日本初! フリーランスの互助と支援の仕組み
- 「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」(以下、「フリーランス協会」)を設立した経緯や思いを教えて下さい。
平田さん:経緯はひとことでいうと、ノリとなりゆきです(笑)もともと私はフリーランスの広報として働いていて、協会を設立したのはフリーランスになって7年目のことでした。
時間の融通が利く、誰のどんな活動に力添えするのかを選べるなど、私はフリーランスという働き方がすごく気に入っています。一方で、不満とまでは言わないけれど、健康保険や出産、保育園などの面で、日本ではフリーランスという存在は規格から外れているんだな、と感じることもたびたびありました。
1億総活躍と言われはじめ、フリーランスになりたいという人や、働き続けなくてはいけないシニア、女性が増えています。その状況で、全部自己責任でいいのだろうか、という問題意識がありました。
そんなとき、経済産業省がフリーランスの研究会を立ち上げると言うニュースを見て、そのことをFacebookで書いたら、周囲のいろんな職種のフリーランスの人たちから、ワッとコメントがついたんです。「私たちも語りたい!」と。研究会には、有名なフリーランスやクラウドソーシングの会社さんなどが呼ばれていましたが、一般の当事者はいなかったんです。
それは、点在しているフリーランスに窓口がないからなんですね。一部の意見だけを基に政策が動いていくのは危険です。
そういった中、フリーランス仲間とのランチ会での会話から、「じゃあ窓口を作ったらいいんじゃない?」と思い立ったんです。その後、ふと夜中に思いついて、パワーポイントで4枚くらいの設立趣意書を作りました。それを基に協力者と賛助企業を募って、2カ月くらいで協会を立ち上げました。
- 2ヶ月で! 結構ライトな感じで立ち上がったんですね。
平田さん:私には、思いついたらすぐ動いちゃう病気があって(笑)
もともと幹事キャラなので「フリーランスみんなの幹事やります!」みたいな感じでした。私の専門は広報なので、注目を集めるとか、世の中を騒がせるということに関してはプロとしての自負がありました。なので、ものすごくわかりやすい大きな旗を立てて、課題も声も集めるというのは、自分に貢献できることだと思ったんです。
年間1万円で、賠償責任保障、福利厚生サービスを自動付帯する「ベネフィットプラン」
- 「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」というビジョンを掲げ、フリーランスやパラレルワークをする人のためのインフラとコミュニティを構築されていますが、サービスや支援の内容はどのように決めていったのですか?
平田さん:設立記者発表では、フリーランスの仲間で課題ややりたいことをブレストしたものをそのまま「こういうことをやります!」と風呂敷を広げました。そうしたら、各社さんからお問い合わせいただいて。スモールスタートで始めたけれど、思ったより反響が大きくて、波に乗って必死で漕いで、気づいたら船がずいぶん遠くまで来ていたな、という感覚です。
設立記者発表の後、最初の1週間でメルマガの登録人数は1500人以上になりました。たくさんのメディアに取り上げていただいて、いろいろな方が助けてくださって、今、無料会員が1万2000人、有料の一般会員が2000人いらっしゃいます。
- 無料会員と、有料の一般会員の違いはなんでしょうか?
平田さん:無料会員の方には、メルマガを毎週お届けしたり、イベントやセミナーをたくさん開催したりしているので、それにご参加いただくというところですね。
一般会員向けの「ベネフィットプラン」は、フリーランス特有の業務リスクに備える「フリーランス賠償責任補償」や、福利厚生サービス「WELBOX」、病気やケガ、介護による所得喪失を補填する「所得補償制度」(※任意加入。個人で加入するより40%オフ)などのサービスがあります。
福利厚生サービスは、上場企業が社員向けに提供しているものと同じです。健康診断や人間ドッグはもちろん、Chatworkの無料アップグレードや、コワーキングスペース、会計サービスなどの優待、法務税務相談など、非常に好評です。
賠償責任保障がついているので、名刺に協会のロゴを入れることで案件を受注しやすくなったという方もいらっしゃいます。
あと、もうすぐ無料会員の方は「フリーランスDB」の検索ができるようになります。フリーランス同士、チームで仕事をしたり、自分が受け切れない仕事を誰かにお願いしたいというニーズがあって、一般会員の皆様のデータベースを公開します。
フリーランス版のイエローページのイメージですね。協会自身はジョブマッチングはしませんが、ご自身のプロフィールや実績、スキルなどをアピールできるので、一般会員の皆様の仕事獲得につながるといいなと思います。
- 一般会員の審査基準はありますか? 賠償責任保障もあるので、ある程度信用できる方でないと難しいのでは。
平田さん:既にフリーランスとして活躍している方も、これから独立や副業に挑戦する方も、別け隔てなく支援したいので基準はありませんが、成り済ましなどを防ぐために、本人確認書類は必ずご提出いただいています。
- フリーランスを対象に、賠償責任保障、福利厚生サービスを自動付帯した「ベネフィットプラン」は日本初の試みですね。どのように作り上げたのですか?
