転職で確かめるストックオプションは2種類
転職でストックオプションを確かめる対象は、今の会社で付与されている分と、転職先で付与される見込みの分の2つです。今の会社の分は、退職したあとも行使できるかが会社と結んだ割当契約の行使条件で決まります。退職日を決める前に、まず契約書を読み直すのが出発点です。
転職先の分では、付与の数・権利行使価額・税制適格かどうか・行使の条件が内定の時点で決まっているかを確かめ、現金の年収とは分けて評価する必要があります。2つは見る書面も時期も違うので、分けて整理すると抜けが出にくくなります。
対象 | 確かめる書面 | 主な項目 |
|---|
今の会社で付与された分 | 新株予約権の割当契約書・募集事項 | 退職後に行使できるか、行使期間、権利を失う事由、行使済みの株式の保管先 |
転職先で付与される分 | オファーの書面・付与時の割当契約書 | 付与数、発行済株式に占める割合、権利行使価額、税制適格か、行使の条件、付与の時期 |
税制適格と非適格で変わる課税の時点
ストックオプションは、会社の株式をあらかじめ決めた価格(権利行使価額)で買える権利で、会社法の新株予約権として与えられるものです。株価が権利行使価額を上回ったときに行使して株式を取得し、その株式を売って初めて現金になる仕組みです。課税の時点は、租税特別措置法第29条の2の要件を満たす税制適格か、満たさない税制非適格かで変わります。
国税庁の「ストックオプションに対する課税(Q&A)」は、付与時の株価200、行使時の株価800(権利行使価額200)、売却時の株価1,000という同じ例で、2つの課税を説明しています。
時点 | 税制非適格(無償で付与) | 税制適格 |
|---|
付与時 | 課税関係は生じない | 課税関係は生じない |
行使時 | 800−200=600が給与所得(発行会社が源泉徴収) | 課税が繰り延べられ、課税関係は生じない |
売却時 | 1,000−800=200が株式譲渡益 | 1,000−200=800が株式譲渡益 |
出所:国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」問1・問6(令和6年11月最終改訂)。
税制非適格では、株式を売る前の行使の時点で給与所得として課税される点が大きな違いです。税制適格なら行使の時点の課税は繰り延べられ、売却したときにまとめて株式譲渡益として課税される形です。同じ Q&A は、給与所得の税率よりも株式譲渡益の税率が低い場合には税負担が軽減されると説明しています。
株式譲渡益の税率は、国税庁の「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」によると20%(所得税15%、住民税5%)です。平成25年から令和29年までは、復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付します。
税制適格になるストックオプションの主な要件
税制適格になるのは、会社と結ぶ契約に租税特別措置法第29条の2第1項の要件が定められているストックオプションです。転職を考える人に関わる主な要件は、次の表の6つでした。
要件 | 内容 |
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付与の条件 | 発行会社の取締役等に無償で付与されたものであること |
対象者 | 付与決議のあった会社(または一定の関係にある法人)の取締役・執行役・使用人である個人。大口株主とその特別関係者は除く |
行使の時期 | 付与決議の日後2年を経過した日から、付与決議の日後10年を経過する日まで。設立5年未満などの要件を満たす会社は15年を経過する日まで |
年間の権利行使価額 | 合計1,200万円以下。設立5年未満の会社は権利行使価額を2で、設立5年以上20年未満で非上場などの要件を満たす会社は3で割った金額で判定 |
権利行使価額 | 契約を結んだ時点の1株当たりの価額に相当する金額以上 |
譲渡と株式の保管 | 譲渡が禁止されていること。行使で取得した株式は、金融商品取引業者等(証券会社など)への保管の委託等か、譲渡制限株式であれば発行会社による管理 |
出所:e-Gov 法令検索「租税特別措置法」第29条の2第1項(2026年10月27日取得)、付与の条件は国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」問6。
