AIエンジニアとはどんな職業か
ChatGPTやGemniなどの生成AIが急速に普及し、AIエンジニアの需要も高まっています。未経験からAIエンジニアを目指そうとしている人も多いのではないでしょうか。
まずは、AIエンジニアがどのような職業なのかを見ていきましょう。意外と知られていない仕事の内容や活躍の場について詳しく解説します。
AIエンジニアの定義
AIエンジニアとは、人工知能(AI)を使って仕事をするエンジニアのことです。機械学習モデルの開発からデータ分析、システムの実装まで幅広い業務を担当します。
具体的には、企業が持つ大量のデータを活用して、需要予測や画像認識、おすすめシステムなどを構築します。
例えば、ネットショップでお客様の購入履歴を分析して「この人にはこの商品がおすすめ」と判断するシステムを開発するのがAIエンジニアの仕事です。
AIエンジニアは単にプログラムを書くだけではありません。ビジネスの課題を理解し、それをAI技術で解決できる形に変換する能力が求められます。技術とビジネスの橋渡し役として、企業の競争力向上に直接貢献する職業といえるでしょう。
他のエンジニア職(ソフトウェア・データサイエンティスト)との違い
AIエンジニアと他の技術職には明確な違いがあります。
ソフトウェアエンジニアとの違い
一般的なソフトウェアエンジニアは、Webサイトやアプリケーションの開発が中心です。一方、AIエンジニアは機械学習や深層学習の技術を使って、データから学習するシステムを構築します。
使用する技術もPythonや機械学習フレームワークが中心となり、JavaやJavaScriptとは異なります。
データサイエンティストとの違い
データサイエンティストとの違いは、役割の重点にあります。データサイエンティストは「データを分析して答えを見つける人」で、AIエンジニアは「その答えを実際に動くシステムにする人」です。
例えば、売上データから「雨の日はカサの売上が伸びる」とわかったとします。データサイエンティストはここまでが仕事ですが、AIエンジニアは天気予報と連動してカサを自動でおすすめするシステムを作ります。
項目 | AIエンジニア | ソフトウェアエンジニア | データサイエンティスト |
主な業務 | AI・機械学習システムの開発 | Webアプリ・システムの開発 | データ分析・洞察の発見 |
使用技術 | Python、TensorFlow、PyTorch | Java、JavaScript、PHP等 | Python、R、統計ツール |
データとの関わり | データ前処理・モデル構築 | データベース設計・操作 | データ分析・可視化 |
活躍の場(IT・製造・医療・金融など)
AIエンジニアは様々な業界で活躍しています。
IT業界では、ECサイトの商品推薦機能、SNSの自動翻訳機能、動画サイトの興味のある動画提案機能などを開発します。これらのシステムは、ユーザーの行動データを分析して個人に最適化されたサービスを提供するために不可欠です。
製造業では、製品の傷を自動で見つける品質管理システムや、機械の故障を事前に予測する設備保守システムを構築します。画像認識技術により人間の目では見つけにくい微細な欠陥も発見でき、予知保全により突然の設備停止を防ぐことができます。
医療業界では、レントゲン写真から病気を発見する画像診断支援システムや、効果的な薬の組み合わせを予測する創薬支援システムが開発されています。医師の診断をサポートし、より早期の発見や治療につながっています。
金融業界では、ローンの貸し倒れリスクを判定する審査システムや、怪しい取引を自動で検出する不正防止システムが活用されています。膨大な取引データからパターンを見つけ出し、リスクを事前に察知することで金融機関の安全性向上に貢献しています。
このように、AIエンジニアはあらゆる業界で求められている職種です。業界の専門知識と技術力を組み合わせることで、より価値の高いエンジニアになることができるでしょう。
AIエンジニアの仕事内容
