【LegalOnに聞く】ChatGPTを活用したプロダクト開発〜本番運用のハードルとは〜

ChatGPTの登場により、ジェネレーティブAIへの注目が高まっています。現在では業務への活用も広まり、具体的な活用事例などが公開されるようになりました。

しかし実際には、レビューなどの業務効率化への活用事例が多く、エンドユーザー向けの機能としてリリースされた事例はまだまだ少ないのが現状です。エンドユーザー向けの機能実装を考えている方にとっては、アウトプットの制御や、想定外に起こり得ることなど、実際に経験した方でないと知り得ない情報が欲しいと感じられているのではないでしょうか。

そこで今回は、先日エンドユーザー向け機能としてリリースした株式会社LegalOn Technologies(リーガルオンテクノロジーズ)の開発担当者をお招きし、事例とともに本番環境へリリースするにあたってのハードルや考えておくべきことについて紐解いていきます。

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※当日のライブ感が伝わることを尊重し、言い回しなどに極力手を入れない形で書き起こしています。

株式会社LegalOn Technologiesについて

深川:

株式会社LegalOn Technologies(以下、LegalOn) CTOの深川と申します。

今日は「ChatGPT APIを本番利用するために超えるべき5つのハードル」というタイトルで、お話をさせていただきます。小さいところを含めれば、もっと多くのハードルがあるような気もしますが、今日は5つに絞ってお話します。

さて、私からはまず会社の紹介をさせていただきます。LegalOnは、法とテクノロジーの力で安心して前進できる社会を創るというパーパスを掲げています。社名からもわかるように、テクノロジーを基盤に、法的専門知識、つまりリーガルの知識をアドオンする形で、法務業界のイノベーションを推進しています。

創業は2017年4月で、現在は6年目を迎え、従業員数は2023年5月時点で508名です。今日は私、深川の他に、今回のサービスを開発に携わったプロダクトマネージャー兼フロントエンジニアの渡辺とバックエンドエンジニアの黒田とともに、お話しをさせていただきます。

LegalOnでは、AI契約審査プラットフォーム『LegalForce』と、AI契約管理システム『LegalForceキャビネ』を提供しています。

『LegalForce』は契約書の審査や作成の受付から締結まで、『LegalForceキャビネ』は契約締結後の契約リスクの管理までをAIの力を使ってワンストップでサポートするプロダクトです。

ChatGPT APIを利用して開発した機能の紹介

渡辺:

ここからは私たちが開発した、ChatGPT APIを活用した機能について紹介したいと思います。開発した機能の名前は「条文修正アシスト」です。対象ユーザーは企業の法務担当者や法律事務所の専門家です。まず、開発までの経緯をお話します。

法律事務所の専門家や法務の担当者が契約書を修正する際、我々から契約書のチェックポイント―この契約書をどのように修正すべきかを提案します。しかし、提案された内容は広く一般的に適用される内容であるため、その提案内容を元に、契約書の内容に沿って修正する場合は、考慮時間や労力が大きな負担となります。この課題はユーザーヒアリングでも同じことが指摘されており、解決するべきニーズと認識しました。

そこで私たちはChatGPT APIを活用し、元の契約書の内容を反映した修正案を、自動で生成する機能を開発しました。ユーザーはこの修正案を確認し、チェックポイントが修正されているか、また、その修正が契約書に適しているかを判断することができます。

「条文修正アシスト」機能のUI

デモをすぐに見せたいと思いますが、動画はYouTubeで公開されており、後で見ることも可能です。

画面右側には「条文修正アシスト」のボタンがあり、それをクリックすると修正案が作成されます。一つだけではなく、複数の条文修正アシストを同時に起動することも可能です。

文章の生成がされると、右下の部分に修正案が表示されます。その修正案を元に、修正案が適切かどうかをユーザーは判断し、左側のエディタにコピー&ペーストすることが想定されています。

システムの構成図は以下の通りです。

フロントエンドからバックエンドに対して、修正する対象のチェックポイントに対して修正案の生成依頼をします。バックエンドでは、プロンプトの生成を行い、Azure OpenAI Serviceに問い合わせます。バックエンドが Azure OpenAI Service から修正案を受け取った後、修正案をS3に格納し、フロントエンドがそれを取ってくる仕組みになっています。

ChatGPT APIをB2B SaaSで本番利用するために超えるべき5つのハードル

今回のサービスを開発するにあたり、超えるべきハードルが多くありました。今回はその中でも5つに絞ってお伝えします。

渡辺:

まず一つ目に「ユーザー体験」です。ここでは、同期処理の難しさがハードルとして挙げられます。

ChatGPTを使ったことがある方ならご存知かもしれませんが、生成された文章を得るまでに時間がかかります。

同期処理にすると、一つの修正案が出来上がるまで次の処理を実行できなくなってしまうため、修正案の作成中でも他の作業ができるように非同期で設計しました。具体的には、右側で「条文修正アシスト」を何度でも起動でき、修正案を作成中でも左側のエディタですでにできている修正案を見ながら編集したり、別の作業をすることが可能です。

黒田:

ここからは、二つ目のハードルである「信頼性」について、技術的な側面や開発の詳細も含めながらお話します。まず、信頼性について話すと、製品に実際に搭載するためには高い可用性や応答速度の安定性など、さまざまな要件が必要になります。

もちろん、OpenAI社が提供しているAPIも利用できますが、今回はMicrosoft社が提供しているAzure OpenAI Serviceを利用して信頼性を保証しています。

