年俸制は、1年分の給与額を前もって決める仕組みです。転職する側から見たデメリットは、年の途中で給与が上がらないこと、評価が次の年俸に一度に反映されて下がることもあること、そして賞与と残業代の扱いが求人の書き方から読み取りにくいことの3つです。
ただ、読み取りにくさは、求人の報酬欄を読む順番を決めておけば解消できます。賞与が年俸に入っているか、残業代はどう払われるか、何回に分けて払われるか、いつ改定されるか。この4つが分かれば、月給制の求人とも同じ物差しで比べられます。
年俸制だから残業代が出ない、ということもなく、法定労働時間を超えて働けば年俸制でも原則として割増賃金が支払われます。
年俸制の仕組みと月給制との違い
年俸制は、給与の額を1年単位で決めて、その額を毎月に分けて払う仕組みです。月給制は1か月単位で額を決め、賞与は月給とは別に会社ごとの決め方で払われます。違いが出るのは、額を決める単位、改定の時期、賞与の扱いの3点です。
年俸制でも、1年分が一度に払われるわけではない点に注意が必要です。労働基準法 第24条は、賃金を毎月1回以上、一定の期日を定めて払うよう定めています(労働基準法・e-Gov 法令検索)。そのため年俸制の求人の多くは、年俸を12回に分けて毎月払う形を取っています。
比べる点 | 年俸制 | 月給制 |
|---|---|---|
額を決める単位 | 1年 | 1か月 |
改定の時期 | 評価をもとに次の年俸を決める(1年ごとが基本・半期ごとの会社もある) | 昇給の時期と回数は会社ごとに決める |
賞与 | 年俸に含める型と、年俸とは別に払う型がある | 月給とは別に、会社ごとの決め方で払う |
残業代 | 法定労働時間を超えれば原則として払われる | 法定労働時間を超えれば払われる |
毎月の支払 | 年俸を分けた額(12回が多い) | 月給の額 |
(編集部の整理)
Offers に掲載された正社員求人のうち、報酬の説明を書いた求人で「年俸」の語を使う求人は18.3%でした(Offers(株式会社overflow)調べ・報酬の説明を書いた正社員求人 n=1,807・2022年3月〜2026年10月公開)。
年俸と書く求人の年収の下限の中央値は550万円、上限の中央値は869万円でした(Offers(株式会社overflow)調べ・報酬の説明に年俸と書く正社員求人 n=331・2022年3月〜2026年10月公開)。月給とだけ書く求人では下限が480万円、上限が800万円で、年俸制の求人のほうがどちらもやや高い水準です(Offers(株式会社overflow)調べ・報酬の説明に月給とだけ書く正社員求人 n=632・2022年9月〜2026年10月公開)。
転職する側から見た年俸制のメリット
年俸制のメリットは、1年分の収入の見通しが立つこと、条件の交渉を年収の総額で話せること、年俸に賞与を含めて額が確定していれば業績で年収が大きく下がりにくいことの3つです。
1年分の収入の見通しが立つ
年俸が決まった時点で、その1年に受け取る給与の総額はほぼ確定します。住宅ローンの返済や引っ越しなど、まとまった支出の計画を立てやすいのは年俸制の利点です。
条件の交渉を年収の総額で話せる
内定の前後で条件を話すとき、年俸制なら「年収いくら」という1つの数字で比べられます。月給と賞与の組み合わせで考える必要が少ないので、複数の内定を比べる場面でも差が見えやすいはずです。年俸額の伝え方と交渉の時機は「エンジニアの転職の給与交渉」で扱っています。
賞与まで含めて確定していれば業績の影響を受けにくい
年俸に賞与の分を含めて額を決めている会社では、その年の業績が悪くても、約束した年俸が年の途中で減ることは通常ありません。業績連動の賞与が大きい月給制と比べると、年収の振れ幅は小さく収まります。
転職する側から見た年俸制のデメリット
年俸制のデメリットは、年の途中で給与が上がらないこと、評価が次の年俸に一度に反映されること、賞与と残業代の扱いが求人から読み取りにくいことの3つです。