平田さん:損保ジャパン日本興亜さん、東京海上日動さん、三井住友海上さん、あいおいニッセイ同和損保さん、4社の共同保険なんですが、各社さんにはかなりむちゃぶりのリクエストをしてしまいました。例えば、「自己負担は免責金額ゼロにしてほしい」とか、「あらゆる人をサポートできるように会費は絶対年間1万円以内に収めてもらいたい」とか、「賠償責任保証はあらゆる職種のあらゆる人を対象にしてほしい。発注主までカバーしてほしい」とか。
けっこう高めのボールを投げてしまったのですが、損保ジャパン日本興亜の社長さんが働き方改革に関心をお持ちの方で、協会のインタビュー記事を見てくださっていて、全面的に協力するよう指示を出してくださったそうです。
担当の方が、日本初ということで試行錯誤しながら、こちらの意向を汲んだものを苦労して作ってくださったんです。補償内容や対象領域などを考えると、今後同じものは二度と作れないのではないかという内容になっています。
- ほんとうに立ち上げから、いろんなところに、つながって、つながって、広がっていったんですね。
平田さん:この協会は、本当にみなさまの善意に支えられているんです。我々、非営利でやっているので、事務局自体も私を含めてみんなプロボノですし。個人情報を扱うので一部は有償の非常勤のスタッフですが、あとはみんな、ビジョンに共感してご協力いただいているんです。本当にありがたいと思います。
多様な働き方を社会に根付かせるために、フリーランスと企業、国に働きかけていく。
- サービスは、会員の声を聞いて増やしていったのですか?
平田さん:そうですね。実際、事務局のメンバーも当事者なので、それぞれの思いがあります。あとは、協会にたくさんお問い合わせをいただくものから優先的に動いています。
「フリーランス白書」という実態調査をやっているほか、昨年末には、未払い報酬に関するアンケート調査を実施しました。日本ではまだフリーランスの立場が弱く、わざわざ弁護士を雇って争うのも難しいので、泣き寝入りするケースが多くあります。そうした問題の解決につながるサービスも現在準備しています。
それから、国に対してのロビー活動も行っています。健康保険など、ライフリスクに関するセーフティーネットの部分を中心に、いろいろ提言活動をしています。
- フリーランスという働き方が広がっているなかで、社会や企業のなかに、まだ十分に認識されていないところがあります。支援する側として、そのあたりのずれはどのように感じますか?
平田さん:「フリーランス白書」の調査をやったとき、そのあたりの課題は自由回答でたくさん寄せられました。大きく分けて企業側の課題は二つあります。
一つはそもそもフリーランスを活用する発想がない企業がまだまだ多いところです。例えばアンケート調査によると、副業人材を活用してみたい企業は2割なんです。
フリーランスとフリーターの違いが分からないという経営者もいます。なので、人材不足と言われるなか、変動費で即戦力を得ることができるということや、ビギナークラスのフルタイムの年収300万円と、プロフェッショナルなハイスキルの人の週1回勤務の年間300万円、どちらのコスパがよいのか。そういうポテンシャルにもっと気づいていただきたいですね。
そういう啓発は我々もやっていて、フリーランスや副業の活躍の場を広げていきたいと思っています。
啓発の次のステップとして、業務や工数をどのように定義して、どのように契約を結んでいくのか、発注リテラシーを持っている企業さんがまだまだ少ないので、そこのサポートもやっていきたいですね。
これまでも、フリーランス活用に興味はあるけれどどうしたら良いか分からないという企業からの相談を度々いただいてきたので、フリーランス活用がしやすくなるガイダンス資料を作り、相談窓口を設けることにしました。ご要望に応じてジョブマッチング支援を行う賛助企業もご紹介します。
また、契約後の接し方として、社員との違いがわからなくて下に見てしまう。悪くいえば、労働法を気にしなくていい安価で融通のきく労働力と誤解している企業も悲しいことにあるんです。とくに派遣が、同一労働同一賃金で、企業からすると使いづらくなるといわれているなかで、フリーランスが悪用されないとも限りません。
そのために、きちんと契約を結んで守るという部分など、啓発やルール明記を政府に対して働きかけています。一昨年から、ヒアリングや情報提供、提言というかたちで厚生労働省に協力していて、ちょっとずつ進んできているな、という感じですね。公正取引委員会も、独禁法を通じたフリーランスの保護に尽力してくれています。
- 「フリーランス白書」を全部読ませていただきましたが、プロとして見られていないとか、アルバイト感覚に見られるとか、そこのずれは結構大きいと思うんですね。これは私たちも変えていくべきだと思っているところです。
平田さん:浸透や啓発の部分で言うと、実はフリーランス側もしっかりしなきゃいけないというのがあります。
