働き方改革で業務委託が注目
政府の打ち出した『働き方改革』では、労働時間制の見直しや雇用形態にかかわらず公正な待遇を確保するなど、さまざまな方針が打ち出されています。
柔軟な働き方の実現に向けて、高齢者や専業主婦でも働ける環境を整えようとする試みの中で、業務委託が注目されているのです。
その理由について、会社側と労働者側の両方の観点から考えてみましょう。
会社側のメリット
会社側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。 「会社側には- 社員をコア業務に集中
- 専門性の高い人材を活用可能
- 社員を教育するための教育コストや時間を削減
- 社会保険料などの福利厚生に対する経費を削減
- 繁忙期のみ人員を確保するなど業務量に応じて仕事を発注
- 労働法の適用がないため、採算やスケジュールを優先して業務を依頼
- 理由を問わずに契約の終了とともに契約を打ち切り可能
労働者側のメリット
では労働者側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。 「労働者側には次のようなメリットがあります。- 自分の得意な分野やスキルを生かすことができる
- 自分で仕事を選ぶことができる
- 仕事の量や報酬についても自分で決める事が出来る
- 勤務時間や場所に縛られない
- 納期等を守れば自分のペースで仕事をすることができる
- 依頼業務を断ることができる」
労働者にとっても業務委託はメリットのある働き方です。
業務委託の場合は、会社員と違って会社から命令を受けることなく、自由に働き方を決めることができます。また、仕事の単価や報酬を自分で決めることができるため、自分の実力や仕事量が報酬にそのまま直結するのも、業務委託の利点です。
自分の得意な分野に絞って仕事を選べるため、パフォーマンスを最大限に発揮できるのもメリットでしょう。
依頼業務を断ることが出来るのもまたメリットの1つです。
また会社勤務の中でストレスの大部分を占めるとされている人間関係のストレスがほとんどないというのも大きな利点です。
更に、勤務時間に縛られないため主婦や子育て中でも社会参加が出来る点や副業としても仕事が出来る事も利点の1つです。
それぞれにデメリットもある
業務委託は会社側にどのようなデメリットがあるのでしょうか。
「会社側には、- 受託者の技術が高くてもそのノウハウを会社に蓄積させにくい
- 良い人材と契約をしてもその人材を留めておくことができない
- 受託者に仕事の時間や場所の指定をすることは基本的にできない
- 専門的な業務などは報酬が高額になってしまうケースもある
基本的に業務委託契約の場合、雇用関係にはない業務委託の作業者に対して、業務の進行や時間を指定することはできません。
ただし、時間や場所の指定については原則出来ませんが、契約の内容によっては合理的と認められる範囲内で指定をすることが出来る場合もあります。
また社内にノウハウが蓄積されることがありませんし、良い人材を見つけても留めておくことができないというデメリットもあります。
さらに、特に専門性の高い業務では報酬が高額になるケースもあり、従業員を雇用するより人件費がかかってしまう事もあります。
では、業務委託契約は労働者側にどのようなデメリットがあるのでしょうか。 「労働者側には- 仕事に必要な機材などは自分で用意する必要がある
- 会社員のように安定した収入を得る事は難しく収入が不安定になる
- 労働法の適用がないので会社員にはあるような社会保険や雇用保険などの福利厚生は受けられない
- 営業や交渉や契約も自身で行わなければならない
- 確定申告などは自身で行わなければならない
メリットとデメリットを比較しつつ、仕事の内容を検討する必要があります。
業務委託と会社員 契約の違い
フリーランスや副業で仕事を請け負う業務委託と会社員では、そもそも会社と結ぶ契約が法律的に異なっているのです。どのような違いがあるのか、それぞれの契約内容から詳しく解説します。
業務委託は請負契約や委任契約
業務委託の場合の契約は、『請負契約』か『委任契約(準委任契約)』という形になります。
請負契約は、成果物に対して報酬が支払われます。成果物に対して責任を負うことにもなりますが、その分、一つの案件で高額報酬が期待できるというメリットもあります。デザインやソフトウェア開発など、多くのフリーランスは請負契約を結んで仕事を行うのです。
一方で、委任契約(準委任契約)では、『業務の遂行』に対して報酬が支払われます。企業サイトの保守管理やインストラクターなどがこれに該当する仕事です。
