履歴事項全部証明書とは
履歴事項全部証明書は、登記の内容が全て記載された書面です。登記とは、会社の履歴書の役割を果たしており、そこには会社に関する取引上重要な事項が記載されています。
通常は法務局に保管されており、一般に公開されているので誰でも気軽に閲覧することや取り寄せることが可能です。
登記を見れば様々な権利関係や会社の内容が一目で分かります。商取引の安全を確保し円滑に進めるために、履歴事項全部証明書が重要な役割を果たすのです。
ここでは、履歴事項全部証明書の具体的な内容について解説します。
登記簿謄本と登記事項証明書
登記簿謄本と登記事項証明書は同じ内容が記載されています。両者の違いはその形式が異なる点です。
かつて登記事項を知りたい場合は、役所に登記簿謄本の交付を申請していました。その後法改正があり、役所にある登記簿は全て電子化されて電子記録として保管されるようになりました。
電子化により登記簿謄本はその正式名称は『登記事項証明書』に変わりました。その結果インターネット経由でも申請することができるようになったのです。
登記事項証明書の種類
登記事項証明書には全部で4つの種類があります。
- 履歴事項全部証明書
- 現在事項証明書
- 代表者事項証明書
- 閉鎖事項証明書
これらの登記事項証明書にはそれぞれ重要な役割があり、用途によって使い分けて利用することが可能なのです。
主な内容と使い分け
登記事項証明書の具体的な内容を順番に解説します。
履歴事項全部証明書
履歴事項全部証明書には、現在の会社の情報に加えて過去3年間の商号変更や本店移転、役員変更の経緯など登記の変遷過去における法人の内容まで分かるので信用度があります。そのため、融資や助成金申請などの際に提出を求められることがある書類です。
現在事項証明書
現在事項証明書には、現在の会社の情報が記載されています。過去の変更内容が記載されておらず、必要最低限の情報を閲覧したい場合に利用されるケースが多い書類です。
代表者事項証明書
代表者事項証明書には、法人の代表者に関する内容のみが記載されています。資格証明書の代わりとして用いられる書類であり、会社代表者の代表権に関する事項が記載されています。不動産の登記申請の際など、代表者の権限を証明する文書として用いられます。
閉鎖事項証明書
閉鎖事項証明書には、法人が閉鎖された内容が記載されます。清算結了の場合や、他の管轄の法務署に本店移転した場合、会社が組織変更した場合などは登記事項が閉鎖されます。これらの会社の内容を閲覧したい場合は、閉鎖事項全部証明書を求めることになります。
このように、それぞれの内容と役割ごとに使い分けられているのです。
榎本希
履歴事項全部証明書とは登記事項証明書の1種です。
登記事項証明書には
- ・現在事項証明書(商号や本店所在地などの取得した時点で効力のある情報が記載された証明書)
- ・履歴事項全部証明書(現在事項証明書に記載されている内容に加えて3年前の元日より変更された事項のすべてが記載されている証明書)
- ・閉鎖事項証明書(現在効力がなく、かつ履歴事項全部証明書にも記載されていない3年前よりも過去に遡った情報が記載された証明書)
- ・代表事項証明書(法人の代表者に関する内容のみが記載された証明書)
この4種類があります。
商業登記について
商取引の現場において、何より大切なものは互いの信頼です。取引を円滑に進めるためには、相手のことをよく理解することが必要でしょう。商業登記には法人に関する重要な事項が記載されており、これらを閲覧することで安心して取引することができるのです。
ここでは、商業登記に関する役割や効力について解説します。
商業登記の役割
商業登記は、法人に関する取引上重要な事項について、登記簿上に記載して広く一般に公開する制度です。法人にとって基本的かつ重要な事項を記載していることから、登記を見ればその会社の実態を知ることができるのです。
法務局に行けば誰でも閲覧できますし、簡単に取り寄せることも可能です。この制度により、これから取引する相手方がどんな法人であるのか判断できる役割を果たしています。
商業登記は、取引に関するトラブルを未然に防ぎ、円滑に取引を進める役割を果たすのです。
商業登記の効力
商業登記が有する効力はいくつかありますが、代表的な二つの効力について紹介します。
一つ目は公示力です。商業登記に記載する登記事項は、登記をしなければ当事者以外の第三者にその内容を主張することができません。逆に、登記をすることによって第三者に登記内容を主張し、対抗することができるようになります。
二つ目は公信力です。内容に誤りのある登記をした場合、それが故意であれ過失であれ、その内容をもって善意の第三者に登記内容を主張して対抗できません。つまり、間違った登記内容を元に取引に応じてしまった第三者を、保護する仕組みがあるのです。
