ピクトグラムとは
デザイナーの仕事は幅広い分野に渡りますが、ピクトグラムのデザインもそのうちの一つです。ピクトグラムの概要と歴史について解説します。
単純化された視覚記号
ピクトグラムはピクトグラフとも呼ばれる絵文字のことを指します。
文字を使わず単純化した絵文字を使っての情報伝達を目的としており、鉄道駅や空港、街の標識など多くの人の目につく場所に設置されることがほとんどです。
情報を絵文字で伝えることで、言語に頼らず直感的に内容を理解できるようデザインされています。
東京オリンピックを機に世界へ
現在のようなデザインのピクトグラムが使われるようになったのは1920年、ピクトグラムが世界的に広まったのは1964年の東京オリンピックがきっかけでした。
現在のような形になったのは、1920年代に、オットー・ノイラート(Otto Neurath)によって作られました。彼は、哲学者・社会学者・政治経済学者とグラフィックデザインに関わることをしていた人ではありませんでした。
当時の日本人は現在ほどの英語力を持っていなかったので、オリンピックのために来日する外国人選手向けに、競技種目や施設の案内を目的にピクトグラムが使われたそうです。
また、今や世界中で使われているトイレや非常口のピクトグラムも、大阪万博や熊本デパート火災をきっかけに広まりました。ピクトグラムは日本と密接な関わりを持っているものなのです。
ピクトグラムの課題
見る人に情報を視覚的に伝えることがピクトグラムの目的です。言葉を使わないため、視覚的・直感的に情報を理解できることが必要なため、さまざまな課題を抱えています。
国内外における伝わりやすさ
ピクトグラムは言語を問わず情報を伝達することができる便利なものですが、実はさまざまな課題を抱えています。
例えば、温泉から湯気が出ているデザインの温泉マークは、ほとんどの日本人が温泉と認知できるものです。しかし、海外の人にとっては何のマークだか分からないというケースも多いです。
日本では良かれと思ってデザインしたピクトグラムでも、風習の異なる海外の人に伝わらない可能性は大いにあります。
2020年の東京オリンピックには、多くの外国人が日本を訪れることが見込まれていますから、言語や国籍を問わず誰にでも理解できるピクトグラムを作ることが求められるでしょう。
JIS規格から国際統一へ
日本を訪れる外国人が増えるのは良いことですが、同時にさまざまな課題も発生します。
例えば、日本は地震や台風など比較的災害の多い国です。日本人にとってはちょっとした災害でも、慣れていない海外の人にとっては大きな恐怖を与えてしまう可能性があります。
東日本大震災以降、災害対策の一つとしてピクトグラムのJIS規格が設けられました。現在はこの規格に沿ってピクトグラムを表記することが求められており、訪日外国人でも分かるよう英語を併記するところも増えています。
さらに、このピクトグラムは国際標準化機構(ISO)にも提案されており、国際標準として使われることが期待されているのです。
アイコンとピクトグラムの混同
ピクトグラムと類似するものにアイコンがあります。両者は混同されますが、厳密には異なるものです。アイコンとピクトグラムの違いや、アイコンの特徴について解説します。
アイコンとピクトグラムの違い
アイコンはパソコンのデスクトップや、スマートフォンの画面に並んだアプリケーションをイメージすると理解しやすいでしょう。アプリケーションのロゴやファイルの種類をデザイン化したもので、ユーザーが直感的に操作をしやすいというメリットがあります。
ピクトグラムとアイコンは似ているものですが、決定的に違うのは簡略化されているかどうかです。ピクトグラムが絵文字と地の色の二色しか使われないのに対し、アイコンは色数を多く使い、目立つようにデザインされていることも特徴です。
また、デザインもピクトグラムが極限まで単純化しているのに対し、アイコンには文字やロゴをデザインに使用しているケースが多く見られます。
アイコンの作成過程と簡略化
アイコンはピクトグラム同様、言葉を使わず視覚的に情報を伝えることを目的としています。
アイコンの作成はピクトグラムほど単純化する必要がないため、ロゴマークや文字をベースにデザインするするケースもあります。また、近年ではフラットデザインやマテリアルデザインの影響を受け、簡略化したデザインのアイコンも増えています。
これらのアイコンにはピクトグラムに近いデザインもありますが、その多くがアイコンに対する基礎知識を持っていることを前提としており、誰でも直感的に理解できるピクトグラムとは似て非なるものというのが現状です。
インフォグラフィックスとは
ピクトグラムは標識などの案内だけでなく、さまざまなシーンで使われます。インフォグラフィックスへの利用もその一つです。インフォグラフィックスの特徴とピクトグラムとの関係について解説します。
データを視覚的にわかりやすく表現
インフォグラフィックスとはデータや情報を視覚的にわかりやすく表現したものを指す言葉です。
