求人票に年齢や入社年次とともにモデル年収が書かれていると、自分も数年でその額に届くのかと期待したくなります。一方で「モデル年収はあてにならない」という声もあり、どこまで信じてよいのか迷うエンジニアやデザイナー、PdM(プロダクトマネージャー)は少なくありません。

モデル年収は、読み方さえ知っていれば、その会社の給与の仕組みを知る手がかりになる情報です。モデル年収の意味と、自分への提示額とずれる理由、求人票と面接で確かめること、内定時に最後に見る書類までを、厚生労働省の資料と Offers の求人データをもとにまとめました。

モデル年収は求人票に載る社員の年収例で、提示額の約束ではない

モデル年収は、求人票や求人広告に「モデル年収」「年収例」「給与例」などの名前で載せられる、その会社で働く社員の年収の例です。多くは年齢や在籍年数、役割を添えて書かれ、どの社員を例に選ぶか、何を年収に含めるかは会社ごとに違います。応募した人に同じ額を払うと約束するものではない点を、最初に押さえておきましょう。

職業安定法の条文に「モデル年収」という言葉は出てきません。一方で厚生労働省は、求人メディア向けのリーフレットで「モデル収入例を、必ず支払われる基本給のように表示してはなりません」としています(厚生労働省「募集情報等提供事業者の皆さまへ」・2022年10月1日施行の改正職業安定法)。悪い例は「【給与】400万円~【モデル給与】1000万円~」で、社内で特に給与が高い人の給与を全員の給与のように見せる書き方です。

良い例として示されているのは、年収の幅だけを書く「【給与】400万円~600万円」と、そこに「【モデル給与】555万円」(同じ職種の社員の給与の平均)を添える書き方でした(厚生労働省「募集情報等提供事業者の皆さまへ」)。年収の幅を本体として示し、モデル給与はそれを補う例として添える形です。

モデル年収・年収の幅・平均年収の違い

求人票で年収を読むときに混同しやすいのが、モデル年収、年収の幅(下限〜上限)、統計の平均年収の3つです。モデル年収は特定の社員の例、年収の幅はその求人で提示しうる範囲、平均年収は多くの人を集計した値で、表しているものがそれぞれ違います。

種類

何を表すか

読むときの注意

モデル年収(年収例)

その会社の社員1人、または想定した人物の年収の例

例の人物の年齢・在籍年数・役割が自分と近いか

年収の幅(年収○万〜○万円)

その求人で提示しうる年収の下限と上限

提示額は選考での評価で決まり、上限になるとは限らない

平均年収(統計)

調査の対象になった多くの人の年収の平均

業種・年齢・企業規模が混ざった値で、個々の会社の水準ではない

「想定年収」という言葉は、会社によって指すものが違います。Offers の求人でも、月給と賞与から計算した年収を「想定年収」と書く求人と、複数の年収の例を「想定年収」として並べる求人の両方がありました。呼び名より、何の金額なのかを中身で確かめると読み違えずに済みます。

求人票でのモデル年収の主な書き方

求人票のモデル年収には、年齢と在籍年数で並べる書き方、役割ごとに並べる書き方、入社時と入社後を並べる書き方などがあります。Offers の正社員の IT職(エンジニア・デザイナー・PdM)求人で年収例を載せていた23社を見ると、14社(60.9%)が年齢を添えていました(Offers(株式会社overflow)調べ・年収例を載せた企業 n=23・2022年3月〜2026年9月公開の累計・2026年10月2日集計)。

書き方

書き方の例(金額は伏せた)

読み取れること

年齢・在籍年数で並べる

年収○○万円/29歳・入社2年目、年収○○万円/35歳・入社5年目

年次や年齢で年収がどう上がるか

役割ごとに並べる

リーダー 年収○○万円〜、マネジャー 年収○○万円〜

役割と年収の対応

入社時と入社後を並べる

入社時 年収○○万円、2年目 年収○○万円

入社後の昇給の幅

どの書き方でも、例の人物と自分の条件がどれだけ近いかで、例の年収の参考になり方が変わります。年齢だけで比べず、経験年数や役割まで見比べると、自分に近い例かどうかを判断しやすくなります。