AIエンジニアは具体的にどのような作業をしているのでしょうか。実際の業務内容を詳しく見ていきましょう。
モデル設計と構築(機械学習・深層学習)
これはAIエンジニアのメインとなる仕事です。ビジネス課題に応じて最適な機械学習モデルを設計・構築します。
主な作業内容は以下になります。
- アルゴリズムの選定:課題に適した機械学習手法の決定
- モデルアーキテクチャの設計:ニューラルネットワークの構造設計
- ハイパーパラメータの調整:モデルの性能を最大化するパラメータ設定
- 学習プロセスの実装:効率的な学習アルゴリズムの構築
メールの迷惑メール判定システムを例に考えてみましょう。AIエンジニアは、過去の大量のメールデータを使って「これは迷惑メール」「これは普通のメール」を正確に判断できるプログラムを開発します。
送信者情報、件名の特徴、本文のキーワードなどを分析し、迷惑メールの特徴を学習したモデルを構築するのです。
データ収集・加工・分析業務
AIを作るためには、良質なデータが必要です。この準備作業が実は最も時間のかかる工程で、全体の作業時間の約70%を占めることも珍しくありません。
データ処理の主な作業は以下の通りです。
- データソースの特定:必要なデータがどこにあるかを調査
- データ収集の自動化:API連携やスクレイピングによるデータ取得
- データクリーニング:欠損値処理、異常値の除去、重複データの排除
- 特徴量エンジニアリング:AIが学習しやすい形にデータを変換
データクリーニングと呼ばれる作業で、欠損値の処理、異常値の除去、重複データの排除などを行います。例えば、顧客の年齢データに「999歳」という明らかに間違った値があれば、これを修正または除去する必要があります。
この工程は地味に見えますが、AIの性能を決定する重要な作業です。質の高いデータがあれば、それほど複雑でないアルゴリズムでも優秀な結果を出すことができます。
モデルの学習・評価・改善
構築したモデルを実際に学習させ、その性能を評価して継続的に改善する業務です。
学習・評価・改善の流れは以下になります。
- 学習データの準備:訓練用・検証用・テスト用データの分割
- モデルの学習実行:大量のデータを用いた機械学習の実施
- 性能評価:精度、再現率、F値などの指標による評価
- 改善策の検討:性能向上のためのアプローチの立案・実行
性能評価では、精度、再現率、F値などの指標を使ってAIの予測能力を数値化します。例えば、病気の診断AIなら「実際に病気の人のうち何%を正しく診断できたか」「健康な人を間違って病気と診断してしまう確率はどの程度か」といった観点で評価します。
評価結果をもとに、モデルの改善を行います。学習データを追加したり、アルゴリズムのパラメータを調整したり、場合によっては全く異なる手法を試したりします。この改善プロセスは何度も繰り返され、実用に耐える精度に達するまで継続されます。
実装とシステム連携(API化やクラウド連携)
開発したAIモデルを実際のシステムに組み込み、本番環境で動作させる業務です。
システム実装の主な作業内容は以下の通りです。
- API設計・開発:他システムからAI機能を呼び出せるインターface作成
- クラウド環境への展開:AWS、Azure、GCPなどでの運用環境構築
- 既存システムとの連携:ERPやCRMなどの基幹システムとの統合
- パフォーマンス最適化:レスポンス時間やリソース使用量の改善
クラウド環境への展開も重要な作業です。AWS、Azure、Google Cloud Platformなどのクラウドサービスを活用して、大量のアクセスにも対応できるスケーラブルなシステムを構築します。
既存の基幹システムとの連携も必要です。ERPシステムやCRMシステムなど、企業が既に使用しているシステムとAIを連携させることで、業務プロセス全体を最適化できます。
チーム内での役割(PoC開発・プロジェクト参加)
AIエンジニアは一人で作業するのではなく、多くの関係者と協働してプロジェクトを進めます。
チーム内での主な役割は以下になります。