年の途中で給与が上がらない
1年ごとに年俸を決める会社では、1年分の額を前もって決めるため、年の途中で成果を上げても、その年の給与にはすぐ反映されず、入社直後に大きな成果を出しても増えるのは翌年の年俸からになります。報酬欄に「半期年俸制」「給与改定年2回」と書き、半年ごとに年俸を見直す求人もあるので、改定の回数は求人ごとに確かめてください。
評価が次の年俸に一度に反映される
年俸は評価の期間ごとに見直すため、その期間の評価が次の年俸に一度に反映される仕組みです。1年ごとに改定する会社なら1年分、半期ごとに見直す会社なら半年分の評価がまとめて反映されます。評価が良ければ大きく上がる一方、評価が振るわなければ次の年俸が下がることもあります。評価の時期と、年俸が下がる場合の決め方は、入社前に聞いておくと安心です。
賞与と残業代の扱いが求人から読み取りにくい
年俸制の求人は、年俸の額だけを書いて、賞与が含まれるのか、残業代がどう払われるのかを書かないことがあります。「年俸制なので賞与なし」「年俸制なので残業代は出ない」と思い込むと、月給制の求人と比べたときに条件を見誤るおそれがあります。
年俸制の求人で確かめる5つの点
年俸制の求人を受ける前に確かめたいのは、賞与が年俸に含まれるか、残業代の扱いと固定残業代の時間数、何回に分けて払われるか、年俸の改定の時期と評価の反映、月給制の求人と比べるときの年収の総額の5つです。
確かめる点 | 報酬欄で見る書き方 | 書かれていなければ聞くこと |
|---|---|---|
賞与 | 「賞与なし」「別途支給」「年俸に含む」 | 賞与は年俸に含まれるか、別に払われるか |
残業代 | 固定残業代の時間数と額、超過分の支給 | 何時間分を含むか、超えた分は払われるか |
分割の回数 | 「12分割」「12分の1を毎月支給」 | 何回に分けて払うか、賞与の時期に払う分はあるか |
改定 | 「給与改定:年1回」「昇給」 | 評価の期間と改定の月、下がる場合の決め方 |
年収の総額 | 年収の下限と上限 | 賞与と固定残業代を含めた総額か |
(編集部の整理)
Offers では、プロフィールを登録すると、経験に関心を持った企業からスカウトが届きます。Offers に登録し、届いた求人の報酬欄と面談の場で、この5つを確かめながら転職先を選んでください。
賞与が年俸に含まれるか、年俸とは別に払われるか
年俸制の賞与には、年俸の一部を賞与の時期に払う型と、年俸とは別に業績などに応じて払う型があります。求人の報酬欄にどちらとも書かれていないときは、面接で必ず確かめたい点です。
Offers の求人で、報酬の説明に年俸と書く求人のうち、報酬の説明で賞与やボーナスに触れる求人は27.8%でした。月給とだけ書く求人では56.8%が触れており、年俸制の求人は賞与の扱いを報酬欄に書かない傾向があります。
報酬の説明と福利厚生の欄のどちらにも賞与の語が無い年俸制の求人は66.5%です(Offers(株式会社overflow)調べ・報酬の説明に年俸と書く正社員求人 n=331・2022年3月〜2026年10月公開/月給とだけ書く正社員求人 n=632・2022年9月〜2026年10月公開)。
賞与に触れる求人の書き方もさまざまです。「賞与:なし(年俸制のため)」と書く求人があれば、「年俸の12分の1を毎月支給 ■別途、決算賞与の支給あり」と年俸とは別に払うことを書く求人もあり、「年俸450万円以上(固定残業代・業績賞与含む)」と書いて年俸に含めた業績賞与を7月に払う求人もあります。賞与について何も書いていない求人は、どの型なのかを面談で聞くまで分かりません。
残業代の扱いと固定残業代の時間数
年俸制でも、法定労働時間を超えて働けば原則として割増賃金(残業代)が払われます。厚生労働省は、年俸制を導入した場合でも実際の労働時間が法定労働時間を超えれば割増賃金を支払わなければならないと説明しています。例外は、管理監督者など労働基準法 第41条に当たる人です(厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A)。