Offers のIT職求人で年収例を載せる企業は1割未満

Offers に掲載された正社員の IT職求人で、「モデル年収」「年収例」などの語で年収例を載せている企業は、公開中の求人がある189社のうち12社(6.3%)でした(Offers(株式会社overflow)調べ・公開中の正社員IT職求人 n=608・2026年10月2日集計)。年収の下限と上限は公開中の求人の98.8%に入っており、IT職の求人で年収を読む材料の中心は年収の幅で、モデル年収は一部の会社が添える補足の情報です。

集計の範囲

求人数

年収の下限・上限あり

年収例あり(求人)

企業数

年収例ありの企業

公開中

608件

601件(98.8%)

34件(5.6%)

189社

12社(6.3%)

2022年3月〜2026年9月公開の累計

1,722件

1,709件(99.2%)

65件(3.8%)

414社

23社(5.6%)

出所: Offers(株式会社overflow)調べ・正社員IT職求人・2026年10月2日集計。

公開中で年収例を載せた34件のうち10件は同じ1社の求人なので、求人の件数より企業の数で見る方が実態に近くなります。人材紹介会社や転職エージェントが他社の求人を代わりに載せるアカウントの掲載は、1社として数えられないので集計の対象外です。年収例は「モデル年収」「年収モデル」「年収例」「給与例」「給与モデル」の語で判定しており、別の言い方で年収の例を書いた求人は数えていません。「想定年収1」「想定年収2」のように「想定年収」の名前で例を並べる1社を加えても、公開中で13社(6.9%)です。

求人の年収の幅は中央値で360万円ある

公開中の IT職求人の年収の幅(上限から下限を引いた額)は中央値で360万円で、下限の中央値は500万円、上限の中央値は900万円でした(Offers(株式会社overflow)調べ・年収の下限と上限が入った公開中の正社員IT職求人 n=601・2026年10月2日集計)。上限が下限の1.5倍以上ある求人は72.4%です。

同じ求人に応募しても、提示される年収には数百万円の開きが出うることになります。企業ごとに幅の中央値を取ってから並べると400万円で(Offers(株式会社overflow)調べ・年収の下限と上限が入った公開中の求人がある企業 n=186・2026年10月2日集計)、求人を多く載せる一部の企業に引っ張られて幅が大きく見えているわけではありません。

自分が応募を考えている職種で年収の幅がどれくらいあるかは、実際の求人で確かめるのが早道です。Offers Jobs では、職種や技術で正社員の求人を探し、求人ごとの年収の下限と上限を見比べられます。

幅のどこで提示額が決まるかを大きく左右するのは、選考で評価される経験です。厚生労働省の「令和7年転職者実態調査の概況」(2026年9月25日公表・事業所調査の有効回答 n=9,154)は、転職者の賃金を決める際に考慮した要素を事業所に聞いています。「これまでの経験・能力・知識」を考慮した割合(転職者がいる事業所に占める割合・複数回答)は、情報通信業で81.3%、全産業で59.2%でした。

情報通信業では「年齢」が50.8%、「前職の賃金」が50.7%と続きます(厚生労働省 令和7年転職者実態調査・表5)。モデル年収の人物の年齢や在籍年数だけでなく、自分の経験がどう評価されるか、前職の年収がどう見られるかも提示額を左右するということです。

年収例の最高額が求人の上限を超える会社もある

年収例の金額と求人の年収の上限を比べられた22社のうち4社(18.2%)は、その求人の年収の上限を超える金額を年収例に挙げていました(Offers(株式会社overflow)調べ・年収例の金額を読み取れ求人に上限がある企業 n=22・2022年3月〜2026年9月公開の累計・2026年10月2日集計)。上限600万円の求人に700万円の例、上限1,000万円の求人に1,620万円の例を載せていたものがあります。

