情報処理安全確保支援士とは
始めに、情報処理安全確保支援士の概要を解説します。
情報セキュリティスペシャリストの後継資格
情報処理安全確保支援士は2017年4月から試験が開始された国家資格です。2016年10月の実施で廃止となった情報セキュリティスペシャリスト試験の後継資格であり、『RISS』や『セキスペ』とも呼ばれています。
有資格者になるには情報処理安全確保支援士試験を受験し、合格する必要がありますが、情報セキュリティスペシャリスト試験(SC)に合格していると試験の免除が可能です。
また、午前I試験は一定の条件を満たすと2年間は受験を免除することができます。
IT系では初の登録制士業資格
情報処理安全確保支援士は、IT系では初の登録制士業資格です。有資格者は高度な情報セキュリティに関する知識や技能を保有していることが証明できます。
官公庁関連のシステム案件を抱える企業では、国家試験や国家資格の高度区分合格者を手当などで優遇しているケースがあります。
今後、政府や地方自治体のセキュリティ案件の募集条件として情報処理安全確保支援士が組み込まれれば、資格の需要はますます高まるでしょう。
情報処理安全確保支援士のメリット
情報処理安全確保支援士の有資格者は主に2つのメリットがあります。
客観的なスキルの証明
情報セキュリティの分野は常に最新の知識や技術の習得が必要です。
情報処理安全確保支援士の試験を実施する情報処理推進機構(IPA)は、登録の維持をしていることにより、継続的な自己研鑽を実施している証となると公表しています。
情報処理安全確保支援士は定期的な講習受講が義務付けられていますので、それらにしっかりと参加することで、常に新しい知識を身につけているという証になるのです。
他の試験、企業へのアピール
情報処理安全確保支援士の国家資格を取得すると、弁理士や中小企業診断士などでも受験が一部免除されます。
また、警視庁の特別捜査官であるサイバー犯罪捜査官・警部補の受験資格にもなっているため、資格取得から他の試験にも有利にはたらき、キャリア形成に幅が広がるでしょう。
有資格者に対して、企業が資格維持のための登録料や講習費用を負担している場合があります。それだけ、情報処理安全確保支援士のニーズは高いということですので、転職の際も大きなアピールポイントとなるでしょう。
情報処理安全確保支援士の難易度
ここからは、情報処理安全確保支援士の試験難易度について解説します。
難易度は高め
情報処理安全確保支援士の試験難易度は、最高難易度の情報セキュリティスペシャリスト試験をベースにつくられていることもあり、引き続き試験内容の難易度は高いといえます。
情報セキュリティスペシャリスト試験の合格率は15%ほどで、情報処理安全確保支援士の合格率も同水準です。
しかし、年2回試験が行われるため、同様に高難易度の試験と言われるネットワークスペシャリストやITストラテジストよりも効率的な受験が可能となっています。
合格点と平均合格率
情報処理安全確保支援士の試験は午前I、午前II、午後I、午後IIの4つに分かれており、合格点はいずれも100点中60点以上になります。2018年の合格率は以下のとおりです。
受験者数 | 合格者数 | 合格率(受験者比) | |
2018年4月(平成30年春期) | 15379人 | 2596人 | 16.9% |
2018年10月(平成30年秋期) | 15257人 | 2818人 | 18.5% |
表を参考にすると、合格率は17~18%程度で、決して高い水準ではありません。最難関のスキルレベル4ということもあり、しっかりとした対策が必要であることがわかります。
情報処理安全確保支援士に受かる勉強法
情報処理安全確保支援士の試験難易度は高く、万全な対策が必要です。まずは試験の形式を把握し、対策を考えていきましょう。
試験の形式を把握しておく
先ほども触れたように、情報処理安全確保支援士の試験は午前と午後で合わせて4回の試験があります。それぞれの試験概要は以下のとおりです。
午前I | |
試験時間 | 9:30〜10:20(50分) |
出題形式 | 4択 |
出題数 | 30問 |
午前II | |
試験時間 | 10:50〜11:30(40分) |
出題形式 | 4択 |
出題数 | 25問 |
午後I | |
試験時間 | 12:30〜14:00(90分) |
出題形式 | 記述式 |
出題数 | 3問(2問を選択して解答) |
午後II | |
試験時間 | 14:30〜16:30(90分) |
出題形式 | 記述式 |
出題数 | 2問(1問を選択して解答) |
午前の試験はマーク式、午後の試験は記述式になっています。なお、午前Iの試験は同時刻から開催される高度情報処理技術者試験(AP試験)と共通です。
午前の対策
午前の試験は知識を問われるマーク式の出題のため、過去問を何度も繰り返し行うことが効果的な対策です。午前Iの試験は高度情報処理技術者試験と共通なので、しっかり慣れておくことで、その後の資格取得にも役立つでしょう。
