RSU(Restricted Stock Unit・譲渡制限付株式ユニット)は、会社が従業員に「決められた期間勤務を続けたら、自社の株式を渡す」と約束する報酬です。株式を受け取れる日を権利確定日(ベスティング)と呼び、その日の株価で受け取る価値が決まります。
外資系テック企業や上場しているテック企業のオファーでは、基本給と賞与に RSU やサインオンボーナスを足した総額で年収が示されることがあります。RSU の額は株価と為替で動き、受け取る前に退職すれば手に入らない分も出るので、月給と同じ物差しで比べると見誤りやすい報酬です。
日本に住んで働く人の RSU は、株式を受け取った日の時価が給与所得として課税され、売って値上がり益が出ればそこにも税金がかかります。オファーの段階で確かめたいのは、付与の総額と株数の決め方、権利確定のスケジュールとクリフ、追加付与の方針、退職時の未確定分の扱い、サインオンボーナスの条件、税金の手続きの6つです。
RSU(譲渡制限付株式ユニット)の定義と仕組み
RSU は、会社が従業員に将来の決められた日に自社株式を渡すと約束する株式報酬で、付与(グラント)の時点では、従業員はまだ株式を持っていない状態です。勤務を続けるなどの条件を満たした権利確定日に、1ユニットにつき1株といった決められた割合で株式に変わり、受け取った株式は本人の資産になります。
国税不服審判所が公表した裁決例(平成24年2月10日)も、ストック・ユニットを、将来の指定された日に1単位あたり普通株式1株を支給する無保証の約束と整理しています(国税不服審判所「公表裁決事例要旨 株式関連報酬」)。「無保証」とあるとおり、権利確定の前の RSU は、受け取りが確定した財産とは言えない段階です。
付与・ベスティング・クリフの流れ
RSU は、付与(グラント)、権利確定(ベスティング)、受け取った株式の保有と売却の3段階で動きます。転職の判断に関わる言葉を表にまとめました。
言葉 | 意味 | オファーで見る点 |
|---|---|---|
グラント(付与) | RSU を何ユニット渡すかを決めて通知すること | 付与の総額か株数か、株数ならどの日の株価で決めたか |
ベスティング(権利確定) | 条件を満たし、ユニットが株式に変わること | 何年かけて、どの間隔で確定するか |
クリフ | 最初の権利確定までの、何も確定しない期間 | 最初の確定日がいつか(入社から何か月後か) |
ベスティングスケジュール | 付与の総額を、いつ・どれだけ確定させるかの予定表 | 年ごとの確定の割合が均等か、後ろに寄っているか |
追加付与(リフレッシュ) | 入社後の評価などに応じて新たに RSU を付与すること | 毎年の付与の方針があるか、評価とどう結び付くか |
例えば「4年で付与の総額を確定させ、最初の1年はクリフとして何も確定せず、1年たった時点で4分の1が確定し、その後は四半期ごとに確定する」という設計があります。スケジュールは会社ごと・付与ごとに違うので、グラントの通知と株式報酬制度の規程で確かめてください。
RSU とストックオプション・譲渡制限付株式(RS)の違い
RSU は株式を受け取る約束、ストックオプションは決められた価格で株式を買う権利、譲渡制限付株式(RS)は最初に株式を渡して売ることだけを一定期間止める仕組みです。株価が付与の時点より下がったときの差が大きく、RSU は値下がりしても株式そのものは受け取れます。
種類 | 受け取るもの | 払い込み | 課税の時点(日本の居住者・目安) |
|---|---|---|---|
RSU | 権利確定日に株式 | 不要 | 株式を受け取った日(裁決例)と、売って利益が出たとき |
ストックオプション(税制非適格) | 株式を決められた価格で買う権利 | 権利行使の価格を払う | 権利を行使したときと、株式を売ったとき |
譲渡制限付株式(RS) | 付与の時点で株式(売れる時期に制限) | 不要 | 譲渡の制限が解除された日(その日の価額で数える) |
ストックオプションの課税は、国税庁のタックスアンサー No.1543 が、税制非適格のものは権利を行使したときと株式を売ったときに課税されると説明しています。役務の提供の対価として交付される譲渡制限付株式は、譲渡の制限が解除された日の価額で収入を数えるというのが、所得税法施行令第84条の定めです。
スタートアップのストックオプションを含むオファーの見方と交渉は、スタートアップの年収交渉で詳しく扱いました。
転職のオファーで RSU を年収に数える方法
RSU を含むオファーは、基本給・賞与・RSU の年あたりの権利確定額・サインオンボーナスを分けて足し合わせた、トータルコンペンセーション(総報酬)で比べます。RSU は付与の総額を1年分に入れず、権利確定のスケジュールで割った年あたりの額で数えるのが、いまの年収と並べやすい方法です。
仮の数字で、4年で確定する RSU と初年度だけのサインオンボーナスを含むオファーを数えると、次のようになります。
内訳 | 1年目 | 2年目以降 |
|---|---|---|
