健康診断書の基礎知識
健康診断書を提出するときに最低限必要とされる項目、発行手数料、有効期限について解説します。
必須項目とは
健康診断で受けるべき項目は『労働安全衛生法』で定められています。企業へ就職する際に提出を求められる健康診断書の中で、必須とされる項目は以下の通りです。
- 既往歴・業務歴
- 自覚症状および他覚症状の有無
- 身長、体重、腹囲、視力、聴力
- 胸部エックス線
- 尿検査結果(尿中の糖及び蛋白の有無)
- 貧血検査結果(赤血球数、血色素量)
- 肝機能検査結果(GOT、GPT、γ-GTP)
- 血中脂質検査結果(LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)
- 血糖検査結果
- 心電図検査結果
企業によっては省略できる項目もあるので、確認しましょう。
健康診断書発行や再発行の料金
健康診断は自由診療なので保険が適用されず、基本的には全額自己負担です。受診する病院によって料金にも差があります。検診にかかる費用と健康診断書の発行費用を合わせて5000円~1万円程度です。
健康診断書の再発行にかかる費用も病院によって数百円~数千円と開きがありますが、2000円前後の場合が多いです。しかし、企業側から指定された持込診断書に病院側で記入してもらう場合は、さらに料金が高くなることがあります。
また、再発行した診断書は原則として本人しか受け取れないので身分証が必要となります。代理人が受け取る場合は、委任状が必要になる可能性があるので事前に確認しましょう。
コピーの可否について
基本的に健康診断書は原本を提出する必要があります。しかし、就活などで複数の企業に提出しなければならないような状況では、健康診断書が何枚も必要になる場合があります。企業によってはコピーでも受け付けてもらえるので、応募先に確認しましょう。
また、医療機関で健康診断書を再発行してもらう際、2枚目以降の発行手数料が安くなることがあります。あらかじめ用意すべき数を確認し、一度に必要な枚数を再発行しましょう。
有効期限
健康診断書は発行されてから3カ月以内であれば有効とされています。場合によっては半年以内に発行された健康診断書でも可能な場合もあるので、受診後の経過期間が3カ月を過ぎていても、一度確認してみるとよいでしょう。
なお、有効期限内の健康診断書であれば、原本ではなく結果を証明する健康診断証明書の提出で代用できる場合もあります。
健康診断書の提出が必要なケース
健康診断書はどのような状況で必要になるのか、企業との関係を交えて説明します。
就職活動や転職時
企業が長期にわたり従業員を使い続ける場合は、雇入時に健康診断を受けさせることが法律で決められています。健康診断は企業側で実施の機会を提供することもあれば、従業員が健康診断書を持っていれば提出のみで可能な場合もあります。
正社員だけではなく契約社員やパート・アルバイトとして雇い入れる場合も同様に、健康診断書の提出を求める必要があります。
健康診断書の内容が採用の合否に影響することはほとんどありません。入社が決定する前後に健康診断書の提出を求められることが多いです。ただし、車の運転が必要な業種に就職する際など、健康診断の結果が仕事に支障をきたしかねないような場合は、不採用となるケースがあります。
健康診断証明書とは
健康診断証明書は、健診済みであることを証明するものです。大学生の就職活動でよく利用されます。健康診断を受けた医療機関や、集団で健康診断を実施した大学の保健センターなどで、申請したら発行してもらえます。
健康診断書は担当した医師や医療機関の捺印がありますが、健康診断証明書は電子印です。診断内容はどちらも同じですが文書として持つ意味合いは異なるので、どちらが必要なのかしっかりと確認しましょう。
費用負担について
健康診断の受診費用は基本的に健診を受けさせる義務のある企業負担となります。また、企業側から受診する医療機関を指定された場合、診断料金は企業負担であることがほとんどです。ただし、企業側から自己負担で健康診断を受けるよう指示されることもあります。
企業の主な健診義務
企業には従業員に対し、健康診断を受けさせる法的な義務があります。
雇入時の健康診断
雇入時の健康診断は職種に関係なく全ての企業に実施が義務付けられています。対象者は『常時使用する労働者』となっており、具体的には『1年以上働く予定で、週あたりの労働時間が正社員の3/4以上である者』です。
契約社員やパート・アルバイトでも、条件を満たせば企業は健康診断書の提出を求めなければいけません。また週の労働時間が正社員の1/2以上であっても、できるだけ健康診断を受けさせなければならないという努力義務が課せられています。
健康診断の実施時期は雇入の直前または直後です。ただし、受診後3カ月以内の健康診断書があれば、雇入時の健康診断は省略することができます。
定期健康診断
定期健康診断は『常時使用する労働者』に対して企業に実施義務があります。原則として少なくとも1年に1回は実施しなければなりません。定期健康診断で受けるべき受診項目の中には、年齢や医師の判断により省略できるものがあります。
企業に実施の義務があるので費用は企業が全額負担します。また労働者のプライベートな時間を損なわないよう、原則として勤務時間内に行われることが多いです。
特殊健診
特殊健診とは、『法定の有害業務に従事する労働者が受ける健康診断』です。高気圧業務や放射線業務、石綿業務などの仕事に従事している場合に受けなければならない健康診断です。
フリーランスの健診義務は?