- PoC(概念実証)の開発:アイデアの実現可能性を検証する小規模システム構築
- 技術的な意思決定:採用技術やアーキテクチャの選定
- 他部門との調整:ビジネス部門やインフラチームとの連携
- 技術的な課題解決:プロジェクト進行中の技術的問題への対応
プロジェクト内では、技術的な意思決定を行う役割も担います。どのAI技術を採用するか、どのようなシステム構成にするかといった判断は、AIエンジニアの専門知識に基づいて行われます。
これらの業務を通じて、AIエンジニアはビジネス価値を創出する重要な役割を担っています。技術的なスキルと併せて、ビジネス理解力とコミュニケーション能力も身につけることで、より価値の高いエンジニアになれるでしょう。
AIエンジニアのやりがいと大変さ
実際にAIエンジニアとして働く上での喜びと困難を理解しておきましょう。現場で働く人の声をもとに、リアルな体験をお伝えします。
自動化による課題解決の達成感
AIエンジニアが感じる最大の喜びは、技術で問題を解決できることです。
業務効率化の実現では、8時間かかっていた作業を10分に短縮したり、人間のミスをなくして品質向上を図ったり、スタッフがより創造的な仕事に集中できる環境を創出したりできます。
新しい価値の創造では、今まで不可能だった予測を実現し、お客様の満足度向上による売上増加を図り、データから新しいビジネスチャンスを発見することが可能です。
社会への貢献も重要なやりがいの一つです。医療分野では病気の早期発見で患者さんを救い、環境分野ではエネルギー効率化で地球環境を守り、教育分野では一人ひとりに最適な学習を提供できます。
技術革新のスピードと学習の大変さ
一方で、AIエンジニアには継続的な勉強が必要という大変さもあります。
技術の変化スピードは非常に速く、毎年より優秀なAI技術が登場し、使用するソフトウェアが頻繁にバージョンアップされ、ベストプラクティスが数年で変わることもあります。
効果的な学習の続け方として、情報収集の習慣化が重要です。技術ブログや論文の定期チェック、TwitterやLinkedInでの情報収集、勉強会やセミナーへの参加を継続します。
実践的な学習では、個人プロジェクトでの新技術試用、データ分析コンペへの継続参加、社内での知識共有を行います。
チームとの協働/コミュニケーション力の重要性
AIエンジニアは技術力だけでなく、人とのコミュニケーションも重要です。
様々な人との連携が必要で、営業・企画部門では要求の聞き取りと課題の整理、技術的な制約の説明、プロジェクト進捗の報告を行います。
他のエンジニアとは、チームでのシステム開発、コードのレビューと改善、技術的な知識の共有を行います。経営層には、AIプロジェクトの効果説明、予算と期間の相談、リスクと対策の提示を行います。
AIエンジニアとして長期的に活躍するためには、技術力とコミュニケーション力をバランス良く伸ばすことが重要です。
大変さもありますが、それを上回るやりがいと成長を感じられる職業といえるでしょう。自分の性格や価値観と照らし合わせて、AIエンジニアという職業が自分に適しているかを判断することをおすすめします。
AIエンジニアは未来を創る仕事
AIエンジニアは、機械学習や深層学習の技術を活用して、ビジネス課題の解決や新たな価値創造を行う専門職です。
データの前処理からモデル構築、システム実装、運用改善まで、幅広い業務を担当します。IT、製造、医療、金融など、あらゆる業界でその専門性が求められており、今後も需要の拡大が見込まれるでしょう。
AIエンジニアの仕事は、技術革新のスピードが速く、継続的な学習が求められる大変さがあります。
一方で、自分が開発したシステムで業務が効率化されたり、社会課題が解決されたりする大きなやりがいを感じられます。技術の力で未来を変えていく実感を得られることは、この職業ならではの魅力でしょう。
AIエンジニアという職業は、単なる仕事を超えて、社会の未来を創造するやりがいのあるキャリアです。興味を持たれた方は、ぜひ挑戦してみることをおすすめします。