年間の権利行使価額の判定は、令和6年度税制改正で変わりました。経済産業省の「ストックオプション税制」は、設立5年未満の会社が付与するものは上限2,400万円/年、設立5年以上20年未満で非上場または上場後5年未満の会社が付与するものは上限3,600万円/年への引上げと説明しています。
今の会社の分は退職後の行使の可否を契約で確かめる
今の会社で付与されたストックオプションを退職後も行使できるかは、会社と結んだ割当契約と、新株予約権の募集事項に定めた行使の条件で決まります。租税特別措置法第29条の2が契約に定めるよう求めているのは、行使の時期・年間の権利行使価額・権利行使価額・譲渡の禁止・株式の保管などの要件です。退職したあとに権利が残るかどうかは、会社ごとの契約の定めによります。
退職日を決める前に、契約書で読み直すのは次の4点です。
- 行使の条件。行使するときに役員や従業員として在籍していることや、上場などを条件にしているか
- 行使期間と権利の確定。何年目から行使できるか、在籍年数に応じて行使できる数が増える定めがあれば退職日までに確定する数
- 権利を失う事由。退職を権利を失う事由にしているか、退職後に行使できる期限を定めているか
- 行使済みの株式。税制適格で取得した株式が証券会社などの口座で保管されているか、発行会社が管理しているか
退職後に行使したときの課税の扱いは、契約の内容と行使の時期によって変わる場合があります。行使の前に、発行会社の担当部署と税理士に確かめておくと安心です。
前の会社と転職先の両方に税制適格のストックオプションがあるとき
前の会社と転職先の両方で税制適格のストックオプションを持つ人は、同じ年に行使する分の権利行使価額を合わせて確かめます。租税特別措置法第29条の2第1項のただし書は、その年に行使する分の権利行使価額と、その年に既にした行使の権利行使価額との合計額で上限を判定する定めです。
この「既にした行使」には、同じストックオプションだけでなく「他の特定新株予約権」の行使も含まれます。年間の合計額が1,200万円を超えることになる行使は、その行使の経済的利益の全額が非課税の対象から外れます。行使の年を分けられるかどうかも含めて、行使の計画を税理士に相談するのが確実でしょう。
ストックオプションに触れる求人の割合と年収帯
Offers の正社員 IT職求人では、2023年10月〜2026年9月に公開された求人の10.7%(178件)が、本文でストックオプションに触れていました(Offers(株式会社overflow)調べ・正社員 IT職求人 n=1,666・2023年10月〜2026年9月公開)。178件のうち150件はエンジニアの求人です。
ストックオプションに触れる求人は、年収の上限の中央値が1,000万円で、触れない求人の900万円を100万円上回りました。上限が1,000万円以上の求人の割合も、触れる求人では68.4%、触れない求人では40.7%です。
区分 | 求人数 | 年収の下限の中央値 | 年収の上限の中央値 | 上限が1,000万円以上 |
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ストックオプションに触れる求人 | 177件 | 600万円 | 1,000万円 | 68.4% |
ストックオプションに触れない求人 | 1,478件 | 500万円 | 900万円 | 40.7% |
出所:Offers(株式会社overflow)調べ・年収の下限と上限を記載した正社員 IT職求人 n=1,655・2023年10月〜2026年9月公開。
この集計から、ストックオプションがあるから年収が高いという因果までは言えません。それでも、ストックオプションに触れる求人を探すことは、年収の上限が高い求人を探すことと重なりやすいと読めます。現金の年収で今の水準を保ちながら、ストックオプションを上乗せとして比べる探し方ができます。
求人票の「ストックオプション制度あり」で分かるのは制度の有無まで
求人票でストックオプションに触れる178件のうち、81.5%は「ストックオプション制度あり」「付与あり」のように制度の有無を書く形でした(Offers(株式会社overflow)調べ・ストックオプションに触れる正社員 IT職求人 n=178・2023年10月〜2026年9月公開)。
残りのうち12.4%は「成果に応じて付与の可能性あり」「役職・実績に応じた付与」「一部の従業員が対象」のように付与に条件がつく書き方で、6.2%は制度を準備中・検討中・設計中と書いていました。求人票の記載は、入社すれば必ず付与されるという約束とは限りません。付与の数・権利行使価額・税制適格かどうかは、選考の中で確かめる項目です。
ストックオプションに触れる求人の多くはエンジニアの求人でした。Offers Jobs のエンジニアの求人一覧では、年収の幅を見ながら正社員の求人を探せます。