基本給 | 1,000万円 | 1,000万円 |
賞与(目標額) | 100万円 | 100万円 |
RSU(付与の総額800万円を4年で確定) | 200万円 | 200万円 |
サインオンボーナス | 150万円 | なし |
合計 | 1,450万円 | 1,300万円 |
(仮の数字で計算した例)
1年目と2年目以降で合計が変わる点を見落とすと、2年目に「年収が下がった」と感じます。比べるときは、1年目だけでなく2年目以降の額と、追加付与が無かった場合の額も並べておくと安全です。
外資テックの日本法人の報酬の例は、Datadogの年収で取り上げた内容が参考です。求人に載る年収の例の読み方は、モデル年収の読み方にまとめました。
株価と為替で受け取る額が変わる
RSU で受け取る価値は、付与の通知に書かれた金額ではなく、権利確定日の株価で決まります。株価が付与の時点の半分になれば、同じ株数でも受け取る価値は半分になる計算です。
海外の親会社の株式で付与される場合は、ドル建ての株価に為替が掛かるため、円で見た価値は株価と為替の両方で動きます。オファーの比較表には、付与の時点の株価で計算した額と、株価が下がった場合の額を並べておきましょう。
サインオンボーナスの役割と源泉徴収の扱い
サインオンボーナスは、入社のときに一度だけ支払われる一時金です。前の職場で受け取れなくなる RSU や賞与の見込み額を示し、その分を埋める形で交渉の材料にされることがあります。
国税庁のタックスアンサー No.2810は、雇用契約を結ぶときに支払う契約金を、給与所得ではなく契約金として源泉徴収する扱いを示しています。仕度金などの名目で払われるものも含まれ、源泉徴収の税額は100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%の計算です。この税額は、支払いのときに差し引かれる額です。
サインオンボーナスがこの契約金に当たるか、給与と一緒に払われるかは、支払い方と契約の中身で変わります。手取りの見積もりは確定申告まで含めて会社の給与担当か税理士に、一定期間内に退職したときの返還の条件は内定の前に会社に確かめてください。
Offers の正社員求人で株式報酬に触れる求人の割合
Offers に掲載された正社員求人のうち、ストックオプション・譲渡制限付株式・RSU などの株式報酬に触れる求人は9.4%でした。触れる求人のうち、給与欄に書くのは37.8%で、福利厚生欄に書くのは68.2%です(両方に書く求人を含む)。
集計 | 値 | 母数 |
|---|---|---|
株式報酬に触れる求人の割合 | 9.4% | 正社員求人 n=2,477 |
触れる求人のうち、給与欄に書く | 37.8% | n=233 |
触れる求人のうち、福利厚生欄に書く | 68.2% | n=233 |
触れる求人のうち、ストックオプションの語を含む | 89.7% | n=233 |
年収の下限の中央値(触れる求人/触れない求人) | 600万円/500万円 | n=230/n=2,221 |
年収の上限の中央値(触れる求人/触れない求人) | 1,080万円/900万円 | n=230/n=2,221 |
(Offers(株式会社overflow)調べ・正社員求人 n=2,477・2022年3月〜2026年10月公開)
株式報酬に触れる求人の6割強は、給与欄では株式報酬に触れていません。給与欄の年収の幅だけを見ていると、株式報酬に触れる求人を見落とすことになります。
求人を見る段階では福利厚生欄まで読んで株式報酬の有無を拾い、面談で種類(RSU かストックオプションか)と規模を聞く順番が確実です。触れる求人は年収の下限と上限の中央値も高く、基本給の水準と株式報酬の両方で比べる価値があります。
Offers では、プロフィールを登録すると、経験に関心を持った企業からスカウトが届きます。Offers で届いた求人の給与欄と福利厚生欄を読み、株式報酬の有無を面談の前に確かめてください。
RSU の税金がかかる2つの時点(日本の居住者)
日本の居住者が受け取る RSU は、株式を受け取った日の時価が給与所得として課税され、その後に売って値上がり益が出れば、その益が譲渡所得として別に課税されます。課税は2段階に分かれ、1段階目は株式を売らなくても発生する点に注意が必要です。
ここで書くのは公的な資料が示す考え方までで、個別の扱いは勤務先の制度と付与契約によって変わります。実際の申告は、勤務先の担当者か税理士に確かめてください。
株式を受け取った日の時価が給与所得になる
国税不服審判所の裁決例(平成24年2月10日)は、勤務先グループの株式報酬制度のストック・ユニットについて、株式に転換された日を給与所得の収入すべき日と判断しました。社内の取引方針で株式を売れる期間が限られていても、転換された日に株主としての地位を得たとしています。
同じ裁決事例集には、勤務先の日本法人が属するグループを支配する外国法人が、株式を無償で取得できる権利(アワード)を付与した事例の裁決(平成18年8月23日)も載っています。権利が確定した日を収入すべき日とし、受け取った本人と付与した外国法人のあいだに直接の雇用関係がなくても、勤務先の従業員であることを理由に付与されたものは給与所得に当たる、という判断です(国税不服審判所「公表裁決事例要旨 株式関連報酬」)。
