編集未経験の若尾真実が、たった一人で挑んだオウンドメディア運営

「仕事って辛いよな」と思う瞬間ありませんか? でも、その辛さを感じると同時に仕事に熱中している自分に気づく瞬間があるのも事実。そこで、この連載「一人はつらいよ」では、「辛い辛い」と言いながらも会社や社会で他人にはできない業務を楽しんでいる“一人肩書き”の方々に光を当てます。

今回登場するのは、衣服生産プラットフォームを運営するスタートアップのシタテル株式会社で、「sitateru WEARE(ウィア)」というオウンドメディア・コミュニティを運営する編集長の若尾真実さん。ファッションとテクノロジーをテーマに特集を企画したり、自社事例を取材したり。それだけでなく、ときにはファッション業界のハブとなるようなイベントを開催するなど、プラットフォームとしてできることに最大限チャレンジし続けています。

編集未経験ながらも社内で「一人編集部」として活動するようになった彼女は、どのような思いで仕事をしているのでしょうか。

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ファッションテック企業で、なぜメディア運営?

そもそもファッションとITを専門とするシタテルが、なぜオウンドメディアを運営しているのですか?

若尾:シタテルはデザイナーや工場、服にまつわるストーリーが集積するプラットフォームなので、PR戦略のひとつとして自社メディアは相性がいいと考えていました。私たちの会社では、ファッションブランドの衣服だけでなく、ワークウエアや企業のオリジナルアイテムなども生産しています。ただ、こうした服は製造するタイミングが常にあるわけではありません。だから、ブランドや企業の方々と継続的に接点を持って、シタテルが魅力的な会社だと思ってもらえるようなメディアとコミュニティを作りたいと考えました。

組織の中でのオウンドメディアの位置付けはどうなっているんですか?

若尾:最初は社長直下で組織もないようなところからスタートし、事例紹介を中心に発信していました。その後、2018年4月に「WEARE」という独立したメディアになったことで、事業開発部におけるメディア事業として運営することになったんですね。そして、2019年9月からは戦略広報部という部署に配置されています。

部署異動が多いんですね。

そうですね。ベンチャーなので頻繁に部署編成があります。ただ、やっていることはずっと変わりません。どんな目的で何を作るのか。その方向性を常に考えてメディアを運営しています。

なぜ若尾さんが「WEARE」を担当することになったんですか?

若尾:私は、企業の事例紹介のテイストにずっと違和感を感じていたんです。だから、クライアントの方々が掲載されて嬉しいメディアにしたいと思ったんです。そのためには写真をきちんと撮って、丁寧に取材する必要もある。メディアとしては当たり前のことですが、社内でそんなことをできる人間が他にいなくて、私一人で運営することになったんです(笑)。

なるほど(笑)。これまで編集経験はあったんですか?

若尾:ありません。だから、協力してくれる周りの編集者の先輩に教えてもらいながら手探りで作っています。ただ、前職がPRエージェンシーだったので、どう見せれば商品をメディアに掲載してもらえるかという視点で企画を考えることは得意で。それは記事の内容を考えるときに役立っていると思います。

「一人編集部」ならではの社内との関わり方

オウンドメディアはKPIの設定が難しいですよね。

若尾:ブランディングって数値化しづらいですよね。たとえば、メディアを見て衣服を作りたいと問い合わせをしてくださる方もいるのですが、じゃあ案件獲得数をKPIにするのかといえば、私はそれは結果でしかないと思っていて。「WEARE」は、「メディア」というより「コミュニティ」だと考えています。メディア自体を会員登録制にしているのですが、ただ発信するだけじゃなくて、このコミュニティからプロジェクトやイベントなどのリアルな形に落とし込んでいければいいなと。今はその価値をどうにか数値化できないかなと考えています。

やっていることが説明しづらいというか、社内からも理解されづらいみたいなことはありませんか?

若尾:ありますね……。入社当時からずっと謎の立ち位置で仕事をしていると思います。でも、営業チームが今後狙っていきたい分野を中心に取材するなど、他部署との連携で工夫していることは多々あります。ただ、部署として相談できる先輩がいないのは少し辛いですね(笑)。

難しいですよね。他の部署とはどう折り合いを?

若尾:大切なのは社内の評価ではなくて、お客さんにどう影響するかということ。会社の方針としてやるべきことをちゃんと見ていようと思っています。

どうしても悩んだときは誰に相談を?

若尾:CEOの河野ですね。会社に対する思想を持っていて、メディアではその世界観をちゃんと体現したいので。

取材した方に喜んでもらえることが一番大事

反対に、一人でやることの楽しさを感じるときはいつですか?

若尾:大事な局面では社長や上司に相談しますが、それ以外はある程度自由にやらせてもらえることですね。インタビュー先も自分が決めるので、会いたい人に会えるとか。

それは編集冥利に尽きますね。一人で運営していくために心がけていることはありますか?

若尾:ずっと編集のプロじゃないのに「編集長」と名乗ることに後ろめたさを感じていて、名刺にも書いていなかったんです。でも、いよいよ「編集長じゃないの?」と周囲から言われるようになってしまって(笑)。それで編集ノウハウをきちんと身につけたいと思って、今年から菅付雅信さんの「編集スパルタ塾」に通いはじめました。

未経験ながら模索を続けて、編集について何かわかったことはありますか?

若尾:その域にはまだ達していないと思うんですけど、やっぱりどこにも出ていない言葉をいかに引き出すかは大事だなと感じています。同じ事例にしても、切り取り方をどう変えるかとか、クリエイティブで差別化するとか。私はやっぱり取材した方が喜んでくれることが一番大事だと思うんです。また、これからはメディアに限らず、社内外を巻き込んで魅力的な企画を作っていくという、ビジネスにも紐付いた「編集」が求められていくということも感じています。

より魅力的なコンテンツを作れる編集者を目指して

これまで一人編集部として「WEARE」に携わってきたなかでどんなことに達成感を感じていますか?

若尾:編集に関わっていただいているライターさんやカメラマンさんのおかげで、コミュニティとしての一つのブランドや人格を作り上げてきたことは評価できるんじゃないかと。ファッション業界の重鎮のような方々からも「他にはない感じだよね」といい反応をいただくことが多くて嬉しいです。

では、これから挑戦していきたいことは?

若尾:もっと新鮮で、斬新なことがやりたいなと(笑)。シタテルの“庭的存在”を目指しているので、実際に服を作るという段階に入る前のコミュニティとして、いろんなことをやっていきたいですね。コミュニティ内での企業やブランドを誘ってひとつのプロジェクトやプロダクトを立ち上げ、その過程からコンテンツにすることもしていきたいです。

あと最初に少しお話しましたが、下半期から戦略広報という部署で会社のさまざまなPRを統括する仕事もしているので、これまでの編集経験を生かしながら、自社をブランディングしていくプロジェクトも進めています。また、シタテルでは副業が制度として認められているので、自分のネットワークや知見を広げるためにも、いろいろな形の「編集」に挑戦して、うまく相互作用させていきたいと思っています。

シタテルがより多くの人から魅力的な会社だと思ってもらえるように、また自分自身もさまざまな人から信頼してもらえるように、もっともっと本質を捉えた魅力的なコンテンツを作れる編集者を目指したいです!

インタビュー:角田貴広、村上広大
執筆:角田貴広
編集:村上広大
撮影:なかむらしんたろう

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