フリーランスが健康診断を受ける義務の有無と、受診の意義について確認しましょう。
フリーランスに義務はない
企業に雇われているわけではないフリーランスに健康診断を受ける義務はありません。また、会社員は基本的に企業負担で健康診断を受診できますが、フリーランスが健康診断を受診する場合は全額自己負担です。さらに会社員の健康診断は原則として勤務時間内に行われますが、フリーランスの場合は自分で時間を作って受診する必要があります。
受診の義務がない上に時間を割きお金を使う必要があるので、フリーランスにとって健康診断の受診はデメリットが多いように捉えられてしまいます。
ただしフリーランスも受けるべき
基本的にひとりで働くフリーランスが病気などで体調不良になると、仕事ができなくなりその分収入が減ることになります。さらに、休む期間が長引くほど利益減に直結し、業務が滞ると収入面だけでなく取引先との関係を悪化させることにもなりかねません。
どんなにやる気や能力があっても、まずは体が一番の資本です。フリーランスとして長期的に頑張ろうと考えているのであれば、自分自身の健康状態を常に気にかけ、体に良くないと感じる習慣の改善や定期的な健康診断の受診を意識した生活を送ることが大事です。
フリーランスが健診を受ける方法
フリーランスが健康診断を受診するには大きく分けて3つの選択肢があります。
自治体の健診
国民健康保険の加入者や個人で健康診断を受けたいという人のために、多くの自治体で健康診断を実施しています。受診方法や内容、受診可能な年齢などは自治体によって異なりますが、安い費用で受診できる場合が多く、無料で診てもらえることもあります。
健診の内容も診察に加え、血液検査やレントゲン検査など、ほぼ会社で受けられる健康診断と同じです。追加で受けたいオプションの付加健診があれば対応してもらえる場合もあります。
自治体が実施している健康診断や各種検診は場所も各地域に設けられていることが多いです。役場やホームページで情報を常にチェックし、自分の生活に合ったサービスをうまく利用できるようにしておきましょう。
特定健診
特定健診とは40~74歳の被保険者を対象とした健康診断です。メタボリックシンドロームの予防と改善を主な目的としていることから『メタボ健診』とも呼ばれます。費用がかかる場合もありますが、ほとんどの自治体で無料実施されています。
各種診察の他、脂質検査や血糖検査などを行います。特に内臓脂肪型肥満の早期発見を重視し、動脈硬化など生活習慣病の予防を目的としているのが特徴です。自治体から定期的に特定健診案内の書類が届くことがあるので、見逃すことのないようにチェックしておきましょう。
病院や健診センターでの健診
病院や健診センターに直接問い合わせて、健診を受ける方法もあります。病院なら地域の総合病院やかかりつけの内科で、診療科の中に健診と表示されていればほとんど受け付けてくれます。随時健診可能な病院や予約が必要な病院があるので、事前に調べておきましょう。
そもそも自治体が主催する健診は地域の指定病院や健診センターで実施されることがほとんどです。病院や健診センターへの問い合わせにより、自治体主導で定期的に行われる集団検診の日程や内容が分かることもあります。
また、会社を退職する際に任意継続を選択すると、社会保険への加入を2年間延長することができます。保険組合が実施している健康診断や各種検診を安い費用で利用できる場合があるので、健康保険を任意継続している人は確認してみましょう。
人間ドックやがん検診の必要性
健康診断はあくまでも最低限の健康度チェックシステムであり、健康診断だけでは発見されないがんなどの疾患に対しても注意する必要があるでしょう。大病を患うことのないよう、自分の体をしっかりと診てもらうための方法を紹介します。
人間ドックとは
人間ドックは、多項目にわたり体の隅々まで精密検査し、普段は気付きにくい病気や内臓の異常などをチェックする健康診断の一種です。企業などに実施の義務はなく、個人が任意で受ける検査です。
健康診断の検査項目は10~15程度ですが、人間ドックは50~100もの検査項目が用意されています。半日程度で済むプランから、内容によっては2日ほどかかるプランまであり、病院や近くの宿泊施設に泊まり掛けで検査が組まれることもあります。
人間ドックは保険適用外なので、基本的に全額自己負担です。費用は医療機関や検査内容によって幅広く、3万円〜4万円前後が相場となっています。各自治体や加入済みの保険組合などから費用の補助を受けられることがあるので、受診を検討する際は事前に調べてみましょう。
