個人事業主の開業手続き
個人事業主として事業を始める際は、税務署に開業届を提出しなければなりません。さらに青色申告を希望するなら、青色申告承認申請書についても併せて用意しておく必要があります。
個人事業主が開業する際に必要となる手続きについて見てみましょう。
開業時に提出すべき書類
開業時に最低限提出すべき書類は、開業届と青色申告承認申請書です。開業届については開業から1カ月以内、青色申告承認申請書は2カ月以内の提出が求められます。
また、『個人事業開始申告書』も開業時に必要な書類ですが、こちらは税務署ではなく市区町村役場へ提出します。提出期限は自治体によって異なりますが、開業から15日~1カ月というケースが多いです。ただし、自治体によって『提出不要』『都道府県にも提出要』など手続きが異なるため、詳細については各自治体へ問い合わせることをおすすめします。
開業届
開業届は正式には『個人事業の開業届出・廃業届出等手続』と言い、開業時には必ず納税地の税務署に提出しなければなりません。この書類を提出することで『青色申告が可能になる』『ビジネス用の名前である屋号を付けられる』というメリットがあります。
開業届は個人事業主になる際に出しておくべきですが、提出は法律で義務づけられていないため、未提出によるペナルティ等はありません。
青色申告承認申請書
青色申告承認申請書とは、青色申告を行うための申請書類です。開業届と同様に納税地への提出が必要で、提出後に『青色申告者として認められるか否か』の審査が行われます。
税務署は『過去に青色申告の承認の取消しの通知を受けていないか』『申請日は有効期間内か』などをチェックし、不備が見つかれば青色申告は認められません。
ただし、たとえ承認された場合でも通知等はされないため、青色申告を希望する年の12月31日までに税務署からの連絡が無い場合は、承認されたと考えてよいでしょう。
その他都道府県の税事務所にも「事業開始等申告書」(名称は各自治体により異なります)を提出するのを忘れないようにしましょう。
榎本希
個人事業主として開業する場合には税務署に開業届を提出します。
提出期間は開業日から1ヶ月以内となっています。
また、青色申告を行う場合には青色申告承認申請書も一緒に提出するとよいでしょう。
青色申告承認申請書は青色申告を行おうとする年度の3月15日まで、年度途中で開業した場合には開業日から2ヶ月以内に提出する必要があります。
その他、都道府県の税事務所にも「事業開始等申告書(自治体により名称が異なります)も提出する必要があります。こちらは提出期間は自治体により異なるので各自治体に確認しましょう。
開業届を出すべき理由
開業届は、税務署に事業を開始したことを報告するために提出します。
個人事業主になると、事業によって得た所得については『所得税』を納めねばなりません。さらに、事業規模や収入額によっては、個人事業税や消費税を支払う必要も出てくるでしょう。
税務署はこの開業届によって個人の状況を把握でき、税の申告が正しくなされているかどうかを計りやすくなります。一方、個人事業主は『個人事業主の税金に関する案内』などを税務署から受け取ることにより、適切に納税義務を果たせるようになるのです。
開業したことを証明する際に必要
『個人事業主である』と証明しなければならない場合、開業届が求められるケースは多々あります。例えば金融機関で『屋号入りのビジネス専用口座』を作成する際は、開業を証明できる書類として、開業届の控えが必要です。
また、高額商品の購入や種々の手続きでは、職業の証明を求められることもあります。個人事業主には『社員証』等がないため、開業届で代用することになるでしょう。
青色申告をおこなうために必要
確定申告時に青色申告をするには、開業届を提出したうえで『青色申告承認申請書』を提出しなければなりません。申請書は必ずしも開業届と同時に提出する必要はありませんが、出し忘れを防ぐなら一緒に出しておいたほうが無難でしょう。
また、青色申告承認申請書を後から出す場合は、提出のタイミングに注意しなければなりません。青色申告承認申請書は開業日から2カ月以内に提出すべきというのは前述しましたが、遅れた場合のタイムリミットは、青色申告を希望する年の3月15日です。
これを過ぎるとその年の青色申告出来なくなるため、早めの提出をおすすめします。
青色申告のメリット