公開中の求人に限ると12社中2社で、該当する11件のうち10件は同じ1社の求人です。年収例には、応募するポジションより経験の長い社員や役職のある社員が選ばれることがあります。年収例の最高額を、その求人で自分に提示される額の上限と読み替えないよう注意が必要です。

モデル年収が自分への提示額とずれる4つの理由

モデル年収が自分に提示される年収とずれる主な理由は、例の人物の条件が自分と違うこと、毎年同じとは限らない給与が含まれること、固定残業代の扱いが見えにくいこと、社内で年収の高い社員を例に選べることの4つです。どれも求人票の書き方と面接での質問で確かめられます。

例の人物の年齢・在籍年数・役割が自分と違う

モデル年収に挙がる人物は、入社して何年か経った社員のこともあれば、中途入社1年目の社員のこともあります。入社時の自分と比べるなら、例の年齢や在籍年数、役割が自分の経験とどれくらい近いかを先に見ておくのが基本です。

中途入社1年目の例が載っていれば入社時の目安に近く、入社5年目でリーダーを務める人の例なら数年後の目安として読むのが自然です。複数の例が並んでいるときは、自分の経験年数に最も近い例を基準にします。

残業代や賞与など、毎年同じとは限らない給与が含まれる

モデル年収に残業代や賞与、インセンティブ(成果に応じて払われる報酬)が含まれていると、同じ会社に入っても働き方や業績で年収が変わります。賞与が業績連動なら、前年の実績が翌年も続くとは限りません。

残業代が多い例なら、労働時間の長さが年収を押し上げている可能性もある点に注意が必要です。内訳が「月給○万円+賞与」のように書かれているか、賞与を何か月分として計算しているかを見ると、例の年収のうち毎年ほぼ決まって払われる部分が分かります。

固定残業代が年収に含まれているかが見えにくい

固定残業代(一定時間分の残業代をあらかじめ月給に含めて払う仕組みで、みなし残業代とも呼ばれます)が年収に含まれていると、基本給が見た目より低いことがあります。厚生労働省のリーフレットは「固定残業代を採用する場合に、基礎となる労働時間数等を明示せず、基本給に含めて表示してはなりません」としています(厚生労働省「募集情報等提供事業者の皆さまへ」)。

厚生労働省「募集情報等提供事業者の皆さまへ」の良い例は、基本給25万円と固定残業代7万円を分けて書き、15時間分を残業の有無にかかわらず払うことと、15時間を超えた分の割増賃金を追加で払うことを添えた書き方です。モデル年収に固定残業代が含まれるなら、何時間分か、超えた分は別に払われるかを確かめましょう。

社内で年収の高い社員を例に選ぶことができる

モデル年収にどの社員を選ぶかは会社に任されているため、社内で年収の高い社員が例に挙がることがあります。厚生労働省のリーフレットは、誤解を生じさせる表示をしないための注意点として、社内で特に給与が高い労働者の給与を全ての労働者の給与であるかのように例示する書き方を悪い例に挙げています。

職業安定法第5条の4は、労働者の募集を行う者などが広告などで求人の情報を提供するとき、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならないと定めています(e-Gov 法令検索「職業安定法」第5条の4)。例が年収の幅とかけ離れて高いときは、その社員が自分と同じ職種・役割なのかを聞いて確かめておくと安心です。

モデル年収を読むときに確かめる5つの点

モデル年収を読むときに確かめたいのは、例の人物の条件、年収の内訳、求人の年収の幅との関係、賞与の前提、自分の経歴との距離の5つです。求人票で読み取れないものは、面接やオファー面談(内定の前後に条件を説明する面談)で聞いて確かめます。