転職先のストックオプションは年収と分けて評価する
転職先が示すストックオプションは、現金の年収に足して1つの数字にせず、別の項目として評価します。ストックオプションが収入になるのは、行使の条件を満たし、株価が権利行使価額を上回り、取得した株式を売れたときです。どれかが欠ければ収入にはなりません。
見込みを数字で置くなら、付与数に「売却時の想定株価−権利行使価額」を掛けた額が税引き前の見込みになります。国税庁の例でいえば、1株当たり権利行使価額200で取得して1,000で売ると、税制適格なら800が株式譲渡益です。ただし想定株価は上場や会社の売却が実現したときの仮の値で、実現しなければ見込みは成り立ちません。
評価のときに見落としやすいのは、次の3点です。
- 発行済株式に占める割合。会社ごとに株式の総数が違うため、付与数だけでは比べられない。発行済株式の総数に対する割合で聞くと比べやすい
- 行使の条件。上場を行使の条件にしている場合、上場しなければ行使できない。会社の資金調達の状況や上場の計画を、話せる範囲で聞いておく
- 提示年収の内訳。Offers の求人には、提示年収の説明に「株式報酬含む」と書くものもある。年収の数字に株式報酬が含まれていないかを内訳で確かめる
外資系企業や上場企業から、RSU(譲渡制限付株式ユニット)を含むオファーを受けたときの数え方は「RSUとは|転職で確かめる仕組みと税金」にまとめています。
オファー面談でストックオプションについて確かめる7項目
内定前後のオファー面談では、ストックオプションについて付与数・発行済株式に占める割合・権利行使価額・税制適格か・行使の条件・付与の時期・退職時の扱いの7項目を確かめ、回答を書面かメールで残してもらいます。求人票は制度の有無を書く形が中心なので、条件の中身がそろうのはこの時点です。
項目 | 聞き方の例 | 確かめる理由 |
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付与数 | 入社時に付与される予定の数はどのくらいですか | 見込みの計算の出発点になる |
発行済株式に占める割合 | 発行済株式の総数に対して何%に当たりますか | 会社ごとに株式の総数が違い、数だけでは比べられない |
権利行使価額 | 1株当たりの権利行使価額はいくらの予定ですか | 売却時の株価との差が利益の元になる |
税制適格か | 税制適格のストックオプションとして付与されますか | 行使時に給与所得として課税されるかが変わる |
行使の条件 | 上場や在籍年数など、行使できる条件は何ですか | 条件を満たさなければ行使できない |
付与の時期 | 入社時に付与されますか、入社後の評価に応じてですか | 税制適格では付与決議の日後2年を経過するまで行使できない |
退職時の扱い | 退職したとき、未行使の分はどうなりますか | 次の転職のときに権利が残るかが決まる |
聞きにくい項目は「入社後の報酬の全体像を把握したい」という目的を添えると、角を立てずに聞けます。ストックオプション以外の労働条件の確かめ方は「オファー面談で聞くこと|転職で労働条件を確かめる7項目」が参考になるはずです。現金の年収・ストックオプション・等級を交渉で伝える順番は「スタートアップの年収交渉|ストックオプションと等級」で整理しています。
転職は現金の年収で生活が成り立つかを先に決める
ストックオプションのある会社へ転職するときは、現金の年収で生活と今の水準が成り立つかを先に決め、ストックオプションはその上に乗る可能性として比べると判断がぶれにくくなります。ストックオプションの価値は会社の株式の価値と上場などの機会に左右されるもの。現金の年収の不足分を埋めるものとして扱うと、見込みが外れたときに生活の側が崩れます。
進め方は次の順です。
- 今の会社の契約を読み直し、退職後の行使の可否・行使期間・権利を失う事由を確かめて退職日の候補を決める
- 現金の年収の下限が今の水準に届く求人から、ストックオプションに触れる求人を探す
- 資金調達の状況や事業の伸び方を面接で聞く。準備は「スタートアップの面接で問われるスキルと準備【IT職】」が参考になる
- オファー面談で付与数から退職時の扱いまでの7項目を聞き、回答を書面かメールで残してもらう
- 税制適格のストックオプションが2社分になるなら、行使の年と年間の権利行使価額の合計を税理士と確かめる
ストックオプションを示す会社を探すときは、Offers Jobs の企業一覧から気になる会社のページを開き、掲載中の求人の職種と年収の幅を見比べるところから始められます。