個人事業主が青色申告によって受けられるメリットには、以下のようなものがあります。
- 青色申告特別控除
- 純損失の繰り越し控除など
青色申告特別控除とは、複式簿記で記帳することによって適用される『65万円』の控除です。ただし2020年分の申告からは、65万円の控除を受けるための要件に『電磁的記録の備付けおよび保存』『e-Taxによる電子申告』が加えられました。これを満たさない場合は控除額が『55万円』と減額されるので注意しましょう。
また、青色申告では、3年の損失繰越しが認められていることも大きなメリットです。前年の赤字で翌年の黒字を相殺できるため、課税対象額を減額できます。
このほかにも『減価償却の特例』『家事関連費の計上が可能になる』などのメリットがあり、青色申告によって得られる節税効果は、白色申告をするよりもはるかに多いといえるでしょう。
榎本希
開業届の提出は所得税法により提出が義務づけられています。
個人事業主となった場合には開業届の提出が必要です。
また、青色申告をするためにも開業届は必要となります。
青色申告を行った場合には要件を満たした場合に最大で65万円の特別控除が受けられるというメリットや、赤字の繰越ができるというメリットもあります(原則は55万円となります)
また、屋号付きの銀行口座を作る際にも開業届の控えが必要になります。
開業届の書き方
開業届は税務署に提出しますが、どのような項目への記載が求められるのでしょうか。開業届の書き方や記入のポイントを紹介します。
用紙の入手方法
開業届は、最寄りの税務署か国税庁のHPで入手できます。ただし、書き方等に疑問がある場合は税務署に直接足を運び、不明な点を確認した方がベターです。
一方、税務署が遠い、時間が無いという人はHPからダウンロードするとよいでしょう。ただし、いずれの場合も書き損じや記入ミスを考慮して、複数部入手することをおすすめします。
開業届記入の際のポイント
開業届では、次のような項目に記入します。
- 納税地
- 開業した住所
- 氏名
- 職業
- 電話番号
- マイナンバー
- 屋号
- 開業日など
どの項目も自身の情報に基づいて記入すればよいですが、注意したいのがマイナンバーと屋号です。
国民すべてが持つ12桁の番号『マイナンバー』は、2016年分の確定申告書から記載が義務づけられるようになりました。現在マイナンバーと税務署が持つ情報との紐付けが本格化しており、開業届にもマイナンバーを記載する必要があります。
また、屋号の記載については義務ではありませんが、つけておくとビジネス上の印象が良くなるうえ、ビジネス用の口座を作る際にも有益です。『個人事業主として働く』というモチベーションを高めるためにも、適切な屋号を付けておいたほうがよいでしょう。
榎本希
開業届は国税庁のHPでダウンロードが可能です。
用紙に記載する事項で1番迷う部分は職業、事業の概要の部分ではないかと思います。
職業欄については総務省の「日本標準職業分類 分類項目名」を参考にすると良いでしょう。
事業の概要欄には、行う事業に関して具体的に記載します。収入源が複数ある場合には、それらをすべて書くようにしましょう。
開業届の提出手順
開業届をもれなく記入したら、管轄の税務署に提出しなければなりません。提出の際の注意点や提出方法を紹介します。
提出先は管轄の税務署
開業届は、自身の居住地を管轄する税務署に提出しなければなりません。どの税務署が管轄なのか分からない場合は、国税庁のHPで検索すると簡単です。税務署は1つの市区町村に必ずあるというわけではないので、居住地から遠い場合もあるでしょう。
持参または郵送する
開業届は、管轄する税務署に持参するか、郵送にて提出しますが、どちらの提出方法でも、マイナンバーと本人確認は必須です。税務署窓口で提出する場合はマイナンバーカードやマイナンバー通知カード、さらに運転免許証やパスポートを持参しておきましょう。また、郵送の場合でも本人確認書類の写しは必要です。
さらに、マイナンバーカードとカードリーダーを持っている人なら『e-Tax(国税電子申告・納税システム)』を利用して開業届を提出できます。
このシステムを利用した場合は、本人確認書類の提示・提出は不要です。
控えは必ず手元に残す
開業届を提出する際、忘れずにとっておきたいのが開業届の控えです。