いずれの効力も取引を安全かつ円滑に進めるためにその効果を発揮します。
商法・会社法の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは同様とする(会社法第908条1項)
故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることを持って善意の第三者に対抗することができない(会社法第908条2項)
榎本希
登記のの効力は
1.公示力(会社法第908条1項)
商法・会社法その他の法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができません。
つまり、登記をした後であれば原則としてこれをもって善意の第三者にも対抗できるということです。
2.公信力(会社法第908条2項)
故意又は過失によって不実の登記をした者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
主にこの2つがメインとなります。
このほかにも実体上の法律効果を与える形成力や、登記をすることにより責任が免除される免責力などがあります。
履歴事項全部証明書の記載内容と見方
履歴事項全部証明書は、法人の会社名や住所など、法務局に商業登記として登録されている会社の基本的な情報が掲載されている証明書です。
取引の円滑化のために利用されることの多い書面ですが、初めて見る人にとっては、見るべきポイントがうまく掴めない場合があります。その具体的な記載内容や見方について解説します。
商号や目的
履歴事項全部証明書には、その法人の名前である『商号』が記載されています。税金の申告や様々な契約の場面で使われる、その法人の正式な名前です。
また、事業の『目的』も履歴事項全部証明書に記載する必要があります。その法人が何をする会社なのかを明確にして、取引における信用力を維持する役割を果たすのです。
役員や組織に関する事項
株式会社の商業登記簿には役員が記載されます。履歴事項全部証明書の『役員に関する事項』と書かれた欄に、その会社の役員(取締役、代表取締役、監査役等)の氏名や代表者の住所を記載する必要があります。
その会社にどんな人物が関わっていて、どのような組織構成であるのか、履歴事項証明書を見ればその概要を把握できるのです。
榎本希
履歴事項全部記載内容に記載されている内容は
- 会社法人番号
- 商号
- 本店所在地
- 会社設立年月日
- 事業目的
- 株式会社であれば発行可能株式総数
- 役員に関する事項
- 役員の住所(代表取締役の住所)
- 登記簿謄本の発行日
- 整理番号
- 発行者
が記載されています。
登記事項証明書の取得方法
登記事項証明書は、重要な契約締結の際、または融資や助成金の申請の際などに提出を求められることがあります。
では登記事項証明書はどうやって手に入れることができるのでしょうか。ここでは登記事項証明書の取得方法について紹介します。
法務局の窓口
登記事項証明書は法務局の窓口で取得することができます。登記事項証明書の請求には、まず交付申請書用紙を取得する必要がありますので、法務局本局や支局、出張所の窓口で入手するか、法務局のホームページからダウンロードして取得しましょう。
申請書用紙に必要事項を記載して、所定の手数料分の収入印紙を貼ります。その後、法務局本局、支局、出張所いずれかの窓口に提出します。
郵送
登記事項証明書は郵送でも請求することができます。必要な事項を記入した申請書を、返信用の切手を貼った返信用封筒とともに、請求する土地または建物を管轄する登記所に郵送して請求することができます。
なお、申請書には連絡先の電話番号が必要になりますので忘れないように必ず記載しましょう。
オンライン
登記事項証明書は、オンラインによる交付請求ができます。
自宅にいながら簡単に交付申請できるので非常に便利な機能です。パソコンがあれば簡単に交付請求できますので、積極的に活用することをおすすめします。
これは登記事項証明書自体がオンラインで届けられるというものではなく、郵送か窓口で書類を受け取ることになります。利用時間は午前8時30分から午後9時までと制限があるので、時間外に交付請求しないように注意しましょう。
榎本希
登記事項全部証明書は手数料さえ支払えば誰でも取得することができます。
取得方法は法務局の窓口で取得をするか、法務省のホームページで交付申請書をダウンロードし、記入をした上で手数料分の収入印紙を貼り、返信用の封筒を同封し、法務局へ送る方法があります。
また、オンライン上で申請をし、法務局の窓口で受け取る方法や、郵送で受け取る事もできます。
手数料や有効期限について
会社や法人の登記事項証明書は、所定の料金を支払えば誰でも交付請求することが可能です。また、交付してもらった登記事項証明書には提出先によっては有効期限があり、その期限を過ぎると効力が失われてしまうので注意しましょう。
