エンジニアは転職すると年収が上がる、という話はよく耳にします。ただ、転職したのに年収が変わらなかった人や、下がった人もいました。自分がどちらに入るのかは、周りの話だけでは判断できません。
この記事では、転職した人の賃金がどう変わったかを厚生労働省の調査で確かめ、上がりやすい人と上がりにくい人の差を、経験年数とスキルの段階で整理しました。転職先の相場は、公的統計の年収換算と、Offers に掲載中のエンジニアの正社員求人の提示年収で示しています。
調査と執筆は、エンジニア・デザイナー・PdM の転職サービス Offers の Offers Magazine 編集部が担当しました。
IT職への転職で賃金が上がった人は約56%
厚生労働省の「IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査事業」調査報告書(令和6年3月)によると、5年以内に IT・デジタル職種に転職した人の約56%が、転職後に賃金が上昇しています(n=342)。半数を超える人が賃金を上げた一方で、残りの4割強は「ほとんど変化なし」か「減少」でした。
転職前も IT・デジタル職種だった人(n=266)に限ると、賃金上昇者の割合は58%でした。
同じ調査では、男女別の賃金上昇者の割合も出ています。男性は54%、女性は70%でした。
出典: 厚生労働省「IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査事業 調査報告書」(令和6年3月)。
転職者全体と比べた IT 職の賃金変動
職種を限らない転職者全体では、賃金が上がった人は約4割にとどまります。厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査」(2026年8月31日公表)によると、2025年の1年間に転職した人のうち、前職より賃金が「増加」した割合は40.8%、「減少」は31.0%、「変わらない」は25.5%でした。
「1割以上の増加」は28.2%、「1割以上の減少」は21.9%です。前年と比べると、「増加」は0.3ポイント上昇した一方で「減少」は1.6ポイント上昇し、増加が減少を上回った幅は9.8ポイントでした。
出典: 厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況」(2026年8月31日公表・表6)。
2つは調査の対象も時期も異なるため、差を数字で比べることはできません。それでも、転職者全体で賃金が上がる人が約4割という中で、IT・デジタル職種への転職者では半数を超えるという傾向は読み取れます。
「年収バグ」という言葉と統計の差
「年収バグ」は、エンジニアが転職を重ねると社内の昇給よりも速く年収が上がる現象を指す、ネット上で広まった言い回しです。統計で見ると、IT・デジタル職種への転職で賃金が上がった人は約56%で、誰にでも起きる現象とは言えません。
上がる人と上がらない人の差は、次の節で見る経験年数とスキルの段階にはっきり表れていました。転職すれば上がると考えるより、自分がどの条件に当てはまるかを先に確かめる方が、判断を誤りにくくなります。
年収が上がりやすいのは経験5〜19年の層
厚生労働省の同じ調査報告書によると、IT・デジタル職種に転職した人の賃金上昇者の割合は、現在の職種での経験年数が5〜9年の人で90%と最も高く、経験年数が長くなるほど下がります。ITスキルレベルで分けると、レベルが高い人ほど賃金上昇者の割合は高い結果でした。
現在の職種での経験年数 | 回答数 | 賃金が増加した人の割合 |
|---|---|---|
0〜4年 | 88 | 50% |
5〜9年 | 30 | 90% |
10〜14年 | 27 | 70% |
15〜19年 | 33 | 76% |
20〜24年 | 43 | 53% |
25〜29年 | 32 | 50% |
30〜34年 | 39 | 44% |
35年以上 | 50 | 38% |
出典: 厚生労働省「IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査事業 調査報告書」(令和6年3月・5年以内に IT・デジタル職種に転職した人)。
報告書は、経験年数が長くなるほど賃金上昇者の割合は減り、特に経験20年以降で大きく減ると説明しています。区分ごとの回答数は30前後の層もあるため、1つの区分の値より、経験5〜19年で高く、20年を過ぎると下がるという全体の形で読むのが妥当です。
ITスキルレベル別の賃金上昇者の割合
同じ報告書で ITスキルレベル別に見ると、賃金が上がった人の割合はレベル5以上で71%、レベル4で56%、レベル3で48%、レベル1〜2で39%でした。担える仕事の段階が上がるほど、転職で賃金が上がりやすくなります。
