今さら聞けないSI(システムインテグレーション)業界の特徴と課題

SIとは『システムインテグレーション』のことです。ここでは、システムインテグレーションとは何か、その概要を説明します。システムインテグレーションを提供する企業であるSIerの課題や、今後の展望についても紹介します。

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SIとは?

『SI』とは『システムインテグレーション』の略語です。IT業界に携わらなければ耳にする機会は少なく、聞いたことはあってもピンと来ない人も多いのではないでしょうか。

まずは、SIの概要や具体例、そして『SE』との違いも見てみましょう。

システムインテグレーション

システムインテグレーションとは、企業の情報システムの定義・設計・開発・構築・運用・保守・管理までのすべてを指します。

具体的には、ハードウェアの選定や調達、設置、さらにOSやデータベースの選定や調達と設置が含まれるほか、契約書やマニュアルの作成、現場のサポートやトラブル対応も、システムインテグレーションです。

すべてのシステムインテグレーション工程を、発注を受けた企業が行うわけではなく、規模が大きい場合は部分的に外部へ発注することも珍しくありません。

具体例

システムインテグレーションを考える際、全国に広がる銀行のオンラインシステムをイメージするとわかりやすいかもしれません。

昔は銀行に預けたお金は、口座を持つ窓口でしか下ろせませんでした。しかし全国を包括するネットワークが構築され、現在は全国の支店やコンビニで自由にお金を下ろせるようになっています。

銀行にこのような革新をもたらした新システムの、要件定義から開発、ネットワークの構築、保守管理までがシステムインテグレーションです。

銀行のシステムのように社会全体に影響を及ぼすものから、企業内の小さな規模のものまで幅広く、多様な場所で使われています。

SIとSEの違い

SEとは『システムエンジニア』の略でシステム構築にかかわるIT技術者を指します。SIとは前述のとおりシステムインテグレーションの略で、システム構築と運用にかかわるすべての工程の総称です。

SIが『サービス』を指すのに対し、SEは『人』を指すため、字面は似ていても意味合いは全く異なります。

IT業界にいると『SEがSIに参加する』という紛らわしい文章を目にする機会もあります。両者の違いをきちんと理解しておきましょう。

SIerとは?

SIと並んで目にする機会が多いのが、『SIer』(エスアイヤー)という言葉です。これもシステムインテグレーションの派生と言える言葉ですが、どのような意味をもつのでしょうか。

SIerの概要や種類を紹介します。

SIを行う事業者のこと

SIerとは、『System Integrator』(システム・インテグレーター)の略語で、SIを請け負う企業を指します。クライアントから発注された依頼を実現するため、システム開発にかかる全行程を統括し、適切にコーディネートするのが仕事です。

ちなみにSIerは和製英語なので、海外では略さずに「System Integrator」と言わないと通じないので注意してください。

SIerの種類

日本ではバブル崩壊とIT化の波がほぼ同時期に訪れました。

多くの企業は自社でエンジニアを育てる余裕が無く、ITの外部への発注をしました。これがSIerの原型です。現在あるSIerは、その成り立ちによって次の3種類に分けられます。

  • メーカー系
  • ユーザー系
  • 独立系

『メーカー系』はPCなどハードウェアを作っている企業とそのグループ企業群です。自社のハードを使ったワンストップの提案に強みがあります。

『ユーザー系』は、大企業の情報システム部門から独立した企業群です。特定の業界で培ったノウハウを元にして、さまざまな業界の企業にシステムを提供します。

最後の『独立系』は、システムインテグレーションのために設立された企業群です。メーカーなどにとらわれず、最適なハード・ソフトの選択ができます。

SIとWebの仕事を比較

同じIT系の仕事としてSIとよく比較されるのがWebサイト制作など、Web系のサービスを提供する『Web系』の仕事です。ここでは、SIの仕事とWeb系の仕事について、それぞれの内容や業務形態を比較します。

Webの仕事とは

Webの仕事は、自社で独自のWebサービスを作り、ユーザーに提供するのがメインです。他社の社内システムなどを構築し、納品するSIとは異なり、独自のWebサービスを運用して収益を上げていきます。

プロジェクトは小規模なものが多く、仕様書やドキュメントなどよりも現場のコミュニケーションを重視した開発が行われます。代表例としては、GoogleやYahoo、Amazonなどが有名でしょう。

SIとWebの違い

SIとWebを比較すると、大きな違いは働き方にあります。

まず、SIのエンジニアはクライアントから発注された依頼に基づき、その要求に正確に応えるのが仕事です。仕様書の通りに工程を進め、納期に合わせて完成させなければなりません。

一方でWebのエンジニアは自社で独自のWebサービスを作ってゆくため、基本的なITスキルはもちろん、進んでユーザーのニーズを掴んだ有益な開発を提案・検証し、事業に貢献することが求められます。言われた通りの仕事をやるだけでは評価されにくく、幅広いスキルを持つほど有利です。

SI業界の課題

IT技術の発展や普及に伴い、SI業界の未来も明るいように見えます。しかし、SI業界特有の課題があることも忘れてはいけません。ここでは、SI業界が抱える課題について考えてみましょう。

