SLAとは
SLAの重要性は、これから解説する『SLAの定義』や『必要性』を知ることで理解できます。
SLAの定義
SLAとは、Service Level Agreement(サービス・レベル・アグリーメント)の略称です。『サービス品質保証』『サービス品質保証制度』『サービスレベル合意書』と訳されることがあります。
SLAには、サービスを提供する事業者が「利用者にどれほどの品質(サービスレベル)まで保証できるのか」が示され、万が一その品質を下回ったときのペナルティなどもきちんと書きあらわされています。
『サービスレベル合意書』と訳されることがあるのは、利用者が事業者のサービスレベルに合意し、サインした文書を指す場合もあるからです。
※SLAにおいて、ITサービスを提供する側は『提供者』や『事業者』、ITサービスの提供を受ける顧客は『委託者』や『利用者』などと呼ばれることもあります。
ですが、本記事では混乱を招かないためにも、提供する側を『事業者』、受ける側を『利用者』に統一しています。
SLAの必要性
今でこそ広く普及しているSLAですが、以前は多くの事業者がサービスレベルをはっきりと定めていなかったので、さまざまな問題が発生していました。
契約におけるあいまいな表現をなくすためにも、サービスレベルを明確にするSLAを導入し、『SLM』を行う事業者が増えています。
SLMとはService Level Management(サービス・レベル・マネジメント)の略称で、SLAにもとづいたサービスレベル管理を指します。
サービスレベル管理では、具体的に以下のことが行われています。
- サービスを構成する機材・システム・作業プロセスなどの稼働状況や対応状況を記録する
- 品質が水準を維持しているか検査する
- 状況に応じて、SLAの見直しや再検討などを行う
SLAの基礎知識
SLAの基礎知識として欠かせないのが、さきほどから何度も登場している『サービスレベル』の存在です。サービスレベルとは何かを理解すれば、SLAの目的と効果がおのずと見えてきます。
また、この章ではSLAと切っても切れない『契約』との関係性も解説します。
サービスレベルとは
サービスレベルは、誤解を招かないように明確に定める必要があるため、合理的な計算から導き出した数値が用いられます。その代表する数値の1つが、後ほど詳しく解説する『稼働率』です。
目的と効果
SLAの目的は、サービスの内容・提供範囲・品質・サービスレベル・運営ルールを明確にして、サービスに関するあいまいな点をなくし、事業者と利用者の間で共通の認識を持たせることです。
代表的な効果の1つに、『サービスレベルの管理』があります。共通の認識を持っていれば、サービスレベルを適切に管理でき、コストも算出しやすくなるのです。
また、SLAによって事業者と利用者の責任範囲がはっきりとしているので、両者ともに説明責任が果たせますし、信頼関係を築くことにもつながります。
他にも、報告を受けたり手直ししたりすることで、システムが直面している問題や課題がわかるといったメリットがあります。
SLAと契約
SLAは事業者と利用者にとって大変重要なものではありますが、SLA単独で締結するというよりは、契約書に付属している資料の1つとして、取り交わされることがほとんどです。
SLAを確認したいときは、件名・期間・納入場所・金額・契約保証金などが書かれている契約書とは別の資料に目を通しましょう。
資料に書かれている『前提条件』『運営ルール』『責任と役割』『サービスレベル』『結果対応』『業務の範囲』といったものがSLAにあたります。
資料は文字数も多く見落としやすいですが、SLAをはじめ大切な情報が書かれているので、必ずチェックすることをおすすめします。
SLAで求められるもの
ひとくちにSLAといっても、業種・業態・システムの目的などが変われば、求められるSLAも違ってきます。ですが、共通する項目がまったくないわけではありません。
SLAで求められる主な項目を知って、SLAの締結に役立ててください。
セキュリティ
『セキュリティ』は、事業者にとって重要な課題の1つです。ITサービスを提供する事業者ならば、企業の大きさは関係なく絶対に外せないものですし、利用者もチェックすべきポイントです。
セキュリティには、データを変換してもとの情報がわからないようにする『暗号化』や、適切な権限を持つ人だけが必要に応じてアクセスできるようにする『アクセス管理』などの項目があります。
関係会社のセキュリティ対策も確認しておいて損はありません。また、万が一のトラブルに備えて、『バックアップ』があるかどうかもあわせてチェックしましょう。
