受注損失引当金ってなに?用語や要件と計上の流れについて知ろう

会計や経理に明るい人ならば、『受注損失引当金』という言葉を聞いたことがあるでしょう。全く知らない・これから学ぶという人のために、『受注損失引当金』について要件や計上の流れを踏まえて解説していきます。

受注損失引当金について理解しよう

受注を取るビジネスにおいて、今後発生し得る赤字(損失)の金額を負債として計上したものが『受注損失引当金』です。さらに詳しく見ていきましょう。

引当金とは

『引当金』とは、『将来発生するであろう費用(損失)のために備えておく見積金額』のことを指します。通常、『引当金』は貸借対照表の負債の部、あるいは資産の部に記載すると決められています。

会計における定義では、『損失の原因となる事象が発生済み』であることが前提です。つまり、損失発生の可能性が低い場合は、その金額を『引当金』としての計上が認められないということです。

受注損失引当金繰入額とは

『引当金』は、『損失の原因となる事象が発生済み』ということが前提であり、その『将来損失になり得る金額』を本年度の損失として損益計算書に計上することになります。その損失が『引当金繰入額』にあたります。

『引当金』と『引当繰入額』は同時に語られることが多く、関連性の高いものと覚えておくとよいでしょう。貸借対照表に『引当金』が記載される時には、損益計算書に同じ金額の『引当金繰入額』が記載されることになります。

出典:第4回:受注制作のソフトウェアの収益認識基準(進行基準)と受注損失引当金

榎本希

受注損引当金とは、例えば企業などが受注する契約の中で赤字が見込まれるような物があった際に、今後発生する赤字金額を負債に計上したものをいいます。

貸借対照表に受注損引当金が記載されていると、赤字が見込まれるようなプロジェクトなどを抱えていることが分かります。

引当金の要件について

『引当金』はどのようなタイミングで登場するのか、その要件について説明します。

引当金の4要件

以下の四つの条件がそろった場合に『引当金』として計上することになります。

  • 損失の原因となる事象が発生済みであること
  • 将来、特定の費用や損失が発生すること
  • 今後、損失発生の可能性が高いこと
  • 損失の金額を合理的に見積もりできること

『受注損失引当金』に当てはめると、要件は下記のように解釈できます。

  • 今後赤字が発生すること
  • 赤字になる契約・受注をしたこと
  • 赤字になる可能性が高いこと
  • 赤字金額を合理的に見積もりできること

日本の会計基準とIFRSの基準の違い

IFRSとは、国際的に共通した会計基準のことをいいます。日本では『国際会計基準』『国際財務報告基準』と二つの呼び名が存在しますが、実務上はどちらで呼んでも構いません。

IFRSで『引当金』として認識されるために、満たすべき要件は以下の三つです。

  •  過去の事象の結果として現在の債務を持っていること
  •  債務を決済するために経済的メリットのある資源が流出される可能性が高いこと
  •  債務の金額を信頼性高く見積もりできること

日本の会計基準とIFRSで大きく違っているのは、日本の4要件でいうところの『費用(損失)は将来のものであること』と『今後、費用(損失)発生の可能性が高いこと』でしょう。

日本の会計ルールでは、『現在の債務』でなくても4要件がそろえば『引当金』として計上されますが、IFRSでは『現在の債務』でなければ『引当金』として認められません。

また、日本の会計ルールでは『発生の可能性』が高いと判断された場合に『引当金』として計上されますが、IFRSでは、資源の流出が必要となる可能性が50%以上になった場合に『引当金』と認識されます。

出典:引当金についての日本基準と国際財務報告基準(IFRS)の違い【TOMAシンガポール支店 公認会計士駐在の会計・税務事務所】

榎本希

将来の特定の費用や損失の発生が当期以降の事象に起因しており、その発生の可能性が高く、またその金額を合理的に見積もることが出来る場合に、当期の負担になる金額を当期の費用または損失として引当金に繰り入れることになっています。

引当金のうち、当期に負担が属する金額については当期の費用または損失として計上しなければならないこととされています。

受注損失引当金計上の流れ

どのような場合に『引当金』として計上できるのかを見てきましたが、実際に計上する場合はどうすればいいのでしょうか。

引当金の金額の計算

『受注損失引当金』は、契約することで赤字になる金額、つまり契約に基づく作業を完了することで発生する費用が、その契約による収益を上回る金額を計上することになります。

下記の計算式によって求められる金額が、『受注損失引当金』です。

『受注損失引当金』=『契約で発生する費用の合計(作業完了にかかる費用)』-『契約で得られる収益の合計(取引先からの対価)』

同時に、上記で算出した『受注損失引当金』と同額を、売上原価に含めて費用として損益計算書に計上します。

引当金の取り崩し

『引当金』を取り崩すタイミングは、4要件がそろわなくなった時です。『受注損失引当金』の場合では、将来の費用(損失)の発生が予測されなくなった時点で取り崩されます。

『引当金』の要件の一つに、『今後、損失発生の可能性が高いこと』という項目があるため、プロジェクト(作業)が完了し、収益・費用などの全てが計上され実際に赤字となった時には、『引当金』の要件からは外れるという解釈です。

会計処理と税務処理の違いに注意

企業会計において、『引当金』の4要件を満たす場合には、該当する金額を事業年度別にそれぞれ『引当金』として計上する必要があります。これは、適正な期間損益を算出するために不可欠な考え方といえるでしょう。

一方、法人税法では正しく課税所得を算出するためにも、見積もり計算による損金算入を認めていません。つまり、法人税法では『引当金』の計上は原則認められていないということです。

しかし、企業会計の実情などから、現在では例外的に『貸倒引当金』と『返品調整引当金』に限り『引当金』の計上を許可しています。

会計上『引当金』を計上している場合には、企業会計と法人税法に存在するギャップを埋めるために、法人税の申告書を作成する時に損金経理をおこなうなど一定の調整をする必要があります。

榎本希

まずは受注損引当金の計算をします。

計算式は「契約から発生する費用の合計-契約から得られる収益の合計」となります。

受注損引当金は将来発生する費用や損失を表すものなので、すでに発生した赤字の金額は差し引く必要があります。

最初に計算した受注損引当金から既に発生した赤字の金額を引きます。

受注損引当金が負債に計上されたら同じ金額を売上原価として計上します。

受注損引当金を取り崩すタイミングとしては作業が進行したりして赤字が実現した時になります。

まとめ

負債である『引当金』には四つの要件があり、それらを全て満たす場合には『引当金』として計上できます。『引当金』の一種である『受注損失引当金』についても同様に考えましょう。

法人税法では、見積金額となる引当金の計上は原則的に認められていません。現行法で例外として損金算入を認めているのは、『貸倒引当金』と『返品調整引当金』の二つのみなので注意が必要です。

榎本希 [監修]

医療機関・医大の研究室にて長年勤務をした後、行政書士試験を受験。医療系許認可をメインに扱う行政書士として、行政書士のぞみ事務所を開業。再生医療関係の許認可・診療所開設・医療広告ガイドラインに基づく医療広告のチェック等の他、任意後見・契約書作成・起業支援を扱う。

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