慢性的な人手不足

IT業界全体が慢性的なエンジニア不足に陥っており、SI業界も例外ではありません。

エンジニアが不足する理由としては、労働時間に対して収入が見合わないケースがあったり、目まぐるしく変わる市場の成長に追いついていけるエンジニアが少なかったりなどの理由が挙げられます。

優秀なエンジニアは企業で奪い合いとなるため、多くのSIerが人材の確保に悩まされているのです。

労働環境の悪さも問題に

エンジニアが不足する原因の一つとして、『3K』と呼ばれる労働環境も上げられます。

『3K』とは一般的には『きつい、汚い、危険』を指す言葉として知られていますが、IT業界では『きつい、厳しい、帰れない』と言われます。納期に間に合うように無理な労働環境になったり、トラブルが収束するまで家に帰れなかったりする場合もあるのです。

こうした話を聞いて、エンジニアになることをためらう人がいるという現状があります。

高コスト体質と多重請負構造

複数の下請けを介する『多重請負構造』はSI業界の抱える問題の一つで、建設業界に例えて『ITゼネコン』とも呼ばれます。

一般的に、大型プロジェクトは大手SIerから一次請け企業へ、一次請け企業から二次請け企業へ発注され、スケジュールや仕様を決めるのは発注元企業と大手SIerです。下請けや孫請けの企業は下流工程ばかりを任されることとなり、やりがいを感じにくくなります。

また、こうした多重請負構造がSI業界の高コスト化を招いているという声もあります。一つのプロジェクトに多数の会社が加われば、それぞれが中間マージンを得ます。各請負企業がマージンを得ていけば、トータルマージンは高額になります。

これがSI業界全体のコストを底上げしており、日本のSIコストが割高と言われる要因の一つです。

クラウド化への対応

クラウドの普及によって、SI業界は大きな打撃を受けると言われています。

クラウドとはネットワーク経由でソフトやサービスを利用できる仕組みです。システム構成や条件を管理画面で設定することで、すぐに最適なインフラを用意することができます。システム資源の拡張や縮小も管理画面から簡単に行うことができるため、工数や工期の削減が可能です。加えてインターネット環境さえあればどの端末でも利用できるため、作業効率もアップするでしょう。

現在、SIerが要件洗い出しから要件応じたシステムインフラの決定、機材の購入とサーバー環境の構築・テスト・サーバーの運用管理を行うことが主流です。

クラウド化が進めば、顧客は個別にシステムインフラを用意する必要がありません。機材の購入とサーバー環境の構築・サーバーの運用管理などの作業についての工数はかなり削減できることになります。

システムのクラウド化の流れは、今後ますます加速していくとみられます。SIerは既存のビジネスモデルに固執せず、いかにクラウド化に対応するかが大きな課題となるでしょう。

SIで重要なポイント

SIerで働くエンジニアは、自社サービスを持つ企業のエンジニアとは求められる役割が異なります。

求められるのはあくまでも、発注企業の要求通りのものを作ることです。優秀なアルゴリズムを組むなどのクリエイティブな働きをしても、良い評価が返ってこない場合もあります。

SI業界でエンジニアとして働く場合、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。

IT業界全体の動向に関心を持つ

進歩著しいIT業界では、新しい技術が次々と生まれており、業界の流れに注視しておくことは重要です。

例えば現在注目を集めている『コードレス開発』は、今後のSI業界にも大きな影響を与えると見られています。

コードレス開発とは、プログラミング言語によるコーディングを行わずにシステムを作り上げる仕組みです。これが浸透すれば『仕様をコード化する仕事がメインのプログラマー』は不要になると言われています。開発の波は2020年、25年に訪れると言われており、SIの現場にも大きな変化が起きると予想されているのです。

IT技術の発展がSI業界に与える影響は甚大です。業界に身を置くなら、普段から業界全体の動向に関心を持ち、変化を注視しておく必要があるでしょう。

スキルアップを続ける

2025年に訪れると予想されているIT革命以後は、エンジニアの需要が『システムを開発できる人』『新しいシステムを使いこなせる人』に集中すると言われています。SI業界で生き残っていくには、現在のスキルに満足せずスキルアップを図っておくべきでしょう。

また、キャリアパスを考えた場合、要件定義などの上流工程や、マネジメントの経験があると有利です。チャンスがあれば、積極的に参加することをおすすめします。

まとめ

SIにはシステム構築の要件定義から運営保守、管理まですべての工程を含みます。携わる工程が多いため、SIerで働く場合は上流工程から下流工程まで、さまざまな現場に立ち会うことになるでしょう。

SI業界には、多重下請け構造や労働環境問題など、さまざまな課題もあります。今後の展望に厳しい見方をしている人も多く、エンジニアとして生き残るには新しいスキルや技術を積極的に得ていく必要があると言えます。

donguri

銀行システムを専門とする企業で要件の検討・設計から運用まで20年程携わった後、独立。現在は主にJAVAやPython・PHPなどWeb系言語での開発を行っている。

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