実際、企業がフリーランスを使ってみようと思った時に、本当にプロとして結果を出せるのか。コミュニケーション面でもきちんと振る舞えるのか。そこがきちんとできていれば、「この人は丁重に扱わなければならない」と思ってもらえると思うんです。
もちろん悪意をもった企業はいるけれど、なかにはフリーランス側の能力や振る舞いと、企業の期待値とのあいだにギャップがあって、バイト扱いになってしまうというケースもあると思うんです。なので、安価に使われてしまう状況を脱するために、私たち働く側も成長しなければいけないという部分があると思います。
裾野が広がっているので、隙間でちょこっと仕事がしたいというケースもあって、それはそれでいいと思います。一方で、本当にハイスキルでプロフェッショナルなフリーランスや副業人材の活躍の事例を知っていただきたいとも思います。実態として業務委託の仕事の募集がきちんと増えて、皆さんが良いお仕事をしてくれることで、企業さんの意識も変わっていくという循環があると思うので、両方に働きかける必要があります。
- おっしゃる通りですね。
平田さん:実際に私が見聞きしているのは、フリーとして長い間やってきた人に比べると、副業の方は若干受け身の姿勢の人が多くなりがちなんですね。それは仕方ないというか、誰かが方針を決めたことをいちソルジャーとしてきちんと実行する役割を全うしてきた方が多いので。
プロのフリーランスは、自分で課題と解決策を提案して、仕事を自ら生み出し、人を巻き込んで動かしていく。一連のフローをコンサルも含めてやれないと、ただの言われたことをする人になってしまうんです。それなら単なるアウトソースじゃないですか。そこを卒業して、クライアントにリスペクトされる存在になりたければ、プロとしてアクティブな動き方が必要になってくる。そうやってフリーランス人材のレベルが上がって活躍することが、企業のフリーランスに対する認識を変えていくのだと思います。
- これからフリーランスの方がより働きやすい社会を目指すにあたって、支援としてやっていきたいこと、活動していきたいことはありますか?
平田さん:いろいろあります。ひとつはキャリア支援で、「フリーランス・パラレルキャリア支援アドバイザー」の育成を始めています。
キャリアカウンセラー、キャリアコンサルタントいずれかの資格を持っている人に、フリーランスとか副業の働き方に関する法制度やキャリアパスなど、体系的な知見を得てもらい、多様な働き方を目指し実践する人のキャリア支援ができるようになっていただきます。
本当にシビアな話ですが、フリーランスは時間を切り売りしているわけではないので、いただいた対価にふさわしいパフォーマンスができないと、クライアントは笑顔で去っていって、次の仕事は無いわけですよね。マッチングサービスなどいろいろなツールがあることで、以前よりは格段に挑戦しやすくなっているので、協会としても適切なかたちでチャンスを広げていきたいですね。
人・企業・国を巻き込む、コレクティブインパクトのアプローチで社会変革。
- 設立してからいろいろな企業や個人の方にご協力していただいとお聞きしましたが、やはり苦労された点も多いのではないでしょうか?
平田さん:私の鈍感力が高いのか、大変だと思ったことは正直ほとんどありませんが、フリーランス協会の組織運営自体が一つのチャレンジだと思っています。
現在、事務局には40名ほどメンバーがいますが、社員はゼロ、プロボノと業務委託のみで構成されています。プロジェクトチームの組合せで、ゆるやかでインクルーシブなつながりのプラットフォームにしたいとか、公正中立な存在であることとかにこだわりがあります。
設立当初から賛助企業が多かったため、業界団体と間違えられることがあって、一部の企業の便益のためにやっていると誤解されたり、本来の趣旨をご理解いただけないこともありました。
「みんなの協会」であることが大事なので、保険も最初は僭越ながらコンペをさせていただいたんですが、最終的には4社共同でお願いするという、すごいわがままを通させていただいた経緯があります。
常に、三方良し、360度ハッピーになれるかというところはすごく神経を使っています。ゆるやかなつながりのなかで、いわゆるコレクティブインパクトのアプローチをとっています。
ときには、競合している企業や立場の違うフリーランスが、みんな同じ方向を見て、協会に対して自分事として動いてもらって、社会問題を解決していく。今もプロジェクトが8個くらい動いていますけれど、それぞれに関心のあるフリーランスや企業が集まって、政府や自治体とも連携しながら、一緒に物事を動かしてくれています。
これから、プロジェクト型組織が増えていって、世界的に組織の壁がどんどん融解していくと思っているんですね。フリーランス協会そのものが、その流れの最先端にいながら、多様な働き方の環境整備をしていきたいと思っています。
- 協会はフリーランスの互助と支援にとどまらず、働く人、企業、国が一緒になって社会を変革していく仕組みでもあるんですね。ありがとうございました。