【行政書士監修】個人事業主が従業員を雇う時に知っておくべき注意事項

個人事業主が従業員を雇う場合、どのような手間や義務が発生するのか、保険や税金のルールをまとめました。また、家族を従業員にしている場合の経費計上、控除の方法や、勤務時間・日数で変化する雇用者の義務の内容も説明しています。

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従業員とは

会社や個人に雇われた人は、従業員です。企業だけでなく、個人事業主も従業員を雇えます。

他人を雇うだけでなく、家族や知人に仕事を手伝ってもらっている個人事業主は数多くいます。どのようなケースが従業員に該当するのでしょうか。

雇用契約関係にあり事業に従事している人

従業員と経営者は、『雇用契約』で結ばれています。正社員や契約社員、アルバイト、パートなどさまざまな名前がありますが、すべて従業員の一種です。

経営者や役員は、従業員とはやや趣旨が異なります。経営陣は雇われている側ではなく、会社を運営する側です。

従業員は労働基準法に守られ、勤務時間や残業上限、有給の取得などが認められます。

勤務時間や日数で雇用者の義務は変わる

雇用者は、従業員に対して保険加入や有給を与える義務があります。すべての従業員に対して同じ義務ではなく、勤務時間や日数で変化する仕組みです。

たとえば、雇用保険の加入義務は週20時間以上勤務する従業員に対して発生します。勤務時間が少ない人や、継続して31日以上勤務しない人は雇用保険の対象外です。

労災保険に関しては、原則全員に加入義務があります。

なお、個人事業主が家族に手伝ってもらっている場合は、労働者として認められません。ただし、他の従業員とまったく同じ扱いで働いている場合に限り、保険の対象です。

榎本希

個人事業主でも従業員を雇用することができます。

従業員とは雇用契約を締結し、労働者として雇われている人のことです。

従業員には労働基準法が適用されるため、労働関係の手続が必要となります。

従業員を雇うと何が変わる?

従業員を雇うと、法律で定められた義務が発生します。雑務なども増えますが、その分仕事は従業員に任せることが可能です。

1人では終わらない量の仕事がある人や、チームで仕事をしたほうがスムーズな場合は従業員を雇うメリットがあります。

様々な義務が発生する

自分だけで働いている分には、休暇の設定や1日の労働時間を細かく設定する必要はありません。保険や年金も、国で定めるものに加入するだけです。

しかし、従業員には労働時間の上限があり、有給を与える義務があります。自分と同じようには、働いてもらえません。

規定の労働時間を超えると残業代を支払う義務が発生し、勤務時間によっては社会保険や厚生年金の加入義務もあります。

法定労働時間以上の労働をさせる場合には36協定の締結も必要になります。

給与計算など経理作業が増加

従業員には働いた分だけ給与を支払います。時間給であればタイムカードなどによる勤怠管理や、給与計算も必須です。

保険料の計算や、所得税の源泉徴収など、経営者側の経理作業も増加します。給与計算は必ずしも経営者が行う必要はありませんが、他の人に任せると費用がかさむでしょう。

榎本希

従業員を雇うメリットとデメリットを箇条書きでまとめると以下のようになります。

メリット

  • 業務の分担ができる
  • 専門的なスキルが必要になった場合に自分で取得しなくても従業員を雇うことで解消される
  • 事業の拡大がしやすい
  • 経営者としての実感が持ちやすい
  • モチベーションアップに繋がる

デメリット

  • 手続が増える
  • 人件費がかかる
  • 人間関係などのストレスが発生することもある
  • 安全配慮義務が発生する
  • 従業員同士のトラブルの解決など業務以外の仕事が発生する
  • 労務管理をしなければならなくなる

従業員数が増えると義務も増える

雇う従業員の数によって、義務は変化します。人数が多いほど、手間がかかる仕組みです。

個人事業主であっても、従業員に対する義務は変わりません。どの程度の規模になると、義務が増えるのでしょうか。

1人でも雇う場合労災保険、雇用保険に加入

従業員の数が1人でも、労災保険と雇用保険の加入は必須です。雇用保険は短時間勤務の場合義務化されていませんが、労災保険はほとんどが加入します。

例外は経営者や役員、家族など特殊なパターンのみです。労災保険は労働中の事故などに備える保険で、雇用側が全額負担します。

雇用保険は、一部を雇用側が負担し、残りを従業員が負担する保険です。なお、雇用保険の加入者が発生した場合、『雇用保険適用事業所設置届』を職業安定所に提出しなければなりません。

5人以上従業員がいる場合社会保険に加入

社会保険の加入義務がある従業員数が5人以上に増えると、社会保険の加入義務が発生します。なお、5人未満の保険加入が義務化されていないのは個人事業主のみで、法人化している場合は1人でも対象です。

社会保険は、週20時間以上働く従業員に加入義務があります。全員が短時間労働の場合は、社会保険の適用者がいないため加入する必要はありません。

5人未満でも任意加入制度が使える

5人未満の従業員を雇う場合、社会保険の加入は任意です。雇用者と従業員が合意すれば、社会保険に加入しても問題はありません。

全員の合意は必要なく、加入したい人が半数以上であれば社会保険の加入手続きが可能です。ただし、加入手続きは事業所全体で行うため、合意が得られなかった人も全員手続きを進めなければなりません。