ここからは、登記事項証明書の手数料や有効期限について解説します。
登記情報提供サービスの手数料
登記事項証明書は、請求する方法によって若干手数料が変わってきます。以下、具体的な金額をそれぞれ紹介します。
- 書面での請求:600円
- オンラインでの請求(送付):500円
- オンラインでの請求(窓口での交付):480円
単位や1通の枚数について
登記事項証明書を請求するにあたり、特に決まった単位はありませんが、1通の枚数が50枚を超える場合は、超える枚数が50枚ごとに100円加算されることになります。50枚以上大量に請求する場合は超過料金が発生するので注意しておきましょう。
有効期限
登記事項証明書は有効期限があるため、時間が経つと効果がなくなり、使えなくなります。登記事項証明書を取得する際は有効期限を確認しておきましょう。
具体的な有効期限は、基本的には提出先によって異なります。書類の提出を請求される場合には「発行から6カ月以内の履歴事項全部証明書を添付してください」などの注意書きがありますので、提出の際は有効期限を確認するようにしましょう。
出典:登記簿謄本に有効期限がある? ○か×か!? | だいふく法務事務所
榎本希
手数料は請求の仕方と受け取り方によって異なります。
手数料を1番安くすませるにはオンラインで申請し、法務局の窓口で受けとる方法になり、こちらは1通480円です。
オンラインで申請し、郵送で受け取る場合には1通500円になります。
オンラインを利用しない場合には1通600円になります。
法務局が近くにないなどの場合には交通費なども考慮し、オンライン申請の上、郵送で受け取るのが1番費用が係らない方法といえます。
有効期限については提出先によりよって決まっています。
登記事項証明書の英語訳について
最近は国境の垣根も低くなり、海外の企業と取引をする日本企業も増えてきました。取引の場面では英訳された登記事項証明書を求められる場合があり、事前にその書き方を知っておくと取引が円滑に進みます。
登記事項証明書の英文翻訳の具体例や、翻訳サービスの活用方法、さらに公証役場で認証してもらう方法について解説します。
英文への翻訳の例
ここでは、登記事項証明書に記載される代表的な登記事項の英語翻訳例を紹介します。
- 会社:Corporation
- 商号:Corporate name
- 本店:Head office
- 会社設立の年月日:Date of incorporation
- 目的:Business purposes
- 役員に関する事項:Item regarding directors
これらの英語訳は、さまざまな国際間の取引の場面で使われる表記でもあります。基本的な単語は書けるように事前に準備しておくことも大切です。
サービスの活用
登記事項証明書の英訳のニーズが高まり、翻訳代行サービスも増えてきています。主に行政書士や司法書士の方が代行しているので活用してみても良いでしょう。
まれに資格を保有していない翻訳会社などが、報酬を得て翻訳サービスをする場合がありますがこれは法律違反になります。トラブルを避けるためにも、サービスを利用する際は有資格者にお願いしましょう。
英訳したものを公証役場で認証するには
英訳された登記事項証明書は私文書として取り扱われ、公証役場で認証を取得することができます。認証とは、文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたことを公証人が証明するものです。
外国において行使する文書には、公証人の認証を要するのが通常です。公証役場では認証費用1万1500円で取得できるので必要であれば利用しましょう。
外国での各種手続のために日本の公文書を提出する必要が生じ、その提出期間から、外務省の証明を取得するよう求められた場合、また日本にある提出国の大使館・領事館による認証(領事認証)取得に際して要求された場合にはアポスティーユが必要になります。
ハーグ条約に加盟していない国へ提出する公文書の証明についてはすべて公印確認となります。
榎本希
登記事項証明書に使用する英語は契約書に使用する英語と共通するものも多いです。
海外との取引などを想定している場合にはビジネスでよく使用される英単語について事前に知っておくと良いでしょう。
また、自分で翻訳するのが難しい場合や公正役場での認証まで行ってもらいたい場合には国際業務を専門に扱っているような行政書士や司法書士に依頼すると良いでしょう。
提出先がハーグ条約(外国文書の認証を不要とする条約)に加盟している国の場合にはアポスティーユを取得し、ハーグ条約に加盟していない国の場合には翻訳文を公証役場で認証してもらい、外務省で公印確認を取得する形になります。
個人事業主と登記