年俸に一定時間分の残業代をあらかじめ含める、いわゆる固定残業代(みなし残業)の書き方もよく見られます。Offers の求人では、年俸と書く求人の41.1%が固定残業代を含むと書いており、月給とだけ書く求人では66.3%でした。
固定残業代を含む求人で見るのは、何時間分の残業代か、その時間を超えた分が追加で払われるかの2点です。厚生労働省は、固定残業代を採用する求人の記載例として、手当を除いた基本給の額、何時間分の時間外手当としていくら払うか、その時間を超えた分の割増賃金を追加で払う旨の3つを示しています(厚生労働省「労働者を募集する企業の皆様へ」・2018年1月施行の職業安定法の改正)。
Offers の年俸制の求人で固定残業代を含むと書く求人のうち、超過分を支給すると同じ報酬欄に書く求人は82.4%でした(Offers(株式会社overflow)調べ・報酬の説明に年俸と書き固定残業代を含むと書く正社員求人 n=136・2023年11月〜2026年8月公開)。「超過した時間外労働の残業手当は追加支給」のような一文が無ければ、面接で確かめてください。
何回に分けて払われるか
年俸を何回に分けて払うかで、毎月の手取りが変わります。Offers の求人で、報酬の説明に年俸と書く求人のうち、12回に分けると書く求人は58.0%、分ける回数を書かない求人は41.1%でした。「年俸の12分の1を毎月支給」は、その書き方の一例です。
12回より多く分ける会社では、毎月の額が下がり、残りが賞与の時期に払われます。厚生労働省のQ&Aは、年俸の17分の1を毎月払い、17分の5を6月と12月に分けて払う例を挙げています。年俸680万円なら、12回に分ければ毎月約56.7万円、17回の分け方なら毎月40万円と、6月と12月に100万円ずつです(Q&A の分け方をもとにした計算例)。
年俸の一部を賞与の時期に払う型でも、残業代の単価は毎月の額から計算するわけではありません。同じQ&Aは、賞与の時期に払う分を含めて確定した年俸額を割増賃金の計算の基礎にする必要があると説明しています(平成12年3月8日の通達 基収第78号)。
年俸の改定の時期と評価の反映
年俸の改定は1年ごとの評価をもとに行うのが基本で、報酬欄に「給与改定:年1回」と書く求人もあります。確かめたいのは、評価の期間と改定の月、評価の基準、年俸が下がる場合の決め方の3つです。
改定の時期と入社月の関係も見ておきましょう。改定の直前に入社すると、評価の対象になる期間が短く、最初の改定で上がりにくいこともあるからです。
月給制の求人と比べるときの年収の総額
年俸制と月給制の求人を比べるときは、年収の総額を同じ条件にそろえてから比べるのが基本です。月給制なら月給の12か月分に賞与を足し、年俸制なら賞与が年俸に入っているかどうかを確かめてから、年俸に別払いの賞与を足します。
固定残業代の有無もそろえておきたいところで、一方の求人だけが固定残業代を含んでいる場合は、その分を除いた基本の給与の額でも比べると、実際の差が見えます。求人に書かれる年収の例の読み方は「モデル年収とは」が参考になるはずです。
年俸制の求人は面談で条件をそろえてから判断する
年俸制の求人を受けるかどうかは、賞与・残業代・分割・改定の4つを面談でそろえてから判断するのが確実です。年俸の額が高く見えても、賞与が含まれ固定残業代も入っていれば、月給制の求人と年収の総額で並べると差が小さいこともあります。
報酬欄に書かれていない点は、カジュアル面談や選考の途中で聞いてかまいません。聞き方の例は「カジュアル面談の年収の聞き方」に、求人票全体の読み方は「経験者エンジニアの求人の探し方と求人票の読み方」にまとめています。
内定の通知では、年俸の額に加えて、賞与の扱い、固定残業代の時間数、分割の回数、改定の時期が書面の労働条件に入っているかを確かめましょう。4つがそろえば、年俸制のデメリットの多くは入社前に見積もれるようになります。