バックアップとは、障害が発生して現状のデータや設定が使用できなくなった場合に備え、予備のデータを用意する行為や、用意した予備データを指します。
データの保護は事業者が力を尽くすべき課題ではありますが、さまざまなサービスがある以上、利用者の判断も重要というわけです。
有事の対応
何らかのシステム障害が発生した際、事業者側がどういった対応をとるのかも、事前に確認したいポイントです。
システム障害のせいで利用者側に損害が発生したとしても、SLAで設定されている以上の対応は期待できません。
何かあってから後悔しないためにも、
- システム障害の定義
- システム障害が起こったときの代わりになるアクセス方法
- 補償制度
- 障害に関するレポート
などをチェックしておきましょう。
コスト
利用するITサービスを選ぶにあたって、コストは絶対に外せないポイントです。
たとえばクラウドサービスを利用する場合、利用環境などに合った『ストレージ』『利用頻度』『トラフィック』などの見当をつけることが、コスト削減につながります。
ストレージとは、パソコンのデータを長い間保管するための補助記憶装置を指します。
トラフィックは、ネットワーク上の通信量のことです。トラフィックが大きくなるにつれ、データを送信するのに時間がかかって、通信速度も落ちてしまいます。
サービスの品質は高いほうがいいとはいえ、欲張るとコストが増える一方です。最適なコストを見極めるためにも、事前のシミュレーションを入念に行いましょう。
SLAの構成内容
ここではSLAを構成する項目である、
- 前提条件
- 委託業務の範囲
- 責任
- サービスレベルの評価方法
- 結果対応
- 運営ルール
を詳しく解説します。
SLAでこれらの項目を明確にすることで、提供者と利用者の間で共通の認識が持てるようになります。
前提条件や業務範囲の明確化
SLAの『前提条件』では、サービスレベルに関する前提条件が明確にされています。
この項目では、サービスレベルに関わる業務量・拠点数・末端数などの前提条件をはっきりさせることが重要なポイントです。
『委託業務の範囲』では、利用者が外部に委託する場合の業務が定められていて、どのような業務が委託されるのかを具体的に明記します。
責任の明確化
提供者と利用者の責任をはっきりさせることも、SLAの重要な役割です。サービスを構成する項目に対して、どのような責任と役割を持つのかを提供者と利用者でそれぞれ明確にします。
評価方法や対応、運営ルールの明確化
サービスレベルを評価するための数値をどのように測定するのかも、構成の1つとして盛り込まれています。サービスレベルの測定方法を明確にすることで、認識の食い違いを防げるというわけです。
万が一、サービスレベルが満たなかった場合の対応は『結果対応』の項目で定められています。
『運営ルール』では、月次の報告ルールや会議体運営のルールが設定されていて、SLAを守るためにも必要な項目です。
合意に必要な要件を押さえておこう
サービスレベルの合意には、『サービスの定義』『サービスレベル』『コスト』の3つが重要な鍵をにぎっています。
サービスの定義
サービスがどのようなものなのかが明確でなければ、契約の締結にはいたりません。
どのようなサービスを提供するのかという具体的な内容も大切ですが、サービスレベルが「測定できるものであること」が重要なポイントになります。
サービスレベル
測定できるサービスレベルには、『稼働率』『遅延時間』『復旧にかかる時間』などがあります。ただし、事業者によってはSLAに盛り込めない項目があるので、注意が必要です。
たとえば、ネットワーク事業者の回線を利用しているクラウドサービス事業者が「通信障害が起こってサービスレベルが達成できない」となっても、通信障害の発端はネットワークのパフォーマンスです。
このケースでのサービスレベルの未達成は、クラウド事業者が約束できるものではないので、SLAに盛り込むのは困難となります。
コスト
サービスレベルに達しなかった場合、サービスレベルを達成するためのコストが発生します。サービスレベルが未達成となった場合のペナルティも、コストのうちの1つです。
優れた稼働率を叶えるためには、それだけのコストがかかるということも覚えておきましょう。
明文化しないことで起こる問題とは
『サービス定義』『サービスレベル』『コスト』『考えられる環境の変化』を明文化しないと、さまざまな問題が発生します。
納得したうえでSLAを取り交わし、安心してサービスを利用するためにも、明文化しないことで起こる問題を知り、その重要性を認識することが大切です。
サービス定義やサービスレベルにおける問題
サービス定義やサービスレベルにあいまいな部分があると、利用者は「どんなサービスをどれだけ提供してもらえるのか」がわかりません。
