中途の内定辞退は承諾の前でも後でもできる
中途の内定辞退は、内定を承諾する前でも後でも可能です。内定承諾書に署名していても、辞退そのものを止める法的拘束力はないと考えられています。大阪府の「労働相談ポイント解説 12 内定(採用内定)」は、採用者からの内定辞退について、職業選択の自由から原則自由とされ、事前に内定承諾書や誓約書に署名・捺印していても法的拘束力はないと考えられている、と説明しています。
同じ資料によると、判例等では採用内定の時点で、企業と働く人の間に「始期付解約権留保付労働契約」が成立していると考えられています(大日本印刷事件・最高裁 昭和54年7月20日判決)。
そのうえで、期間の定めのない雇用(正社員の多く)について、民法第627条第1項の定めは次のとおりです。
定め | 条文 |
|---|
解約の申入れ | 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる |
契約が終わる時期 | この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する |
大阪府の解説もこの民法第627条を挙げ、解約の申入れの日から2週間を経過すれば契約は終了するとしており、承諾後の辞退はこの解約の申入れに該当します。
承諾後の辞退で損害賠償を求められる場面は限られる
承諾後の辞退で損害賠償を求められる可能性はゼロではありませんが、大阪府の解説が挙げるのは、著しく信頼関係を損ねるなどの事由がある場合です。同じ資料は、内定辞退が企業に選考費用や機会損失などの損害を与える場合があるとして、できるだけ早期に辞退の申入れを行うことが望ましいとしています。
辞退したら違約金を払う、とあらかじめ決めておく約束には、法律の定めがあります。労働基準法第16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています。内定の時点で労働契約が成立していると考えられる以上、内定の辞退に備えた違約金の定めも、この禁止に該当すると読めます。
ただし、大阪府の「労働相談ポイント解説 2 労働契約の締結にあたっての禁止事項」によると、第16条は現実に生じた損害について使用者が働く人に賠償を請求することまでは禁止していません。違約金をあらかじめ決める約束は禁じられていても、現実に生じた損害の賠償までは否定されていないため、辞退を伝えないまま入社日を迎えるような進め方は避けるべきです。
辞退を伝える時期は決めた当日か翌営業日
辞退を伝えるのは、辞退すると決めた当日か翌営業日です。企業は内定を出した候補者の返事を待つ間、他の候補者の選考や連絡を止めていることがあり、承諾の後は入社に向けた受け入れの準備も進むため、伝えるのが遅れるほど相手の手間が増えます。
段階 | 伝える時期 | 伝え方 |
|---|
内定の通知を受けて、承諾する前 | 回答期限より前、決めた時点で | 電話かメール。期限の前日まで待たない |
承諾した後、入社日まで日がある | 決めた当日か翌営業日 | 電話で伝えてから、メールでも残す |
入社日の直前 | すぐに | 電話で伝える。担当者がつかまらなければ、折り返しを頼む連絡とメールを同じ日に入れる |
(編集部の整理)
回答期限までに決めきれないときは、黙って期限を過ごさず、期限を延ばしてもらえるかを先に相談してください。迷っている理由が気持ちの面にあるなら、内定ブルーの記事で、内定後に迷う原因と整理の仕方を扱っています。
辞退を減らすには承諾の前に条件を確かめる
承諾の後の辞退を避けるいちばん確かな方法は、承諾する前に、年収・入社日・業務の範囲などの条件を書面と面談で確かめきることです。承諾の後に他社の内定が出たり、現職から引き止められたりして比べる材料が変わると、辞退を考える場面が生まれます。承諾の時点で条件を比べきっておけば、後から迷う材料を減らせます。
条件を確かめる場の1つが、選考フローの「オファー面談」(内定の条件を説明し、質問に答える面談)です。Offers に掲載された正社員求人のうち、選考フローを記載した求人では、オファー面談を置く求人が39.5%でした。公開年別に見ると、2023年公開は29.3%、2024年公開は44.5%、2025年公開は40.9%、2026年1〜10月公開は46.6%です(Offers(株式会社overflow)調べ・選考フローを記載した正社員求人 n=2,472・2022年3月〜2026年10月公開)。
書面での確認は法律でも裏づけられています。労働基準法第15条は、使用者が労働契約の締結に際し、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。厚生労働省のリーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました」によると、2024年4月からは、雇い入れ直後の就業場所・業務の内容に加えて、これらの「変更の範囲」も明示が必要になりました。
オファー面談と労働条件の書面で、承諾の前に確かめておきたいのは次の点です。
確かめる点 | 見るところ |
|---|
年収の内訳 | 基本給・固定残業代・賞与の割合、評価で変わる部分 |
入社日 | 現職の退職手続きに必要な期間を見込んで、いつまで待ってもらえるか |
業務と就業場所の変更の範囲 | 入社直後の業務と勤務地に加えて、将来変わりうる範囲 |