開業届は、金融機関でビジネス用の口座を作ったり『小規模企業共済制度』に申し込んだりする際に、提示を求められます。一度税務署に提出してしまうと手元には残らないので、自分でコピー等を取っておきましょう。
また、提出の際は作成した控えに受領印をもらうのも忘れてはいけません。郵送の場合は切手を貼った返信用封筒に自分で宛名を記載し、控えを希望する旨記しておけば返送してもらえます。
榎本希
開業届は管轄の税務署の窓口に持参して提出することも郵送で提出することも可能です。
窓口で提出する場合、時期によっては混雑する場合もあるので時間にゆとりを持って提出に行くようにしましょう。窓口で提出した場合、その場で控えをもらうことができます。
郵送の場合には記載した開業届と一緒に身分証明書のコピーと返信用の封筒を同封して管轄の税務署に郵送します。
また、青色申告を受ける場合に提出する青色申告承認申請書も一緒に提出しましょう。こちらも郵送での提出が可能です。
その他の開業時に準備するもの
開業届や青色申告承認申請書の提出は、は個人事業主として開業する際に最低限必要な手続きです。しかし、スムーズに事業を展開していくには、このほかの準備も必要となるでしょう。
個人事業主に必要な開業準備にはどのようなものがあるのでしょうか。
事業用の銀行口座
面倒なトラブルを避けるなら、『屋号入りの口座』を作ることをおすすめします。
個人事業主なら、プライベート用と事業用の口座は分けておくべきです。両方の収支が入り交じっている場合は、事業の経営状態が把握しにくく、効率的な運営ができません。
また、税務調査が入り通帳の提示を求められた場合にも、個人用・事業用の収支が混じっていては、調査員に良い印象を与えません。「私用のものを経費として上げているのでは」と要らぬ疑いを招けば、税務調査はさらに厳しくなるでしょう。
さらに、企業の中には個人名義の口座とのやりとりを嫌うところもあります。仕事用の口座を持つことは、事業としての信用度アップにもつながるでしょう。
ホームページ
自身の事業をアピールできるホームページは、低コストの宣伝媒体となります。ホームページを訪れた人から依頼が来る可能性もあり、更新を頻繁に行い来訪者を増やせば、仕事のチャンスが広がるでしょう。
また、ホームページで事業の情報や詳細を提示することで、クライアントからの信頼を得やすくなります。近年はインターネットで情報を検索する人も多く、『検索にヒットする』ことは不信感の払拭にも繋がるのです。
開業費は経費にできる
事業開始準備にかかった経費は、『開業費』として計上できます。具体的には、名刺や印鑑の作成費用、書籍等を購入した際の資料費用など、事業開始に必要なものが計上可能です。
ただし、事業にかかわらない光熱費や家賃、10万円以上の物品購入費用は開業費には含まれません。前者は『事業に必要』と認められないため、後者は『固定資産』として扱われるためです。
青色申告の場合、例えばPCなど事業用に購入した物品で10万円以上の物であっても取得価格が30万円未満であれば少額減価償却資産の特例を利用することができます。
また、開業費の期間についても、悩む人は多いのではないでしょうか。開業準備にかかった費用はすべて開業費として計上できますが、常識的に考えて、数年以上前の費用まで含めるのは不適切です。
開業費を計上する場合は、開業数ヶ月~1年前程度までの費用を含めるのがベターでしょう。
出典:会社設立時の費用は経費になるのか? 仕訳も含めて紹介します
榎本希
開業費は「繰越資産」に分類されます。また、開業費は任意償却といい、好きなタイミングで経費にすることができます。
例えば開業前に購入したもので高額な物以外は経費とすることができますが、この高額な物の金額が青色申告の場合には30万円以上のものとされています。
開業費になるのか減価償却資産とするのか分からない場合には税務署や税理士に相談すると良いでしょう。
まとめ
個人事業主として事業を始めるには、開業手続きを完遂する必要があります。開業に必要な開業届や青色申告承認申請書は事前に準備しておきましょう。
ただし、税務署とのやりとりにはマイナンバーと本人確認書類は必須です。開業届を窓口に持参したり郵送したりする際は、併せてこちらも準備しておかねばなりません。
開業届を提出すれば、開業日からは『個人事業主』として名乗れます。事前にビジネス用の口座を作ったりホームページを作成するなどしておけば、スムーズに仕事を始められるでしょう。