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阿部広太郎が挑んだ人事からコピーライターへのジョブチェンジ

コピーライター/プロデューサー
阿部広太郎氏
1986年生まれ。電通入社後、人事局に配属。入社2年目からコピーライターに。言葉の力を味方につけて「世の中に一体感をつくる」コンテンツを企画する。映画、テレビ、音楽、イベントなど、エンタメ領域からソーシャル領域まで境界を越えて取り組んでいる。映画「アイスと雨音」、映画「君が君で君だ」、舞台「みみばしる」プロデューサー。ソーシャルエンターテインメントの「ダイアログ」シリーズのクリエイティブディレクション。ドキュメンタリー番組「ベッキーと未知との対話」企画・プロデュース。BUKATSUDO講座 として「企画でメシを食っていく」や「言葉の企画」を主宰。著書に『待っていても、はじまらない。-潔く前に進め』(弘文堂)。

活躍中のあの人や、話題のあの人にも、必ず新人だった頃がある。「バック・トゥ・ザ・フレッシュマン」では、社会に出て間もない頃の経験や教訓が現在にどう活きているのかを探っていきます。今回ご登場いただくのは、企画力を育みながら仲間を見つけられる「企画メシ」や「言葉の企画」を主宰するコピーライターの阿部広太郎さん。新卒で人事局に配属された阿部さんは、どのようにして現在のキャリアに辿り着いたのでしょうか。

人事局からはじまった社会人キャリア

阿部さんのキャリアは、クリエーティブ局からではなく、人事局からはじまったそうですね。

はい。入社してから新入社員研修が1ヶ月半ほどあり、そのなかで広告の仕事に関する座学やグループワーク、さらには現場実習を経て、配属希望を第3希望まで出すんです。

研修期間中に面倒を見てくれるリーダー、サブリーダーという先輩社員と相談しながら心を決めていく感じでしたね。

なぜ人事局に希望を出したんですか?

当時、まさか自分にいわゆるクリエイティブな仕事ができると思ってなかったんです。縁があるとも思わなくて。それに「メディアの仕事を経験してから営業に進むのが、キャリアを積むいい流れだ」と研修期間中に聞いていたこともあり、第1希望で新聞局、第2希望でテレビ局を選びました。

ただ、第3希望は何を書くのか迷って。というのも、ガッツリ働きたいです的なアピールの仕方をしていたので、きっとメディアのセクションにいくだろうなと。欄を埋めなきゃ、という感じで人事局と書きました。

それが目にとまったのか、180人くらいいる同期のなかで僕ともう一人が人事局に配属されたんです。僕の社会人1年目は人事局からスタートしました。

クリエイティブ職に縁があると思わなかったのは、何か理由が?

広告会社に本気で行きたかったのもあり、就職活動中、OB訪問をたくさんしていました。結局、電通の方に43人、博報堂の方にも16人会いに行ったんですね。

で、学生時代にアメリカンフットボールをやっていたこともあり、僕は体がデカかった。すると「君は体力がありそうだね」とか「元気めっちゃありそう」みたいな入り口から会話が進んでいくんです。

当然ながら誰も「君、コピーライターどう?」なんて会話にはならなくて(笑)。僕も「営業やメディアの仕事をするのかな」と。だから、クリエイティブ職自体、まったく視野に入ってなかったんです。

人事は嫌われてはいけない仕事。とにかく笑うようにしていた

社会人1年目で何が大変でしたか?

愛想よくいることについて考えてましたね。入社1年目の人事担当ができることなんて、ほぼないんですよ。だから、一生懸命笑うようにしていました。

でも、仕事をすることに慣れてなくて、忙しさも重なり、あるとき蕁麻疹が出てしまって。ああ、無理をすると、体は正直なんだなと思ったことをよく覚えてますね。

「よく笑っていた」というのも、本心で笑っていたというより「人事だし、社内の人とよく関わるから」みたいな気持ちがあったんでしょうか?