比較項目の最上部にある「最新モデルの利用」の観点で、新しいモデルが出たときは、OpenAI APIが先に使用できるようになります。セキュリティと可用性の観点では、Azure OpenAI Serviceが優れていて、SLAが99.9%設定されています。

ただし、注意点としては、AZ が一つしかないことです。それでも、可用性の観点はOpenAI APIより優れているため、今回はAzure OpenAI Service を利用しています。

黒田:

三つ目のハードルに「利用規約」の問題があります。『LegalForce』の場合、既存の利用規約のままではChatGPT APIを活用した機能を提供することができませんでした。今日はChatGPT APIやLLMを使いたいという方々にお集まりいただいてますが、そのままの利用規約では提供できない場合もありますので、ご参考いただければと思います。

対策として『LegalForce』は、ChatGPT APIを活用した「条文修正アシスト」をオプション機能として設計し、別途同意書の内容にご同意いただけたユーザーにのみ、機能提供を行っています。

黒田:

四つ目のハードルは、ChatGPT APIの「精度」についてです。

精度とは何かというと、今回私たちは契約書の条文の修正案を提示しています。高精度とは、この修正案がそのまま使える状態、つまり、法務担当者や弁護士が、この修正案を契約書に反映しても問題ないと思えるような条文が提示されることを指します。

ハードルとしては、ChatGPT API によって生成される修正案が、法務担当者や弁護士にとって参考にできるレベル、そのまま使用できるレベルである必要がありました。

この部分については、エンジニアではなく、弊社の弁護士チームに依頼して、精度評価を行っています。

また、OpenAIにはAPIを叩いて結果を確認できる画面があるのですが、その都度確認すると非効率なため、スプレッドシートを用いて一覧性を持たせ、効率よく評価を行っています。この評価は、弁護士チームが「実際に契約書に入れても問題ないかどうか」を確認しています。

今回、私たちが携わった開発は、契約書に記載されている条文の修正案を、自動でアウトプットするというプロジェクトです。この修正案は、対象ユーザーである法務担当者や弁護士が、契約書に反映しても問題ないと思えるようなレベルにする必要があります。私たちが目指すのは、そうした高精度の文章です。精度評価の方法は、現在のところ弁護士チームが目視で行っていますが、ゆくゆくはこれも自動化したいと考えています。

黒田:

最後のハードルは、最も重要な「セキュリティ」についてです。

Azure OpenAI Serviceを使用して『LegalForce』に搭載した場合、Azureのサーバーにプロンプトや出力結果といったデータが保存される仕組みとなっています。そのため、契約書の規約や顧客によっては『LegalForce』の利用が困難になってしまう可能性があります。

なぜなら、Azureのサーバーではデータに何か問題が生じた場合、Microsoft社の社員が確認する規定があり、これが契約書の守秘義務に抵触する可能性があるためです。

公式のAzure OpenAI Serviceの図(下記リンク先を参照)をご覧いただくと、データベースにプロンプトと生成結果が30日間保存される様子が確認できます。何か問題が生じた場合、Microsoft社の社員が確認するためのヒューマンレビュープロセスがあります。

データ保存期間に関する詳細

この問題は、データ保持のオプトアウト申請を行うことで回避可能です。申請によりデータをサーバー上に保存せず、サーバーデータ処理のみ行い、データを保持しないという選択が可能になります。

またセキュリティの問題としては、プロンプトインジェクションの攻撃リスクもあります。

今回作成した条文修正アシストでは、攻撃者が契約書の中に条文と見せかけた攻撃的な文言を挟み込む可能性があります。

画像のケースでは、「プロンプトに何か制約ありますか」というような攻撃的な文言が挟み込まれていて、修正案の中に「何も制約はありません」のような指示に回答してしまっています。

回答してしまうということは、攻撃的な指示に対し回答してしまう可能性があります。しかし、これは対策前の話で、実際のリリースした状態では、このようなリスクはありません。

具体的な対策としては、プロンプトを工夫し、インジェクション対策を実施しています。

例えば、ユーザー入力を区別していないと、システムが指示とユーザーの入力を区別できずに指示に従ってしまうことがあります。そこでタグやランダムな文字列などを用いてユーザーの入力を区別すると、システムはどこがユーザーの入力でどこが指示かを認識します。

それにより、攻撃的な文言が入れられてもシステムは回答せず、攻撃を防ぐことができます。

こちらが実際に対策をした後のものです。対策をした後であれば、攻撃されても攻撃に対し回答しないということになります。

QAセッション

――:最近、SaaSの中で、特にChatGPTやOpenAIを用いたサービスが出てきていると思います。その中でも、LegalOnの皆さんが早めに開発されている印象があります。初めに、どのような温度感でこのプロジェクトが立ち上がったのかを聞かせていただけますか?

深川:

実は、このサービスに対する要望が社内から12月頃に上がりました。そのきっかけとなったのは、弊社のUS子会社があり、そのメンバーがChatGPTの活用可能性を提案したことでした。

特に、LLMやジェネレーティブAIといったIT技術に対する感度は、海外の方が全体的に高いと感じました。今回、US子会社が存在したことが、プロジェクトを好方向に進める要因となったと思います。

――:『ユーザー体験を改善するために超えるべきハードル』の箇所で、特にChatGPT APIのレスポンス時間が長いという点があったと思いますが、実際には、どれほどの遅さなのでしょうか?

