スマホで精子のセルフチェック、男性の妊活市場に一人で挑んだ入澤諒

「仕事って辛いよな」と思う瞬間ありませんか? でも、その辛さを感じると同時に仕事に熱中している自分に気づく瞬間があるのも事実。そこで、この連載「一人はつらいよ」では、「辛い辛い」と言いながらも会社や社会で他人にはできない業務を楽しんでいる“一人肩書き”の方々に光を当てます。

今回登場するのは、リクルートライフスタイルで黙々と新規事業に向き合う入澤諒さん。彼が手がけるのは、スマートフォンで精子のセルフチェックができる「Seem(シーム)」というサービス。男性向けの妊活市場は、まだまだ認知度も低く、医療面の専門知識も必要とされる特殊な分野です。そんな“大海原”で戦略策定からプロダクト開発まで一人こなしてきた入澤さんにこれまでの話を聞きました。

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リクルートに転職し、一人で男性の妊活向けプロダクト開発を始める

入澤さんはどうして「Seem」を始めたんですか?

前職で女性の健康情報サービス「ルナルナ」を開発しているエムティーアイという会社にいたのですが、この事業を通じて男性の妊活市場がまだまだ小さいという課題を感じたんです。

その後、ヘルステックの分野でこの問題にチャレンジしたいと考えながらリクルートに転職したんですが、もちろんそんなことを担当する部署はなくて。でも、リクルートは社会課題の解決や新しいビジネスにつながることであれば自由に挑戦させてくれる会社なので、やりたいことを伝えると新規事業の部署に配属されました。

それで最初はじゃらんのアプリ企画をやりつつ、その傍らで男性の妊活向けプロダクトの開発に取り組むことになりました。

そこから一人での挑戦が始まったわけですね。

「Seem」は、専用の顕微鏡レンズに精液を乗せ、スマホのフロントカメラにセットすることで、アプリを通じて精液の動画を分析し、濃度と運動率を計測することができます。

でも、最初はなんの知識もなかったので、レンズを作ってくれそうなメーカーを調べて片っ端から電話するところから始めました。

その中で協力してくれるメーカーが見つかったのですが、もちろんスマホで精子を見られるレンズを作った経験はないので、プロトタイプを自分で使ってみて改善点をフィードバックする、みたいなことを10回くらい繰り返しました。これが半年くらい続きましたね。

それはすごく大変そう……。どんな問題が起きたりしたんですか?

たとえば、スマホを通して普通に動画を撮ると天井が写っちゃうんです。だから背景を真っ白にして、精子だけを自動検出できるようなレンズを作ってほしいという要望を出しました。また、正確な濃度を測るためには、顕微鏡に載せる精液の体積を一定にしなければならず、10マイクロメートルくらいのすき間をあけてほしいという無理なお願いもしました。

涙ぐましい努力があったわけですね。

そうですね。メーカーの全面的な協力があってこそ、「Seem」で使っているレンズはできたと思っています。そして僕自身、この頃が一番しんどい時期でしたね。もしこの事業が失敗したら「転職してきて精子の研究だけしていなくなったやつ」だと陰口言われるのかと思ったり(笑)。

専門家の先生に直接アポを入れて、相談して回った

でも、レンズができたからと言って完成ではないですよね。

はい。レンズの完成後は、精子を解析するためのプログラムを組んで、最後にアプリをローンチする計画でした。

ここでは、そもそもどんな数値を解析すればいいのかがわからなかったので、専門の先生に電話でアポをとって相談しました。もちろん、理解されないこともありましたが、最初に協力してくださった先生が業界的にも非常に権威のある先生で、これが救いでした。

専門家の協力を得られたことは大きいですね。

病院としては、パートナーの男性が来院してくれず、不妊の原因の発見が遅れることで妊娠が難しくなるようなケースもあるようで。少しでも男性に妊活の意識が広まれば、不妊治療のために病院に来てくれる男性も増えるんじゃないかと思ったそうです。

不妊治療の間口を広げてくれるサービスだと。それを実現するためのプログラミングは誰が?

これも専門の企業です。電話でアポを入れて相談に行きました。この企業が事業に共感してくれて、スマホ向けのプログラムをイチから作ってくれることになりました。その後も、ローンチ前の臨床試験のために大学病院に協力してもらい、半年くらいの試験期間を経て、ようやくアプリをローンチすることができました。

外部の方に助けてもらってばかりですが、結果として、ここまで1年半くらいはずっと一人でしたね。

一人だったから、事業について深く考えることができた

一人でやってきて、良かったことはありますか?

ビジネス性を検討したり、市場規模をリサーチしたり、病院でのコミュニケーションを経てターゲットやプライスを選定するという作業を一人でできたのは結果として良かったですね。

不妊治療を経験された患者さんから「もう少し早くこのサービスがあったら良かった」という声を聞いて、やはり業界啓発自体をやっていかなければいけないんだという再認識もできました。やるべきことを深く考えられたのは、一人の時間があったからだと思います。

リクルートという会社で事業を始めたことのメリットはありました?

こういう分野なので、リクルートという大企業がやっていること自体が大きなインパクトだったと思います。

また、専門の先生たちに説明するときにも、大企業であることの安心感や期待はあったと思います。リクルートがこの分野で事業を展開することで、男性の意識や行動の変化につながるのではとご期待いただきました。結果として、日本生殖医学会という、生殖医療の分野でもっとも権威のある学会から学術講演会にお招きいただき、Seemの紹介をさせていただくことにもつながりました。

企業だけではなく、専門の方々とのつながりも欠かせなかったわけですね。

はい。あと「Seem」は医療機器ではなく、雑貨なんです。これもすごくこだわった点で。というのも、医療機器になってしまうとさまざまな制限がかかり、気軽に手に入らなくなってしまうんです。

そうなんですね。これはどうやって雑貨扱いにしたんですか?

そもそも雑貨に証明が必要ないんですよ。だから、逆に医療機器ではないことを認めてもらう必要がありました。医療機器の製造販売の許可・承認は各都道府県が行うのですが、直接確認に行ってもなかなか判断がつかなかったので、ミートアップで知り合った方を通じて厚労省に説明に行きました。それで厚労省の見解をもらったうえで東京都へ向かったんです。これも苦労しましたね。

男性の妊活が当たり前になるまで、できる啓発はなんでもやっていく

現在はメンバーも増えましたか?

今は正規メンバーだけで6人います。異動したいときに相談できるのはリクルートのいいところですね。半年に1人ずつくらい増えていて、この事業のためにリクルートに転職してきてくれたメンバーもいます。

当然ながら、入澤さんは事業に専属ですよね?

そうですね(笑)。レンズができたくらいのタイミングから専属になりました。でも、会社として副業ができるので、知見を得るためにも、外の仕事もいくつかやっています。

メンバーが増えたことで、なにか変わりましたか?

けっこう変わりましたよ。まず、マーケや物流などの専門分野をほかの人に担当してもらうことができました。そのぶん意思決定のために社内共有の時間は必要になりますが、自分が考えるための時間を確保できるようになりましたし、客観的な意見をもらえるようになったのも仲間がいるメリットです。

さらなる事業拡大も見込めそうですね。

はい。それはもちろんのこと、妊活文化自体を変えていきたいですね。男性の妊活が当たり前になるために提供できるサービスは「Seem」だけじゃないだろうし、新しい事業や啓発活動、PRにも力を入れていきたいと考えています。これからは仲間とともに、さまざまな人たちを巻き込みながら妊活市場を盛り上げていきたいですね。

インタビュー:村上広大
執筆:角田貴広
編集:村上広大
撮影:なかむらしんたろう

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