業務委託での責任は契約書に基づいて決まる
業務委託においてどのような場合に責任が発生するのかは、契約書の内容によって決まります。まずは前提として業務委託の契約内容についての基本事項を知っておきましょう。
請負契約と委任契約での義務の違い
業務委託では、次の二つの契約のいずれかを結ぶことになります。
一つが『請負契約』と呼ばれるもので、これは成果物をクライアントに引き渡すことで報酬が発生します。もう一つが『委任契約』(準委任契約)です。これは成果物を作成する作業に従事する契約です。
また、準委任契約は委任者が法律行為以外の事務を受任者に依頼する契約です。
二つの違いは、請負契約が『成果物』の品質などに関して責任を負わなければならないのに対し、委任契約は『成果物』ではなく、作業そのものに関して責任を負うという点です。
責任範囲や内容を契約書で合意する
請負契約においては、成果物に瑕疵(欠点や欠陥)があった場合は、修正や補償を求められることがあります。この責任の範囲や内容について、あらかじめ作業前に契約書で合意をしておくことが一般的です。
どんな小さな案件であっても、責任の範囲や所在を決めておきましょう。契約書なしで作業を始めた場合、瑕疵の定義や補償内容についてトラブルになることがあるからです。
榎本希
業務委託の契約は「請負契約」と「委任契約」「準委任契約」という契約二なります。
こちらは契約書のタイトルではなく業務の内容により決まります。
・請負契約
仕事の完成を約す契約で、成果物を委託者に納品する業務が請負契約に当たります。
請負契約では成果物の納品に対して報酬が支払われます。
例えばイラスト制作やWebサイトの制作などがこの請負契約にあたります。
・委任契約
法律事務の遂行を委任される契約です。
成果物の納品ではなく委任事務の遂行に対して報酬が支払われます。
例えば弁護士への訴訟代理の委任などがこの委任契約にあたります。
・準委任契約
法律事務以外の委任事務の遂行を約す契約です。
委任契約同様に成果物に対してではなく委任事務の遂行に対して報酬が支払われます。
例えばコンサルタント契約やアパート等の管理契約、サーバーの保守管理契約などがこの準委任契約に当たります。
業務を完遂しない場合、損害賠償のリスクがある
請負契約においては、定められた期日までに業務を完遂させて成果物を提出する義務が生じます。業務を完遂せず、成果物を提出できない場合には、損害賠償の請求や報酬が支払われないといったリスクがあるのです。
民法改正により2020年4月1日より、以下の場合には請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬の請求ができます。
- 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった時。
- 請負契約が仕事の完成前に解除された時。
そのような事態を防ぐためにも、以下の点を押さえておきましょう。
損害賠償の範囲を定義し、リスクを最小限に
損害賠償の範囲を定義していない場合、思いもよらないことについて損害賠償の請求をされてしまう可能性が生じます。そうならないため、責任の範囲についてあらかじめ限定しておきましょう。
例えば機会損失や逸失利益を責任に含めると、どこまでも責任範囲が広がってしまうため、『直接的な損害に限定する』といった措置や、金額については本案件の業務委託料を上限とするといったような金額の範囲、責任を負う期間の範囲なども明確にすべきです。
請負契約は瑕疵担保責任がある
請負契約の瑕疵担保責任は、法律によって明確に定義されています。
具体的には、成果物の提出から1年間です。ただし民法の改正によって、2020年からは提出から5年間、その間に瑕疵が発覚してから1年間に変更されます。
瑕疵担保責任は契約不適合責任に変わります。
また、注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者はその不適合を理由として、履行の完追の請求・報酬の減額請求・損害賠償の請求及び契約の解除はできません(民法637条)
作業者の責任が大きくなる可能性が高まるため、なおのこと厳密な取り決めが必要です。
不当な内容でも契約後の変更は難しい
契約は双方が「その条件に合意した」という前提の元で行われるため、後からそれが不当な内容だとわかったとしても、変更が難しい面があります。
事前に問題があるようなら、契約を結ぶ前に変更を申し出ましょう。クライアントの中には、修正を前提で契約書を作成している場合もあります。
契約書締結時の注意点
契約締結時の注意点について触れていきます。後々になって大きな損失を被らないためにも、契約書の種類や、契約内容の確認方法などをしっかり押さえておきましょう。
雛形を使う際は注意する
ネット上ではさまざまな契約書のテンプレートが提供されていて、無料でダウンロードできるものも多くあります。作成の手間が省ける一方で、それはあくまで不特定多数に向けたものであることは念頭に置いておくべきです。
どちらか一方に有利な条項が設けられていたり、今回のプロジェクトの内容にそぐわない項目があったりなど、修正が必要な部分がある可能性があります。
雛形を使う際には、流用できる部分とそうでない部分を的確に分類して、その案件ごとにふさわしい内容に変えていく必要があります。過去に作成した契約書などを雛形として使用するとしても、案件ごとのチェックは必ず必要です。
細部まで内容を確認する
契約書は、作成した側に有利な項目が設けられていることも少なくありません。契約締結の前に、内容を細部まで確認しましょう。
法律の素人が判別するのは難しいため、可能なら弁護士などの専門家に1度目を通してもらうことをおすすめします。
弁護士が間に入ることで、お互いにとって対等な契約書に修正してくれますし、契約内容について相手方と意見が分かれた時、弁護士という専門家が間に入っていることで収拾がつきやすくなるからです。
費用はかかりますが、後々になって膨大な賠償金を請求されるリスクのことを考えれば、重要なコストであると言えます。
榎本希
契約内容について依頼者と細部まで取り決めを行うようにしましょう。
請負契約であるならば成果物の具体的な内容や数量、単価や納期、報酬が支払われるタイミングなど、依頼者と自分の間で成果物に対する認識のズレがないようにすることが大切です。
準委任契約でも、仕事の内容や報告や契約期間、報酬など依頼者と自分の認識にズレがないようにすることが大切です。
不明な点や曖昧な点などはうやむやなままに契約をせずにしっかり話し合いを行ってから契約を交わしましょう。
また、契約を交わした場合には契約書を作成するようにしましょう。
この際に、雛形を使用する場合にはテンプレートのまま使用するのではなく自分の契約に合うように修正をして作成するようにしましょう。
依頼者から契約書が渡された場合にも、細部までしっかり目を通し確認をしてからサインをするようにしましょう。
自分で契約書の確認が難しい場合や自分で作成するのが難しい場合には専門家に契約書の作成やチェックを依頼するようにしましょう。
まとめ
業務委託を請け負う場合、契約が請負契約であれば、成果物に対して責任が発生します。もし瑕疵が認められれば、瑕疵担保責任に基づいて大きな修正や賠償金を請求される可能性があるので、注意しなければなりません。
瑕疵担保責任は契約不適合責任に変わります。
責任の範囲や賠償金の上限などは、作業に入る前にきっちり契約を結んでおきましょう。
そして契約を結ぶ場合、契約書の内容については専門家に見てもらった方が良いと言えます。こういったリスクマネジメントも、業務委託で働く上では大切なことと言えるでしょう。