株式を受け取った年は、その時価の分だけ給与の収入が増えます。株式を売らずに持ち続けても税金は発生するため、納税の資金をどう用意するかも受け取る前に考えておきたいところです。
売ったときの値上がり益は申告分離課税
権利確定のあとに株式を売って値上がり益が出た場合は、株式等の譲渡所得として、ほかの所得と分けて税額を計算する申告分離課税になります。国税庁のタックスアンサー No.1463によると、税率は20%(所得税15%、住民税5%)で、平成25年から令和29年までの各年分は、基準所得税額に2.1%を掛けた復興特別所得税も併せて申告・納付する決まりです。
値上がり益をいくらと数えるか(取得費の数え方)は、受け取った日の時価と証券会社の記録をそろえて確かめます。ドル建ての株式なら円への換算の時点も関わるので、記録は受け取った日ごとに残しておくのが確実です。
外国の親会社から受け取る分は確定申告が要ることがある
国税庁の質疑応答事例「源泉徴収の対象とされない給与収入がある場合の確定申告」は、外国の親会社から支払を受けた給与等が源泉徴収の対象とされない場合、金額の多寡にかかわらず、確定申告の要件を満たす限り申告が必要としています。年末調整で手続きが終わる給与とは扱いが違う点に注意が必要です。
勤務先の日本法人は、外国の親会社などが国内の役員や従業員に与えた経済的利益について、翌年3月31日までに税務署へ調書を出します(国税庁「F1-43 外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」)。RSU が給与の源泉徴収に含まれる会社か、自分で確定申告する会社かは、入社前に人事か給与の担当に聞いておくと安心です。
オファー面談で RSU について確かめる6つの項目
RSU を含むオファーで確かめるのは、付与の総額と株数の決め方、権利確定のスケジュールとクリフ、追加付与の方針、退職時の未確定分の扱い、サインオンボーナスの条件、税金の手続きの6つです。オファーレターに書かれていない項目は、内定を受ける前に書面でもらえるかを聞いておくと、入社後の食い違いを防げます。
項目 | 聞くこと | 確かめないと起きやすいこと |
|---|---|---|
付与の総額と株数 | 金額で決めるか株数で決めるか、株数ならどの日の株価で割ったか | 入社までに株価が動き、思っていた株数と違う |
権利確定のスケジュール | 何年で確定するか、クリフはあるか、最初の確定日はいつか | 1年目に受け取れる額を多く見積もる |
追加付与の方針 | 入社後に毎年の付与があるか、評価とどう結び付くか | 2年目以降の総報酬が下がる |
退職時の扱い | 権利確定の前に退職した分はどうなるか | 転職の時期しだいで受け取れない分が出る |
サインオンボーナス | 支払いの時期、返還の条件、源泉徴収の扱い | 早期に退職したときに返還を求められる |
税金の手続き | RSU が給与の源泉徴収に含まれるか、確定申告が要るか | 申告漏れや、納税資金の不足 |
スカウトで複数の企業と話すときも、Offers で届いたオファーを上の6項目で並べると、総報酬の違いを見比べやすくなるはずです。
年収や条件の交渉に進むときは、エンジニアの転職の給与交渉に段取りをまとめた記事があるので、あわせて読んでみてください。
退職するときの未確定の RSU は付与契約で扱いが決まる
権利確定の前に退職した RSU の扱いは、会社の株式報酬制度の規程と付与契約で決まります。RSU は勤務を続けることを権利確定の条件にする報酬なので、転職の時期を決める前に、次の権利確定日とその日に確定する株数を確かめておくのが先です。
国税不服審判所の裁決例(平成18年8月23日)でも、アワードの権利確定は勤務会社の従業員として一定期間勤務したことで可能になる、と事実が整理されました。所得税法施行令第84条も、譲渡制限付株式の要件の1つに、勤務を続けないことなどを理由として、株式を交付した法人などがその株式を無償で取得する事由が定められていることを挙げています。RSU がこの譲渡制限付株式に当たるかは制度の設計によるため、勤務先の担当者か税理士に確かめてください。
権利確定で受け取った株式は本人が株主として持つ資産で、退職の時期で扱いが問題になるのは、まだ確定していない分です。転職先との交渉では、退職で受け取れなくなる見込みの株数と、権利確定日ごとの予定を書き出し、サインオンボーナスや入社時の RSU の付与で埋められるかを相談できます。
退職の時期を決める順番は、次のとおりです。
- いまの職場の付与契約で、次の権利確定日と確定する株数を確かめる
- 転職先の入社日と、最初の権利確定日(クリフの長さ)を並べる
- 受け取れなくなる見込みの額を、転職先のサインオンボーナスや付与の総額と比べる
- 退職後に受け取った株式を売る時期と、確定申告の要否を確かめる