3年分の過去問をしっかりと繰り返し、90点以上を取れるようになれば、本番でも合格ラインに達することができるはずです。
午前IIの試験はセキュリティの基礎用語について問われます。こちらも過去問を繰り返し解きましょう。情報処理安全確保支援士の過去問を使用し、同様に90点以上を目指して取り組んでください。
午後の対策
午後の試験は90分の長時間にわたる記述式です。午後Iの試験は出題される3問中2問を選んで解答する形式ですが、問題文が非常に長いことが特徴です。
解答する問題を選ぶだけで10〜15分かかる可能性がありますので、15分程度の見直しの時間を想定すると、実質的な解答時間は60分程度になります。そのため、対策としては常に時間に追われることをイメージして勉強する必要があるでしょう。
基本的には過去問を1問30分で解く練習を繰り返します。タイマーをセットして時間を意識する訓練を行うだけでなく、実施後の復習もしっかりと行ってください。
5〜6回ほど繰り返して試験の特徴をつかみ、苦手分野を意識することで対策もみえてくるでしょう。午後Iの試験は国語力ともいわれるほど文章読解がカギとなります。
また、午後Iの試験の記述対策は、同様の記述問題である午後IIにも活かされます。ただし問題文が非常に長いため、スピードを身につけるためにも過去問には最低2〜3回は取り組みましょう。
自分の苦手分野と得意分野を見極める
勉強する上で重要なのは、自分の苦手分野と得意分野を見極めることです。得意・不得意を見極めると、戦略的な試験対策が可能になります。
例えば『プログラミングが苦手で数学が得意だから、毎回プログラミング問題が出題される午後I試験の大問2は捨てる』といった思い切りも必要でしょう。
その代わり、計算問題は優先して解答するなど工夫が必要です。過去問などを解いていくと、出題傾向だけでなく自分の苦手分野と得意分野がつかめます。
苦手な分野に多くの時間を費やすより、得意な分野の知識を固めることが効果的な場合もあります。どうしても理解しにくい分野には力を入れないことも対策の1つです。
しかし、午前の試験対策ならば苦手な分野でも繰り返すことで得点につながります。試験までの期間に余裕がある場合は、1問でも多く正解するために、十分な対策をしましょう。
必要な勉強時間
これから情報処理安全確保支援士試験を受験する方にとって、どのくらいの勉強時間が必要になるかは気になるポイントです。
合格するために必要な時間は人によって違いますが、社会人の方であれば平日に1時間と休日に5〜10時間程度の勉強時間を確保しましょう。
基礎知識の習得と過去問などの実践演習には、それぞれ最低1カ月程度の勉強期間が必要です。他の情報処理技術者試験の受験経験があるなど、知識の下積みがあれば、短い期間で対策できるでしょう。
しかし、初めて情報処理技術者試験を受ける場合は基礎問題の反復練習から始める必要があります。勉強時間を確保して知識を身につけることが重要です。
基礎知識の習得は実践問題を解くうえで重要になります。習得する知識量も多いため、時間にはゆとりをもって繰り返し問題を解きましょう。
おすすめ参考書と問題集
試験勉強には過去問や問題集が不可欠です。情報処理安全確保支援士の試験対策におすすめしたい4つの参考書と問題集を紹介します。
ポケットスタディ登録セキスぺ
『ポケットスタディ登録セキスペ』はコンパクトなサイズで、午後試験の記述問題をパターンごとに分けた『速攻サプリ』など、ポイントを絞った問題構成が特徴の問題集です。
解答例が記載されているだけではなく、「この趣旨の問題が出たらこう答えよう」とパターン別の勉強ができます。
試験当日は、練習したパターンのどれに当てはまるかを判断することで、午後試験の解答時間に余裕が生まれるでしょう。
- タイトル:ポケットスタディ 情報処理安全確保支援士 (情報処理技術者試験)
- 価格:1620円(税込)
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情報処理教科書
体系的な学習がしたいなら『情報処理教科書』がおすすめです。各試験内容(シラバス)に準拠したテキストで、800ページにも及ぶ幅広い情報が記載されています。
試験合格に向けての対策だけではなく、情報処理安全確保支援士になった後にも活用できる参考書です。分厚くて持ち運びには適しませんので、自室などでじっくりと学習するときに使いましょう。
- タイトル:情報処理教科書 情報処理安全確保支援士 2019年版
- 価格:3110円(税込)
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パーフェクトラーニング問題集
『パーフェクトラーニング問題集』は応用力を試し、磨いていくための問題集です。出題頻度の高い分野が最初に登場するなど、合理的な構成であることが特徴となっています。
出題頻度が比較的低い分野については、問題集の後ろに配置されているため、問題集の始めから勉強することで、効率よく学習ができて得点力向上につながるようになっているのです。