渡辺:

Datadogでレスポンス時間を計測していますが、90パーセンタイルで約23秒、最も速いものでは5秒ほどです。しかし、遅いものになると120秒、つまり2分ほどかかり、返答が来ないこともあります。

――:それは興味深いですね。その120秒ほどかかるものは、文量が多いものなのでしょうか、それとも複雑な文章なのでしょうか?

渡辺:

長くなれば長くなるほどレスポンス時間も長くなる傾向はあります。しかし、レスポンスの長さが全てとは限らず、たった2、3行の文章でも120秒かかることもあり、その遅延原因が何なのかはまだ理解できていません。

――:確かに、それは難しい問題ですね。許容しつつ非同期のUIでカバーするというところですよね。ここはエンジニアからの提案があったのでしょうか?

渡辺:

その通りです。実は、非同期のUIを導入しようと提案したのは黒田でした。同期的に処理すると時間がかかるので他の体験に影響が出てしまうと考え、非同期であればいいのではないかと提案がありました。

そこで、どういったデザインが非同期のUIに適しているのかを私からデザインチームに伝えたり、そのアイデアを実現できるのかを黒田の方でプロダクトに落とし込んでいったという背景はあります。

――:精度の評価については、現状では弁護士の手による目視検査を行っているとのことですが、これは基本的に全て手動で行っているのでしょうか?

黒田:

はい、現状では手動で確認しています。本当は自動化したいと考えていますが、まだそれが完全には実現できていません。そのため、現状ではスプレッドシートを使って一つ一つ手動で確認するのではなく、一度プロンプトを入れると全ての結果が表示されるような工夫は行っています。

――:今後、精度評価を自動化させていくために、使おうとしているライブラリや技術を考えていますか?

黒田:

はい、私たちはOpenAIのevalsなどの公式ライブラリを活用して評価を進めたいと考えています。しかし、一番の課題は評価関数の設計です。何が良い結果で何が悪い結果かを判断することは、弁護士が確認しているように難しいですし、それを関数に落とし込むことも困難です。

ですから、どのライブラリを使うかという問題よりも、どういう評価関数を作るかが重要だと考えており、現在はそこで苦労しています。

――:それは確かに難しそうですね。私が今取り組んでいるプロジェクトでは、入力と出力が確定的に決まっているので、正解を確認するのは比較的容易です。しかし、自然言語のように多様性がある場合、どの程度が正解なのかを判断するのは非常に難しいと感じます。とても高度な課題だと思います。他に何かありますか?

深川:実例的な話をすると、つい最近、お客さんから「内容は合っているのだけど、表現に若干の違和感がある。助詞のつなぎが少し変だ」というフィードバックがありました。このような部分をユニットテストのようなやり方で評価するのは相当難しいと思います。この点をどう解決するか、正直、今悩んでいて、今後の精度改善には重要だと思っています。

――:なるほど、ありがとうございます。ユーザーが使い始めると、どんどん要望が出てくると思います。これは本当に、サービスが本番稼働して初めて出てくる悩みだと思います。

もう1つ聞きたいのはプロンプトインジェクションについてです。きちんと対策されていると思うのですが、SaaSの場合なら、きちんとログインできるアカウントを持ったユーザーなので、そこまでめったなことはしてこないと思います。その中でも、どのような懸念点があり、どういった観点から対策をしているのでしょうか?

黒田:

攻撃の手段は限られていて、結局は入力値で攻撃するしかありません。

だから、入力値として攻撃されたとき、それをどう防ぐかが問題です。防ぎ方は、セキュリティの基本ですが、多段階で防御しています。

まずは利用規約で「やってはいけない」ことを明示しています。次に、Azure OpenAI Serviceには、コンテンツフィルタリングという仕組みがあります。これは我々が何もしなくても、自動的に攻撃を検知して、エラーを回避する仕組みです。そして、その先で、我々が独自にプロンプトインジェクションの対策を行っています。

思いつくだけでも、3段階は対策をとっている形になります。

――:なるほど、ありがとうございます。このコンテンツフィルタリングは、OpenAIの通常のChatGPT APIを使用している時には付いていないんですか?

黒田:

ついていません。ただ、OpenAIのAPIには、攻撃的な文言かどうかを判定するAPIが別途用意されています。それを自分で使用すれば、同じような機能を実現できます。Azure OpenAI Serviceの方はデフォルトでコンテンツフィルタリングの仕組みが入っています。

toC企画におけるChatGPT運用のハードルとは

続いては、株式会社overflowの佐藤さんに、ChatGPTを利用したtoC向け製品のハードルと勘所についてお話しいただきます。

佐藤:

今日は3つのポイントについてお話ししたいと思います。1つ目は「ユーモアの評価」、2つ目は「ユーザーの期待値調整」、そして3つ目は「不適切なコンテンツの取り扱い」です。

まずは、弊社がどのようなChatGPTの企画を実施したのかというところから、お話をいたします。

弊社では、ITエンジニアやデザイナー向けの副業転職サービス「Offers」を展開しています。今回の企画では、「ChatGPT先生のわくわくITアニマル☆占い」をOffersのサービスの一企画として展開しています。

本当は、この画像の下に書いてある「あなたのスキル経歴から副業で使えるアピールポイントを自動生成」というものを、Offersにおけるメイン機能として提供したいのですが、これだけでは固いし面白みがないと感じました。

そこで、ユーザーに触れてもらい、我々自身がフィードバックを得るために、この企画を「ChatGPT先生のわくわくITアニマル☆占い」という形で展開したという経緯です。