ITスキルレベル | 回答数 | 賃金が増加した人の割合 |
|---|---|---|
レベル5以上 | 86 | 71% |
レベル4 | 82 | 56% |
レベル3 | 82 | 48% |
レベル1〜2 | 69 | 39% |
ITスキルレベルは、仕事で担える範囲の広さと深さを段階で示した指標です。設計や技術選定、チームの技術判断まで任された経験は、転職の場面で年収の根拠として示しやすい材料になります。
年齢別の賃金上昇者の割合
年齢で見ると、若いほど賃金上昇者は多くなりますが、40〜54歳でも賃金上昇者の割合はほぼ60%です。報告書の図では、40〜44歳と45〜49歳が63%、50〜54歳が60%で、55〜59歳になると36%に下がりました。
40代で転職を考えるエンジニアにとって、年齢だけで年収が上がる見込みを諦める理由は、統計からは出てきません。経験年数とスキルの段階と合わせて、自分の位置を見るのが現実的な読み方です。
統計で見るエンジニアの年収相場
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」から編集部が年収換算すると、プログラマーや社内システムエンジニアを含む「ソフトウェア作成者」は約578.5万円、システムコンサルタントや情報処理プロジェクトマネージャを含む「システムコンサルタント・設計者」は約889.0万円です(企業規模10人以上・男女計)。担う工程が上流に寄るほど、統計の年収換算は高くなりました。
統計の区分 | 平均年齢 | 企業規模計 | 1,000人以上 | 100〜999人 | 10〜99人 |
|---|---|---|---|---|---|
システムコンサルタント・設計者 | 38.3歳 | 889.0万円 | 1,010.4万円 | 854.3万円 | 585.1万円 |
ソフトウェア作成者 | 37.1歳 | 578.5万円 | 640.9万円 | 555.0万円 | 518.2万円 |
出所: 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 職種第1表」(2026年3月公表・男女計)を Offers Magazine 編集部が年収換算。
年収換算は、毎月の給与(きまって支給する現金給与額)の12か月分に年間賞与などを足した概算です。区分の中身は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査 職種一覧と解説」の「含まれる職種の例」によります。
年齢階級別に見た年収換算
同じ統計の第5表から編集部が年収換算すると、30〜34歳はソフトウェア作成者で約559.5万円、システムコンサルタント・設計者で約866.1万円です。40〜44歳ではそれぞれ約686.3万円、約1,189.0万円で、年齢が上がるほど2つの区分の差は開いていました。
年齢 | ソフトウェア作成者 | システムコンサルタント・設計者 |
|---|---|---|
25〜29歳 | 484.7万円 | 641.6万円 |
30〜34歳 | 559.5万円 | 866.1万円 |
35〜39歳 | 636.0万円 | 968.1万円 |
40〜44歳 | 686.3万円 | 1,189.0万円 |
出所: 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 職種第5表」(2026年3月公表・企業規模計・男女計)を Offers Magazine 編集部が年収換算。
全年齢の表と企業規模別の詳しい読み方は、「システムエンジニアの年収」にまとめました。
エンジニア正社員求人の提示年収の年収帯
Offers Jobs に掲載中のエンジニアの正社員求人で、年収を書いた459件は、提示年収の下限の中央値が500万円、上限の中央値が900万円でした(Offers(株式会社overflow)調べ・年収の下限と上限を記載したエンジニアの正社員求人 n=459・2026年10月6日時点)。上限が800万円以上の求人は318件、1,000万円以上の求人は213件あります。
項目 | 値 |
|---|---|
提示年収の下限の中央値 | 500万円 |
提示年収の上限の中央値 | 900万円 |
下限が600万円以上の求人 | 186件 |
上限が800万円以上の求人 | 318件 |
上限が1,000万円以上の求人 | 213件 |
求人の年収は下限と上限の幅で書かれ、どこで決まるかは経験とスキルの評価で変わります。統計の年収換算と並べると、上限の側はシステムコンサルタント・設計者の区分の水準に近い位置です。設計や技術判断まで担える人ほど、上限側の提示を受けやすい構造です。