研修があれば、社員に講師を依頼する。施設を借りるときは総務局に依頼をする。基本的に人事は「お願いをする仕事」なんです。誰かの力を借りないと仕事が成立しない。それゆえに、あの頃は「嫌われてはいけない仕事」とも捉えていました。

それに、できていることが当たり前の仕事なんですよね。ほら、よく講演や講義がはじまるときに、プロジェクターがうまく映らないこととかあるじゃないですか、あのときのヒヤヒヤと肝を冷やす感覚は忘れられないです。新人として、せめて一生懸命さと、笑顔は絶やしちゃいけない思っていました。

「向いてないと思うよ」と言われても、「やってみなくちゃわからない」という信念があった

阿部さんはその後クリエーティブ局に所属しています。とすると、どこかのタイミングで「やっぱりクリエーティブ局で働きたい」と思うきっかけがあったわけですよね。

そうですね。人ってすごく環境に左右される生き物だと思うんです。

というと?

人事局に配属されてからは、研修や講演会の運営や、学生向けインターンシップをアテンドする仕事をしていました。そうすると、面白い仕事をしている社外の方たちの話を伺う機会も多くて。なかでも、音楽ユニットの「元気ロケッツ」の話や、構成作家の小山薫堂さんの話は刺激的で、よく覚えています。

決定的だったのは、嫉妬したことですね。僕は、学生向けインターンシップをアテンドしていて、講義の様子をビデオカメラで撮影する担当でした。自分と2〜3歳くらいしか年齢が変わらない子たちが目を輝かせながらプレゼンをしている姿がものすごく羨ましくて。

一人ひとりのアイデアが、聞き手の心を奪っていく訳です。プレゼンが終わるごとに起こる拍手。つられて僕も一緒に拍手をするけど心は弾んでいなくて、手を叩いてるだけで。俺はここで何をしてるんだろうって。

そこで気づいちゃったんですよね。自分は、感動する仕事がしたいんだって。それでクリエーティブ試験に受かって異動しようと。

クリエーティブ試験に向けてどのような勉強をしたのでしょうか?

真っ先に、会社の下の本屋さんに行きました。そこで「広告コピー年鑑」という2万円くらいする分厚い本を購入しました、高いですよね(笑)。

自分なりの覚悟もあって。あと、先輩のクリエーティブディレクターの方に課題を出してもらってました。大先輩たちとのつながりを持てたのは、人事の仕事をしていて良かったことですね。

勉強をしていて挫折しそうになったことはありませんでしたか?

挫折かあ…。最初なんて基本うまくいかない訳です。ずっと挫折してたとも思うし。ただ、挫折って単なる分かれ道でしかないと思うんです。「やめる? やめない?」って心が放つサインですよね。

課題に対するフィードバックで「向いてないと思うよ」と言われたときは凹みました。ただ、未来の可能性なんて誰にもわからないじゃないですか。自分にだってわからない。自分はやれるって信じたかった。「やってみなくちゃわかんないじゃん」と気にしないことに決めてました。

「絶対に受かるぞ」という自分への期待みたいなものはあったのでしょうか?

試験突破を目指して頑張っているなかで、「受かるだろうか……」と不安に思う瞬間はたくさんありますよ。でも、そこには目を向けないようにして、どうすれば受かるのか、たとえば質じゃなくて量で勝負をするとか、とにかくひとつでも探すようにしていました。

たくさんの壁にぶつかって「選択」と「集中」ができるようになった

社会人になって「一人前になったな」と感じた瞬間ってどんなときでしたか?

一人前になるって、誰かの期待に応えることだと思うんですね。それでいうと、クリエーティブ局に異動すると一年間きっちりと師匠に付くんです。

その後、師匠から手伝ってほしいと言われた案件があったんです。そのときに出した企画について師匠から電話で褒めてもらえたことがあって。残念ながらその仕事は世の中に出ることはなかったんですけど、お世話になった人から褒められた瞬間はものすごく嬉しかったです。

社会人1年目と今を比べて、働き方に変化はありますか?

大きな点で言えば「選択」と「集中」の部分で変化があると思います。やっぱりどんなものにも全力を出しているとガス欠が起こりますよね。だから、何にエネルギーを注ぎ込むかをすごく考えるようになりました。

ただ、それは最初からできたことではなくて。社会人になってしばらくはピンボールのようにたくさんの壁にぶつかってきたからだと思います。

逆に変わっていないことは?

自分の考えや思いを文章にして伝えることですね。入社1年目のときから自分はこう感じたとか、こう思ったということがあれば書いて、上司や先輩に送るようにしています。絶対にやらなくちゃいけない、ということではないんですけど。

それはどういう意図で?