出典:人間ドックの受診料金|検査項目・コース別の平均費用や補助金制度を解説 | 人間ドックなび
がん検診とは
人間ドックは全身を対象とした精密検査を行う健康診断ですが、がん検診は特定の臓器に対して異常の有無を診断する検査です。検診の有効性か高いとされている、肺がん・胃がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がんの5つが、公的な予防対策として実施される対策型検診の対象です。
肺がんは50代で2年に1回、胃がんと大腸がんは40代で1年に1回の受診が推奨されています。また、女性特有のがんである乳がんは40代で2年に1回、子宮頸がんは20代で2年に1回のペースで受診することが望ましいとされています。いずれのがんも早期発見と早期治療が有効だとされている病気です。
5つの対策型検診であれば、各市区町村を通して無料または安い費用で受けられます。年齢の条件や実施日時など、自治体のホームページなどで確認しましょう。各市区町村から自宅に届くがん検診の案内も忘れずにチェックしておきましょう。
期間を決めて受診しよう
自覚症状が出にくい病気をチェックするための人間ドックは、50代で2年に1回は受けるべき検査といわれています。決して安くない費用がネックですが、生活習慣に不安があるなら30代のうちから3年に1回は受診を検討しましょう。
がん検診は40歳以上で1年に1回の受診が目安とされています。例えば40代を超えると発症のリスクが高まる大腸がんは、早期発見・治療で95%以上が完治する病気です。肺がんも50代で2年に1回がん検診の受診が推奨されているので、受けられる検診はできるだけ受けるようにしましょう。
乳がんや子宮頸がんといった女性特有のがんも、早期発見で治る可能性が高まる病気です。多くの自治体が30代以降の女性に対し、案内書を送付し受診を促しています。各市町村ごとの情報をチェックしながら、2年に1回は受診を心がけましょう。
経費計上や控除について
健康診断や人間ドックなどの費用が経費として落とせるのか、フリーランスにとっては気になる問題です。医療費の控除に関する問題と合わせて解説します。
経費にはならない
企業は従業員の健診が義務付けられているため、健診費用は福利厚生費という経費で落とせます。一方でフリーランスが受ける健康診断などの費用は経費として計上できません。法人の場合とは異なりプライベートの支出とみなされます。
しかし、経費で落とせないからといって、いつまでも後回しにしておくのは避けましょう。会社員であってもプライベートの時間とお金を使って、人間ドックやがん検診を受ける人は少なくありません。最低でも健診を年1回受けることで、長い目でみれば医療費の削減や健康維持につながります。
セルフメディケーション税制
年間の医療費が10万円を超えた場合、医療費控除により一部が戻ってきます。また、2017年に開始されたセルフメディケーション税制により、1年間で購入した指定の医薬品代が1万2000円を超えた場合、超過分について控除ができます。
セルフメディケーション税制は対象となる要件があり、健康診断や予防接種、がん検診などのうちいずれかを受診している必要があります。逆にセルフメディケーション税制の利用を意識した生活を送っていれば、おのずと健康診断などを受ける理由も作れるといえます。
なお医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。年間の医療費が10万円以下で医薬品の購入が年間1万2000円を超えるようなら、セルフメディケーション税制の方がお得になる可能性が高いでしょう。
まとめ
30代以降は人生において一番の働き盛りともいえる時期であり、忙しいことなどが理由で自発的に健康診断を受けるフリーランスは多くありません。自宅で働く場合は運動不足にもなりがちで、食生活や睡眠時間も乱れてきやすいです。
40歳を超えたあたりから、男女ともに生活習慣病を発症するリスクが高まります。健康を害することで予想される先々のリスクによって、まともに仕事ができなくなる可能性もあります。
世の中には健康診断をはじめさまざまな検診が用意されています。加入保険団体や自治体をうまく利用しながら、自分のライフスタイルに合ったスケジュールで積極的に健診などを受けるようにしましょう。