デモ動画をご覧いただくと、ユーザーはITアニマル占いをするという形で、名前やプロフィール情報を入力し、情報が足りないところを編集することができます。そして、占いの結果として、アニマル占い部分の画像とテキスト、さらにアピールポイントのテキストが表示されます。

今回の企画の目的は、Chat completionsを使ってみるという開発経験を得ることと、ユーザーに好奇心を持って触ってもらうこと、そして事業的には、ユーザーのデータベースを増やすことです。

結果画面を生成する際には、オープンAIのAPIを使って、アピールポイントの本文、動物占いの部分、そして動物画像を生成します。

動物画像の生成は、英語のプロンプトしか受け付けていないAPIを使っていますので、動物名は最初から英語で表示しています。

ここから先は、ご紹介した企画の中で取り組んだポイントを紹介します。

VSユーモアの評価

佐藤:

今回の企画で取り組んだ重要なポイントは、ユーモアの評価です。動物占いの部分では、実在する動物に例えて占いを行い、GPTが面白いテキストを生成することを期待しています。ただし、当初はあまり面白みのない結果が出ていました。

これはただ単にチーターの説明をしているだけですね。私たちが期待しているのは、ただのプロフィール情報を述べるだけではなく、もう少し技術的な単語を組み合わせて欲しいということです。

今度は入力のテキストに含まれる単語をただ列挙しただけのものになっています。「IT業界のサーバントで自分の狩りを行っているのです」の部分にちょっとだけ動物感があるように思えますが、やはり十分ではありません。このように、試行錯誤を重ねて精度を高めていきました。

最終的には、このようなテキストが出てくるように改良しました。テンションを高めたり、ビックリマークをつけたりしたものが出てきました。このような形でプロンプトの調整を行いました。

評価のためには、弊社の5つの異なるプロフィール情報(例えば、特定のエンジニアやデザイナーの情報)を使って、それぞれ10個の出力し、系50件ずつ生成するスクリプトを実行しました。

それぞれの出力を定性的に評価しました。

評価項目としてはユーモア、正確性、非引用度(つまりただ引用しているだけではないこと)、そして動物らしさを挙げています。

このような評価基準や方向性を設けないと、GPTのプロンプトの調整は終わりが見えず、1日が終わってしまうことがあります。そのため、適切な方向付けや評価指標の設定が重要だと考えています。

vsユーザーの期待値調整

佐藤:

ユーザーの期待値をどうコントロールしていくかの取り組みについて話をします。本来のアピール文を生成する機能の話になります。アピール文を作るにあたってのハードルは、ChatGPTで作成したテキストの結果にはムラが出るという点です。

これは、GPTのAPIのパラメータを調整することである程度改善は可能ですが、最も大切なのはユーザーの登録情報です。

具体的に言えば、ユーザーのプロフィール情報が充実しているほど精度が上がりますが、プロフィール情報が少なければ生成されるテキストの精度は落ちます。特に、情報が少なすぎる場合、ChatGPTが架空の経歴やスキルを生み出してしまうこともあります。

この問題を解決するにあたっては、まずユーザーに対し、情報量によって精度にムラがでることをしっかりと説明することを選びました。入力する情報が多ければテキストの精度は高く、少なければテキストの精度は低いよ、という具合に。

こうすることでユーザーは情報をより多く入力するようになり、見返りとして精度の高いテキストがかえってくることになります。

弊社としてもデータベースの情報量が増えるため、Win-Winの関係を築けるという期待がありました。

vs不適切なコンテンツ

佐藤:

最後に、不適切なコンテンツの問題についてです。これは非常にクリティカルな問題でした。例えば、占い結果における動物の種類でピカチュウやミッキーマウスが出てくることがありました。

もちろん、GPTのデータベースにはこれらのキャラクターがあるものの、実際の動物ではありません。ユーモアと不適切なコンテンツのバランスを取るのは難しいです。加えて、ユーザーが入力する情報なので、理論的には何でも入る可能性があります。

また、先ほど話しに出たオープンAIのモデレーションAPIだったと思いますが、ヘイト・セクシャル・バイオレンスのような典型的なNGを検知するのとは、また違う監視ポリシーになってくるので、これをどう解決するのかという悩みはありました。

結論から言えば、不適切なコンテンツに対しては、人力で逐次チェックするというアナログな方法を取ることにしました。

また、ユーザーからの報告も受け付けています。自動化したいとは思いましたし、その方法もいくつか考えついたのですが、時間の都合や開発の都合から、現状はこのような形になっています。

質疑応答

――:Offersさんにお伺いします。「ChatGPT先生のわくわくITアニマル☆占い」は3月にPressを出されていたと記憶しています。リリースがかなり早いと思うのですが、当初のプロジェクトの立ち上がりはどのような感じだったのでしょうか。

佐藤:

ChatGPTは、今年の1月~2月頃から世間でも注目されはじめたと思います。その流れの中で、社内でもChatGPTに触れておくべきではないかという話題がのぼっていました。話題も冷めやまないうちに、ChatPGTが3.5から4が公開されたタイミングで、弊社のCTOが本格的な導入を提案し、会社としてリソースを投入することにしました。

――:ChatGPT3.5から4にかけての精度の向上はたしかに驚きでしたね。さて、私が気になっているのは、開発チームがどのように技術的な経験を積んだのかという点です。多くの企業がChatGPTの導入を検討していると思いますが、それに見合うメリットはあるのでしょうか。開発チームがこの次のプロジェクトに繋がる経験を得られたという感覚はありますか?