株式会社を設立する際は、商業登記をすることが法律で定められています。安心かつ安全な商取引を行うために、登記を要求することで広く一般に会社情報を公開するのがその目的です。
個人として活動する場合にも、商取引の安全性は保たれる必要があります。個人事業主として開業するにあたり、登記をする必要はあるのでしょうか。登記のメリットやデメリットを含め、解説していきます。
個人事業主ができる商業登記
個人事業主は、登記をする法的な義務は特にありませんが、登記すること自体は可能です。その場合は商業登記の申請を法務局で行う必要があり、具体的には次の4種類の登記があります。
- 商号登記
- 支配人登記
- 未成年者または後見人の営業(個人事業主が未成年者の場合)
- 商号の廃止・更生・消滅・抹消登記
法人ほど登記の種類は多くありませんが、登記手続きが終われば法人登記と同様に法務局で公開されるので、誰でも簡単に閲覧できるようになります。
登記のメリット
個人事業主が登記をする最大のメリットは、社会的な信用を獲得できるという点です。屋号を法務局に登録することで、銀行口座の名義に屋号を入れることも可能になります。また、金融機関からの借入の際も、提出書類の中に添付することで、一層の信用力を高めることができるのです。
登記のデメリット
登記する際のデメリットとして、費用がかかることがあげられます。登録免許税として3万円がかかり、登録の際に司法書士に払う報酬も負担しなければなりません。開業には、さまざまなお金がかかりますので、ここでの出費はデメリットと言えるでしょう。
また、登記申請には実印や印鑑証明、印鑑届出書など用意するべきものがいくつか発生します。定款や役員についても記載する必要があり、手続きに手間がかかるという点がデメリットとなります。
榎本希
個人事業主が関わる登記は
- 商号
- 支配人
- 商号の廃止、更生、消滅、抹消
- 未成年者又は後見人の営業
の4酒類となります。
メリットとしては、ゆくゆくは法人化を視野に入れている際に「屋号」が使えないという事を回避するために商号登記と商標登録をしておくことができる点や、社会的信用が得られやすくなる点が大きいでしょう。
また、屋号での口座開設をする際にもメリットがあります。
対してデメリットはやはり費用面です。商号登記を行う場合には3万円分の登録免許税がかかるほか、司法書士に依頼した場合には報酬も必要となります。
登記手続きの手順
登記の手続きでは、さまざまな項目を記入する必要があります。役所手続きはできる限り迅速に進める方が後々手間がかからず都合がよいでしょう。登記手続きの際に必要なものや、手続きの手順、注意点などについて、具体的に解説します。
登記に必要なもの
法務局に設立登記の申請をするにあたり、必要なものがいくつかあります。以下、具体的にあげていきます。
- 実印:商号がある会社の実印を法務局に届け出る
- 個人の印鑑証明書:会社の出資者全員と役員全員の印鑑証明書
- 定款:公証人役場で認証を受けた定款
- 設立総会の議事録:会社設立の際に開催した設立総会の議事録
- 出資金:会社の資本金となる出資金
- 設立申請書類:設立する会社の形式に応じた設立申請書類
法務局への申請と注意点
必要な準備が整えば、法務局へ赴き、会社の設立申請をすることができます。事前に作成した株式会社設立登記申請書を窓口に提出すれば申請が完了します。この手続きは本人がする必要はありません。時間がなければ司法書士などに代行してもらうことも可能です。
もし手続きの中で不備があれば法務局から電話で連絡があります。期間内に再び法務局を訪れて訂正する必要があるのです。設立手続きを迅速に進めるためにも、書類の内容をきちんと確認し、提出するものが一つも欠けることがないように注意しましょう。
榎本希
個人事業主が登記の際に事前に用意するものは
- 個人の実印及び印鑑証明書
- 印鑑届出書
- 商号登記申請書
- 3万円の収入印紙
法人が登記の際に用意するものは
- 定款
- 登記申請書
- 発起人の決定書
- 取締役の就任承諾書
- 代表取締役の就任承諾書(取締役が1名で代表取締役と兼務している場合には不要)
- 監査役の就任承諾書(監査役を設置する場合)
- 取締役の印鑑証明書
- 資本金の払い込みを証明する書類
- 印鑑届出書
- 登記すべき事項を記載したCD-R
まとめ
普段の生活の中であまり触れることのない履歴事項全部証明書ですが、さまざまな商取引を安全に進めていく上で重要な役割を果たしています。金融機関からの融資や助成金申請など、資金確保のためにも必要となる大切な存在でもあるのです。
しかし役所に申請する書類であることから、記載内容が細かく指示され、手続きも煩雑で分かりにくい面があるのも事実です。
履歴事項全部証明書は、ビジネスにとって大切な証明書です。この記事を参考にして、証明書の記載内容や、申請手続きの流れの概要を把握することで、スムーズに取引を進めていきましょう。