となると、「サービスを受けて初めて、具体的な内容がわかった」なんてことや、場合によっては「トラブルが起こってから知った」という事態も起こりえます。
逆に、事業者が「契約にそって十分なサービスを提供している」と考えていても、利用者は「もっといいサービスを提供してもらえると思っていたのに…」という認識の違いが生まれることもあるのです。
コストにおける問題
コストを算定する根拠があいまいな場合も、トラブルが発生しやすいです。
たとえば、情報システムなどに関わるサービスに必要なコストが、どのようにして算定されたのかわからない場合、利用者はそのコストが高いのか安いのかを判断できません。
コストによってサービスレベルが左右されるわけなので、コストの算定根拠がはっきりしないことには、SLAを取り交わすのは厳しいといっていいでしょう。
環境の変化における問題
契約期間が長くなると、避けて通れないのが環境の変化です。時間とともに環境が変わるのは仕方のないことではありますが、変化に関わる項目をはっきりさせないと、認識の違いが生じてしまいます。
環境の変化に関わる項目には、『業務システムのリニューアル』『技術革新』『人材マーケットの相場の変化』などがあげられます。どれもコストに直結するものなので、軽く見てはいけません。
条件は必ず確認しよう
たとえば、クラウドサービス事業者の場合、『サーバー』『ネットワーク』『ストレージ』『管理ポータル』など、それぞれの項目でSLAを定めることが多いです。
ところが、事業者ごとに『補償内容』と『稼働率』が違うため、SLAの利用規約に目を通していないと、万が一の事態に陥ったときに「返金が受けられない」ということも起こりえます。
以下の場合も、返金してもらえるかどうか、しっかり確認することが大切です。
- 火災や停電などの災害が起こったとき
- 事業者の設備以外で不具合が生じたとき
- ドライバーもしくはOSに不具合が生じたときなど
ドライバーとは、コンピュータの装置や周辺機器を操作したり制御したりするソフトウェアを指します。
OSは、Operating System(オペレーティング・システム)の略称で、コンピュータの同時変更処理や入力などを管理している、いわばコンピュータの土台のような存在です。
キーボードをタッチすると画面に文字が表示されますが、これはOSの機能によるものです。
稼働率についてのポイント
SLAはあいまいな表現を避けるために、数値で測定できる基準が用いられていて、その1つが『稼働率』です。「SLAとは稼働率のこと」と誤解されやすいですが、稼働率はSLAの基準の1つすぎません。
稼働率が具体的に何をあらわすものかを知ると同時に、読み方のポイントを押さえましょう。
稼働率とは
稼働率とは、『全時間』に対する稼働時間の割合のことで、計算式は『{(全時間-システム停止時間)/全時間}×100』です。
全時間の期間はSLAによってまちまちで、1年に設定されていることもあれば、1ヵ月ということもあります。
システム停止時間は『ダウンタイム』とも呼ばれていて、障害などさまざまな原因によってシステムが停止した際、復旧までにかかる時間を指します。
稼働率の高さから、故障の頻度や復旧までにかかる時間を想定できるというわけです。
読み方のポイント
年間の稼働率が99%のケースでは、ダウンタイムは4日程度、稼働率が99.9%なら停止時間は9時間程度、稼働率が99.99%なら1時間程度と想定されます。
利用者の心理としては、99.99%の稼働率に魅力を感じますが、99.99%という数値であっても、年中フル稼働しているわけではありません。
停止する理由はさまざまですが、どんなに数値が高くても停止することがあるということを覚えておきましょう。
稼働率が高くなるほどコストも増えるという問題もあるので、利用者に合った稼働率を見極めることが大切です。
まとめ
SLAには、サービスを提供する事業者が「利用者にどれほどのサービスレベルまで保証できるのか」が示されています。
サービスレベルは、事業者と利用者の間で認識の違いが生まれないように、明確に数値化されていることがポイントです。
故障の頻度や復旧にかかる時間などが読み取れる稼働率をはじめ、サービスレベルにはさまざまな評価項目が設けられています。
SLAに求められるものは業種などによって異なりますが、大切な情報やデータを守るセキュリティ・障害が発生したときの対応・コストはしっかりチェックしておきましょう。
ITサービスは目に見えにくいものだからこそ、SLAのような制度は事業者と利用者の信頼関係を築くうえで欠かせません。
認識の食い違いによるトラブルを防ぐためにも、SLAの確認は慎重に行うことをおすすめします。