- タイトル:平成31年【春期】情報処理安全確保支援士パーフェクトラーニング過去問題集
- 価格:3218円(税込)
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公式サイトの過去問
試験を実施している情報処理推進機構の公式サイトには、過去問が掲載されていますので、積極的に活用しましょう。問題冊子、配点割合、解答例、採点講評が全て無料でダウンロード可能です。
試験日程が近づいた時期に、総まとめとして試験時刻と同じ流れで予行練習として使うのもいいでしょう。もちろん何度もプリントアウトして使用できますので、繰り返しの学習にも適しています。
情報処理安全確保支援士の受験方法
情報処理安全確保支援士の試験は年2回、実施されます。試験対策と同様に、試験スケジュールや受験方法も把握する事が必要です。
年間スケジュールと手数料
年2回実施される試験の年間スケジュールは以下の表を参考にしてください。
春期試験 | |
受付期間 | 1月中旬〜2月中旬 |
試験日 | 4月第3日曜(予定) |
合格発表 | 6月中旬〜下旬 |
秋期試験 | |
受付期間 | 7月中旬〜8月中旬 |
試験日 | 10月第3日曜(予定) |
合格発表 | 12月下旬 |
試験スケジュールについては、情報処理推進機構の公式サイトでも確認できます。上記の表を参考に、受験を考えている日程の受付期間に間に合うように手続きを行いましょう。
また、受験手数料は5700円です。支払方法は郵送もしくはインターネットからとなっており、郵送の場合は郵便局の窓口で払込みを行います。
インターネットから申込む場合は、申込内容がわかるように画面のメモや印刷をしておきましょう。支払い方法はクレジットカードかペイジー、コンビニ支払いのいずれかを選択できます。
受験に対する注意点
情報処理技術者試験は全試験区分、全時間帯で電卓の持ち込みが禁止されています。情報処理安全確保支援士試験も例外ではありません。
近年では電卓機能の多機能化や機種が豊富にあることから、全面的に持ち込が禁止となっていますので、受験する際は注意してください。
試験に合格した後、登録が必要
情報処理安全確保支援士試験に合格しただけでは、肩書きとして名乗ることはできません。登録制の国家資格のため、情報処理推進機構に登録する必要があります。
登録に必要なコスト
情報処理安全確保支援士の登録に関する費用は『登録免許税の収入印紙9000円』と『登録手数料1万700円』です。合わせると、1万9700円の費用が必要です。
収入印紙は登録申請書・現状調査票に貼り付けて提出しましょう。登録手数料については振り込みを証明する書類が必要になります。
また、年1回のオンライン講習には2万円(非課税)の費用がかかるほか、3年ごとの集合講習には8万円(非課税)が必要です。資格を継続して保持したい場合は、定期的に発生する費用について覚えておきましょう。
登録するメリット
情報処理安全確保支援士として登録するメリットは、やはり、有資格者になることです。
滞りなく登録を行って更新に必要な講習を受講すれば、『情報処理安全確保支援士』を名乗ることができるほか、講習を受けることで常に最新の知識や技能を身につけることが可能になります。
また、集合講習に参加することで新たな人脈ができるなど、仕事の面で有利にはたらくことも考えられるでしょう。有資格者として活躍し続けられることは大きなメリットです。
登録しないメリット
試験に合格しても、登録をしないという人もいます。有資格者として登録を継続するには登録料や講習の参加料など、高額の費用が発生するため、登録しなければその負担をしなくてすむというメリットがあるからです。
情報処理安全確保支援士は試験制度がスタートして日が浅く、これからどのように展開していくか、未知数な部分もあります。情報処理安全確保支援士の展開を見極めたい場合は登録しないままでいるというのも選択肢の一つです。
また、登録の維持には費用面の負担だけではなく、講習の受講のために時間を割くことも不可欠となります。有資格者を優遇する制度が整っていない企業に務めているなど、受講のための時間を割くことが難しいという理由で登録しない人もいるでしょう。
登録しなければ有資格者を名乗れませんが、試験を受けること自体が一つの経験値となり、自分のスキルアップに役立つと捉えることができます。
まとめ
情報処理安全確保支援士は登録制の国家資格です。試験に合格し登録すると情報セキュリティに関して、高度な知識と技能を身につけていることが証明されます。
試験は毎年2回実施されており、午前と午後を合わせて4つの試験での合格が必要です。試験対策は基本知識を徹底して暗記して、記述問題の練習に移りましょう。過去問を繰り返すのも効果的です。
資格を継続するには、毎年のオンライン講習と3年ごとの集合講習を受講する必要がありますので、費用や時間の面も念頭に入れて登録してください。まずは、試験内容やスケジュールを確認し、勉強の計画を立ててみましょう。