入社1年目の利点って「周りに頼ることを恐れなくていい」ことだと思うんです。

しかも会社の先輩ってどこかで後輩に頼られたいと思ってるはずなんですよ。しかも、上司としては部下がどんな気持ちで仕事をしているかは気になることのはず。大きくはないにしろ、後輩に対して何をするのか期待を抱いているはず。

せめて、働いているなかで感じた違和感や気づきを言葉にして伝えるのは積極的にしたいと思っています。せっかく同じ職場にいるのだから、伝えたいなって。

企画をするって面白い。経験を分かち合い、影響を与え合う連鎖を作っていきたい

阿部さんは現在、「企画でメシを食っていく(以下:企画メシ)」と「言葉の企画」を主宰していますが、これらをはじめたきっかけは?

自分が変われたことを共有したかったんです。その気さえあるなら諦めなくていい、それにやってみたら意外とできるんだよって。

それにクリエーティブ局に異動して企画の仕事に携わるなかで人生がどんどん変わっていく実感がありました。企画するってこんなに面白いんだとか、日々をこんなに変えていけるんだって。

それを、横浜みなとみらいにあるシェアスペース「BUKATSUDO」で連続講座というかたちではじめて5年になります。

同じような経験をする仲間を増やしていきたい感覚ですかね?

その通りです。自分一人が120%成長するよりも、経験を分かち合いながらみんなで105%成長していく方が結果的に世の中は変わっていきます。

でも、正直なところ、ただただ仲間がほしい、という気持ちもあります(笑)。

企画の連続講座「企画メシ」ひとつではなく、「言葉の企画」と、ふたつ学びの場をつくったのにはどんな理由が?

「企画メシ」を続けているなかで、年によってはエントリーが200名近くなってしまったんですね。嬉しいことです。でも悔しい。だって、企画する人を増やしたい訳ですから。

ただ、運営上「企画メシ」は30人が限界で、それで「ほかにやり方がないかな」と自分なりに企画したんです。

そして思い至ったのは、自分が講師をして、目一杯頑張れば、後70人は向き合えるんじゃないか……と。それで「言葉の企画」の連続講座をスタートしました。

受講者である企画生から学ぶこともありそうですね。

そうですね。受講生を「企画生」と呼んでいる意味のひとつに、みんな受け身ではなく、これからを企てようとしている。理想と現実の間で葛藤しながら、今の自分を変えたいと考えている人も多いことがあります。

一人ひとりと企画を通じてどっぷり付き合うことで感情のストックがすごく増えました。それが言葉の仕事にも活きているんです。僕は音楽が好きで、縁ある人と一緒に音楽の作詞もしていて。

たとえば、シンガーソングライターの向井太一さんと一緒に作詞した「FLY」という曲は「飛躍」がテーマになっていて、僕自身の「企画メシ」での経験を思い浮かべながら言葉にしていきました。

たった半年間とはいえ、約100名の企画生の生き様に触れることは、火花が散るような刺激をもらっています。

まずは会社のカルチャーや色に染まったほうがいい

自分の立ち位置やポジションをうまく見つけられなかったり、何かに挫折したりする1年目の社会人や就活生がいると思うんです。

とにかく会社の色やカルチャーに一度染まったほうがいいと思います。その後、染め返す。そうすると、自分の本来の色と混じり合って新しい色が生まれるので。

最初から自分の色を出しすぎない方がいいと?

いえ、出すのはいいことなんです。ただ、まずは目の前にある仕事に精一杯取り組みながら、色の出し所を探していくイメージでしょうか。いきなりスターやエースはなれる人はそういないので。まずは、現実を受け入れることが大事。

とはいえ、「どう考えてもこれは明らかにおかしいのでは?」 と思うことについては、染まらずに、逃げることは忘れないでほしいです。

阿部さん自身が「まずは染まったほうがいい」と思うのはなぜなのでしょうか?

リアクションしてみることでアクションの仕方がわかると思うんですよね。いきなりアクションしてみても、みんなが目指しているゴールと逆方向に進んでいるかもしれない。

でも、リアクションすることで周囲の動きをを知り、現在地を見つけ、目指すべき方向にアクションを起こせるようになる。だから、まずは周囲の出来事に反応しながら、気づきを見つけていくことから始めてみたらいいんじゃないですかね。

インタビュー:かえで
執筆:かえで
編集:村上広大
撮影:北村 渉

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