確かに、プロンプトのチューニングと呼ばれる行為について、何が意味のある行動なのかは見えてきました。そして、ChatGPTそのものが完全なAIではなく、テキストの保管にすぎないという認識も得ています。また、リリースにあたってどういうところがハードルになり得るかを事前に最短で学習できたことに手応えを感じました。

――:開発期間はどれくらいかかったのですか?

佐藤:

2週間です。これは弊社の1スプリントに相当しています。

――:なるほど、それだけの期間で結果を出せるのは驚きですね。このプロダクトによって、実際にKPIへの影響はありましたか?

佐藤:

残念ながら、プロダクトが爆発的に流行したわけではありませんでした。しかし、登録ユーザーのプロフィール情報の入力率などには一定の効果が見られました。さらに、新たにオファーを受けて登録したユーザーも相当数いたので、一定の成果は出たといえるでしょう。

――:それは興味深いですね。別の質問に移ります。以下の評価項目について質問させてください。

これらの項目を考えるにあたっては、ドメイン知識が必要とされると思います。例えば、ユーモアを考えるにあたって非引用度や動物特定度が大事であるというのは、試行錯誤の結果出てきたパラメータなのでしょうか。もしくは、一番初めからこの項目を想定していたのでしょうか?

佐藤:

初めのうちはまったく想定していませんでした。ドメインエキスパートにテキストを評価していただくのはもちろんですが、弊社にはITアニマル占いのドメインエキスパートはいません。まずはやんわりとテキストを作ってそれを定性評価し、数値を見ていく中で、この4項目が重要になるという結果に、私が独断と偏見で辿り着きました。

――:なるほど、ありがとうございます。調整が始まると、やればやるほどできることが見えてきますし、逆に調整をしていて間違った方向に行く可能性もあるので、とても難しい作業だと思います。全体を通して、toCサービスとtoBサービスで考えることが違う点が非常に印象的でした。

パネルディスカッション

――:最初のテーマは開発期間についてです。両社ともに限られた期間内で効率的に製品をリリースするために、どのような優先順位で開発を進めていったのかについてお話を聞きたいと思います。まずはLegalOnの方からお願いします。

渡辺:

私と黒田で2月中旬にプロジェクトを発足しました。ゴールは決まっていたので、まずはやらなければならないタスクを一通り洗い出し、その中から最も重要なタスクについて、プロジェクト発足当日にすり合わせをしました。その後、タスクに優先順位を付けて、1つずつ日々の中で消化していきました。

もっとも優先度の高かったタスクは、ChatGPTが本当に製品に組み込めるのかを確かめることでした。そのために、弁護士の方々に実際にLLMを使用していただき、その使用感を聞きました。その結果、弁護士の方々から肯定的な意見をいただけましたので、次の工程に自信を持って進むことができました。

とはいえ、そのタスクの終了を待っていると製品化に間に合わなくなる可能性があったため、同時にプロダクトのデザインやヒアリングも進めていきました。

――:素晴らしい開発進行だと感じました。次に、overflowの方からお話をお聞きしたいと思います。

佐藤:

まずは限られた時間の中できちんとリリースするということが最優先でした。それとは別に、生成したもののリスクヘッジについては、かなり注意を払いました。弊社が初めて生成系AIを使ったテキストの生成物を表に出すという事もあり、その生成物に対する監視、そして不適切なものを発見した場合にはすぐに非公開化できるような機能など、生成物の管理には注意していました。

――:トークンの上限についてですが、Azure OpenAI Serviceだと、上限に達したらもう叩けなくなりますか?それとも、課金をすることによって上限を上げる形でしょうか。

黒田:叩けなくなります。モデルによって上限は全て決まっているというのが基本です。

――:トークンを消費しないように、前に似たような回答があったとしたら、そのデータを保持しておくといった工夫の余地はありますか?

黒田:それは可能です。アプリケーション側での工夫が必要となります。Azure OpenAI Serviceは、機械的に応答するのでLangChainを使ったりなど、アプリケーション側で色々と工夫することができると思います。

時間があれば、もっとこうしたかったなどはありますか?

――:こちらはoverflow側からまずは教えていただけますか?

佐藤:

不適切な内容をしっかりと監視する部分の自動化が、もっとも大きな心残りです。またユーザーに提供する価値として本来的にコアなはずのものの精度に関しても、チューニングの余地がたくさん残っています。4kというコンテキスト上限に制約されず、より良い出力を得るための情報の加工と分量の制限などについても考えました。

一度に全ての結果を出し切るというアプローチを優先した結果、精度を犠牲にしてしまった部分があります。例えば、出力を分割して生成するなど、別のアプローチももっと試してみたかったです。

――:現在もそのようなアプローチを試したり、追加開発を行っているのですか?

佐藤:

そうですね、他のテキスト生成系のタスクで試行錯誤を始めています。

――:ありがとうございます。次にLegalOn側はどうでしょうか?