働き方 | 出社の頻度、勤務時間の決まり方 |
入社日は、現職の退職手続きや引き継ぎに要る期間と合わせて決める条件です。Offers の求人には、選考プロセスの欄に「※入社日はご希望に合わせて相談できます」と書く求人もあり、応募の前に入社日の扱いを読んでおけます(2026年10月公開の正社員求人の記載)。
年収の条件をすり合わせたいときは、エンジニアの転職の給与交渉の記事で、交渉のタイミングと進め方を扱っています。
Offers Jobs では、求人詳細の選考フローを会員登録なしで確かめられ、オファー面談の有無を応募の前に見られます。承諾の前に条件を確かめられる求人を選ぶことが、後から辞退する場面を減らす近道です。
伝える手段は電話を先にしてメールで残す
承諾の後に辞退するときは、電話で採用担当者に直接伝え、その後に同じ内容のメールを送ります。電話で先に伝えるのは、承諾のやり取りをした相手へ直接お詫びを伝えるためで、メールは伝えた日と内容を双方に残すためです。
承諾の前で、選考のやり取りをメールで進めてきた場合は、メールだけで伝えても失礼にはなりにくく、回答期限が迫っているときに電話を添えれば行き違いを防げます。
電話で伝えるときの話し方の例
電話は採用担当者の勤務時間内にかけ、最初に名乗ってから、辞退の結論、お詫び、お礼の順に短く伝えるのが基本です。理由を聞かれたら、事実を1〜2文で答えます。
お世話になっております。先日、内定のご連絡をいただきました〇〇です。
採用ご担当の〇〇様はいらっしゃいますでしょうか。
(担当者に代わったら)
内定のご連絡をいただき、ありがとうございました。
大変申し訳ないのですが、慎重に検討した結果、今回の内定を辞退させていただきたく、お電話いたしました。
選考に時間を割いていただいたにもかかわらず、このようなお返事となり申し訳ございません。
後ほど、メールでも同じ内容をお送りいたします。
メールで伝えるときの文面の例
メールで押さえるのは、件名だけで辞退の連絡だと分かる書き方と、結論・お詫び・お礼の3つに絞った本文です。電話で伝えた後に送るなら、電話でお伝えした旨を1文目に入れます。
件名:内定辞退のご連絡(氏名)
株式会社〇〇
人事部 〇〇様
お世話になっております。〇〇です。
先ほどお電話でもお伝えしましたとおり、このたびいただいた内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。
選考では、事業や開発体制について丁寧にご説明いただき、ありがとうございました。
慎重に検討した結果、別の会社への入社を決めたため、今回は辞退させていただきます。
ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません。
末筆ながら、貴社のますますのご発展をお祈り申し上げます。
氏名
電話番号
メールアドレス
エージェント経由と直接応募では伝える相手が違う
転職エージェントから応募した求人の内定は、まずエージェントの担当者に伝え、企業へ直接連絡しないのが基本です。エージェント経由の選考では、日程や条件のやり取りの窓口がエージェントになっているため、企業へ先に連絡すると、エージェントと企業の間で話が食い違うことがあります。
スカウトを受けて応募した場合や、企業の採用ページから直接応募した場合に伝える相手は、選考でやり取りしてきた企業の採用担当者です。
応募の経路 | 最初に伝える相手 | 気をつけること |
|---|
転職エージェント経由 | エージェントの担当者 | 企業への連絡はエージェントに任せる。引き止められても、決めた結論は変えずに伝える |
スカウト・企業への直接応募 | 企業の採用担当者 | 選考で連絡を取ってきた担当者へ伝える。面接官や現場の社員へ個別に連絡しない |
社員の紹介(リファラル) | 企業の採用担当者と、紹介してくれた社員 | 採用担当者へ伝えた後、紹介してくれた社員にもお礼とあわせて自分から伝える |
(編集部の整理)
エージェント経由で、担当者から辞退を考え直すよう勧められることがあります。迷いが残っているなら相談してよいものの、決めているなら、決めた結論と理由を短く伝えれば足ります。
辞退の理由は短く事実だけを伝える
辞退の理由は、他社への入社を決めた、現職に残ると決めた、といった事実を1〜2文で伝えれば十分です。詳しく説明する義務はなく、相手の会社の評価や他社との比べ方を細かく話すと、かえって角が立ちます。
理由 | 伝え方の例 |
|---|
他社への入社を決めた | 慎重に検討した結果、別の会社への入社を決めました |
現職に残ると決めた | 現職で担う役割が変わることになり、残ると決めました |
条件が合わなかった | 勤務地(または働き方)の条件を検討した結果、今回は辞退させていただきます |
事実と違う理由を作ると、同じ業界で再び応募するときや、後に取引先として関わるときに話が食い違うおそれがあります。言える範囲の事実を短く伝えるほうが、後に残りません。
辞退した後に残しておくこと
辞退を伝えた後は、送ったメールと、電話で話した日時と相手の名前を控えておき、入社の手続きのために書類を提出していた場合は、返却や破棄の扱いを採用担当者に確かめます。
辞退した会社とは、数年後に再び応募したり、取引先として関わったりすることがあります。早く、短く、お礼を添えて伝えておくことが、その後の関係を損なわないためのいちばんの備えです。