社会保険に加入しない場合は、従業員側がそれぞれ国民保険や年金の加入手続きを進めます。

出典:事業主の行う雇用保険の手続き

榎本希

従業員を雇う場合にはまず最初に労働契約を従業員と結ぶことになるので、雇用契約書の作成が必要になります。

労働基準書やハローワークへの手続の他、開業時から従業員を雇うのではなく途中から従業員を雇う場合には税務署への届出も必要になります。

更に従業員が5人以上の場合には社会保険の加入も義務になります。

税金関連の手続きも増加

保険や給与計算などの雑務以外にも、税金関連の手続きが増えます。特に、源泉徴収や年末調整は必須です。

1人で働いているときとは違い、大幅に作業が増えてしまいます。従業員を雇う場合は、増える手続きの手間やコストを考え、それでも利益が出るのか計算しましょう。

実際に支払う時給・月給よりも、従業員1人を雇うコストは膨大です。

源泉徴収義務者になる

雇用者は必要な税金を差し引いて従業員などに報酬を支払い、国に税金を納める義務があります。源泉徴収ができていない場合はペナルティがあり、本来の税額に10%を追加した金額を支払わなければなりません。

指摘を受ける前に、源泉徴収を始めましょう。

個人事業主が単体で仕事をしている場合は、自分はもちろん外注先にも源泉徴収義務は発生しません。外部の業者に仕事を依頼した場合でも、特に税金のことを考えず処理できます。

しかし、個人事業主が従業員を雇うと、従業員の給与だけでなく外注先にも源泉徴収義務が発生します。源泉徴収は、100万円以下の支払いで10.21%、100万円を超えた部分の支払いは20.42%の設定です。

支払が外注費の場合、個人への支払の場合には相手の業種等によって所得税を徴収します。例えばライターに支払う原稿料や、セミナー等で講演をしてもらった場合に支払う講演料などが該当します。

従業員の住民税支払いや年末調整が必要

住民税の支払い方法には『普通徴収』と『特別徴収』があります。普通徴収は国から届く住民税の納付書を使い、自分で納める方法です。特別徴収は雇用者が毎月の給与から前年度の住民税を差し引きます。

個人事業主やフリーランスは普通徴収に該当し、毎月の報酬から住民税が差し引かれることはありません。しかし、従業員は特別徴収です。雇用者が毎月の給与から住民税を徴収し、従業員の代わりに国に支払う義務があります。

また、年度末に税金の徴収・還付を行う年末調整も雇用者の義務です。所得税を引きすぎている場合、年末に調整して従業員に還付します。逆に足りないときは、年末に徴収が必要です。

年末調整では、従業員に代わって生命保険料や住宅ローンの控除なども行います。従業員側が準備できるよう、早めに年末調整の予定を伝えておきましょう。

出典:従業員の年末調整、どうすればいい?

榎本希

源泉徴収を行う場合、所得税は原則としては給料を支払った翌月10日までに国に納付する必要がありますが、従業員の人数が常時10人未満である場合には源泉徴収税の納期の特例が認められており、年に2回半年分をまとめて納付することができます。

この源泉徴収税の納期の特例を受ける場合には、事前に税務署へ「源泉徴収税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出する必要があります。

家族が従業員として働いている場合

個人事業主で、家族が従業員として働いている場合は、一般の手続きと異なる部分があります。なお、家族が単に手伝いに入っているだけで、従業員に該当しない場合は話が別です。

家族が従業員であると認めてもらうには、給与支払いや労働時間の管理、他の従業員と同じ扱いが必須になるため、注意しましょう。

家族への給料は原則経費にできない

家族が従業員の場合、原則経費申請はできません。個人事業主が家族への給与を経費にしたい場合は、『専従者』として届け出する必要があります。

家族以外を従業員として雇い、給与を支払っている場合は経費計上が可能です。家族の場合は従業員として認めてもらうのが難しく、経費として申請する基準も厳しいことを覚えておきましょう。

青色申告の場合で「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出している場合には15歳以上の家族に対する給料を経費にすることができます。

確定申告で専従者控除の申告が可能

家族であっても、確定申告で専従者控除を申請すれば、その分税金の支払いが軽減できます。専従者は個人事業主の事業を手伝い、その仕事だけに従事している人のことです。

他にパートやアルバイトをしている場合は、専従者として認められないこともあります。ただし、業務に差し支えない程度なら問題ないとされています。

出典:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁

榎本希

個人事業主の家族が従業員として働いているような場合には青色申告であれば「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に税務署に提出しておくことで

①15歳以上

②生計を一にする配偶署、その他の親族

③1年を通じて半年以上もっぱらその事業に専従していること

の条件を満たす場合には家族に支払った給料を経費とすることができます。

まとめ

個人事業主が従業員を雇うと、その分コストや手間が増加します。支払う給与だけでなく、事務作業の手間や保険の負担も考えた上で人を雇いましょう。

勤務時間、日数、人数によっても義務は変化します。手間を軽減したい場合は、短時間勤務や少人数の雇い入れがおすすめです。

状況にかかわらず源泉徴収や労災保険の加入は必須のため、しなければならない手続きを忘れないように気をつけましょう。

榎本希 [監修]

医療機関・医大の研究室にて長年勤務をした後、行政書士試験を受験。医療系許認可をメインに扱う行政書士として、行政書士のぞみ事務所を開業。再生医療関係の許認可・診療所開設・医療広告ガイドラインに基づく医療広告のチェック等の他、任意後見・契約書作成・起業支援を扱う。


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