保守管理については内容によっては請負契約になる場合があります。
例えばシステムのソフトウェアの不具合の修正や補修作業が契約内容に含まれる場合には請負契約となります。
委任と準委任の違いですが、委任は裁判の弁護や公正証書の作成などの法律行為を指し、それ以外は準委任と呼びます。
会社員は雇用契約
会社員の場合は、『雇用契約』という契約によって働くことになります。雇用契約とは、労働力を対価として報酬を得る契約です。正社員だけでなく、契約社員やパートタイマーもこの契約に基づいて働くことになります。
派遣社員やアルバイトも雇用契約に基づいて働く事になります。
雇用契約で働く場合、会社は労働者に対して業務命令を出すことができます。その代わり、労働基準法に基づいて、労働者に対しいくつかの義務を負わなければなりません。また使用者責任を負う必要があります。
業務委託と会社員を比較
業務委託と会社員の働き方や所得の違いなど、それぞれの中身について比較する形で見ていきましょう。
業務委託と会社員にはどのような違いがあるのでしょうか。 「業務委託には次のような特徴があります。- 請負契約や委任契約(準委任契約)によって業務を行う
- 指揮命令は受けない
- 働く場所や時間を拘束されない
- 自分の好きな業務を行うことができる
- 労働法の適用がない
- 自分の裁量で仕事の増減ができる
- 確定申告は自分で行う
- 健康保険や年金は国民健康保険、国民年金に加入することになる
- 住民税などは自分で納付する
- 仕事で得た報酬についての所得区分は事業所得という区分になる
- 雇用契約により会社に雇用されて働く
- 指揮命令を受ける
- 業務の時間や場所は会社に指定される
- 労働法の適用がある
- 病気などで長期の休養が必要になった際には社会保険に加入していれば傷病手当を受給することが出来る
- 収入が安定している
- 有給休暇を利用すれば仕事を休んでも給与がもらえる
- 社会保険、厚生年金に加入できる
- 住民税は給与から引かれる
- 源泉徴収や年末調整は副業を行っていなければ会社で行ってもらえるので自分で確定申告をする必要はない
- 所得の区分は給与所得となる
働く時間と場所
働く時間と場所について、業務委託の労働者と会社員では大きな違いがあります。
前述のとおり、業務委託の場合は、委託元から業務命令を受けることはありません。この命令の中には、働く時間や場所の指定も含まれます。
会社員であれば、会社が指定した時間と場所で働く必要がありますが、代わりに、超過勤務手当の支給や長時間労働についての上限が決められています。
社会保険と税金
会社員であれば、厚生年金や健康保険、雇用保険などの社会保険に会社が加入させてくれます。また、税金に関しても、会社が源泉徴収と年末調整を行ってくれるので、副業をしていないのであれば申告は不要です。
一方、業務委託の労働者は社会保険ではなく、国民年金と国民健康保険への加入となります。税金については自分で確定申告を行わなければならず、申告漏れがあった場合には追徴税が課せられることもあるので、注意しなければなりません。
所得の種類
確定申告における所得は10種類に分類されますが、この所得の種類が会社員と業務委託では異なります。
会社員の場合は会社からもらう『給与所得』となり、業務委託では主に『事業所得』に区分されるのです。これは、確定申告において大きな違いが現れます。
給与所得の場合は、基礎控除38万円と給与所得控除の65万円が認められ、この合計額である103万円以下の場合は所得税が課税されません。
一方、業務委託の場合は、青色申告をしないと65万円の控除がありませんので、自分できちんと対応しないと課税額が多くなってしまうこともあるのです。
2020年分以降の青色申告では55万円または10万円の控除が基本となり、電磁的記録の備付け及び保存をしている場合またはe-Taxにより電子申告をしている場合のみ65万円の青色申告特別控除が受けられます。
また、基礎控除については48万円に引き上げられるとともに、所得金額が2400万円超の者については段階的に控除額がゼロになっていきます。
更に給与所得控除については一律10万円引き下げられることになりました。
まとめ
働き方改革によって副業を推奨している会社もあります。副業で業務委託に挑戦する場合は、契約形態の違いを把握したうえで進めることが重要です。
会社員と業務委託の労働者では、働き方や所得、確定申告などさまざまな面で違いがあります。それぞれの特徴を理解して働くことで、トラブルなく業務委託を始めましょう。