自分の経験に近い求人の年収帯は、Offers Jobs のエンジニアの求人一覧で確かめられます。会員登録なしで正社員求人を検索でき、一覧のカードに年収・雇用形態・勤務地が出ます。
Offers Jobs の求人の年収帯は「ITエンジニアの年収」でも扱いました。集計の時点が違うため、この節の数字とは一致しません。
年収1,000万円以上の求人に届く条件は、「エンジニアの年収1000万円」で詳しく扱いました。
転職で年収が上がりにくいケース
転職で年収が上がりにくいのは、経験20年を過ぎた人、55歳以上の人、ITスキルレベルが1〜2の段階の人です。厚生労働省の調査報告書では、これらの層で賃金上昇者の割合が50%前後かそれ以下に下がっていました。
職種を限らない転職者全体でも、賃金が「減少」した人は31.0%、「1割以上の減少」は21.9%います(厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査」)。転職で年収が下がることは、珍しい出来事ではありません。
現職の年収がすでに相場の上側にある
今の年収が、統計の区分や求人の年収帯の上側にある人は、転職しても上がる幅が小さくなりやすい立場です。上の表の企業規模計の年収換算と、Offers Jobs の求人の上限の中央値900万円を、自分の年収と並べてみてください。
提示年収だけで応募先を選んでいる
提示年収の上限だけを見て応募先を選ぶと、入社後に任される役割とのずれが大きくなりかねません。求人の業務内容と必須スキルを読み、設計の判断やチームの技術方針、メンバーの育成など、実装の外側まで任される範囲があるかと、それを自分が引き受けられるかを確かめてから判断しましょう。
転職で後悔しやすい型は、「エンジニア転職で後悔する5つのパターン」にまとめています。
年収を上げる転職の進め方
年収を上げる転職は、自分の位置を統計と求人で確かめる、担った範囲を職務経歴書に書く、求人の年収の幅を読んで提示額の根拠を示す、の順で進めます。厚生労働省の調査が示すとおり、上がりやすさは経験年数とスキルの段階で変わりました。その2つを相手に伝わる形にすることが、進め方の中心です。
統計の区分と求人の年収帯で自分の位置を確かめる
最初に、自分の年収を統計の区分と求人の年収帯に並べます。主に実装を担う人はソフトウェア作成者の区分と、設計や全体の構成を担う人はシステムコンサルタント・設計者の区分と比べ、あわせて Offers Jobs の求人の下限と上限の中央値とも比べてください。
相場より下にいるなら、転職で上がる余地は大きいと考えられます。相場の上側にいる場合は、年収より役割や技術の幅を軸に求人を選ぶ方が、次の年収につながるはずです。
担った範囲と成果を職務経歴書に書く
提示年収は、担える仕事の段階で決まります。職務経歴書には、使った技術の名前だけでなく、設計をどこまで任されたか、技術選定や障害対応で何を判断したか、チームで何を引っ張ったかを具体的に書きましょう。
厚生労働省の調査で ITスキルレベルが高い人ほど賃金が上がりやすかったことは、担える範囲の広さが評価の軸になることを示していました。
求人の年収の幅を読み、提示額の根拠を示す
求人の年収は下限と上限の幅で書かれているため、自分がその幅のどこに当てはまるかを面談の段階で確かめます。年収の聞き方は「カジュアル面談の年収の聞き方」、内定後の提示額の話し合い方は「スタートアップの年収交渉」で扱っています。
転職の時期を決める
経験5〜9年の層で賃金上昇者の割合が最も高かったことから、実務の経験を一通り積み、設計や技術判断を任され始めた時期は、転職で年収を上げやすい時期です。プロジェクトの区切りや、新しい技術領域の実績ができた直後も、職務経歴書に成果を書きやすい時期です。時期の決め方は「エンジニアの転職タイミング」で詳しく扱いました。
自分の経験で応募できる求人と年収帯は、Offers Jobs のエンジニアの求人一覧で探せます。職種や技術で絞り込み、提示年収の下限と上限を見比べてから応募先を選んでください。
エンジニア転職で年収を上げる条件の整理
厚生労働省の調査では、5年以内に IT・デジタル職種に転職した人の約56%が転職後に賃金を上げ、転職前も IT・デジタル職種だった人に限ると58%でした。上がりやすいのは経験5〜19年の層と ITスキルレベルが高い人で、経験20年を過ぎた人や55歳以上の人では割合が下がります。
転職先の相場は、統計の年収換算で578.5万〜889.0万円、Offers Jobs のエンジニア正社員求人の提示年収で下限の中央値500万円・上限の中央値900万円です。自分の年収をこの2つに並べ、担った範囲を具体的に示せる段階で動くことが、転職で年収を上げる近道になります。

