スクラム開発でのプロダクトオーナーの役割
『スクラム開発』とは製品開発プロセスを1〜4週間程度の『反復(イテレーション)』に区切った反復的で漸進的なアジャイル開発手法の一つです。
スクラム開発は小規模な『スクラムチーム』で行われ、実際の経験と既知に基づく判断によって知識が獲得できるとされる『経験主義』を概念的基礎としています。
スクラムチームはプロダクトとチームに最終的な責任を持つ『プロダクトオーナー』と実際に開発を進める3〜9名で成り立っています。『開発チーム』はプロダクトオーナー・開発チーム・組織外の人間に対するサポートを行うサーバントリーダーである『スクラムマスター』で構成されます。
この小規模なチームは反復の中で頻繁にコミュニケーションを行い、互いに成長を促進させながら目標達成を目指していくのです。
プロダクトオーナー主な役割
スクラムにおいてはチームが一丸となって達成すべき『ゴール(目標・目的)』を設定することが重要です。
ゴールは製品に必要な要素項目の一覧である『プロダクトバックログ』の中で示され、プロダクトオーナーがビジネス的観点・顧客視点で価値を見積もり、優先順位を決定します。
項目は優先順位が高いものほど上に表示されています。開発チーム目線でより重要と考えられた項目はプロダクトオーナーの了解を得て適切に順番を変更し、新たな項目の追加はプロダクトオーナーのみが実行できます。
チームはゴールを達成するために存在し、開発チームは組織外からの命令を受けずプロダクトバックログのみを根拠に開発を進めます。
このためバックログに最終的な責任を持つプロダクトオーナーは項目を明確化・透明化し、開発チームに十分に理解してもらう説明を行うことが重要です。
プロダクトマネージャーの違い
混同されやすい語に『プロダクトマネージャー』がありますが、プロダクトオーナーとはスクラムにおける独自の役割がるという大きな違いがあります。
例えばプロダクトバックログに開発チームが介入できることからわかるように、スクラムにおいてマネジメントプロセスはチーム内で流動的に行われるものです。
チームで製品管理プロセスに関する一定の権利を共有するのがスクラムの特徴の一つであり、プロダクトオーナーは階層固定的な承認プロセスを実行するマネージャーではありません。
スクラムマスターとプロダクトオーナーの兼任
スクラムにおける反復は『スプリント』と呼ばれ、平日の決まった時間に15分以内で完結させる『スクラム会議』を毎日欠かさず行います。
スクラム会議の中ではスクラムマスターが進行役と調停役を務め、開発チーム全員に対して「ゴール達成のために昨日何をして今日何をするか」また「何が問題があるか」を質問します。
この会議の内容を受けて開発チームは独自に『スプリントバックログ』を作成し、課題解決の指標としてください。
スクラムマスターは開発チームの自主性を尊重する立場であり、またプロダクトオーナーをサポートする役割も持ちます。
プロダクトオーナーはビジネス的視点を持つため会議への介入は公平性を欠き、結果的に1人でチームをマネジメントすることになりかねません。
ビジネスから見るプロダクトオーナーと開発技術から見る開発チームを仲介する存在として『スクラムマスターは中立的』であることが好ましく、チームの破綻を招きかねない兼任はすべきではないでしょう。
プロダクトオーナーに求められるスキルとは
柔軟な対応が欠かせないプロダクトオーナーには十分な『ヒューマンスキル』も求められます。
コミュニケーション能力
チームにおいては問題の早期発見や計画の刷新とメンバーのモチベーション・パフォーマンスの維持・向上が重要です。ギスギスしたストレスフルな環境ではこれの達成は困難になります。
何でも恐れず自然体で言い合える『健全性』を求めましょう。プロダクトオーナーはチーム全体が心地よく仕事ができる環境作りのために高いコミュニケーション能力を持っていることが重要です。
またゴールが曖昧では『チームの存在意義』が失われかねません。明確なゴールのイメージを伝え、バックログを効果的に活用するためにもコミュニケーション能力は欠かせないでしょう。
発言力
プロダクトオーナーの役割は、外部の圧力からチームを守ることです。
開発チームに業務を指示できるのはプロダクトオーナーだけですが、ここに重要な意味があります。クライアントからの要求は再現がなく実現可能性が低いケースとなる場合もあるでしょう。
短期的な機能リリースを繰り返すことができるスクラムではクライアントの言いなりではプロジェクトの完成は近づくことは少ない傾向があります。
プロダクトオーナーはビジネス的観点から効果性の高い機能追加であるかを判断し、時には適切に「ノー」と言い、『代替案を提出』することができる発言力も必要になるでしょう。
伝達力と質問力
プロダクトバックログの変更権を持つプロダクトオーナーには明確なビジョンが必要です。
クライアントからの要求に「なぜ」と問い、チームからの提案や疑問に「どうやって」と掘り下げて問題をより明確にしていく質問力が求められます。
その上でクライアントに効果性の評価理由を伝え、チームにビジョンを周知する伝達力が必要といえるでしょう。
プロダクトオーナーの資格について
プロダクトオーナーになるために資格は必要ありませんが、クリアすることで認定資格が得られる世界標準の研修があります。
認定プロダクトオーナー研修とは
『認定プロダクトオーナー研修(CSPO)』は米国に本拠を置く非営利団体Scrum Allianceの認定スクラムトレーナーによる世界標準の研修です。
2、3日間の研修でプロダクトオーナーがどのように考え振る舞うべきかを実践的に学びます。
主な研修内容
研修は主催する団体やトレーナーによって内容が異なりますが、基礎の解説から実際にプロダクトバックログを作成しビジネスとして運用する疑似体験を行えるところは共通しています。
参加者が豊富な研修項目から目的の研修内容を個別に選べるシステムを採用しているケースもあるでしょう。
知識として体系的に学ぶというより、実際にビジネスの場でスクラムを運用する意志をもった受講者を対象にしていると考えておく必要があります。
プロダクトオーナー関連でおすすめの本
プロダクトオーナーになるために理解しておきたいマインドや実践上の具体的な手法について学べる本を紹介します。
プロダクトオーナーになる前に読む本
『プロダクトオーナーになる前に読む本』は、プロダクトオーナーになろうとする人向けに、そもそもプロダクトとは何かを解説する入門書です。
これまでとこれからのプロダクトを考えてみたい方におすすめです。
- 商品名: [PDF版]プロダクトオーナーになる前に読む本vol.1
- 価格: 1000円
- BOOTH : 商品ページ
ユーザーストーリーマッピング
顧客の要望を『ユーザーストーリー』といい、明確なゴールを設定するためにプロダクトオーナーはこれを正確に把握しなければなりません。
『ユーザーストーリーマッピング』ではストーリーを完全に理解した上でマッピング(整理分類)し、スプリントごとにストーリーマップを活用する方法を網羅的に解説しています。
- 商品名: ユーザーストーリーマッピング
- 価格: 3240円
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まとめ
日本ではまだ導入例の少ないスクラムですが、頻繁な機能追加と素早いリリースが求められる案件では非常に有効な手段になりえます。
スクラムの実施にはチームの構築と効果的な運用が欠かせませんので、プロジェクトのビジネスオーナーとなるプロダクトオーナーの役割が重要といえるでしょう。