスをするのがデータサイエンティストの役割ですから、数学や統計学の学術的な知識も求められます。
それに加えて、論理的思考力や戦略的に考える力も素養として持っていなければいけません。分析に使うITツールの知識も必要でしょう。これらの知識やスキルを組み合わせて、データの活用という観点から企業の売上げに貢献するわけです。
プログラミングスキルも重視される
膨大なデータの中から企業にとって必要な情報を抽出し、KPIなど企業が達成すべき数値目標として落とし込むためには、プログラミングに関するスキルも求められます。データサイエンティストはアナリストとは違い、データを収集する環境も構築しなければいけません。そのためには、機械学習のアプリケーションを開発できるPythonや、統計解析のためのプログラミング言語であるR言語などの理解が重視されます。両者はデータサイエンティストが使う言語として非常に人気があります。
データベースに関する知識も必要
データを取り扱う職業として、データベースに関する知識も必要です。効率的にデータを収取し、処理するには企業の環境に合ったデータベースを設計する必要があり、できるだけサーバーに負荷を掛けないように注意しなければいけません。データベースの制御にはSQLを理解する必要があるので、プログラミング言語だけでなく、データベース言語の習得も求められます。
必須とされるデータ処理技術
データ分析基盤や、データ処理システムの開発・設計に係るスキルが求められるケースも少なくありません。多様なデータを抽出し、処理しやすい形に加工して格納する一連の処理を「ETL」と呼び、ETLによって加工されたデータを格納する場所をDWH(データウェアハウス)と呼ばれています。DWHは近年注目されているビッグデータの処理には欠かせない技術なので、データサイエンティストは ETL に関するスキルと合わせて習得しておく必要があります。
データサイエンティストに関する資格
続いて、データサイエンティストにおすすめの資格を紹介しておきます。
資格がなくても転職はできる
データサイエンティストとして転職するために、必ずデータ関連の資格を取得しなければならないわけではありません。これまで培った経験やスキル、大学などで学んだ知識を活かしてデータサイエンティストになることは可能です。ですが、資格を取得することでスキルを客観的に証明できるため、転職活動が有利になる場合は少なくありません。社内で必要な知識を学びながらデータサイエンティストとして活躍している人も多いですが、資格を取得することで転職しても役立つ汎用的なスキルを身に付けられます。
統計検定やG検定、E資格などでアピール
データサイエンティストを目指す人におすすめの資格としては、次のものが挙げられます。
- 統計検定:統計に関する基本的な知識やデータの応用力を証明するための試験です。レベル別に4級から1級まで5段階に分かれており、自分のレベルに合わせた試験を受けられます。初心者でも4級から準備合格していくことで、実践的な統計のスキルを身に付けることが可能です。
- G検定/E資格:日本ディープラーニング協会が主催しているAIに関する技術試験です。ゼネラリスト向けのG検定とエンジニア向けのE資格があり、いずれもデータサイエンティストに必要な知識やスキルを確認できます。
他にも情報処理推進機構(IPA)が主催しているデータスペシャリスト試験や情報処理技術者試験、Pythonに関する資格など、さまざまなものがあります。自分のキャリアと照らし合わせながら、必要な資格は何か考えてみましょう。
データサイエンティストの需要が大きな業界
いかなる企業であっても、業務データの収集・活用は必須であるため、データサイエンティストはどの業界でも人気のある職種です。実際、さまざまな業界で活躍していますが、特に以下の分野の需要が高まっています。
リサーチ会社やメーカーなど
リサーチの専門会社や、高度なデータ分析が必要なメーカーなどは、優秀なデータサイエンティストを求めているケースが多いです。顧客の基本属性から行動履歴、購買履歴などを解析し、それに基づいて購入予測を立てることができれば、企業の売上げに大きく貢献できます。フリーランスとして企業のデータ分析を行い、正確な意思決定を支援することで高い報酬を得ているデータサイエンティストもいます。
デジタルヘルスが注目される医療
医療分野ではAIやIoT、ビッグデータの解析など、最新のデジタル技術を活かしてヘルスケアの効果を増大させる試みが活発化しており、それに伴ってデータサイエンティストの需要も高まっています。予算制約や情報のサイロ化などの問題により、他の業界に比べてビッグデータの活用が遅れていると言われているため、データサイエンティストを採用して情報を有効に活用しようとする動きが出てくると考えられます。
出典:~医療・健康分野のデータサイエンス海外事情~ヘルスケア先進国の取組みに学ぶ|D4c AI Lab
行政の各種サービスでも需要は高め
行政においても、効率的に国民にサービスを提供するために、データサイエンティストの知識や知見が求められています。民間企業に比べて大規模な調査を行う機会が多く、複雑な課題に直面することも多いため、ビッグデータの正確な分析とマネジメントができるデータサイエンティストは重宝されるでしょう。特に、財政難や人員削減で悩む地方行政にとって、効率的で無駄のない予算配分を提言できる専門家が求められているケースは少なくありません。
データサイエンティストに転職する意義
最後に、データサイエンティストに転職する意義を考えてみましょう。高収入で安定した仕事に就けるのに加えて、AI技術の進展によって、さまざまな分野にチャレンジできるメリットがあります。
将来性のある仕事ができる
データサイエンティストの役割の一つであるデータ分析やデータクレンジングなどの作業は、AIによって代替されるようになるため、将来的にデータサイエンティストの仕事が奪われるといった意見があります。
しかし、データサイエンティストは単にデータを分析するだけが仕事ではなく、AI技術を活用して効率的かつ正確なデータの活用ができる環境を構築するのが役割です。つまり、AIが発展すればするほど、それを上手く活用できるデータサイエンティストの需要はますます高まることが予想されます。AIやIoTなどの技術の進歩とともに魅力的な仕事ができるのが、データサイエンティストの醍醐味と言えるでしょう。
副業でも稼げるようになる
データサイエンスやデータエンジニアリングの知識やスキルがあれば、副業として仕事を受けることも可能になります。データサイエンティストとしての副業案件はそれほど多くないのが実態ですが、高度なデータ分析を可能にするシステム開発や、機械学習の知識が必要な案件は需要があります。他の案件に比べて高報酬のため、相応のスキルがあれば本業と同程度の報酬を得ることも不可能ではありません。簡単なデータ分析の案件もあるため、経験の浅い人はデータ分析から始めてみるのも良いでしょう。
まとめ
データサイエンティストとして転職する方法と、転職の際に求められるスキルを解説しました。企業によって採用基準は変わってきますが、数学や統計の知識やプログラミングのスキル、データベースの知識などは必須です。未経験でも転職は不可能ではありませんが、かなりハードルが高いのが実態です。まずは転職を希望する企業をしっかりと分析し、必要な知識やスキルを身に付けてから転職に臨む必要があるでしょう。統計に関する資格を取得するのも有効です。