渡辺:

デモの時やスライド中でプロダクトのイメージをお見せした際に、元の契約書の条文と出てきた修正案の間にある差分が表示されていたと思います。しかし、現状ではこの差分が表示されていません。

この差分表示は非常に重要で、実装しようと動いてきました。もしプロンプトが「修正案を出してください、差分も一緒に出してください」となると、2つの質問が一つにまとまってしまいます。その結果、元の修正案を出すという主要な課題に対しての良質な出力が得られなくなる可能性がありました。

そのため、どうやったらうまく表示できるのか、それをどのように実装するべきかについては、常に考えていました。結論、これはアプリケーション側で実装するべきだと判断し、今後その方向で進める予定です。

――:ありがとうございます。次のトピックに移りたいと思います。

リリースできると手応えを得たタイミングはありますか?

――:両社ともスピーディーに製品をリリースしたと思いますが、製品がリリースできると確信したタイミングがあったのかどうか、それについてLegalOn側からまずは教えていただけますか?

黒田:

大きなボトルネックが3つあったのですが、それぞれが解決したタイミングがリリースできると感じた瞬間でした。

それら3つとは、まず弁護士の方にこのプロダクトがリリースできるレベルだと認められたこと、次にフォームの同意書や規約に関する問題が解決できそうだと見通しが立ったこと、そして最後にAzureでの使用が許可されるまでの申請が通過したことです。特にAzureの申請は不確実性が高く、その申請が通過したタイミングで、やっとリリースできると感じました。ボトルネックとなる要素が、開発以外の部分で潜んでいるというのが大きな学びでした。

――:ありがとう ございます。まずはOpenAIで開発を進め、その後Azure OpenAI Serviceに移行した、という流れだったのですね。

黒田:

おっしゃる通りです。まずOpenAIで評価を行い、その後Azureに移行するという進め方をしていました。

――:その開発スタイルは確かに、本番をリリースするには良いと思います。それから気になるのは、製品が完全にリリース準備の状態になる前に、精度的な面で弁護士さんからOKをもらうタイミングについてです。その調整はリリースの直前まで行われたのですか?それともある時点からこの状態をfixさせていこうという感じだったのでしょうか?

黒田:

調整は最後まで行っていました。まずは製品に載せられそうかどうかの判断を弁護士にしていただき、その後、より精度を高めるために調整を進めていきました。その過程でプロンプトを変更しながら、修正文をどんどん改善していき、最終的に精度が最も高かったプロンプトを製品に搭載しました。

――:プロンプトの調整を進めることで、ますます製品が完成に近づくわけですね。

黒田:

そうです。ただ、この作業は終わりがないので、我々は一定の基準を設け、それに達したらリリースするという方針を持っています。時間が無限にあれば改善は無限にできるのですが、一定のところで終止符を打つ必要があります。

――:なるほど。では次にoverflowの方はどうですか?

佐藤:

2週間の出来事というのが前提にはなりますが、ChatGPTによって生成されるテキストのアピールポイントや動物占いのテキストなどの精度は重要でした。人に見せられる水準に達しているかは重要だったので、ギリギリまで改善を繰り返していました。

リリースするかの判断は開発チームに委ねられていましたが、まず自分たちで納得できる水準のものが出せるかどうかという試行錯誤の中、最後の2週間の後半ぐらいでついに目途がついて、最終的に製品を完成させることができました。

――:製品をリリースするかどうかは基本的にエンジニアが判断できるんですね?

佐藤:

弊社では普段から開発チームがその判断を行っています。

――:プロンプトの調整を進めていく中で、どの部分に時間をかけてこだわりましたか?

佐藤:人間が読んで違和感のない内容が所定の位置に収まっているかという点に注力しました。例えば、職務経歴など特定の項目に対するテキストが正確に反映されているかという部分です。調整過程では、その部分に大きな課題がありました。

――:ChatGPTのプロダクトを出すとき、プロンプトの精度をどれだけ上げるかが戦いとなりますね。それに関してベストプラクティスやコントローラビリティの点で、何か見えてきている部分はありますか?

佐藤:一部の意味がないと思われるパターンは見えてきています。また、ラングチェーンやソースコードに含まれるフォーマットのインストラクションなどは定型化されていると感じています。ただし、大きな出力を一つのプロンプトで得ようとするのは効果があまりないと感じています。

――:LegalOnさんの方でも、2つの要求をすると精度が落ちるという話がありましたね。その点については理解しました。LegalOn側に戻すと、プロンプトエンジニアリングの間で、特定の方法で精度を保証するようなハウツーがありますか?

黒田:

どうでしょうか。精度面については主に弁護士に依頼していましたし、OpenAIやAzureに公式のドキュメントがあるので、それらを参考にしながら進めています。私の場合は、特にセキュリティのプロンプトインジェクション対策の方をメインで行っていて、これは公式のドキュメントなどを参考にして作業を進めました。

LLMが何か分からない中で、bizとプロダクト開発の話をすることは難しくありませんでしたか?

――:私たちはエンジニアでないbizサイドの人たちとも一緒に開発していきますが、初めのうちは「ChatGPTは何者なのか、どれだけの精度が出せるのか」といった意見が一致していない状態で開発を進めるのは難しかったと思うのですが、その点についてどのように進めてきたのでしょうか。まずはoverflowの方に伺いたいと思います。

佐藤:

今回ご紹介した「ChatGPT先生のわくわくITアニマル☆占い」は、実際のビジネスの皆さんとの会話がほとんどなく、主にプロダクト開発チームが主導で進めてきました。しかし、今新しいプロダクトに着手する中で、ドメインエキスパート的なレビューで顧客と関わるbizの皆さんの力を借りています。現物をベースに議論する分には、特に難しさを感じていません。

――:確かに、プロダクト開発チームで意思決定できるところがあれば、調整の必要性は少ないでしょう。ありがとうございます。LegalOnではステークホルダーが多くいらっしゃると思いますが、その点はどうでしょうか?