体系立てて整理された情報とイラストを組み合わせることで、見る人の理解を助けることを目的としており、主にグラフやチャート、簡略化された地図などに使われます。
複数のピクトグラムから作成することが多い
前述のとおり、インフォグラフィックスは情報とイラストを組み合わせ、視覚的にわかりやすくすることを目的としています。
インフォグラフィックスに使われるのはイラストだけではありません。ピクトグラムもインフォグラフィックスの素材として使われることは多々あります。
インフォグラフィックスはデータを分かりやすく伝えることが目的なので、込み入ったデザインでは見づらくなる恐れがあります。そのため、複雑なイラストよりもシンプルなピクトグラムの方が相性が良いです。
ピクトグラム一覧表の探し方や作り方
ピクトグラム制作のスキルを上げるには、多くのピクトグラムを見て学ぶことが重要です。ピクトググラムの一覧を公開しているサイトや、ピクトグラムの作り方を紹介します。
国土交通省のサイト
国土交通省のサイトでは、案内用図記号という名称でさまざまなピクトグラムがPDFファイルで公開されています。
公共施設で使われるものや禁止事項を示すものなど、誰もが一度は目にしたことのあるピクトグラムが多数掲載されています。どれも世間一般に使われているピクトグラムですから、非常に分かりやすく洗練されたデザインで作られているのが特徴です。
これらのピクトグラムを分析してみると、ピクトグラムに関するポイントが理解できるでしょう。
バリアフリー:案内用図記号(JIS Z8210) - 国土交通省
フリーで商用利用できるサイト
フリーで商用利用できるピクトグラムを一覧形式で掲載しているサイトをいくつか紹介します。
『ヒューマンピクトグラム』は、非常口マークの人物をモチーフにしたデザインのピクトグラムがストックされているサイトです。
サンタクロースのような汎用性の高いものから、飛び膝蹴りのような用途に悩みそうなものまで、ユニークなデザインのピクトグラムが多数掲載されています。どのように簡略化され、なぜこのデザインになったのか考えてみるのも面白いでしょう。
human pictogram 2.0 (無料人物 ピクトグラム素材 2.0)
『フリー素材ピクトグラム』は、本来二次元であるピクトグラムを三次元にした素材を掲載しているサイトです。
色数が豊富なので、ピクトグラムと言うよりはイラストに近いデザインですが、ピクトグラム制作の際のヒントになります。
ピクトグラムの作り方
ピクトグラムは、主に以下の手順を踏んで作ります。
- 概念化:伝えたい情報を概念化する
- 視覚化:概念化した情報を視覚化し、デザインに落とし込む
- 単純化:視覚化したデザインから余計な要素や装飾を削る
まずは紙とペンを使ってラフスケッチを描くのが良いでしょう。スケッチができたらIllustratorなどのドローイングソフトを使って形にしていきます。
デザインのコツは余計な要素を削りつつ、誰にでも意味が分かるものにすることです。最初のうちは難しいですが、何度も描き直してブラッシュアップしてみましょう。
書籍のピクトグラム一覧を参考にする
ピクトグラムをテーマにしている書籍も多数出版されているため、多くの具体例に触れることができます。おすすめの書籍を2冊紹介します。
あらゆる業種につかえる!アイコン・ピクトグラム大全
『あらゆる業種につかえる!アイコン・ピクトグラム大全』は、数多くのアイコンやピクトグラムのデザインを収録している本です。
本書の特徴は130点もの具体的な活用例が掲載されていることでしょう。標識や案内、雑貨やグラフィックなど幅広い分野に使われているピクトグラムを見ることができ、非常に参考になる一冊です。
- 商品名:あらゆる業種につかえる!アイコン・ピクトグラム大全
- 価格:4212円(税込)
- Amazon:商品ページ
FREE STYLE SCRAPS 02 PICTOGRAM
『FREE STYLE SCRAPS 02 PICTOGRAM』は、1000点以上のピクトグラムが収録されている素材集です。素材はEPS形式とJPEG形式で付属のCD-ROMに収録されています。
ただし、素材そのものは商用利用できないため注意が必要です。あくまでもデザインの参考資料として使うのが良いでしょう。
- 商品名:FREE STYLE SCRAPS 02 PICTOGRAM―ピクトグラム
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まとめ
ピクトグラムは言葉や文字を使わず、視覚的・直感的に情報を伝えるために必要なデザインです。
誰にでも理解できるピクトグラムを作ることは簡単ではありません。日頃からさまざまなピクトグラムのデザインを見て、それぞれの要素を分析することは、分かりやすいピクトグラムを作るのに大いに役立つはずです。
ピクトグラムのデザインを仕事に考えているのであれば、紹介したサイトや書籍を参考にデザインの引き出しを増やすことを意識しておきましょう。