確かめる点

求人票のどこを見るか

見るポイント

例の人物の条件

モデル年収の注記

年齢・在籍年数・役割、入社時の例か入社後の例か

年収の内訳

給与の欄

基本給・固定残業代・賞与・手当の内訳と、固定残業代の時間数

年収の幅との関係

年収の下限・上限

例の金額が幅の中にあるか、上限を超えていないか

賞与の前提

賞与・昇給の欄

何か月分で計算しているか、業績連動か

自分の経歴との距離

必須条件・歓迎条件

自分の経験年数や担当範囲が例の人物に近いか

転職した人の満足度を見ると、賃金は職業生活全体より不満の割合が高い項目です。厚生労働省の令和7年転職者実態調査(表14・個人調査の有効回答 n=7,310)では、今の勤め先の賃金に「不満」「やや不満」と答えた転職者が27.6%で、職業生活全体の10.7%より高い割合でした。

モデル年収が気になる求人は、同じ職種のほかの求人の年収の幅と並べると、例の金額が高いのか標準的なのかを判断しやすくなります。

面接やオファー面談でモデル年収を確かめる質問

面接やオファー面談でモデル年収を確かめるときは、例の人物の条件、自分の経験で想定される年収の位置、賞与と固定残業代の扱いの3つに絞るのがおすすめです。年収の話は聞きにくいと感じても、内訳と前提を確かめる質問であれば、条件の確認として聞きやすい内容です。

聞きたいこと

質問の例

例の人物の条件

「年収例の方は、入社何年目で、どのような役割を担っていますか」

自分の位置

「私の経験だと、求人の年収の幅のどのあたりを想定されていますか」

賞与の前提

「年収例の賞与は何か月分で計算していて、業績でどの程度変わりますか」

固定残業代

「固定残業代は何時間分で、超えた分は別に支給されますか」

入社後の上がり方

「評価と昇給は年に何回で、昇給の幅はどれくらいですか」

年収を聞くタイミングや、提示額に納得できないときの交渉の進め方は、エンジニアの転職活動時の給与交渉で扱っています。

内定時の提示年収は労働条件通知書で確かめる

最終的に確かめるのは、内定時に書面で示される労働条件通知書の賃金とその内訳です。労働基準法第15条は、使用者が労働契約の締結に際し、賃金や労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できます(e-Gov 法令検索「労働基準法」第15条)。

書面で示すことが義務になっている賃金の事項は、賃金の決定・計算・支払の方法などです。賞与は会社に定めがある場合に明示する事項とされ、書面の交付までは求められていません(厚生労働省 法令等データベース「労働基準法施行規則」第5条)。労働条件通知書に年収や賞与の額が書かれているとは限らないので、月給と手当の内訳、固定残業代の時間数、賞与の算定方法を確かめ、書面に無いものはオファーレターやオファー面談で確かめましょう。

職業安定法第5条の3第3項は、求人で明示した業務の内容や賃金などの労働条件を、労働契約を結ぶときに変える場合、変える内容を相手に明示しなければならないとしています(e-Gov 法令検索「職業安定法」第5条の3)。対象は求人で労働条件として示した内容なので、求人票の給与の欄(年収の幅や月給)と労働条件通知書の賃金が違うときは、どこがなぜ違うのかを承諾の前に聞いてかまいません。モデル年収は社員の例として載せたものなので、提示額との差は、自分の経験が年収の幅のどこに位置づけられたかを聞いて確かめるのが近道です。

内定後に条件を見ながら承諾を迷うときの考え方は、内定ブルーの原因と対処法で整理しています。提示された条件が妥当かを判断するには、ほかの求人の年収の幅と並べてみるのも一つの方法で、Offers Jobs で同じ職種の求人を探して見比べられます。

モデル年収は年収の幅と内訳を読むための手がかり

モデル年収は、自分に提示される額の約束ではなく、その会社で年次や役割に応じて年収がどう上がるかを知る手がかりです。Offers の IT職求人では年収例を載せる企業は一部で、年収の幅と内訳の方が読む材料の中心です。

例の人物の条件が自分と近いか、例の金額が求人の年収の幅に収まっているか、固定残業代や賞与がどれだけ含まれるかを確かめれば、モデル年収をあてにしすぎず、かといって読み飛ばさずに使えます。転職で年収がどれくらい上がるのかの実態は、エンジニア転職で年収アップは本当かで扱っています。