渡辺:

今回のプロダクトでは、私はプロダクトマネージャーとして動いていましたが、元々エンジニアでもあり、大学時代に機械学習の研究をしていたので、難しい事を分かりやすく噛み砕いてbizの方に伝えていました。そのおかげで、コミュニケーションを取りながら開発はスムーズに進められました。

――:実際の開発中に、bizの方から「この機能は可能か?」といった意見があったかと思います。そういった意見の中には、簡単に見えて実は難しい問題もあったかと思うのですが、どう対応していましたか?

渡辺:

最初は、認識の違いからそういう問題も起こりました。LLMに対する知識が欠けているような要因もあり、勉強会を設けるなどして対応しました。会社全体でChatGPTやLLMの知識が蓄積され、共通認識が形成されたことで、認識の違いなどの問題は次第に減少しました。

こんなところでバグが…という不具合は?

では次のテーマに進みたいと思います。本番環境でのバグや不具合について、思わぬところでアラートが出た経験はありますか?LegalOnの方からお話を聞かせてください。

黒田:

バグではないのですが、条文が短くてもタイムアウトするなど、不可解なタイムアウトが起きていました。エラーが確認できるダッシュボードを作成して毎日エラーを確認しているのですが、タイムアウトに関するエラーは頻繁にあがります。

――:非同期通信を行ってもタイムアウトが起こるということですね。実際にタイムアウトが起きた時は、タイムアウトを知らせる何かしらのメッセージを出しているのでしょうか?

黒田:

この点はUIを工夫しています。ユーザーが再実行することで解決できるエラーがある場合は、再実行ボタンを表示しています。ただし、500系のサーバーエラーなど再実行しても解決しないエラーの場合は再実行できないようにしています。

――:なるほど、ありがとうございます。エラーが出た場合、どのように原因を特定して修正に持っていくのでしょうか?実際に修正した経験があれば、教えていただけますか?」

黒田:

現在のところ、大きな問題は発生していません。もし問題が起こるとすれば、バグではなく、出力値が予期したものと異なるパターンでしょう。LLMはブラックボックスのため、出力値の予測が難しいです。そのため、弁護士の方々に実際に使用していただき、問題がある場合は入力値と出力値を地道に改善していくしかないと思います。

――:リアルですね。次に、overflowの方はいかがでしょうか。思った結果と全然違ったような不具合はありますか?

佐藤:

先ほど精度のところでお話しましたが、入力されている情報が不足しているときに期待通りの結果が得られない、または全然違うテキストが出力されることはあります。また、弊社の場合はインプット量が多いので、タイムアウト率は高くなる傾向にはあります。

私たちのシステムでも、これと同じ問題があります。そして、Azureを使用していない場合には、タイムアウトが発生することがあります。たとえば、通常は20秒ほどで処理が完了するはずのものが、40秒や50秒を要することがあります。また、2分や3分、あるいはそれ以上待っても結果が返ってこないこともあります。

ちなみに、これはLegalOnさんへの質問になるのですが、AzureOpenAIで、いつまで待っても結果が返ってこないというパターンはありますか?

黒田:

それについては、「わからない」というのが答えになります。なぜかと言いますと、こちらでタイムアウト設定を120秒にしていて、それを超えると処理を切断してしまうからです。そのため、120秒を超えてからの状態については不明です。ただ、20秒で終わるはずの処理が120秒要するような事態は発生しています。

質疑応答

質問者:サーバーが落ちたことはありますか?OpenAIはChatGPTと連動しているので、その影響を受けることはありますか?

佐藤:

ChatGPTとOpenAIは別のステータスなので、必ずしも連動しているわけではないと思いますが、ご機嫌斜めな時も少なくありません。弊社でもAzureの環境構築は終わっているので、Azureの方を使えば安定するのかなと、今のLegalOnさんの話を聞いて思っているところです。

質問者:OpenAIとはいえ、限界はあると感じています。キャッシュする選択肢はありますか?

渡辺:技術的にはキャッシュすることは可能だと理解していますが、キャッシュしているもの自体に需要があるかという観点から考えた時、実際にはそれほど需要はないと思われます。

そのため、できることはわかっていましたがキャッシュをしない選択をしました。

――:LegalOnのサービスを見ていると、それぞれのユーザーに基づいた返答をしているので、1回1回アウトプットしないといけない感じですかね。

渡辺:

そうですね、契約書のバージョンは絶えず更新されているので、古いバージョンの修正案があったとしても見られない可能性が高いです。ユーザーが本当に欲しているのは、新しいバージョンの条文の修正案です。

したがって、基本的には古いバージョンをキャッシュすることはありませんが、同じバージョンについては、既に生成したものはキャッシュされているので、その内容が見えるようにはしています。

質問者:LegalOnに質問です。弁護士に条文をチェックしてもらって評価したとのことですが、契約の種類によっては膨大な条文が存在すると思います。その中から評価に使用する条文をどのように選定しましたか?

渡辺:

弊社が出している自動レビューシステムでは、追加や修正、削除などの分類があります。それらの各分類にはそれぞれ優れたプロンプトがあり、例えば追加のプロンプトで削除命令を行うと、うまく機能しないことがあります。

条文自体と言うより、その条文をどのように修正するかという点に注目して選定していました。そのため、条文の選定は特にやっていませんでした。

――:条文ではなく、条文へのアクションから選んでいたということですか?

渡辺:

そうですね。プロンプトを人力で作成しようとすると、その数は無限に増えてしまいます。それを人力で作っていくリソースはないので、メタな視点から捉えたときに、どのようなパターンがあるかを見て、そこから追加や修正のプロンプトを開発するアプローチを選びました。

質問者:精度評価の基準はどのように定めましたか?

黒田:

初期の実現可能性の確認では、弁護士の方々に使いやすいかどうかといった一軸で評価をしてもらっていました。その他、言い回しが厳しすぎないかなどの定性的な評価も行っています。

最終的には自動評価を実現したいと思っていますが、それは評価関数を作るのが難しいという問題があります。ユニットテスト的に関数で評価できる仕組みを作りたいのですが、現状では弁護士が評価しないと判断できない点も多く、その部分については苦労しています。

――:LegalOnにはR&Dのエンジニアもいらっしゃると思うのですが、彼らから助言を受けたり、もしくは機械学習エンジニアがプロダクトに関わったりするようなケースはありますか?

黒田:

サーチ検索系の方が関わってくれています。LLMの話や、論文を読み込んで色々とシェアしてもらえるような取り組みは行っています。

深川:

プロジェクトが立ち上がった当初から、2週間に1回、R&Dのエンジニアも交えてプロジェクトの状況や課題、技術的な取り組みをシェアする取り組みを行っています。「このプロダクトならこういう方法はあるんじゃない?」というような情報交換はしていました。

――:社内に機械学習エンジニアがいると、その辺りが心強いですよね。精度の評価についてですが、LegalOnの場合、結果の正確さが非常に求められます。一方で、Offersの場合、面白さなど、評価が難しい部分もあります。それらに対する評価基準はありましたか?

佐藤:

完全に定性評価に寄っていました。例えば、ユーモアの程度や、日本語の助詞の使用などについて我々も評価したいと思う点もありますが、難しいというのが率直なところです。

質問者:モデルのファインチューニングの検討はされていますか?

深川:

長期的な視点で検討を進めています。プロダクトを作る際にどのような手段が適切かを考え、製品の導入に際しては、まず自分たちが導入できるように準備を進めていきます。始めは、ファインチューニングなしで反応を見つつ、顧客のフィードバックを得ながら技術調査を行います。その結果を基に、具体的な実装については検討を進めていきます。

質問者:今後は生成AIを活用したサービス提供を積極的に考えていますか?

佐藤:

我々が技術的に達成したい目標に対して、アプローチのルートが1つあったのですが、もう1つのルートとして、LLMを使用するというロードマップを描いています。

そのロードマップのステップは描かれており、一歩ずつ進める方針です。ファインチューニングもその一環として、各種の手段を適切なタイミングで使用するための実験を並行して行っています。

いずれにせよ、プロダクトの提供を積極的にしていくということについては、複数あるルートの中の一つとして積極的に考えています。

――:普段のLLMを使わない開発とは別軸で用意している形ですか?

佐藤:

そうですね。いざとなったら筋としてマージすればいいので。

――:ありがとうございます。LegalOnの場合はいかがでしょう。

深川:

エンジニアであれば、目標を達成するために最適な手段を選択することを自然に考えていると思いますが、その中には、LLMが自然に入ってきている形です。それがうまくいかなければ、シングルタスクの機械学習などを試す、といった感じです。

もちろん、自前のファインチューニングやファウンデーションモデルは別次元でしっかり準備していかなければなりません。

――:ここまで話せるかはわかりませんが、自前で作るモデルとGPTのモデルでの使い分けについては意識されたりしていますか?

深川:

自前で作るモデルとGPTのモデルには、向き不向きがあります。GPT4の学習ロジックは公開されていないため、詳細はわかりませんが、日本語の学習データは英語と比べて極めて少ないです。そのため、日本語と英語では精度に差があります。

本日紹介した条文修正アシストに似たプロダクトをUS版で提供しているのですが、英語だけの場合だと体感90%、日本語の場合だと体感80%ぐらいの精度に思えます。この10%は、人間の体感値で言うとかなり差があります。

そのぐらい言語による違いは大きく、日本語のみで何かのプロダクトを作る場合は、ChatGPTではなく自前で何かを作成するか、各社が提供しているサービスを利用した方がいいのではと感じています。

――:言語による振り分けのようなものは存在しそうですね。ありがとうございます。ここで少し個人的な質問をさせていただきたいのですが、現在のところ、両社ともGPT-3.5-turboを使用しているということですよね。それを今後GPT-4にアップグレードすることを検討していますか?

佐藤:

コスト面の問題を考慮すると、まずはGPT-3.5で対応可能なタスクを行いたいと考えています。それに、GPT-4のAPIはまだ我々のところには届いていないため、全面的な検証ができていません。

ただし、もしレスポンス速度に大きな違いがある場合、ユーザー体験に直結するレスポンス速度の方を優先したいと考えています。精度よりもレスポンス速度が重要だと判断しています。

「なるほど、ありがとうございます。次に、LegalOnの場合はGPT-4を導入する予定はありますか?」

深川:弊社も同じく、コストが20倍に跳ね上がると考えると躊躇します。まずはGPT-3.5が対応可能かどうか確認し、それが不可能であれば改めて考えるというのが現在の立場です。先ほどの精度評価に関する議論がありましたが、精度評価の部分だけはGPT-4を使用するという可能性はあります。

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